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使命と魂のリミット



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【この小説が収録されている参考書籍】
使命と魂のリミット
使命と魂のリミット (角川文庫)

使命と魂のリミットの評価: 7.29/10点 レビュー 7件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.29pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全6件 1~6 1/1ページ
No.6:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

使命と魂のリミットの感想

東野圭吾氏の取り上げる題材の幅広さに驚きます。
医療の難解な専門用語もなく、臨場感のある医療現場の様子が身近に感じられ、登場人物の奥深い心理を描き方も相まって、親しみ易い医療ミステリーでした。余りに臨場感があり、まるで自分や身近な人が今、まさに治療を受けているような、妙な不安に襲われるほどでした。
難点をあげるとすれば、いい人だらけ…というところでしょうか。こんなにいい人ばかりの世の中だったらいい…ですね。
テーマとなっている、誰もが持っている「使命」を読者自身が探しながら、読み進むことができるでしょう。
私情ですが、最近イヤミスばかり読んで少々鬱気分だったのですが、そんな心が温まる作品でした。作者に感謝です。

はつえ
L7BVQMDY
No.5:2人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

誠意こそ心のしこりへの特効薬

前作『赤い指』が作者自身60作目の作品で、これだけ数々の作品を著した東野圭吾氏だが、意外にも医療ミステリというのは本書が初めて。
大学病院を舞台に脅迫犯による大動脈瘤切除手術の妨害工作と医師たちの必死の救命劇、そして刑事と犯人との息詰まる攻防を描いたサスペンス作品となっている。

刑事と医師と脅迫犯の三つ巴の攻防を描いた本書はミスによる死が生んだ奇妙な復讐劇である。

万引きをしたところを警察に見つかった少年は追いかけられたパトカーから逃げようとして交通事故に遭い、亡くなった。

大動脈瘤を患った父親は簡単な手術だと聞かされ、名医と云われている執刀医を迎えたが、手術に失敗して亡くなってしまった。

仕事中に瀕死の重傷を負った彼女は搬送中の救急車が欠陥車による渋滞で病院に運ばれるのが遅れ、治療が間に合わず、亡くなった。

それらは間接的に命を奪う行為であり、その過程に問題はなかったか、なぜそんなことが起きたのかという原因などが焦点になる。しかし命を奪われた被害者に関わる人々は亡くなった人を思い、問題が解決されても心にしこりを残し、一生消えない傷を負う。

加害者側は論理的に問題を分析し、正当性を見出そうとするが、人を亡くした人には論理よりも感情が先に立つ。そこがこういった外的要因による人の死の加害者と被害者に横たわる深い溝なのだろう。

そしてそれら情念の炎が消えないままで、自分の大切な人の命を間接的に奪った人が目の前に、手の届くところに現れたら、その人はどうするだろうか?

息子の命を喪うことになった事故の当事者が目の前に患者として、現れる。

重傷を負った彼女が病院に搬送するのが遅れた原因を作った欠陥車を作った会社の社長が手術を受けようとしている。

そんな時、その人はどうするだろうか?

本書はそんな心のしこりを抱えた人々が奇妙な縁で絡み合う物語だ。

その心のしこりを霧消させるのもまた人の誠意ある言動だろう。物語の最後で判明する西園医師による氷室健介の執刀ミスの真相は、手術前に西園から氷室に息子の件の事を告げ、お互い話し合うことで心のしこりを溶かした。

翻って直井穣治によるアリマ自動車社長島原総一郎への復讐は島原が到底実現できそうにないノルマを従業員に課して品質管理を省略化させ、商品の安全を不十分な状態にしたまま市場に流通したがために再燃した。つまり誠意のない言動を取ったがための事件だった。

『殺人の門』、『さまよう刃』、『容疑者xの献身』と東野圭吾氏はやむにやまれず殺人を犯さずにいられなかった人々の姿を描く。そのいずれも大事な物を奪われた者に対する復讐だったり、自らの安心を得るために思わず犯してしまった殺人だったりと、よんどころない事情で犯さざるを得なかった犯罪だ。
そのため、その物語を読む読者は犯罪者側が捕まらずに本願成就することを望むかのように応援するような心理に陥ってしまう。

本書の直井穣治もそんな復讐者の一人だ。

但し一方で復讐が成就されることを望みながら、彼の行う犯罪で犠牲になろうとする患者がいることで読者に迷いを生じさせる。つまり犯罪はどんな動機であれ、許されるべきではないことをきちんと東野氏は描く。この辺の微妙な匙加減が非常に上手い。

ところで本書ではいくつか疑問点がある。
まずは脅迫者直井穣治が病院に2度目の脅迫状を受付の診療申込書に紛れて来客に見つけさせるシーンだが、なぜ警察は監視カメラをチェックしないだろうか?監視カメラがないわけではなく、実際に脅迫犯が小火騒ぎを起こした時は監視カメラを増やして強化するという記述があるくらいだ。しかも小火騒ぎの時でさえ、監視カメラを見ようとしない。これは警察の捜査としては明らかに手抜かりだろう。

