図書準備室

【この小説が収録されている参考書籍】

【この小説が載っている参考書籍】

評判

図書準備室の評価:

3.59/5点 レビュー 17件。 C ランク

Amazon書評・レビュー点数毎のグラフです

平均点3.59pt

Amazonレビュー一覧

Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全34件 1〜20 1/2ページ
No.34
(3pt)

初期の頃は、今とはちょっと違う作風

この作家の作品は、むしろ芥川賞を取って少し有名になってからのものを読んでいる。そのためか、このデビュー当時の作品は、作風が今とはちょっと違うように感じた。まず、「冷たい水の羊」は表現が荒削りな感じがする。たぶん、今同じテーマで書かれれば、もう少し洗練された文章で書くのではないか。また、「図書準備室」は設定がとても不自然である。伯母に働かない理由を訊かれて、世捨て人に見えた教師から聞いた戦争中の話を持ち出すのは、(しかも、かなり長々とした話である)どう考えても、小説のために無理して作った設定でリアリティーがまるでない。どこか別の場面で、教師ではない男からそのような戦争中の話を聞いたことにできなかったのだろうか。こちらの作品も、まだ、プロとして駆け出しで、小説を書き慣れていないような感じがした。
図書準備室 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 図書準備室 (新潮文庫)より
410133482X
No.33
(3pt)

初期の頃は、今とはちょっと違う作風

この作家の作品は、むしろ芥川賞を取って少し有名になってからのものを読んでいる。そのためか、このデビュー当時の作品は、作風が今とはちょっと違うように感じた。まず、「冷たい水の羊」は表現が荒削りな感じがする。たぶん、今同じテーマで書かれれば、もう少し洗練された文章で書くのではないか。また、「図書準備室」は設定がとても不自然である。伯母に働かない理由を訊かれて、世捨て人に見えた教師から聞いた戦争中の話を持ち出すのは、(しかも、かなり長々とした話である)どう考えても、小説のために無理して作った設定でリアリティーがまるでない。どこか別の場面で、教師ではない男からそのような戦争中の話を聞いたことにできなかったのだろうか。こちらの作品も、まだ、プロとして駆け出しで、小説を書き慣れていないような感じがした。
図書準備室 Amazon書評・レビュー: 図書準備室より
4103041315
No.32
(3pt)

文章は魅力的だが

学校や戦後の社会から疎外された登場人物たち。
人と関わることを通すことでしか,人は自分を実感しないという矛盾。
文章は魅力的だが,全体的に長すぎると思った。
図書準備室 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 図書準備室 (新潮文庫)より
410133482X
No.31
(3pt)

文章は魅力的だが

学校や戦後の社会から疎外された登場人物たち。
人と関わることを通すことでしか,人は自分を実感しないという矛盾。
文章は魅力的だが,全体的に長すぎると思った。
図書準備室 Amazon書評・レビュー: 図書準備室より
4103041315
No.30
(5pt)

芥川賞作家のデビュー作

冷たい水の羊、デビュー作でこれは単純にすごいと思った。主人公が海で溺れる場面、最後の鳥居の場面は圧巻だった。
大長編「燃える家」にかなり濃い形で繋がっていると感じた。
図書準備室 Amazon書評・レビュー: 図書準備室より
4103041315
No.29
(5pt)

芥川賞作家のデビュー作

冷たい水の羊、デビュー作でこれは単純にすごいと思った。主人公が海で溺れる場面、最後の鳥居の場面は圧巻だった。
大長編「燃える家」にかなり濃い形で繋がっていると感じた。
図書準備室 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 図書準備室 (新潮文庫)より
410133482X
No.28
(2pt)

構成が変

作家本人が一押しの新人賞作品「冷たい水の羊」が題にならず、
駄作が題になって文庫になる意味が不明、でした。新潮のやりそうなこと。
図書準備室 Amazon書評・レビュー: 図書準備室より
4103041315
No.27
(2pt)

構成が変

作家本人が一押しの新人賞作品「冷たい水の羊」が題にならず、
駄作が題になって文庫になる意味が不明、でした。新潮のやりそうなこと。
図書準備室 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 図書準備室 (新潮文庫)より
410133482X
No.26
(5pt)

無題

主人公は高校を卒業してから一度も働いていません。
通学のバスで人にぶつかったことから始まり、ある教師に挨拶ができなかったことを回想し始める。
細かいことにこだわって人生棒に振っちゃってる感じがする。

