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おもてなし時空ホテル: 桜井千鶴のお客様相談ノート
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おもてなし時空ホテル: 桜井千鶴のお客様相談ノートの評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.60pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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常々小説を評する時には「作家は書くべき部分を取捨選択して、要点を整理して書くべき」と口を酸っぱくして言い続けている。 要点が整理されていない作品は話の筋を追うのが億劫になるし、何より作者が何を描きたいのかさっぱり伝わってこないからだ。 なので要点が整理されていない作品に対しては辛めの評価を下してきた。 が、世の中は広い。 「要点の整理」なんて100%無視して小説を書いちゃうという恐るべき作家さんもおられる。 本作はまさにその「要点の整理」という小生が強調してきた部分をまるっと無視して書いた結果生まれた まさに「怪作」と呼ぶに相応しい一冊。 読むまでは「ホテルを舞台にしたほっこり系ライト文芸だろうな」とタカを括っていた事を猛烈に反省している。 物語はヒロインの桜井千鶴が北日本のS市(ぶっちゃけ仙台だね、牛タンとか八木山ベニーランドとか)にある はなぞのホテルに客室係募集に応募した友人に付き添いで訪れた場面から始まる。 ところが約束の時間になっても面接係の支配人は現れず、一時間以上待たされた友人は帰ってしまい千鶴は取り残される事に。 厨房から現れた女性が「忙しいのに客室清掃もしなきゃならないなんて」とボヤいているのを聞いた千鶴は 「良かったら私がやりましょうか」と請け合って客室清掃に取り掛かる。 ある部屋から現れた老婦人が「これから若い人の集まるパーティーにいかないと」と出掛けて行くのを目にした千鶴だが、 去り際に老婦人が千鶴の頭に載せたティアラの様な物が突如千鶴の頭を締め付け始める。 千鶴の悲鳴を聞いてやってきた黒服の男がティアラの様な物を外してくれるが、その手にあった新聞には 「先月亡くなった祖母が婚活パーティーに乱入し、殺人」という奇妙な見出しが踊り、千鶴にティアラの様な物を嵌めた 老婦人が殺人の容疑者として報じられていた…… この死んだはずの祖母による孫娘の見合い相手の殺害、という「ほっこり系ライト文芸」にしてはちょいと物騒なエピソードを通じて、 作品の舞台となるはなぞのホテルがタイムトラベラーの集う特殊な施設だと明かされるのだけど、 まずこのエピソードはとにかく時間の流れを追うのが恐ろしく面倒臭い。 ヒロイン千鶴が出会った老婦人は一ヶ月前に死んでおり、殺害の動機は孫娘が結婚した相手による曾孫の虐待死なんだけど、 一度は防いだ老婦人の殺人を再び三年後の曾孫殺害の現場に跳んでもう一度防ぎに行く、というのがよく分からない。 そもそも歴史改変の許容範囲がおそろしくいい加減で「人助けになるなら歴史を改変しても許される」って…… これまでどれだけタイムトラベル系の小説作品が書かれてきたか知らないが、ここまでユルユルの作品はちょっと珍しい。 ユルユルと言えば、この三年後の曾孫殺害を防ぐ場面もかなりシュール。 孫娘の結婚相手が赤ん坊を叩き付けて殺そうとするのを防ぐ場面だけど、ちょっと書き起こしてみる チズが叫ぶのと同時に、老婦人が田中から赤ん坊を取り上げた。ダイニングセットの椅子を持ってきて、ひょっこりとそれに上がって、 田中の背後から赤ん坊をすくいとったのだ。それはさっき、エントランスで見たあの老婦人であり、顔を見たらやっぱり市村君江さんだった。 婆さんが激昂する男の背後に椅子を置いて、その上に乗って男が抱え上げた赤ん坊を奪う……想像すると壮絶にシュールとしか言い様が無い。 この激昂した男はその間ずっと静止状態にあったのだろうか??? 正直言うとこの第一章の時点で本を壁に投げつけて読むの止めようか、と真剣に考えた。 が、根っからの貧乏性がそれを押しとどめて第二章を読み始めたのだけど……本作の凄いのはここからである。 「ほっこり系ライト文芸」が一章で「類稀なグダグダSF」へと変じたのだが、本作の迷走は第二章から始まる。 いきなり春日局が登場したのには仰天した。 しかもこの春日局、現れるやいなや現代の服装に着替えて町をほっつき回り始めるし、 千鶴にコンビニでビールとつまみを買いに行かせてホテルの部屋で借りてきたドラマのDVD鑑賞おっぱじめるし、 挙句の果てにカラオケ大会に参加したり、石川さゆりのコンサートに出かけるわとやりたい放題。 第一章では辛うじて残っていた「ライト文芸っぽい雰囲気」はこの時点でどこかに吹っ飛んでしまった。 ここから先はもう上を下へのハチャメチャ展開が延々と続く事に。 毒親の干渉を逃れて、妹の犠牲の上に平穏な生活を送ってきた男の家族との和解に至るまでの話が始まったり、 ホテルの部屋から忽然と消えてしまった宿泊客の話が一冊の小説を巡るファンの憧れと失望を動機とした 作家殺人事件&タイムトラベラーの自殺事件(しかもこの話はパーティーの余興として語られている)に飛んだりと 「今、自分はどういう小説を読んでいたんだっけ?」と読者が頭を抱え続けるような大迷走へと至るのである。 これだけの「グダグダ」では片付けられない大迷走、「要点の整理」なんて欠片も意識してない 作家が思いついた話を無理やり繋げまくった驚異のパッチワーク小説を読まされれば途中で「ついてけねえ」となって 本を投げ出してしまいそうになりそうなものだが、なぜかそうならなかった。 恐ろしい事に上に挙げたエピソードの一つ一つは「前後の脈絡を無視すれば」という条件のもとに「読める話」なのである。 なので気が付くと、頁を捲る手は止まる事無く終盤まで至っていたのだから信じがたい。 そして終盤に近付くと今度は何故か元朝時代の中国に話が飛んでいくのだからこの作品の行先は本当に読めない。 孤児になった貧農出身の少年の話が始まったと思ったら、はなぞのホテル崩壊の危機が起きたり、 何故かタイムマシン不要の仙人様による世直しの話へとシフトしたりと……うむ、カオスである。 まぎれもなくカオスである。 しかもこの元朝から明朝への移り変わりの話の合間に千鶴の見合い話のエピソードまで挟んであるのだから…… 名作、とは決して言えない。しかし駄作と切って捨てるのも一つ一つのエピソードが不思議と読める事や 行先不明の大迷走のわけのわからないカオスなパワーで憚られる。 ここは一つ「怪作」という所に評価を落とす事にしよう。 「要点整理」を100%無視した結果生まれた、奇跡的なというか、悪い冗談のようなカオスの詰まった一冊。 こういう作品も世の中にはあるのだなあ……自分はまだまだ勉強不足らしい。 | ||||
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