日の名残り

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日の名残りの評価:

4.45/5点 レビュー 402件。 A ランク

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平均点4.45pt

Amazonレビュー一覧

Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全911件 841〜860 43/46ページ
No.71
(5pt)

余韻までが香り立つ傑作

「日の名残り」(カズオ・イシグロ:土屋政雄 訳)を読んだ。両手指の間をすり抜け落ち続ける砂を見つめるに似た痛みを伴う焦燥感に打ちのめされそうになりながら読み続けた。でも読了感は爽やか。これは傑作だと思う。「わたしを離さないで」が嫌いなので他の作品を読まずにいたが、ちょっと反省
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.70
(5pt)

執事として,そして人間として迎えた人生の夕暮れ

結論から先に言えば,名作です。
90年出版の日本版ハードカバー(中央公論社)を読み,そのあと原文を読み,
そしてこのたび23年ぶりに日本版を再読しましたが,
名作の認識をさらに深めました。

1956年,人生の夕暮れ(日の名残り)時を迎えた老執事スティーブンスが,
ふいに与えられた休暇を利用して,
かってダーリントン・ホールで一緒に働いた女中頭ミス・ケントンに会いに行くことから,
物語は始まる。
スティーブンスは,フォードに乗ってイギリス各地の名勝を巡りながら,
昔を回想しはじめる。

ダーリントン・ホールの主,ダーリントン卿は,
古き良きイギリス紳士で,イギリス外交のキーパーソンである。
1920年から30年代,ダーリントン・ホールでは,
イギリスの非公式外交が連日のように繰り広げられる。
ダーリントン卿は,その紳士的使命感から,
ベルサイユ条約以降,危機に陥ったドイツと
欧米各国との間を取り持とうと奮闘する。

スティーブンスはダーリントン・ホールの有能な筆頭執事であり,
コミカルなまでに禁欲的な人間である。
執事としての分をわきまえ,品格を保ち,
世界史の「車輪」たる主が存分に力を発揮できるように完璧に仕えることを
最高の栄誉と考えている男である。

しかし主のダーリントン卿のことを最優先に考え,
理想の執事像に自分をはめ込むことに熱心なあまり,
スティーブンスは,
「人間として」の自らの自然な感情に気が付くことができない。

そのクライマックスが物語後半「四日目―午後」の章における回想である。

ミス・ケントンは,自分はある人から今求婚されており,
今晩その人に会いに行く,「どう返事をしたらいいものか」とスティーブンスに問う。
しかしスティーブンスは執事としての仕事を全うしようと,
その場を足早に立ち去ってしまう。

一方同時に,館内ではダーリントン卿が,
ナチスのリッベントロップ駐英大使と,英首相・外相との仲介を果たしていた。
若いころから屋敷に出入りしていた,ダーリントン卿の友人の息子,レジナルドは,
ダーリントン卿がその「紳士的善良さ」をナチスに利用されて,
深みにはまって溺れそうになっていると必死になって警告を与える。
しかしスティーブンスは,
自分は執事であり,それについて何か述べる立場になく,
卿を信頼していると頑なに繰り返す。

この夜,スティーブンスは,「地位にふさわしい品格」を保ち続けたと,
「執事として」の勝利感と高揚を感じる。

しかしその後,ダーリントン卿は,
ナチスドイツとの関係を問われ,非難を浴びて,
戦後失意のうちに亡くなる。
ミス・ケントンは,結婚して孫が生まれる年となった。
スティーブンスは,「人間として」の自らの欠けていたものと,取り返せない過去を想う。
最終章,今まで語られなかったスティーブンスの内面の感情が初めて零れ落ちてくる。

しかし同時に,新しい主,アメリカ人実業家ファラデーの陽気な性格に合わせようと,
スティーブンスはジョークの習得に生真面目に励み始めるのである。

その「ジョーク」こそがスティーブンスに欠けていた「何か」を象徴しているのであるが,
また同時に,
その生真面目な態度こそがスティーブンスの所以なのだ。
そしてそのような人生に対するぎこちないけれど真摯な態度と,哀切な結末が,
読者の心を打つのである。

 先述の四日目午後などの物語構成だけでなく,
その他,ディテールの記述,例えば「銀器の扱い」の記述は執事の性格を上手く浮かび上がらせており,
素晴らしいです。

原文も,冒頭から,

It seems increasingly likely that I really will undertake the expedition that has been preoccupying my imagination now for some days.
An expedition, I should say, which I will undertake alone, in the comfort of Mr. Farraday’s Ford; an expedition which, as I foresee it, will take me through much of the finest countryside of England to the West Country, and may keep me away from Darlington Hall for as much as five or six days.

