日の名残り

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日の名残りの評価:

4.45/5点 レビュー 402件。 A ランク

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全911件 881〜900 45/46ページ
No.31
(5pt)

笑える・哀し……アイデンティティクライシス

老いた執事が主人に休暇を貰い、自動車旅行に出て半生を回想する話。
第二次大戦頃は名士の尊敬する主人に仕え、第二次大戦前後の政治局面を決定づけるような会議がその屋敷で行われる中、ただ「執事であること」「主人の至福のときが、自分の人生のゴール、至福」ってな価値観を貫いた執事の中の執事、スティーブンスの物語。
栄華を極めた屋敷ですが、主人亡きあと、アメリカ人に買われて、使用人もわずか四人という祭りのあとな状況説明がプロローグであり、あとは旅の六日間が描かれているけど、道中浸すら回想ばかりしております。
自分の目標の執事だった父上がだんだんトシで仕事できなくなったこと、そして相愛であったのに、執事であるという生き方のために犠牲にした、ミスケントンとの恋……
この執事の語りは
「謙虚な口調のウラの誇り
・流麗な表現(多分原文じゃさぞ格調高きクイーンズイングリッシュが用いられてるんだろう)
・執事の美学
・理論武装」
のキーワードにつきる。
文章自体は非常に拡張高い美文。なんだけど、スティーブンスの語りはとても不正直なんですよ。
「人が減って、ミスが増えた」って長々述べるけど、述べるほど「あぁ、亡き父と同じ『老いによって、自分の唯一の矜持最高の執事として働き続けていること』を失いつつあるって自覚してんのね」と伝わって、その理論武装がほんと悲しいけど……いとおしいんだなぁ……
また、能力云々の前に、アメリカ人の現主人に買われた時点で、彼はそもそも「英国型執事」であることを求められてないんだ。今の主人は「旧家の名執事を持ってる」ってのがいいだけ。全くの成金なんだもの。

物語中で彼は「品格というのは結局、他人の前で服を脱ぎ捨てないことに尽きると思います」って言ってるけど、これは己を抑制する執事の美学であると共に自分が周囲の人間にとって、読者にとって「信用できない語り手」であるという著者の仕掛けなんじゃないかなぁと思います。

さて執事であることを失いつつある彼は自分の人生に疑問を呈し始めます。「主人の望みを最大限に叶え、政治的な話は執事の語るところでない」って生き方は本当に正しかった?
……アメリカ型自己実現の価値観的じゃ「個のない無益な人生」ですよね。邸内でぶたれた「私利私欲から智謀に走らないやり方を我々は品格と呼び未だ重んじているのだ」っていう美しいけど愚かなイギリス人の演説シーンはのちのスティーブンスを暗示しているようにも見える。
でもスティーブンスの語りの含蓄は、この「執事としてあるべき自分」と「本来のミスケントンを恋い父を愛す自分」との長年の乖離に培われた自己矛盾の病だと個人的に思います。それが彼の品格になってるとも

ラストシーン、スッティーブンスは、自分の老いや、人生の欠落をようやく少しだけ吐露します。
そばにいる初対面なのに、ジョークを連発しうちとけてる(とスティーブンスが類推する)若者を横目に、
(あ〜夜なのに、これから朝が始まるみたいにはしゃいどる(←人生の夜だが、今を始まりにもできる、とスティーブンスは考えるのですね)あれはジョークの力かも、自分もジョークを言えるようになって主人を感服させてやろう(英国価値観→アメリカ価値観、を含むような、本人の価値観の転換をし残りの人生を懸命に生きようじゃないか。という心情吐露なのでしょう))なんて考える彼ですが、これ、希望のシーンじゃない。彼は、もう能力落ちてる老人で老いが確実に仕事を阻害してるんだもの。主人は執事とはなにかも理解してない男で、スティーブンスは結局執事であるという誇りと美学は棄てられないのだもの……
(なお、上記のように人生を朝〜夜に例えるのは、「最も人生で輝かしいのは人生の正午(中年期)とのユングのセリフに端を発す発達心理学も念頭に置いてと思われます。類似のセリフがさりげなく文中に類似のセリフも出てくるし)
という悲しい話なのに全体を通しては、著者のユーモアのセンスが抜群で、結構声笑えます。とくに前半部!前半部は本当、声出して笑いますよ。特に、外交相手の息子が近々結婚するので性教育を施してやってほしいと頼まれるスティーブンスが右往左往するのを大真面目に回想してたり(笑)
笑えて読後の悲しい余韻が素晴らしい、間違いなく読み継がれる名作となるでしょう。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.30
(4pt)

