(短編集)

いざ言問はむ都鳥



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初公開日(参考)1997年04月
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短編集

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いざ言問はむ都鳥 (創元推理文庫)

1997年04月30日 いざ言問はむ都鳥 (創元推理文庫)

若葉萌す春、緑なす夏、紅葉の秋、枯槁の冬……そして新生の春。植物学者は四時とりどりに忙しい。その生活に重ね合わせて、あるいは花占いの果てとも見える場景に犯罪を匂わせ、あるいは自殺志願者が遺体発見を遅らせたがった理由に植物学的考察を試みる。自然界へのオマージュが織りあげた錦繍の四編を収める、端整なデビュー短編集。 (「BOOK」データベースより)




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いざ言問はむ都鳥の総合評価:6.40/10点レビュー 5件。Cランク


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全2件 1~2 1/1ページ
No.2:
(4pt)

面白くないです

読みづらい

わたろう
0BCEGGR4
No.1:
(8pt)

隠れた名品集

澤木喬という作家がいる。この作家が現在著している作品はこの『いざ言問はむ都鳥』という1990年に出版した4編の短編を収めた短編集1作のみ。しかしこの短編集、一読忘れがたい印象を残す。

本書の主役は分類学者、沢木敬。とある大学の植物学科の平井主任教授の下で助手として働いている。平井教授の周囲には同じく助手の樋口陽一、博士課程の院生で平井教授の研究室に所属しているマドンナ梅咲久美子がおり、この4人が物語の中心となっている。

それぞれの短編で提示される謎とは一見なんともないようなものだ。

まず表題作はご近所の宮本さんの庭に咲いていた季節はずれの都忘れの花びらがなぜ点々と落ちていたのかという謎。

次の「ゆく水にかずかくよりもはかなきは」では沢木の意外な趣味が明かされる。彼はアマチュア・オーケストラに所属しており、そこでヴァイオリンを弾いている。ここでの謎は彼が遭遇した釣り人はなぜ駅の券売機でひたすら子供用の切符をいくつも買い続けるのか。

「飛び立ちかねつ鳥にしあらねば」では平井教授の講座、生態学講座のアイドルお桂ちゃんこと、篠崎桂子の部屋で起きた小火の謎。

最後の「むすびし水のこほれるを」では梅さんこと梅咲久美子が見た死んだはずの猫が再び生きて歩いているのを見たという謎に沢木のコンサートにいつも来ている矢部という学生がなぜコンサートもないのに花束を買っていたのか、そして沢木のオーケストラ仲間の宮本さんがなぜヤブツバキをサザンカだと強調して平井教授宅から苗木を貰ったのかという複数の小さな謎。

こうやって紹介すると一見「日常の謎」系の短編集だと思うだろう。そのジャンルの仕掛け人である東京創元社から出版されているから尚更だ。

しかし本書はそうではない。人の死が、犯罪が介在するミステリなのだ。

沢木敬が語り手となって進む物語は、上に書いた平井教授とその仲間達の日常風景と大学の学生達のエピソードと沢木の植物に関する薀蓄などが上手く絡み合って実にほのぼのしたタッチで語られる。その話に挟まれる小さな事件、もしくは事件とはいえない、ちょっと変わった出来事の裏に隠された真相は実に魂の冷えるような手触りをもっている。

これらストーリーの牧歌的雰囲気と予想もしていなかった陰鬱さを含んだ暗い真相のギャップが各編に強烈な印象を残していく。この落差はかなり強力で思わず驚愕の声が漏れそうになった。

またそれらの真相を看破するのは実は沢木ではない。彼の友人樋口なのだ。

このように悉くこちらの予想をいい意味で裏切る構成からして一筋縄でいかない作品だというのが解るだろう。

解説の巽昌章氏が一番冒頭に語っているように、このたった220ページ強の短編集に込められた時間は実に濃密だ。

なぜこれほどまでに濃密なのだろうか?
本書の構成は沢木敬が春に経験し、またその翌年の春にいたるまでの1年間での出来事を綴ったもの。作中、沢木が云うように確かに1人の人間が1年の間でこれほど人の生死に関る事件に遭遇するのはおかしいと思えるだろう。