なぜ周りに迷惑や気苦労をかけてまで、そういう細かいことを考え続けて生きるんですかね。
この作者に嫉妬します。

この表題作の謎の吸引力。
この作品で語られる世界は未開拓地です。
その未開拓地と、その他の人間が生きる一般的な現実の溝が深すぎる。

語り手、ひいては作者は「もう死にたい」って言ってますけど、生かされるべき人間って、こういう人なんじゃないかと思います。
でも生かされなくても、一人で勝手に世間とか時代を置いて行って、別の世界にたどり着くのかもしれないな、という気もします。
図書準備室 Amazon書評・レビュー: 図書準備室より
4103041315
No.25
(5pt)

無題

主人公は高校を卒業してから一度も働いていません。
通学のバスで人にぶつかったことから始まり、ある教師に挨拶ができなかったことを回想し始める。
細かいことにこだわって人生棒に振っちゃってる感じがする。

なぜ周りに迷惑や気苦労をかけてまで、そういう細かいことを考え続けて生きるんですかね。
この作者に嫉妬します。

この表題作の謎の吸引力。
この作品で語られる世界は未開拓地です。
その未開拓地と、その他の人間が生きる一般的な現実の溝が深すぎる。

語り手、ひいては作者は「もう死にたい」って言ってますけど、生かされるべき人間って、こういう人なんじゃないかと思います。
でも生かされなくても、一人で勝手に世間とか時代を置いて行って、別の世界にたどり着くのかもしれないな、という気もします。
図書準備室 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 図書準備室 (新潮文庫)より
410133482X
No.24
(2pt)

分かりにくい内容でした

『情熱大陸』で田中慎弥氏のことを知り、本書の他2冊を購入した。
 番組で「自分は作家になるまではひきこもりで、母に酒代をたかって
 生活していた」とあった。

そんな中で本書のあらまし「なぜ30歳を過ぎても私は働かず
母の金で酒を飲んでいるのか」を見て、「田中氏が作家になる
までの経緯が読めるのでは」と思って読んだが、期待外れだった。

次に、新潮新人賞を獲得した『冷たい水の羊』だが、読みにくかった。

物語は特に項目で分けられてない。

『図書準備室』のような1人称なら良かったが、後半から突然
3人称になり、視点が主人公からいつの間にか母親に変わって
いて混乱した。物語の項目分けを空間1行でやっているから
こういうことになると思った。

『冷たい水の羊』の該当する場面だが、寒い冬に密閉空間に
 裸で閉じ込められ、冷たい水を注ぎ込まれるというものだった。

読み終えて、なぜこの小説が新潮新人賞を獲得できたのか
自分には意味が分からなかった。解説の中村文則氏のように、
もっと多角的な視点を持たねば、と勉強の必要性を改めて感じた。

田中氏の本に触れたのは本書が初めてなので、あとの2冊
『共喰い』と『切れた鎖』で新たな世界を期待したい。
図書準備室 Amazon書評・レビュー: 図書準備室より
4103041315
No.23
(2pt)

分かりにくい内容でした

『情熱大陸』で田中慎弥氏のことを知り、本書の他2冊を購入した。
 番組で「自分は作家になるまではひきこもりで、母に酒代をたかって
 生活していた」とあった。

そんな中で本書のあらまし「なぜ30歳を過ぎても私は働かず
母の金で酒を飲んでいるのか」を見て、「田中氏が作家になる
までの経緯が読めるのでは」と思って読んだが、期待外れだった。

次に、新潮新人賞を獲得した『冷たい水の羊』だが、読みにくかった。

物語は特に項目で分けられてない。

『図書準備室』のような1人称なら良かったが、後半から突然
3人称になり、視点が主人公からいつの間にか母親に変わって
いて混乱した。物語の項目分けを空間1行でやっているから
こういうことになると思った。

『冷たい水の羊』の該当する場面だが、寒い冬に密閉空間に
 裸で閉じ込められ、冷たい水を注ぎ込まれるというものだった。

読み終えて、なぜこの小説が新潮新人賞を獲得できたのか
自分には意味が分からなかった。解説の中村文則氏のように、
もっと多角的な視点を持たねば、と勉強の必要性を改めて感じた。

田中氏の本に触れたのは本書が初めてなので、あとの2冊
『共喰い』と『切れた鎖』で新たな世界を期待したい。
図書準備室 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 図書準備室 (新潮文庫)より
410133482X
No.22
(2pt)