現代のビジネス人としての生き方を考える上での参考に

英国ブッカー賞受賞作品で、評判が高く、一度読んでみようと思っていたところ、ハーバード大学のMBAの学生に一読を薦めているというので、ついに手にした。
 小説の楽しみ方、感じ方は人によってそれぞれで、多くのレビューにあるように、古き英国を伝える美しい文章に感じ入るもよし、登場人物たちの心の動きを楽しむもよしだと思うが、自分は一人語り調の文章があまり得意ではないので星を一つ減らしました。
 MBAの学生に大学が考えさせようとしたのは、主人公の「生き方」についてであろう。つまり、主人公の執事の立場を現代のビジネスマンにしたとして、仕事に対してある意味「美学」とも言えるほどの高いレベルの仕事をすることに心血をそそぎ、出会った人々の心の機微にも気づこうとせず、家族を持つこともせず、ただひたすら会社の社長を敬愛し、信じて働き続けてきたが、実は会社は国家の存亡も揺るがすようなことに加担しており、自分は長年その会社の実態に気がつかず、あるいは気づこうとせずに生きてきて、すべての事実に気がついたときには職業人生もそろそろ終盤を迎えようとしたら…。人生は失敗だろうか?
 人によっては失敗だと考えて、「仕事一筋にならないようにしよう」とか、あるいは「もっといろんなところに気づけるように能力を高めよう」と考えるかもしれない。
 私自身は厳しい事実に胸が苦しくなったが、最後の数ページで夕暮れの人々の楽しげな情景のなかで、主人公が旅を終え、前向きにお屋敷に戻っていこうとする場面に救われた。
 そう、どんな人生を送ってきたとしても人生に失敗はないのだと思う。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.29
(5pt)

なんども読まないけれど。

よく本を読むのが早いといわれるのですが、
イシグロさんの本を読むときはじっくりじっくりです。
気持ちに余裕があるとき、
でも、ハイになってないとき、
夜、ひとりで静かに読みます。
じわじわきます。違う時間が流れるかんじがします。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.28
(4pt)

裏表紙はヘン

裏表紙の説明はヘン。「輝きを増して」とかでも、古きよきイギリス、とかでもない。

自分の生き方をしっかり持って、その生き方の中では最高に近い形で生き抜いたのに、なんで全てが(全てが、である)うまくいかなかったのだろう、という思い。

父親の老いとその死に行く姿と、現在の自分との重なり。

父親の「自分はいい父親だったのだろうか」という問いは、
主人公の「自分に何の品格がありましょうか」という嘆きに重なる。

それでも前向きに生きていく。生き方を変えず。

だけど、それは作者の真意だろうか。説得力があまりにも薄い。自分には、作者が主人公を幸せにしたかっただけのように思える。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.27
(5pt)

「もしも…」を考えてしまうこと

格調高きイギリス貴族の大邸宅で、ひっそりと昔に思いを馳せる老執事。登場人物も決して多くはないし、彼の行動範囲も広くない。私情を挟むことなく、仕事に徹してきた人生に、時間はゆっくりと確実に過ぎていった。女中頭に思いを寄せるが、それを伝えることはできなかった。彼女は何度かチャンスをくれたのに…。老執事は、彼女のもとへ旅に出る。だが、彼女にも時間はゆっくり流れていた。最後部の「人生で最良の時は、夕方だ。」がこの小説の要と言われるが、私は、「生活する中でだんだん夫を愛する自分に気付いた。」という彼女の告白に胸がじんとした。一度近づいてまた離れていった思いは、二度と交わることはない。だが、「もしも…」がなければ到達しない感情を、この作品は魅せてくれると思う。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.26
(5pt)

読んでいて、不覚にも涙が・・・。

読み始めたら途中でやめられなくなり、一気に読んでしまいました。しかも最後のほうでは、涙が出てしまいました。本を読んでいて泣くなんて、あまり経験がない。映画を先に観ていたのですが、原作のほうがよりくっきりと主人公の人生への後悔が語られている。日の名残というタイトルが意味するところも。自ら選択をしなかった人生がどういうものか?遠い世界の話とは思えない、すごく身近なテーマであるとも思える。映画版は女中頭との恋愛感情により焦点があてられているように思う。でも主人公の人生を象徴したようなラストシーンなど映画は映画で、ストレートに語られていないところに深みが感じられてイイです。アンソニー・ホプキンス、エマ・トンプソンの名演、ジェームズ・アイボリー監督の名演出もありますしね!
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.25
(5pt)