しかしそれ故に濃密だとは私は思わない。私は本書で語られる沢木の日常が実に自分達の生活空間に似ているが故に隠された犯罪が樋口の口から明かされた瞬間、実にリアルに感じられてしまうのだ。
つまり我々の平凡な日常生活にもいつ負の変化が訪れてもおかしくないと思わされてしまうのだ。このことが読者に登場人物に流れる時間を追体験させ、我が身になぞらえることで濃密に感じられる、私はそんな風に思うのである。

さてここで各編の題名に使われている和歌について言及してみたい。

まず表題作は在原業平の有名な短歌、「名にし負はばいざ言問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと」から取られている。この短歌の意味は「その名の通りならば問いかけよう、都鳥よ。都に住む私の想い人は今どうしているのか、と」という物。
これは恐らく落ちた花びらが恋占いを予想させるところから来ているのではないだろうか?そう考えると実は題名それ自体がミスディレクションだと云えるだろう。

次の「ゆく水にかずかくよりもはかなきは」は古今和歌集の詠み人知らずの歌「ゆく水にかずかくよりもはかなきはおもはぬ人を思ふなりけり」から。この意味は「流れいく水に数字を書いても書く先から消えていく。それでももっと儚い物は、自分へ振り向いてくれない人をひそかに思うことなのだ」というもの。
これは恋患いの歌なのだが、本編の真相を考えると題名に引用された部分のみを取り出して考えるのが妥当だろう。

「飛び立ちかねつ鳥にしあらねば」は山上憶良の「世の中を憂しと恥しと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば」からの引用。「世の中を嫌な所、身が細るような耐え難い所だと思っても、鳥のように飛んで逃げ去ることなど適わないのだから」と現状を受け入れ、頑張っていくしかないと詠っている。
これはまさにその物ズバリ。小火事件から推理される驚愕の真相に対するある家族へ向けての励ましの言葉か。

最後の「むすびし水のこほれるを」は紀貫之の「袖ひちてむすびし水のこほれるを春立つけふの風やとくらむ」から。「立春の日の今日の風は、袖を浸して掬ったあの水が凍っているのを融かすのだろうか」という意味。
これもまさに沢木が経験したこの一年に身の回りに起きた様々な災禍で変わってしまった周囲の人々の状況を春が来ることでいくらか元通りになるのだろうかという沢木の思いが反映されているように思う。

各編は40~80ページといった分量だが、実は謎とそれへの推理に関するページ数は実に少ない。それ以外は沢木の日常や彼の身の回りのことを語ったエピソードと植物に関する知識などに割かれている。
しかしこれらの謎とは関係のない話は決して無駄ではなく、実はそれらに謎を解き明かす手掛かりが散りばめられているのだ。
しかしこれらの描写や情報を謎への推理の材料として活用するのは読者には困難だろう。本書では作者が見せる謎解きの手捌きの美しさに見惚れれば(読み惚れれば?)いいのだ。

久々に誰かに紹介したい作品に出逢った。冒頭にも書いたように作者澤木喬氏が発表した作品はこのたった1冊だけ。恐らく作者の名もこの作品の存在すらも知らないミステリファンもいることだろう。ぜひとも多くの読んでもらいたい。現在絶版状態であること自体、勿体無い。

再び書店の棚に陳列されるためにも適わぬことかもしれないが澤木氏には20数年ぶりに新作を発表してもらいたいものだ。


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No.3:
(3pt)

静謐の中に不穏が兆す《日常の謎》の異色作


《日常の謎》ですが、コージーな雰囲気は希薄で、植物を中心
とした風景を淡々とスケッチしていくような静謐で硬質な作風。

本作は、1990年に発表された作品なのですが、
エコロジーに対する考え方に時代を感じました。



■「いざ言問はむ都鳥」

  休暇を、鳥海山の高山植物群落で過ごした「ぼく」と樋口はその帰路、
  早朝の道ばたに点々と散らばている都忘れの紫色の花びらをみつける。
  一体、誰が、何のために毟ったのか?
  