と暗誦したくなるような,
非常に美しく格調の高い文章が続きます。
 
途中まで読んで投げ出したくなった人も,
この物語は派手な展開は一切ありませんが,
最後に素晴らしいラストが待っていますので,
何とか最後まで読み切ってください。

絶対の自信を持ってお勧めします。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.69
(5pt)

名作です。

「文学作品というのは内容が難しそうで・・・」と思っている人には先ずこの本をおすすめします。
非常に読みやすい日本語訳で、徐々に明らかになっていく物語の全貌、語り手である執事の、かつての御主人様の回想を通じた成長は読んでいてわくわくします。
何だかよく分からないエンディングを迎える文学作品も多いですが、この作品は意味するところが非常に分かりやすく、また後味も悪くない。
ある程度大人になったらもう一度読みたい作品でもあります。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.68
(4pt)

最後まで、いや、あとがきまで読んで分かったというか

冗長とも取れる長い長い執事としての半生の語り。
これが英国の執事というものなのかと唸らされるほどの考え方への違和感。
執事としての在り方や自分の仕える卿への思いがあまりに正当化されすぎていて
途中投げ出したいほどの違和感にまで高まってしまった。

しかし、それにしても高い評価。
何度も「本当に見間違いではないか」とレビュー欄を確認してしまうほど。
それでも読み進め、最後まで読んで初めて理解した。
タイトルの『日の名残り』の意味も含めて。

人生の最後に近づいた夕暮れ時、自分が振り返って初めて気が付くことがある。
現代の日本に生きる私たちにも同じことが当てはまらないだろうか。
彼が執事として最良であろうとしたことが、必ずしも彼にとって、
卿にとって、またあるいは世界にとって最良ではなかったこともあるはずだ。
気付いた時にはもう既に日は暮れかけていて、問題は自分の手の届かないところに
行ってしまっている。
私の目の前で起こっている、例えば仕事、例えば諸々の問題・・・これらは
果たして私の人生の夕暮れ時にどのような形で思い返されるものなのか。

読み終えた本を閉じて、しばらくして余韻のように押し寄せる想い。
多くの人がこの本に高い評価を寄せる理由は後になって分かる。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.67
(4pt)

課題図書

研究会の課題図書でした。
書店へ行かず、すぐに手に入ったので助かりました。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.66
(5pt)

イギリス文学。

映画を見て、この本を読んでみて、すごく執事の仕事へのひたむきな姿勢を痛々しく感じながらも、
なにか自分の生活にも反映して読んでいた。
いい本だと思う。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.65
(5pt)

イギリス文学。

映画を見て、この本を読んでみて、すごく執事の仕事へのひたむきな姿勢を痛々しく感じながらも、 なにか自分の生活にも反映して読んでいた。 いい本だと思う。
日の名残り Amazon書評・レビュー: 日の名残りより
4120019470
No.64
(5pt)

イギリス文学。

映画を見て、この本を読んでみて、すごく執事の仕事へのひたむきな姿勢を痛々しく感じながらも、 なにか自分の生活にも反映して読んでいた。 いい本だと思う。
日の名残り (中公文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (中公文庫)より
4122020638
No.63
(4pt)

時間の流れはよどむ川のように

同じ時、同じ場所で政治が語られ、女性のヒステリーに近い時間も流れる。
うわべの冷静さと内側の感情の機微が語られている。
日本では語られない風景が印象的だ。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.62
(4pt)

やっぱりいいです

「私を離さないで」をよんでから、すっかりカズオ・イシグロのファンになりました。この作品も平易でありながら、抑制のきいた文体で印象深い作品となりました。映画もみたくなりました。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.61
(5pt)

カズオ・イシグロのナラティブ

夕方の、日がかげようとする時、ふと、窓の外の静けさに驚いた経験はないだろうか。多忙であった一日の出来事が疲れとともに脳裏によみがえる時間。人生にもそんな時機があるのだろう。初老を迎える頃、引退するには早すぎ、しかし、振り返るには十分な経験と実績を培った年頃。イシグロの代表作『日の名残り』は、第1次大戦後の英国の伝統的な屋敷に仕える「執事」のそんな人生の「名残り」を味わう作品である。