弱さを書ききることから逃げている

『図書準備室』
吉岡と対決する場面で、主人公は呆れるような的外れなことばかり言うが、緊迫度が頂点に達した所で、ほぼ一頁にわたって立て続けに質問を繰り出す。そこだけが、多義的で矛盾を含み、豊かで謎に満ちている。主題はほぼ、その前後数頁に出尽くしていると思う。
このような豊かな謎を使って人物を動かし、事件を起こし、破壊と再生を描けたら、読み応えのある長編になるかもしれないと思った。もう既に書かれているのだろうか。
最新作を読んでみるか
でも正直に言えば、僕とは相性の悪い作風だった。結局読まないだろうという気がする。

『冷たい水の羊』
自殺願望は自己の主体性の底から出てくるのではなく、主体性の無さから出てくるのですらなく、身の回りの他者との空疎な関係から出てくることが、よくわかる。無論、その空疎さを主人公に対して責めるのは、一義的には間違っている。特筆すべきなのはこの状況に対する答えのなさではなく、答えのなさを言語化する眼が残っていたことである。
要するに弱さの言語化であり、弱さ自体は或る意味では大事な宝だと僕も思うが、結果として書かれたこれはどんなものか。
というのは、ただ弱さを書いたのか、それとも弱さが書けるということに復讐が息づいていないか、と思ってしまうからだ。もし後者なら、書かれているものは最早弱さではない。
北上や主人公の父母の、ありきたりでお粗末な内省を挿入しなければならないと著者が考えたのは、何故か。

田中慎弥『図書準備室』
新潮文庫 9487
平成二十四年五月一日 発行
図書準備室 Amazon書評・レビュー: 図書準備室より
4103041315
No.21
(2pt)

弱さを書ききることから逃げている

『図書準備室』
吉岡と対決する場面で、主人公は呆れるような的外れなことばかり言うが、緊迫度が頂点に達した所で、ほぼ一頁にわたって立て続けに質問を繰り出す。そこだけが、多義的で矛盾を含み、豊かで謎に満ちている。主題はほぼ、その前後数頁に出尽くしていると思う。
このような豊かな謎を使って人物を動かし、事件を起こし、破壊と再生を描けたら、読み応えのある長編になるかもしれないと思った。もう既に書かれているのだろうか。
最新作を読んでみるか
でも正直に言えば、僕とは相性の悪い作風だった。結局読まないだろうという気がする。

『冷たい水の羊』
自殺願望は自己の主体性の底から出てくるのではなく、主体性の無さから出てくるのですらなく、身の回りの他者との空疎な関係から出てくることが、よくわかる。無論、その空疎さを主人公に対して責めるのは、一義的には間違っている。特筆すべきなのはこの状況に対する答えのなさではなく、答えのなさを言語化する眼が残っていたことである。
要するに弱さの言語化であり、弱さ自体は或る意味では大事な宝だと僕も思うが、結果として書かれたこれはどんなものか。
というのは、ただ弱さを書いたのか、それとも弱さが書けるということに復讐が息づいていないか、と思ってしまうからだ。もし後者なら、書かれているものは最早弱さではない。
北上や主人公の父母の、ありきたりでお粗末な内省を挿入しなければならないと著者が考えたのは、何故か。

田中慎弥『図書準備室』
新潮文庫 9487
平成二十四年五月一日 発行
図書準備室 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 図書準備室 (新潮文庫)より
410133482X
No.20
(4pt)

美しくてオリジナルな風景描写

デビュー作『冷たい水の羊』の方をおもしろく読みました。

とりわけ印象に残ったのは風景の描写。
決して美しい光景ばかりを書いているわけではないのですが、
擬人法を用いた風景、あるいは季節の推移の描き方は、
これまで読んだことのないものでした。

多くの小説では、情景描写というのは申し訳程度だったり、
紋切り型だったりしますが、
田中さんはしっかり自分で見た光景を自分の言葉で表現していると感じました。
図書準備室 Amazon書評・レビュー: 図書準備室より
4103041315
No.19
(4pt)

美しくてオリジナルな風景描写

デビュー作『冷たい水の羊』の方をおもしろく読みました。

とりわけ印象に残ったのは風景の描写。
決して美しい光景ばかりを書いているわけではないのですが、
擬人法を用いた風景、あるいは季節の推移の描き方は、
これまで読んだことのないものでした。

