探偵はパリへ還る
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| 一、あれこれ ○1996年に亡くなったフランスのハードボイルド作家レオ・マレの私立探偵ネストール・ビュルマシリーズ第一作の本邦初訳である。文庫オリジナルで、原題直訳は『駅前通り120番地』。 レオ・マレの長編小説は過去に6編が翻訳されていて、すべてビュルマシリーズであるが、21世紀に入ってからは1編も翻訳されていない。本書は25年ぶりの翻訳刊行となる。 ○レオ・マレはパリに出てシャンソン芸人になった後、数多くの仕事を転々とし、1931年にシュールレアリストのグループに入り、詩人として名を上げるが、ドイツ占領下で国家反逆罪で収監され、ドイツの収容所に送られる。1941年フランスに戻り、別名でアメリカ風ミステリーを書くが、1943年に私立探偵ネストール・ビュルマを主人公とした本書を、本名で刊行する。パリはまだドイツ占領下であった。 ニ、私的感想 ○情けないことに、過去にビュルマシリーズを1冊も読んでおらず(たぶん)、今回が初読書体験となった。 ○本書を読んで、ビュルマシリーズのにわかファンになってしまい、過去の長編翻訳6編のうち、『殺意の運河サン・マルタン』『ミラボー橋に消えた男』『ルーブルに陽は昇る』『サンジェルマン殺人狂騒曲』の4編を続けて読んでしまった。どれも波瀾万丈の展開で、面白かったが、順位をつけると、『殺意の運河サン・マルタン』『サンジェルマン殺人狂騒曲』『ルーブルに陽は昇る』『ミラボー橋に消えた男』の順に面白かった。これらの本についている、長島良三氏、藤田宣永氏、大久保和郎氏の訳者あとがきも楽しかった。 ◯藤田氏の『ミラボー橋に消えた男』訳者あとがきによると、60年代以降忘れられていたレオ・マレが再び脚光を浴びたのは70年前後で、68年の五月革命に関わっていた学生連中が古本を探しだして読み始めたのがきっかけとのことである。そのブームはいったん下火になるが、ミッテラン政権誕生前夜の78年ごろから、再び若者を中心に広く読まれるようになったという。ただし、このあとがきの執筆は1984年である。 ◯本書の新保博久氏の巻末解説がポール・ドレイクの話から始まって、ペリー・メイスンと秘書デラ・ストリートのコンビを経て、ビュルマ・シリーズの探偵所長ビュルマと美人秘書エレーヌの話に進むのも面白い。私の短いビュルマ・シリーズ体験でも、美人秘書エレーヌは、本の本筋ではないが、重要な魅力要素と思う。特にエレーヌが探偵事務所社員としてビュルマ所長に尽くすのをモットーとし、それを実践しながら、ビュルマのパワハラ的セクハラ的愛情的接近を、上手に、巧みに、時にはギリギリのところでかわしていくのがとても楽しい。『殺意の運河サン・マルタン』が一番面白いというのも、エレーヌの出番が一番多いから、という理由もある。 ○それで、ビュルマ・シリーズの第一作である本書は、ドイツ占領下のフランスというリアルタイムの時代が描かれているが興味深く、冒頭のビュルマと作者のレオ・マレの収容所体験が重なるのが面白い。 ○つまり、ドイツの捕虜収容所で記憶喪失の瀕死の男に「エレーヌに告げてくれ、駅前通り120番地」と告げられた過去で始まり、フランスに送還されるビュルマたち捕虜を乗せた列車境の町リヨンの駅に停車中に、ビュルマは探偵社のかっての相棒ボブに偶然再会するが、ボブも『駅前通り120番地』とビュルマに言い残して射殺されてしまう。ホームの片隅には有名女優によく似た美女が拳銃を持って立っていた、という実に魅力的な展開に入っていく。 ○その後、第一部リヨン編ではリヨンでの事件捜査、第二部では占領下のパリでの事件捜査と進んでいく。リヨン編ではやや強引、派手、波瀾の展開で、パリ編ではちょっと落ち着いた進行となるが、どちらも面白い。ビュルマ・シリーズの特徴である、「訪ねた先で死体を発見してしまうビュルマ」、「誰かに殴られて失神するビュルマ」「陰謀に巻き込まれてしまうビュルマ」「重要な役割を演じる映画女優並みの美女」「大衆文化好きのビュルマ」などなどがこの第一作から出てくるのも楽しい。もちろん、エレーヌの活躍もある。ただし、評価の高い「洒落た一言を言って読者を楽しませてくれるビュルマ」はあまり出てこない。 ○そして、第二部第九章「真犯人」で、ビュルマが事件関係者を集めて謎を解き、意外な真犯人を指摘するという本格派もどきの楽しいラストとなる。その後さらに、二段のひねりがある。 三、私的結論 ◯傑作てある。本書の翻訳出版は貴重な文化事業と思う。 | ||||
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