巨大な屋敷を運営する執事は、現代のホテルマネージャーに近い。多くの使用人を指揮して、屋敷で開催される国際会議を切り盛りし、宿泊の世話を含め、訪問客に適切なサービスを講じていく。
初老を迎えた「私」(執事)は、かつて、共に屋敷を支え、苦楽を共にした女中頭に再会するために1週間ほどの旅に出る。父もまた優秀な執事であった幼少の頃の思い出。屋敷で繰り返される国際政治をめぐる重要な会合。当の女中頭との葛藤。道中で蘇る過去の記憶を辿りながら、多忙であった仕事の日々を振り返る。
しかし、なぜ、彼女は突然、結婚し、自分から離れてしまったのか。記憶に残る様々な場面からはその答えが見つからない。齢を重ね、再会を果たして、彼女の告白とともに、お互いの想いの一端を共有したからと言って、すでに人生はやり直しが効かない。「もしかしたら実現していたかもしれない別の人生」はもうこない。仕事に大半の時間を費やしていく職業的な人生の黄昏を、悲劇的にではなく、静かに、しかし確実なタッチで語り続けていく。
この作品は、ジェームズ・アイヴォリー監督によって1993年に映画化されている。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.60
(5pt)

現代小説が見失ったものに出会える

カズオ・イシグロの作品に共通することだが、ドラマの展開よりも、穏やかな主人公のモノローグによる人生のさざ波を描いている。ドラマティックな人生を歩んでいる人も中にはいるのだろうが、普通は取るに足りない出来事が積み重なって人生は進んでいく。その人生を確信を持って生きるとそこには自己欺瞞が必ず隠れている、それを私と同い年のカズオ・イシグロは描き続けている。
 ストーリーを展開させないとならないと筆を進めている大半の作家たちの苦悩をカズオ・イシグロは簡単に吹き飛ばし、着実な筆力で長編小説を書き上げる。これは素晴らしい能力だと思う。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.59
(5pt)

ユーモア

イギリス人でもユーモアに悩む人もいると知れてホッとしました。ジョークの一つも言えないクソ真面目でもいいじゃないか!!っと思う反面、真剣にユーモアについて取り組んでコケる主人公に親しみを感じ、尊敬しました。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.58
(5pt)

イギリスらしさ

イギリスでブッカー賞を受賞したこの本、じつはイギリス人の友達に進められて読みました。

きっと、イギリスではもう見れない景色なのかも知れません。でも、だからこそイギリスの人が
「読んで欲しい、お勧めの本」
にあげる1冊なのだと思います。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.57
(5pt)

嘘つき執事の崇高な回想

老執事の回想? 芸術性は高くても退屈そう、という事前予想は完全に裏切られました。

面白い。退屈なページなど全くありませんでした。その面白さがどこから来るのかを考えると、
・執事の世界が想像を絶するものであった。
・一人称の語りがいわゆる「信頼できない語り手」で、ウソが微かに見え隠れするあたりがスリリングであった。

波瀾万丈のストーリーも、暴力も、セックスもなくても、こんなにわくわくと面白い純文学が成り立つのだというのは、幸福な驚きでした。

日本語訳も素晴らしい。英国執事が日本語以外の言語を使っているとは信じられなくなります。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.56
(5pt)

悔恨と感傷と

映画を見てからこの本を購読しました。
思ったより映画が原作に忠実に作られているように感じましたが、やはり「1人称による視点のずれ」の効果など、映画では表しにくい部分もありますし、主人公の長いモノローグなどは、テーマを掘り下げるのに重要な部分なので、時間的・場面的制約のある映画より、小説の方が理解しやすかったように思います。

…いくつかあった人生の重大な転機において、ある意味極めて皮相な「品格」や「忠誠」に固執したがために、それと気づかぬうちに、ことごとく(より倫理的、人間的生き方への)軌道修正のチャンスを失っていった主人公が、イングランド西部への旅の途上、過去の記憶を反芻し、また、いくつかのハプニングに見舞われるうちに、徐々にその虚飾があらわになり、旧知の元女中頭との再会を経て、遂に真実と向き合わざるを得なくなってしまい、後悔と絶望の念に駆られる…。

何も大きな事件は起こりませんし、抑制的な筆致でひたすら淡々と回想が進むのですが、読後の深い味わいは格別です。
そして、ある意味悲劇の主人公を見守るイシグロの視線には、暖かなものがあるように感じます。
老境に差し掛かった、決して幸せとは言えないであろう執事の人生を、否定している訳ではありません。もちろん全面的に肯定しているわけでもありません。

取り返しのつかない事柄への後悔と感傷、それも人生の一部であり、それでも生きている限り、前に進むべきだ、進むしかないのだということを感じさせてくれます。

また、様々な価値観や利害が対立、衝突する現代社会において、「品格」や「偉大さ」を他律に求めた生き方の限界というか、悲劇が提示されていますが、他方でその古典的なストイシズムが、大英帝国の凋落と歩を一にして失われつつある古き良き伝統や文化への郷愁と相俟って、独特の哀しさと美しさをこの小説に与えています。

近いうちに原書でもう一度読みたいものだと思いました。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.55
(5pt)

