最後の命
評判
最後の命の評価:
3.88/5点 レビュー 17件。 D ランク
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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全34件 21〜34 2/2ページ
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最後の命の評価:
3.88/5点 レビュー 17件。 D ランク
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小説の詳細ページを閲覧すると、ここに履歴が表示されます。最近閲覧した小説詳細ページへ簡単に戻る事が出来ます。
この小説に至るまで、中村さんは最初の三冊で、人を殺してしまうまでに行き着いてしまう人間の思考を執拗に書き、「土の中の子供」では世間から黙殺され、暴力の中でそれでも生きようともがく人間の悲痛な生命力を描き、日常の中では埋もれてしまうような人の心の暗部にスポットを当ててきた。その中に、今回の小説のテーマでもある「性への衝動」は既に見え隠れしていたが、今作品では真正面から向き合うことになる。
この「性への衝動」、つまりセックスのなかに潜む暴力性は私たちの周りに当たり前に潜んでいる。そして、それが強姦という形を成すことは、実は日常的に起きている。性犯罪は、無くなることがない。なぜ、それは起きてしまうのか。
新たな生命を宿すために、男女はどうしても交わらなければならず、そのために人は成長とともに性欲を身内に抱くことになる。
その性欲が恋愛の中で生まれるとき、人はそれを愛情から生まれる行為として納得し、うまく処理することができるが、そういう形で処理できない性欲は、どのように解消すればよいのだろうか。
特に男性における性欲は、支配欲や破壊欲と一緒になって、相手の意思を無視して、いやむしろ嫌がる相手を犯すことに興奮を覚え、それは女から見れば単なる暴力とし現れることがある。
この小説に出てくる冴木、そして主人公は、この己の性欲の暴力性に、子供のとき集団強姦事件に巻き込まれたことがきっかけで向き合うこととなり、その存在に苦しみ、冴木はそれを増大させ欲望を現実の世界で解消しようとして行動し、主人公はそれを軽蔑して自分の単純な欲望すら嫌悪し、それを内包する世界の存在を嫌悪し、潔癖症や強迫症に悩まされる。
この「性への衝動」は、なぜに存在するのだろうか。
性欲は子供を産むため、愛を確かめるためならそれは是とされ、強姦に向かえばそれは否とされる。
欲望とは人が生きていくために必要なものなのだが、その善悪は紙一重の表裏一体のものである。
中村文則作品には、常にこの「性への衝動」が悪の一つとして描かれ、それと向き合う人間の苦悩が描かれている。
私は中村さんの新作である「教団X」が、なぜ執拗に生々しい性描写をするのか、なぜそこまでセックスに拘るのかわからなかったが、この「最後の命」を読んでやっと理解できたように思う。それは性の問題は、人類のひとつの大きな課題だからだ。
人間以外で、常に発情している動物はいるのだろうか。
他の動物には発情期という期間があって、それ以外で交尾することはほとんどないのではないか。
つまり動物は子孫を残すために、危険を冒して交尾を行っている。快楽のために行っているわけではない。でも人間は快楽のためにセックスすることがあるのだ。そしてその快楽はときに悪しきものへと姿を変えるのだ。そのような衝動を、なぜ人は抱えて生きなくてはならないのだろうか。
「最後の命」では、この欲望の前で人々は死という形をとる。
強姦の犠牲となって死ぬ者、その罰を与えられたかのように見捨てられて死ぬ者、そしてその衝動に耐えられなくなって死ぬ者。
主人公も、常に死を意識して生きている。
この衝動は殺さなければならないもの、許されないもの、そういう理性の前で欲望は、快楽は死を求める。
このような小説を性的異常者の話だと切り捨てることは簡単である。でも、実際にはそんなに簡単なものではない。
現に、毎日性犯罪は起きているのだから。いくら法で縛っても、罪に罰を与えても、なくならないのだから。
これは、人類が背負っているひとつの十字架なのだ。
この小説の中に、その衝動を克服するための正解などない。ただ、それを背負って生きていくことへの決意があるだけだ。
「最後の命」とは、小説の中の登場人物としては香里に当たるのだろうか。でも、私には、命という厄介なものを生きていく決意表明に思える。
そして中村文則さんは、今でもこの問題を小説で書き続けている。書き続けるしかない。そういうことと、真面目に向き合っている小説があっても私はいいと思う。むしろ、あるべきだろう。