弁護士ダニエル・ローリンズ
評判
弁護士ダニエル・ローリンズの評価:
4.13/5点 レビュー 24件。 A ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全21件 21〜21 2/2ページ
| ||||
| ||||
|---|---|---|---|---|
| ||||
|
弁護士ダニエル・ローリンズの評価:
4.13/5点 レビュー 24件。 A ランク
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
| ||||
| ||||
|---|---|---|---|---|
| ||||
|
小説の詳細ページを閲覧すると、ここに履歴が表示されます。最近閲覧した小説詳細ページへ簡単に戻る事が出来ます。
原題は〈A GAMBLER’S JURY〉なんですが、これは本文でも言及されている〈ギャンブラーの陪審〉という、弁護士のあいだで交わされる俗語のような意味です。
アメリカの「陪審員」制度の、その真の問題点を示す言葉。
たとえば、状況証拠や能力的に十中八九無罪だと確定していている被告人がいたとして、いざ証言台に立つ人物が貧困層の黒人だった場合、陪審員の殆どが白人だと内なる差別感情から有罪にしてしまい、これまでの審理が覆ってしまう状況があるそうです。
それが〈ギャンブラーの陪審〉。
この用語は、そういった判例を受け持つことが、法律家たちにとって一種の「賭け事(リスク)」であるため〈ギャンブラーの陪審〉と呼んでいるのかな?
キャリア重視社会の内幕が垣間見えるような言葉ですね。
本来、この〈ギャンブラーの陪審〉ケースは誰にとっても良い事なしのリスクなのに……それがしばしば発生するのはなぜか?というのがこの物語の裏のテーマです。
若竹七海「葉村晶シリーズ」を手掛けた杉田比呂美さんのカバーは素敵で、コミカルなキャラクターが大勢登場するのですが、テーマ的にはシーラッハの『コリーニ事件』並みに重厚な社会派ミステリーという贅沢な小説ですね。
主人公のダニエル・ローリンズはいわゆる〈刑事弁護人〉です。
そういった職業があるわけではなく、軽犯罪で思いがけない重罪を科せられそうになる被告人を弁護する事の多い弁護士の通称です。日本でも亀石倫子さんの著書『刑事弁護人』などで有名ですね。
亀石さんの著書は国家的陰謀の端緒につながる事件を描いているのですが、ダニエルが扱うのは訴訟大国アメリカで、治安のよくない地方で毎日のように起こる軽犯罪です。
ユタ州のフーヴァー郡。この地域的設定が面白くて、ユタ州は治安の良いことで有名な州なんですが、なぜかフーヴァー郡は治安が悪い。お行儀のよいクラスの中にポツンと1人不良が混じっている感じです。
ご多分にもれずヒスパニックや黒人との軋轢があるのですが、それよりもカッとなって女性を車ではねちゃったオッサンとか、家出してへべれけになってるJKとか、何度もムショにぶちこまれてるのに付き合いでマリファナの移送をやっちゃった老ヤクザとか……「あぁー……」と嘆息がもれるしかない、正直言って人種はあんまり関係ないようなロクデナシたちがダニエルのクライアントです。
そんな日々に舞い込んできたのが、コカイン移送の容疑をかけられた知的障害の17歳の黒人少年、テディの弁護。
テディの知的障害は重度で、どう見ても4,5歳の幼児ほどの知能しかない。それなのにコカインの詰まったバッグを売人に届けた疑いで、「少年犯罪」ではなく「成年犯罪者」として有罪判決を受けようとしている。
色々な映画・ドラマでご存知の通り、アメリカの自由な学校のような刑務所で、テディのような自己防衛できない知的障害の少年が長く生き延びられるわけがありません。
ダニエルは嫌な予感がしながらも義憤にかられて弁護を請け負います。
リーガル小説は厳密には推理小説ではないと思うのですが、最初から不気味な謎が横たわっていて戦慄します。上述の通り、誰が見ても知的障害が明白なテディを、精神鑑定無しで有罪にするのはあり得ない暴挙です。
ではなぜそんな無茶を?
誰がそんなことを望んでいる?
そこに〈ギャンブラーの陪審〉としての疑惑が絡んできます。つまり、テディが黒人であり、このような舞台を用意した者がいるのではないか?というのは物語の骨子ですね。
二転三転していく真相もおもしろいのですが、やっぱりダニエルのキャラクターが痛快ですね。
刑事弁護人という仕事は「どうしてそんなクズの弁護なんかするんだ!」という世間一般の非難を浴びざるを得ない役割です。
しかし、ダニエルが不幸な生い立ちや生来的なタフな性格もあって、あまりそういった人間の善悪に頓着しない部分がものすごく好意的に描かれています。
「法律は常に社会的弱者を叩きつぶすために存在する」というのが彼女の心情で、リーガル小説になれてない読者には「あれ?逆じゃないの?」と意外に思う事でしょう。
でも、そうなんですよねぇ。
これぞハードボイルド。
女性を主人公にしたハードボイルドはたくさんあるのですが、ちょっとユーモアがなさすぎですね。
ダニエルはドン・ウィンズロウ『ストリートキッズ』の「ニール・ケアリー」や、デイヴィッド・ハンドラー『笑いながら死んだ男』の「ホーギー」のような、センスの良いジョークやアイロニーを常に忘れず、タフで前向きで健全なのに悲観的で繊細な神経を持ち、不幸な身の上の人々から付かず離れず節度を守ってスジを通す〈本物のハードボイルド探偵〉の系譜を継ぐキャラクターです。
たちはだかるのはホワイトカラーでありながらソシオパスな人々。人間社会にはやむにやまれぬ事情があるのだということをまるで解すことのできない、精神的サディストたちです。彼らはFBIのプロファイリングに登場する犯人ような貧困と暴力の生んだ犯罪者ではなく、十分に練り込まれた絶大なる権力でもって犯罪を起こします。
その被害者数は連続殺人鬼の比ではありません。
今こそ必要なヒーローですね。
今こそ読むべき物語をどうぞ。