多くの小説では、情景描写というのは申し訳程度だったり、
紋切り型だったりしますが、
田中さんはしっかり自分で見た光景を自分の言葉で表現していると感じました。
図書準備室 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 図書準備室 (新潮文庫)より
410133482X
No.18
(5pt)

作家と世界との遭遇の瞬間

田中慎弥のデビュー作品集である。表題作と新潮新人賞受賞作の「冷たい水の羊」を併録している。僕は「冷たい水の羊」から読み始めて大変面白くて感心した。

主人公の真夫は級友たちの生け贄としていじめの標的にされている。他のクラスメイトたちは真夫と比べられることによってどうにかいじめられない側の輪の中に留まろうと必死になっている。ところが真夫はいじめられている自分を相対化するために「自分はいじめられていない」という一見矛盾する独自の論理を作り出す。

真夫は毎日のように金をせびられる。いつも用意しておいた金を渡す。金がない時は屋上に連れていかれ殴る蹴るだけでは済まない屈辱的な暴行を受ける。

論理が薄れ、いじめという三文字が近づいてくる。真夫は目だけを動かせる。海峡がぼやけて見える。

水原という女の子が唯一なぜか真夫がいじめられていることを気にかけている。ところが逆に真夫は彼女を殺そうと考える。包丁を買い彼女を殺すチャンスを待っている。そして自分も一緒に死のうとしている。

いじめを苦にした自殺というのは古くて新しい社会問題だから、それをそのまま描いても小説にはならない。ではどう描くかが問題になる訳だが、田中慎弥は徹底的に心の闇の奥の奥まで、果てしない暗部の核心へと迫ろうとしているようだ。しかも非常に高度な抽象概念を用いて。

本書の解説は新進気鋭の作家である中村文則氏が書いている。彼は「デビュー作は未知(作家)と世界との遭遇の瞬間といえる。その作家の本質的な部分が現れるともよく言われ、独特の魅力が宿る」と書いているが納得した。
図書準備室 Amazon書評・レビュー: 図書準備室より
4103041315
No.17
(5pt)

作家と世界との遭遇の瞬間

田中慎弥のデビュー作品集である。表題作と新潮新人賞受賞作の「冷たい水の羊」を併録している。僕は「冷たい水の羊」から読み始めて大変面白くて感心した。

主人公の真夫は級友たちの生け贄としていじめの標的にされている。他のクラスメイトたちは真夫と比べられることによってどうにかいじめられない側の輪の中に留まろうと必死になっている。ところが真夫はいじめられている自分を相対化するために「自分はいじめられていない」という一見矛盾する独自の論理を作り出す。

真夫は毎日のように金をせびられる。いつも用意しておいた金を渡す。金がない時は屋上に連れていかれ殴る蹴るだけでは済まない屈辱的な暴行を受ける。

論理が薄れ、いじめという三文字が近づいてくる。真夫は目だけを動かせる。海峡がぼやけて見える。

水原という女の子が唯一なぜか真夫がいじめられていることを気にかけている。ところが逆に真夫は彼女を殺そうと考える。包丁を買い彼女を殺すチャンスを待っている。そして自分も一緒に死のうとしている。

いじめを苦にした自殺というのは古くて新しい社会問題だから、それをそのまま描いても小説にはならない。ではどう描くかが問題になる訳だが、田中慎弥は徹底的に心の闇の奥の奥まで、果てしない暗部の核心へと迫ろうとしているようだ。しかも非常に高度な抽象概念を用いて。

本書の解説は新進気鋭の作家である中村文則氏が書いている。彼は「デビュー作は未知(作家)と世界との遭遇の瞬間といえる。その作家の本質的な部分が現れるともよく言われ、独特の魅力が宿る」と書いているが納得した。
図書準備室 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 図書準備室 (新潮文庫)より
410133482X
No.16
(4pt)

