放蕩記
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佐藤正午の『ジャンプ』という小説は、コンビニにリンゴを買いにゆくといって消えたガールフレンドと取り残された僕の5年間の物語である。 ミステリーとして絶賛されたそうだが、これはミステリではなく、紛れもなく優柔不断でやさしくって冷たくって少しシニカルな佐藤正午のいつもの話なのだ、と思った。 主人公に対して、ああ俺ってこんな優柔不断できたねえ野郎だなと、フムフムとうなづくことはできても共感はできない。だから書評とか読むと、怒ってる女の人たちもいたりするのだろう。でもそれが佐藤正午のいいところなのだ。 その頃、1991年に書かれた『放蕩記』を、自宅の本棚の奥から引っ張り出してきて読むことにした。自伝風に作った、これまた佐藤正午という他人との微妙なディスタンスをともってしか生きてゆけない男の物語で、この人の作風というものは変わっていないな、と、再認識した。 で、そう考えると、僕も佐藤正午とつかず離れず共に生きてきた人間なのかもしれない。 君が好きだといいながら平気で二股をかけるような男。お酒に酔ったときだけ笑う男。いつもは怒っているくせにここぞとばかりに下ネタをいう男。誰も信じられず自分のことも信用してないくせに、人に嫌われたり悪口を言われることを人一倍気にかけている男。 決していい読者とはいえないけれど。 『永遠の1/2』『リボルバー』『スペインの雨』『ビコーズ』・・うーん、僕は彼のどこが好きなんだろうか? 彼の書く男たちはつきまとって離れない影のように僕の中にいるのだろう。僕自身と相似形でないにせよ。 『タマネギ刻むと涙が出るじゃない。泣きたいときはタマネギ刻みなさい、泣けない訳があるときはね、それが人生の知恵、悲しい知恵。』 『三百六十日、日日(にちにち)酔うて泥の如し』(放蕩記より) それから何年たっただろう。 1991年に読んで2002年に読んだ「放蕩記」を、2012年の年末にまた読んだ。 かつてぼくも、きっと、混沌の中にいて、最後には生きようと思ったんだと思う。 さて、現在は52歳の自分、今ではラッキーなのか残念なのか「死のう」とは思っていないけど、なぜか「よりよく生きたい」という意思だけは若い頃より強靭になってきた。 それはきっといいことか、偏屈さが増しただけのことか、あとがないからなのかわからないけど。 この作品の主人公「海藤正男」氏が還ってきたように、ぼくもあと何度か沈みかけたら、その時はまたこの本を手にするのかもしれない。 まあいい、とりあえず今宵もバーボンを飲んで眠りに落ちるとしよう。 | ||||
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時は1984年。デビュー作が売れて莫大な印税が振り込まれだした新人作家・海藤正夫。酒と女、そして競輪に湯水のように金を注ぎ込む放蕩の日々を送る。 著者自身の体験に基づいているのか、それとも佐藤正午ならではの法螺話なのかは判然としませんが、近年の作「5」(角川書店)の原型のようなところがある本書を私は大変興味深く読みました。 にわかにあぶく銭のごとき金銭が手に入り始めて、主人公はたががはずれたような放埓な暮らしを始めるのですが、そこに安寧の見つかることはありません。 昭和のある時期までは、無頼な作家の放縦の暮らしも作家同士の交友関係の中で危うい均衡をなんとか保っていられた、そんな様子が物語の中ほどで久米正雄/菊池寛/芥川龍之介/夏目漱石の関係を引き合いにして語られます。しかし海藤は「作家に限らず、みんな一人で頑張るしかない」(128頁)時代に生きています。 そしてそのお金の使い方は、「お姉さん」と呼ばれる女性がいみじくも指摘するように、「お金の値打は使う人の必要以上では決してあり得ないに」「お金を使えばもっと何かが手に入るという幻想にとりつかれてしまった。お金が欲しいものを見つけてくれる」(169頁)と思い込んでいるかのようです。 お金によっても一向に埋まることのない孤独感を、著者特有の諧謔趣味で描いた物語といえます。主人公には近づきがたい無頼の徒という印象はなく、作家でもなければ放蕩するだけの金銭的余裕があるわけでもない読者の私にも、ここに描かれる彼の寂寥感が妙に身近に感じられ、時に心地よさを感じてしまうのです。 大なり小なりそうした身近な孤独感をいつも感じさせる佐藤正午が私は嫌いではないのです。 | ||||
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