次の疑問点はネタバレになるのでそちらに書く。

とまあ、少々の疑問は残るものの、しかし東野圭吾氏の作劇術には頭が下がる。
動脈瘤手術で命を喪った氷室夕紀の父親健介。その医者は自分の母親となぜか親しげだった。そんな疑惑から当時の執刀医である西園を疑い、自ら医師となって西園医師の執刀がミスではなかったのかを調べるのが夕紀の目的だった。

そして脅迫騒ぎが起きて捜査に携わることになった七尾という刑事は健介が刑事だった頃の部下でもあった男で、夕紀は初めて父親が警察を辞めるきっかけとなった事件を聞かされる。それは万引きをした少年たちがバイクで逃げた際にパトカーで追いかけ、バイクの少年が交通事故に遭って亡くなったというものだった。

そしてさらに西園には昔亡くなった息子がおり、その息子が実はバイクで逃走中にパトカーで追いかけられている最中に亡くなってしまったという事実。

つまりここで西園が息子の敵とばかりに健介を故意のミスで死なせたのではないかという疑惑が沸々と起こってくる。このあたりの物語の展開が非常に上手く、特に西園の息子が亡くなったエピソードを読んだところで思わずアッと声に出してしまった。

果たして医師は故意に父親を殺したのかという疑惑が夕紀の中でさらに強まってくるが、その答えをクライマックスの手術シーンに持ってくるあたりが実に上手いのだ。
いくら口で云っても理解されないことはある。ましてや心に残るしこりというのは頭で解っても心の底から納得できないことが多い。
心に残るしこりは行動で態度で示し、目の当たりにするのが一番の回答になる。百の説得よりも一の行動こそが真の和解を生む。

だからこそ本書では普段我々が意識する事のない「使命」という言葉が頻繁に出てくる。
人は何かの使命を持って生まれ、それを信じて全うする事こそが人生なのだと夕紀の父健介は娘や部下に説き、また夕紀の上司西園も医師と云う職業に患者の命を救う使命という旗印の下で懸命に全力を尽くす。
私達の日常で使命と云う二文字を頭に描くことがあるだろうか?しかし目的や目標を持ってそこに向かう人こそ、強く、また人から尊敬されるのだ。

私はどんな使命を持って日々生きているのか。改めてこの重い二文字に考えさせられてしまった。


▼以下、ネタバレ感想

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Tetchy
WHOKS60S
No.4:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

やや甘いものの読み応えあり

2006年に発表された長編ミステリー。心臓血管外科という特殊な舞台装置に複雑な人間ドラマを上演した、上質なエンターテイメント作品である。
研修医・氷室夕紀が勤める大学病院に「医療ミスを公開しなければ病院を破壊する」という脅迫状が届いた。イタズラとして処理しようとした病院側だったが、2通目が届いたことから警察に届けて捜査が始まったのだが、金銭の要求は無く、脅迫犯の狙いは何か、どういう手段で「破壊」しようとしているのかが、まったくつかめないまま捜査は混乱するばかりだった。という、病院脅迫事件が物語の一つのテーマ。
もう一つのテーマは、氷室夕紀の指導医・西園教授は、氷室夕紀の最愛の父を死なせてしまった手術の執刀医で、彼女は手術ミス、あるいは意図的なミスではないかと疑い続けてきたという、真相究明の物語である。
二つの大きなストーリーが無理なく並行して展開し、最後にはヒューマニズムにあふれた幕が下ろされる。予定調和的といえばそれまでだが、それぞれのストーリーがしっかりしているので、読み応えがある。
心臓外科手術という特殊な世界の話だが非常に読みやすく、テンポもいいので楽しめる。ヒューマンドラマ系が好きなミステリーファンにオススメしたい。

iisan
927253Y1
No.3:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

使命と魂のリミットの感想

予め犯人もその動機も明らかにされていますし、複雑な人間関係に関しても同様。
ミステリではなく人間ドラマだといえますね。
テーマはタイトルにもある通り「使命」
主人公、医師、看護婦、刑事そして犯人、皆それぞれ使命を持ち、それを信じ、それを遂行するために懸命に行動する。
東野作品にしては、プロットにヒネリがないですが、テーマを考えるとそんな必要はないかも知れないですね。徹底したブロ意識の描写です。
人間ドラマを象徴しているのが、犯人が選択した最後の行動。
小説としての面白味よりも人間味を感じさせた作者の徹底ぶりに感心させられました。
犯人に同情した読者も多かったのではとも思えます。

ただ、爆弾事件という事で展開にスピード感がある分か、作品テーマの割に重厚感を感じられなかったのが難点。
また、東野氏の人間ドラマにしては、中途半端に読後感がいいのも物足りなさを感じてしまう原因かも。
あと、最後主人公夕紀の少し歪んだ「使命」が氷解されるのですが・・・
こんな事があった後でも、私なら母親と医師を祝福し迎え入れる事は出来ないだろうと思いました。
多分圧倒的少数派なのかも知れないが・・・

梁山泊
MTNH2G0O
No.2:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

使命と魂のリミットの感想

医療関係の記述は相当調べられたのだな、と感服しました。
ラストへ向かってのスピード感も良かったです。

アルバトロス
CRRRDTJB
No.1:1人の方が「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

使命と魂のリミットの感想

医療の細かなところまでよく描かれていると思いました。欲を言うと、もう少しミステリー的要素があるとよかったです。

ぴよくみ
4WLMRKM9

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