護られなかった者たちへ
評判
護られなかった者たちへの評価:
4.32/5点 レビュー 419件。 A ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全647件 401〜420 21/33ページ
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護られなかった者たちへの評価:
4.32/5点 レビュー 419件。 A ランク
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このミステ大賞の触れ込みによりふと本屋で手にとった方は多いかと察しますが、
読み進めていけばどん底を暗く描く現代日本への問題提起だったと分かります。
キーワードは『差別』『放火』『罪と罰の等価』 読後もこのワードが頭にちらつきます
生活保護制度自体は社会のセーフティネットとして素晴らしい仕組みだと賞賛できます。
しかし、受け取る側も、出す側も、はたまたそれをただ見てる市民側もこの制度を歪な目で見ている現実があります。この小説にはヤクザはシノギの為に、娘に学歴をつけさせたいがため、不正受給している者達がいる裏で、身体も不自由で今日の飯もろくに食えない者達が受給申請を却下される例が山ほど挙げられています。この小説には生活保護制度が正しく運用されているシーンが全く出てこないのですね。
彼らの扱いの差は何なんでしょう。私には、福祉職員が乱暴な彼らと関わりたくないからという忌避で、ヤクザにシノギを渡し続け、声すら出せない貧困者を排除していった背景があると考えます。そして、その選別には弱者への差別の視線が根本にあるのではないかと思われます。
中世では、街には教会があり飢えたものたちは教会の炊き出しを頼って今日の飢えを凌ぐ事ができました。
なぜ教会がそんなことを無償でできたかと言うと地元の名士や領主達がこぞって教会に寄付をしたからです。 当時の聖職者は社会福祉のない時代に最後のセーフティネットを担っていたと言えます。
時代は変わり、現代のセーフティネットは教会ではなく、国家が担うようになりました。しかし、国策を策定するエリート達は中世の聖職者と同じ視線を注いでいると本当に言えるでしょうか。例え崇高な理念から社会システムを作っていったとしても、現場で働く現代の聖職者達は公平な判断を下せるのでしょうか。四大卒から役人になり 困窮そのものを見た事がない人間にとって、働かず税金を貰う受給者に偏見のない視線を向けることができるかは大いに疑問です。
そして、本著はこの問題を私たちにも向けて来ます。現代の聖職者とも言えるケースワーカーや教職に限らず、働き口、食料品店、医療者。この世の大半の職業が貧困者にとっても同様に必要な社会システムであり、それらが公正に運用されなければ彼らは飢え死にしかないのです。物語内ではちらちらナチス政権の例が引用されていますが、ここに作者の生活保護制度への大いなる問題提起があると推察します。ナチス政権は最も叩きやすい弱者を叩く事で支持を拡大し、ユダヤ人の大量虐殺は思考停止をした人間が最も効率的な囚人搬送システムを作る事でおこなわれました。彼ら加害者党員の殆どが軍人ではなく、ごく平凡な事務職員であり、家に帰れば妻子と夕飯で団欒を過ごしていました。今の日本のシステムを運用している者たちは真の意味で思考をしていると言えるのでしょうか。もし、システム自体が破綻していて歴史上大量の貧困者をシステムが産みだしていたとしたら自ら思考し、システムを止められる者たちなのでしょうか。餓死寸前のけいに対して、炊き出しの場所すら教えようとしなかった彼らは、思考停止したシステムの一環でしかないと思えてならないのです。
翻れば、けいが本当に必要だったのは生活保護制度ではなく、教会の無償の炊き出しのはずです。けいが餓死直前まで申請をし続けたのは公正でないシステムへの唯一できる反抗だったようにも思えるのです。
けいは利根を暴行事件からボヤ騒ぎを起こす事で救出しますが、私たちは火事が起きるまで知らぬ顔を突き通せるほど愚か者だったのでしょうか。けいや利根に放火を起こさせるまでに追い詰めたのは、知らぬ顔を貫いた我々ではないでしょうか。
本著は生活保護制度を受給者と福祉システム内の問題に収める事を許してはくれません。納税者であり、今後衰退していく国の国民であり、いつか受給者になるかもしれない私たち読者にその責任の所在を痛切に訴求してきます。けいや利根や申請が下りなかった者たちは未来の私たち、あるいは私たちの子孫の姿かもしれないからです。その1点において本著はあらゆる政治経済本よりも広範にわたって私たちの当事者意識を変えさせるはずです。