しみじみさと軽やかさと

「浮世の画家」を読んで、またあの世界に入ってみたくなり、この作品を読んでみることにしました。

重いテーマが貫かれているものの、どこか軽やかさやユーモラスな感じがあり、悲劇を描きながらも悲しいだけの話で終わらず、悲喜劇という言葉がぴったりきます。

主人公の細やかで丁寧なモノローグは上品でもったいぶったものだけど、合間の人物たちと共に見せる数々の短いドラマは、何気ない日常の中にこそ人生の喜びや悲しみ、輝きや影があることを示し、彼が物語るほど(彼が理想としたほど)彼の人生が淡々としたものではなかったことが分かっていきます。

ほろほろ苦く、ほろほろ甘い。最後の数ページは本当にしみじみ泣けます。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.24
(5pt)

上質の感動

ふだん、テンポ感のある大衆的な小説を読み慣れていると、
最初は単調な展開に戸惑いを感じた。英国貴族に仕える執事
の物語なんて、現実味に乏しく想像力が及ばなかった。
どうして評価が軒並み高いのだろうか、と、不思
議でもあったのだけれど、ページを追うごとに胸にじんわり
主人公の切なさが染み込んでくる。

人生の夕暮れ時に近づいて、誰でも悔いることや、また、か
なわなかった夢に、苦い感情を抱くことはあるのだろう。
ちょっとした歯車の狂い、ボタンの掛け違え、、、
及びもしない過去を振り返り、あったかもしれない別の人生
を想像してみる。

後半部分、特に、主人公が思いがけないアクシデントがきっ
かけになり出会う人々、そのあたりからの心理描写は秀逸!
最後まで引き込まれるように読んで、深い感銘を受けた。

タイトルの意味は、過ぎ去った一日を振り返ってそのとき目
に入るもろもろのこと、と、訳者のあとがきにある。最後に
夕暮れを比喩にしたメッセージ的な台詞が出てくるが、タイ
トルと微妙に異なる。
是非、あとがきもしっかり読んで欲しい。

あとがきにもあるように、まさに上質の感動を得られる作品
だった。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.23
(5pt)

映画よりも

アンソニー・ホプキンズの出ている映画が気に入って原作を読んでみましたが、主題は小説の方が伝わってきました。

「夕方が一日で一番良い時間だ」一日を一人の人生に置き換え、「後ろを振り向いてばかりいるのをやめ、もっと前向きになって残された時間を最大限楽しめ」というくだりは現在そしてこれから進行する高齢化社会へのメッセージだとも思えました。

日本で生まれた著者がここまでイギリス的な作品を書いていることに感銘を受けました。

イギリス小説の好きな方にぜひ。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.22
(5pt)

過去を振り向かず、前向きに生きろ

大英帝国の没落、ダーリントン・ホールがイギリス人からアメリカ人の手に、スティーブンスの執事としての絶頂期の終焉、すべてが一日のうちの夕方を示しています。

作者は言います。「いつも後ろを振り向いていちゃいかんのだ。気が滅入るんだよ。」「後ろを振り向いてばかりいるのをやめ、もっと前向きになって、残された時間を最大限楽しめ」と。

過去の栄光を振り返り現在を嘆くのではなく、前を向いて生きろと言っています。それは、スティーブンスとミス・ケイトンとの関係にも言えるかも知れません。執事と女中頭として、恋することを心の奥に押し込め仕事に専念した時代。それは、二人にとって最高の日々だったでしょう。でも、時は移ってしまいました。時は逆戻りすることはありません。二人は、現在を受け入れるしかなかったのです。

スティーブンスにとっても、執事として精進することを選んだ以上、失われた別の人生を羨んでいても仕方が無いということでしょう。

映画では、アントニー・ホプキンスが、憂いの溢れる演技で見せてくれました。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.21
(5pt)

これが小説ですね

日本で生まれた人が書いたとか,そういうことは考えなしに名作です。
ほほえましく読もうとしたら,執事スティーブンス(朴念仁)の一喜一憂の日々。
このまじめ一辺倒の男がとても愛しく読めます。
ミステリーとして読もうとするのならば,スティーブンスの人生を捧げた卿の実体を追うとその巧妙さに鳥肌が立つでしょう。
旅行小説ロードノベルとして読むと,目の奥にイギリスの田園風景が広がります。
人生を捧げた主人と現在のアメリカから来た主人,休暇の旅行,イギリスの戦争時代が渾然一体となり話は進められます。その,展開の緻密さに読者はすぐにこの小説世界に引き込まれていきます。
そして,その終わりに,
心の中に閉じ込めてある箱。その中身を認めてしまったら自己の崩壊につながるような,決して直視したくないもの。スティーブンスは開けてしまいました。そして,やっぱりパンドラの箱には希望が残っていたのでした。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.20
(5pt)

