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きみは雪をみることができない
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きみは雪をみることができないの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.00pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全3件 1~3 1/1ページ
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斜に構えて読んで見たものの、簡潔でも味わい深い随所の描写力にノックアウトされて、先を読みたくなる気にさせる。読んでて面倒くさくなる箇所がない(これって本当に稀)。 SF的要素(そんな病気ほんとうにあるの?)はギミック程度だが、素直に受け入れて読める設定だった。自然とそういうものだとさせるのは、すごい。 中高生にも大人にも読んでもらいたい作品だと思った。 | ||||
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いい(≧∇≦)b | ||||
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正直に言えば作品概要を読んだ時には「ケッ」となった。ライト文芸系のレーベルでは「難病もの」と呼ばれるジャンルの作品が既に溢れ返っているのが実情だし、仮にも新人作家としてデビューするならもっと目新しい題材があるだろうと思ったからだ。 それでもまあ、嫌味を言うなら読んでからだと酷く斜めに構えた状態で手に取ったのだけど……読み終えた今となっては「新人作家がよくこんなギリギリのテーマに挑んだものだ」とその蛮勇ともいえる挑戦的な姿勢に驚かされた事を否定できない。 この作品、難病ものというよりも「家族」をテーマにした作品だと言った方が良いかもしれない。それも世間一般の平平凡凡たる家族ではなく、その大半が当たり前の様に所属している「普通の家庭」のカテゴリーから外れた「障害者を抱えた家庭」に焦点を当てている。 物語の方は大学に入ったばかりの埋夏樹があまり気乗りのしないサークルの飲み会で奇妙な芸術学部の奇妙な先輩・岩戸優紀と出会った場面から始まる。飲み会から抜け出した事をきっかけに優紀と付き合い始めた夏樹だったが、何故か9月に入ってからは連絡が取れない状態に。 どうした事かと思い悩む夏樹だったが、文化祭の最中に自分の知らない男と歩く優紀の姿を目撃してしまいショックを受けるが、追い打ちを掛けるかのように知人たちから優紀が男をとっかえひっかえするヤバい女性であるとの噂を聞かされる事に。 事の真相を確かめようと優紀が所属する芸術学部へ乗り込んだ夏樹だったが、優紀に対してあからさまな敵意を見せる学生もいる中で「彼女は何故か冬になると姿を消してしまう」という奇妙な話を耳にする。居ても立ってもいられない夏樹は教官室に忍び込んで優紀の実家が名古屋であると知ると後先も考えずに岩戸家を訪問するが、そこで目にしたのは無数のチューブを挿し込まれたまま寝ている優紀の姿であった…… この作品、プロローグからぶっ飛ばしている。メインヒロインが何かの病気で昏睡に至る作品は数あれど、その意識の無い若い女性の体は「綺麗に」描写される事が殆どであろう。だが、本作はその点容赦ない。一般的な作品であれば描写を避けるであろう部分、具体的に言えば膀胱と直腸に排泄管理用のカテーテルを介護する側が挿し込む光景が描かれる作品がどれだけあろうか? 難病や障害といったものが決して綺麗なだけではない、いざ身内として世話をする立場になればその排泄の世話すら避け得ない物なのだと読者に対して真正面から訴えかけているのである。これはちょっと衝撃的であった。そして本作はそんな他人の介助無しでは生きていけない一個の人間とどう向き合うかを終始掘り下げ続けている。 しかもヒロインの設定を車椅子を降りられない身体障碍者や白杖を手にした視覚障碍者の様な「分かりやすい=世間の理解を得やすい」障害者ではなく、現実の世界で言えば発達障害やある種のメンタル系疾患の様な周りの理解や納得を得難く、場合によっては「甘えるな」「自己責任だろ」と切り捨てられかねない立場に設定した事でより理解のある身内を冷たい社会と対峙させているのだから何とも容赦の無い話ではある。 何も知らずに実家を訪ねた夏樹に対して見せる妹・不由美の半ば敵愾心の様な激しさや、頑なに娘を「普通」だと信じ込もうとする母親のどこか歪な姿勢は世間の理解を得られないハンデを抱えた身内を持ってしまうと家族とはこうも歪んでしまうのかと呆然とさせられ、読んでいる間ずっと胃がチリチリとする思いがした。 それでは真実を伝えれば理解が得られるのかと言えばそうでないからこそ事は難しい。たぶん障害者を表立って攻撃する方はそれほど多く無いだろう。だが、その抱えたハンデを知った上でなお一生涯付き合うなどと知人が言い出したら「もっとよく考えろ」「どれだけ大変なのか分かっているのか」と善意から引き留めようとする方は決して少なく無いと考える。 否応なしに身内に支えの必要な人間が生まれてきたというのであれば逃げようも無いが、その傍目にはどうしても辛く重たい環境に敢えて飛び込もうという、「家族の一員」になる選択が、支えの必要な人間のよすがとなる選択が余程の覚悟が無ければ選べない事は言うまでもない。そしてその選択の重さを本作は夏樹の知人たちの姿を借りて何度も強調し続けている。 それでもその選択に手を伸ばそうとする主人公の姿を追うのだから何とも重たい愛ではある……が、ここで褒めるのは終了。その愛がどうして生まれたのかという描写がちょっと弱い。主人公である夏樹の重要な選択が説得力を持つには優紀への愛にそれなりの必然性が求められると思うのだが、序盤の出会ったばかりの優紀と深い関係になるまでの描写があっさりとし過ぎていて何とも「軽い」のである。 これでは読んでいる側も「非常に重たい話なのは分かるけど、なんで主人公はそんな選択をしたの?」と首を傾げざるを得ない。「優紀にそこまで惚れこみ、入れ込む理由が見えない」と主人公の動機にボンヤリ感が拭えない。ここは人が辛い道を選ぶ上では念入りに作り込んで欲しかったのだが、中盤以降の展開を追っても現代的草食男子が熱情に身を焦がすに至った理由が見え難かった。 つまり小説作品として扱うテーマは非常に鋭いのに、その中で演じられる人間模様がちょっと「雑」なのである。なので人によってはテーマが剥き出しになり過ぎた感を受けるかもしれない。この辺りのバランスはもう少し突き詰めて欲しかったところ。 ただ、取り扱ったテーマや基本的な文章技術、あるいは全体的なストーリー構成といった部分においては間違いなく素質を感じさせる部分があり決して読んで損する様な作品で無い事は明言させて頂く。ブラッシュアップを続ければ間違いなく今後が楽しみな作家さんが現れた物だとワクワクさせてくれる、そんな一冊。 | ||||
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