  淡々とした筆致とはそぐわない重大な犯罪が扱われている本作。
  のちに、本作の事件が再度クローズアップされることになります。
  



■「ゆく水にかずかくよりもはかなきは」

  夜桜に取り囲まれた人気のない地下鉄の駅で、ひたすら
  子ども用の切符を買い続ける、釣り人と思しき奇妙な男。

  数ヵ月後、その男の記事が新聞に載っている
  と、樋口が「ぼく」のところに言いに来て……。



  「ぼく」が男を無意識的に“釣り人”と看做していた
  ことに対するホワイダニットが、なかなか巧妙です。

  ただ、冒頭で「ぼく」が嘆いている環境破壊の問題と奇妙な男の謎を無理やり
  結びつけるオチは、かなり力業であるため、正直呆気にとられてしまいました。



■「飛び立ちかねつ鳥にしあらねば」

  講座のアイドル的存在・お桂ちゃんの自宅でぼや騒ぎがあった。

  彼女の部屋にあった金魚鉢が凸レンズ
  の役割を果たし、出火原因となったのか? 

  一方、「ぼく」は、お桂ちゃんの父親が高枝切り鋏を購入して
  いたのを目撃したのだが、彼らの家には植木はないはずで……。



  傍目には、幸福そのものに見える家族が抱える「闇」。



■「むすびし水のこほれるを」

  講座の院生が、車に轢かれて死んだはずの
  黒猫が生きて歩いていたのを目撃し……。



  「いざ言問はむ都鳥」 の事件の真相(?)が明らかに。





いざ言問はむ都鳥 (創元推理文庫)Amazon書評・レビュー:いざ言問はむ都鳥 (創元推理文庫)より
4488419011
No.2:
(2pt)

意味のない謎

1990年に出た単行本の文庫化。
 ミステリには向かないタイプの作家だと思う。「謎」というものの意味とか面白さを、まったく分かっていないのだ。
 本書には4編の短篇ミステリが収められている。探偵と語り手は植物学者で、いずれの謎にも植物が絡んでくる。しかし、どの謎にも必然性や意味が感じられない。植物を絡ませるために無理をしていたり、プロットと謎が遊離してしまっていたり。ミステリという物に対する勘や感覚が根本的に欠けているではないか。
 植物の話や、ストーリーの叙情性には魅力があると思う。別の分野で頑張って欲しい作家だ。
いざ言問はむ都鳥 (創元推理文庫)Amazon書評・レビュー:いざ言問はむ都鳥 (創元推理文庫)より
4488419011
No.1:
(5pt)

「日常の謎」派第1号の栄光 作者復活を切望する

北村薫の衝撃的なデビューで打ち立てられた「日常の謎」派は、その後、若竹七海、加納朋子、青井夏海、光原百合ら多くのフォロワーを生んだ。やや違う作風へと転じていった若竹七海と入れ代わりに近藤史恵の名を加えてもいいだろう。御本尊を除いて女性ばかりというのはともかく、ここでいう「フォロワー」というのはあくまで肯定的な意味である。偉大な才能によって先駆された新ジャンルへの参加者という意味であり、上にあげた作家の誰一人として先人を安易に模倣している者はいない。その意味で、北村のすぐ後にデビューし「北村薫は二人いらない」と酷評を受けたせいか一冊で消え去ることになった沢木喬ほど不幸な作家はいないだろう。外面的な共通点だけでこんな暴言を吐く評論家というのは、要するに印象派の画家もロマン派の作曲家も一人ずつしか必要とせず、微妙な違いなど判りもしないのだろう。また、少し気負った感じを受ける題名で引いてしまった人もいるのではとも思える。
だが、内容は気負いどころかデリケートそのもの。丁寧に、緻密に組み立てられた文章で、ひたひた、ひたひたと小さな謎を盛り上げていく。各篇の読後の余韻もすばらしい。「日常の謎」派の花園に最初に咲いた美しい成果として、まだお読みでない方はぜひ読んでいだだきたい。上にあげた作家たちのファンは特に。最後に作者の復活を切望しておきたい。これがデビュー作なのだからブランクはそう関係ないと思う。もしこれだけの人が沈黙したまま終わったら同時代人の私たちの負う責めは大きい。
いざ言問はむ都鳥 (創元推理文庫)Amazon書評・レビュー:いざ言問はむ都鳥 (創元推理文庫)より
4488419011



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