まさしく傑作。「古きよき日本」という言葉は嫌いだし、そんなことないだろうか、と思う。この小説は「古きよきイギリス」が描かれていて、それが本当に美しい。

 執事的に完璧であろうとした男が、イギリスの美しい風景の中をドライブしながら自分の半生を回想する形で淡々と話はすすんでいく。文章は美しいとしか言いようがないし、回想で綴られるドラマチックかつ哀愁漂う数々のエピソードは本当に驚嘆させられる。

 過去の哀愁と現在の風景の美しさが同調するように盛り上がっていく構成は完璧である。また、執事が語っていることがどれだけ本当のことなのかもさっぱりわからないし、間違いなく欺瞞もある。人間的感情を押し殺し、それを美しく見せるこの手腕はどうだろう。

 リーダビリティも驚くほど高く、是非多くの人に読んでもらいたいまぎれもない傑作。ブッカー賞(イギリスでその年で最高の作品に与えられる)にはずれなし。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.19
(5pt)

まさしく傑作。「古きよき日本」という言葉は嫌いだし、そんなことないだろうか、と思う。この小説は「古きよきイギリス」が描かれていて、それが本当に美しい。

 執事的に完璧であろうとした男が、イギリスの美しい風景の中をドライブしながら自分の半生を回想する形で淡々と話はすすんでいく。文章は美しいとしか言いようがないし、回想で綴られるドラマチックかつ哀愁漂う数々のエピソードは本当に驚嘆させられる。

 過去の哀愁と現在の風景の美しさが同調するように盛り上がっていく構成は完璧である。また、執事が語っていることがどれだけ本当のことなのかもさっぱりわからないし、間違いなく欺瞞もある。人間的感情を押し殺し、それを美しく見せるこの手腕はどうだろう。

 リーダビリティも驚くほど高く、是非多くの人に読んでもらいたいまぎれもない傑作。ブッカー賞(イギリスでその年で最高の作品に与えられる)にはずれなし。
日の名残り Amazon書評・レビュー: 日の名残りより
4120019470
No.18
(5pt)

まさしく傑作。「古きよき日本」という言葉は嫌いだし、そんなことないだろうか、と思う。この小説は「古きよきイギリス」が描かれていて、それが本当に美しい。

 執事的に完璧であろうとした男が、イギリスの美しい風景の中をドライブしながら自分の半生を回想する形で淡々と話はすすんでいく。文章は美しいとしか言いようがないし、回想で綴られるドラマチックかつ哀愁漂う数々のエピソードは本当に驚嘆させられる。

 過去の哀愁と現在の風景の美しさが同調するように盛り上がっていく構成は完璧である。また、執事が語っていることがどれだけ本当のことなのかもさっぱりわからないし、間違いなく欺瞞もある。人間的感情を押し殺し、それを美しく見せるこの手腕はどうだろう。

 リーダビリティも驚くほど高く、是非多くの人に読んでもらいたいまぎれもない傑作。ブッカー賞(イギリスでその年で最高の作品に与えられる)にはずれなし。
日の名残り (中公文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (中公文庫)より
4122020638
No.17
(5pt)

イシグロの長編第三作

日系英国人作家、カズオ・イシグロの長編第三作である。

イシグロは本作でブッカー賞を受賞、大家の仲間入りを果たした。

本人も認めているが、『遠い山なみの光』

『浮世の画家』と同じトーンで貫かれており、

本作は初期作品の完成形と言えるだろう。

本作では前作『浮世の画家』にも増して語り手の

「回想」の隠蔽・改竄が周到に行われており、

事実関係がどうだったのかますますわからなくなっている。

そこから浮かび上がるものは、

生身であることを放棄した執事の姿と

内面に巣食う巨大化した欺瞞の精神であり

そのグロテスクなまでの二面性に、私たちは

人間の素晴らしさと恐ろしさを同時に見ることになろう。

ラスト、欺瞞に満ちた生涯ながら、

それでも人生を肯定しようとする想いに

心動かされない読者はいないだろう。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.16
(5pt)