田中慎弥という名の個性

『共食い』だけではもったいない田中慎弥の秀作がふたつ。◆表題作である『図書準備室』を一言で形容すると、金八先生に

出会えなかった者のいいわけとなるだろうか。三十過ぎて働かない理由を直ぐとは答えず、尋ねた伯母も(読者も)嫌になる

くらいの長話を興ずる。その中で昔、リンチを主導した中学教師の罪を白状させるのだが、その教師(吉岡)はもちろん金八

でないので生徒を懐柔する術を持っていない。挨拶されないことを咎めるでもなく、(怖がらせてしまったことに対して)頭

を下げただけ。この時もしも改心させられていたのなら、まともな大人になれただろうという理屈を答えとみるべきか否か。

いつも逃げ出す従妹の娘を飽きさせなかったことには拍手するが、金八の笑顔の裏に潜む醜態を見せてくれなかったという不

満は残る。

「もっとやれ」

◆まさか読者の願いが聞こえたわけではあるまい。もう一つの収載作『冷たい水の羊』の大橋真夫の心の声である。この小説は、

いじめを認識しなければされていることにならないとする論理を携え、無抵抗の羊であり続ける真夫の視点を中心に、加害者・

告発者・被害者の両親の気持ちにも触れているが、そのどれもが孤立している。例え救われないとしても、いじめの標的となっ

た子供を持つ父母の苦悩が『ナイフ』や『セッちゃん』(共に重松清作)あたりで示された頃よりも、問題の深淵が深まったと

言えようか。真夫の視線は最初から向こうの世界(黄泉国)に注がれており、(水原里子の存在はさておき)そこに辿り着く方

法を画策する点が北条民雄の名作『いのちの初夜』を想起させる。だが、この著者の命の表記は、若くして死ぬ運命を背負った

北条とは比べるまでもなく軽い。言いたいことはそれが悪いとか嫌いではなく、罠を仕掛けることのみ心を砕き、そこに獲物

(読者)を引っ掛けることを愉しんでいるふうに映る。読んだ者の「三島由紀夫ごっこ」の声さえ計算済みのようなデビュー作

において、書き手の野心が形を変え、政界進出を目指す真夫の父伸二に憑依したと読めなくもない。なるほど。「もっとやれ」

とは『図書準備室』の童女の声であり、くどくどしい長話で周囲を煙に巻いた著者自身のそれである。この人なら、いつかもっ

と大きい価値転倒をやってのけてくれそうな気がする。いや、未読の小説の中で既に書いているかもしれない。
図書準備室 Amazon書評・レビュー: 図書準備室より
4103041315
No.15
(4pt)

田中慎弥という名の個性

『共食い』だけではもったいない田中慎弥の秀作がふたつ。◆表題作である『図書準備室』を一言で形容すると、金八先生に

出会えなかった者のいいわけとなるだろうか。三十過ぎて働かない理由を直ぐとは答えず、尋ねた伯母も(読者も)嫌になる

くらいの長話を興ずる。その中で昔、リンチを主導した中学教師の罪を白状させるのだが、その教師(吉岡)はもちろん金八

でないので生徒を懐柔する術を持っていない。挨拶されないことを咎めるでもなく、(怖がらせてしまったことに対して)頭

を下げただけ。この時もしも改心させられていたのなら、まともな大人になれただろうという理屈を答えとみるべきか否か。

いつも逃げ出す従妹の娘を飽きさせなかったことには拍手するが、金八の笑顔の裏に潜む醜態を見せてくれなかったという不

満は残る。

「もっとやれ」

◆まさか読者の願いが聞こえたわけではあるまい。もう一つの収載作『冷たい水の羊』の大橋真夫の心の声である。この小説は、

いじめを認識しなければされていることにならないとする論理を携え、無抵抗の羊であり続ける真夫の視点を中心に、加害者・

告発者・被害者の両親の気持ちにも触れているが、そのどれもが孤立している。例え救われないとしても、いじめの標的となっ

た子供を持つ父母の苦悩が『ナイフ』や『セッちゃん』(共に重松清作)あたりで示された頃よりも、問題の深淵が深まったと

言えようか。真夫の視線は最初から向こうの世界(黄泉国)に注がれており、(水原里子の存在はさておき)そこに辿り着く方

法を画策する点が北条民雄の名作『いのちの初夜』を想起させる。だが、この著者の命の表記は、若くして死ぬ運命を背負った

北条とは比べるまでもなく軽い。言いたいことはそれが悪いとか嫌いではなく、罠を仕掛けることのみ心を砕き、そこに獲物

(読者)を引っ掛けることを愉しんでいるふうに映る。読んだ者の「三島由紀夫ごっこ」の声さえ計算済みのようなデビュー作

において、書き手の野心が形を変え、政界進出を目指す真夫の父伸二に憑依したと読めなくもない。なるほど。「もっとやれ」

とは『図書準備室』の童女の声であり、くどくどしい長話で周囲を煙に巻いた著者自身のそれである。この人なら、いつかもっ

と大きい価値転倒をやってのけてくれそうな気がする。いや、未読の小説の中で既に書いているかもしれない。
図書準備室 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 図書準備室 (新潮文庫)より
410133482X