古き良き日のイギリス

伝統的なイギリスの名家(貴族、事業家など)がまだイギリス政治・外交の

中心であった時代(1920〜50頃が中心)とその落日を史実に照らし

合わせながら、ある貴族の執事の視点から描き直した物語です。

執事は主人と執務に余りに忠実で滑稽なほどです。いつの時にも執事は

自分の存在意義や幸福の定義に照らし、考えを肯定しながら前進していくの

ですが、それらに多くの間違いが含まれていたことをクライマックスの

夕暮れ時に悟る執事が哀れでなりません。

社会的な仕組みに重要なパラダイムが起こる際には必ず旧世代と新世代の

せめぎ合いが発生するわけですが、そこで旧世代の考え方にしがみついた

者の顛末はいつも悲劇的であり、新世代から見れば滑稽と捉えられても

仕方の無いこともあると思います。

しかしながら、本書の救いは絶望に打ちのめされた執事が、それでも旧式の

スタイルに希望を見出すところで締めくくられており、一縷の望みを託せる

ところでしょうか。

人生をも変えてしまう決定的な瞬間を人はどうして見落としてしまうのか。

深く私自身に問いかけてくるとともに、ほろ苦い心象を残した是非一読を

お勧めしたい書です。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.15
(4pt)

長い回顧の末に彼が悟ったものは何だったのか。

2つの大戦の頃、政界の名士のお屋敷で、誇りと威厳を持って自分の半生を職務に費やした執事が、主人から暇をもらって、英国の田舎へ旅をする。

静かな田園風景や小さな村を旅しながら、完璧でありたいと努めてきた我が半生を回顧し、抑制された静かな口調で訥々と語る。

敬愛してやまない、世界を動かす主人に仕え、優秀な執事として風格さえも身に付けた自分への誇り、お屋敷内で繰り広げられる英国上流階級の紳士淑女が織り成すドラマ、女中頭との微妙な人間関係、かつては秀逸な執事だった父の衰え、新しい主人が求める新しいサービス。

これといって、ドラマティックな展開や激情、目を見張るような絶景が登場してくるわけでもないが、物静かな口調の語りに引き込まれ、あっというまに読破した。

旅の最終目的地の海辺で、長い回顧の末に彼が悟ったものは何だったのか。彼が流した涙の意味とは。

読後、静かな感動が胸を満たし、また微かな痛みとほろ苦ささえもが心地良く、満足して本を閉じた。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.14
(5pt)

無駄のない構成

下のレビュアーの方が素晴らしいコメントをしていらっしゃるので、余り付け加えることはありませんが、この小説をくっきりと輪郭の明確な、きりっとしまった印象を与える堅固な作品にしているのは、その小説の構成の上手さもひとつの要因だと思いました。昔自分の勤めていたお屋敷を訪ねる主人公。そして心は魂は過去へと遡る。そして滞在の日が一日一日と過ぎて行く。英語は優雅で柔和な感じですが、滲みるような優しい声で語られ、解り易くシンプルです。翻訳も自分でやってみるとわかりますが、訳者の努力と工夫が忍ばれます。

でも何と言っても、あの大英帝国貴族の邸宅で勤め上げた老練なバトラーの回想を日本人の作家が書いた。それもこのような素晴らしく優雅な英語で!それだけで、同じ日本人として、そして海外に長く生活するものとして、誇りに思ってしまうのは私だけではないと思います。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.13
(5pt)

はじめて読んだのですが……

長らく先送りにしていたことが悔やまれるほど、本当に素晴らしい作品でした。自分のしている仕事への誇り、または仕えている主人への恭順、畏敬の念、などと単純に言ってしまえるものでもないとは思うのですが、そうした内側から人を支えるものの不確かさや、それが不確かであるがゆえのおかしみや悲しさ、といったものが、読み進むにつれて心の芯に近い場所をひたひた満たしていくような感じがしました。物語はゆっくりわずかずつ流れ、その傾斜は読後感として後からくるので、安心して(というのも変ですが)一行一行、一語一語を噛みしめて読むことができました。また、わたしにはそうする価値の十分にある一語一語に思えました。訳文もとってもいいムードで、しばらく間を置いてからぜひまた読みたい一冊です。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.12
(5pt)

何度読んでもいいです

4年ぶりに、また、読んでみました。舞台はイギリス、主人公は執事なんですが、なぜか、日本の田舎で育った庶民の私と精神的にシンクロする部分が多いんです。主人公の固さや不器用さ、筋の入り方や優しさが心で素直に感じられる。そして、その舞台が、優しい色で目の前に奥行きをもってイメージされる。これは、イシグロマジックと言わせて頂きましょう。ただ、この作品をめいっぱい味わうには、読む側の心のゆとりがキーとなるかもしれません。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037