味わい深い本格小説

NHKBSでアンソニー・ホプキンス、エマ・トンプソン主演の映画「日の名残り」を見て原作を読みたくなり、購入。イシグロ氏の作品ははじめて。原作のこまかなディテイルを膨らませて、すばらしい映像に仕上げた脚本、演出も見事だが、原作も英国小説の伝統をしっかり踏まえた王道の作品。日本出自のイシグロ氏がこの作品で多くの賞を得たのもうなずける。他の作品も読んで見たい。余談だが芥川賞作品など、最近の作品は読むに耐えない薄っぺらなものが多い。小説を書くものはやはり本格小説を嫌というほど読んで蓄積した上で書いて欲しい。以上
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.54
(5pt)

静かに心を揺さぶる作品

ヨーロッパ近代史の知識をほぼ持たず、カタカナ人名になじみのない自分がこの物語を楽しめるのだろうか?と不安を抱えて読み始めました。しかし、主人公スティーブンスの滑稽なほどの生真面目さにどんどんと引き込まれていきます。
長い執事生活で初めての長期休暇。初めてのドライブ旅行で触れる風景や庶民の暮らし。道中、回想から徐々に明らかにされていく主人公の人生。旅の目的地で元同僚と会い、主人公は重い事実を受け入れます。
「過ぎ去った時」へのはるかな哀惜が全体を覆い、華やかな場面もにぎやかな場面も常に切なさが感じられます。現在から過去のあちこちへ描写が飛ぶのにまったく違和感なく読め、印象的な思い出の積み重ねで全体が紡がれる構成は素晴らしい。こんなに上質な小説と出会えたことを感謝します。
私にはとても悲しい結末に思えたのですが、前向きと捉える解釈もあり、人生のどの地点で読むかで感想が変わりそうです。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.53
(5pt)

文章、感動の質が高い

何気なく、しかし鋭い、でも間接的で、暗示的な心理描写と
徐々に骨格づけられていく主人公の 人となり、性格やその方向性、時には偏り…
(この偏りがキーだと思います。記憶のフィルターがかかってますし。記憶というのもポイントでしょう。最後には悲しい感じで着地するのですが。)

大事件が起こるわけでないのに、旅での出来事と回顧録が入り乱れながら進む内容にどんどん引き込まれます。
淡々とした出来事の中にしっかりと印象付けられた心の動きや(偏っている可能性があるにしろ)主人公の洞察が深く、
文章を扱うのにもこんなに質の違いが出るのか、と感嘆しました。

私は、スティーブンスが父親を亡くした時、つまり世紀の重要会議の途中、それまで険悪なやり取りが多かったミス・ケントンとの間で交わされた会話、
スティーブンスがミス・ケントンに2度ほど述べたことに対して、ミス・ケントンが答えた全く同じ返事、
そこに慕情のような直接的ではない美しいものを感じました。

話の骨格自体ですが、作者が日本ルーツをお持ちだからか、日英が島国同志で気質やその他政治に関するスタンスがが似ているからなのか、
執事という日本ではいまいち理解が及ばなさそうな職業人の話なのに、ザ・異国という印象がありませんでした。忠誠心、誇り、騎士道、武士道、共通項があるのでしょう。

あと、こんなに素晴らしく心を打ちながらもところどころに作品の流れを変えない上品な面白味、クスっとできる場面が沢山ありました。
生命の神秘やジョークの練習、面白かったです。ディケンズが好きなのでこういう英国らしいウィットとかユーモアが大好きです。
男女の掛け合いと心理描写というか交錯みたいなものは「高慢と偏見」をなぜか思い出しました。すばらしいです。

ハッピーな話でないことはもちろん、老執事の良き想い出の回顧でもないのです。振り返ると自分のやってきたことが無益だったかもしれない、
自分の価値の根幹が揺るぐような想い出です。だからこそフィルターがかかる。
でも美しい悲しさでした。文章の美しさも最高です。邦訳も原文も。
物質的には無の状態から文法を操って文章を作ったことが人の心を揺さぶるなんて、言葉ってすごいな…とか根本的な事にまで感動しました。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037
No.52
(5pt)

秀逸な歴史小説,久しぶりによい小説を読みました。

イシグロ氏の小説を初めて読みましたが,第一次世界大戦を契機に衰退して行く英国の権威と,その象徴である貴族階級の最後の栄光を執事の目から描くという独特の作風に強い印象を受けました。描写も細密で,恐らく,実際の歴史的時代を背景とすることによって,ストーリー展開にリアリティを持たせることに成功しています。
主人公は,職業人として自ら仕える主人の執事としての職務を忠実に果たし,一つの頂点を極める。しかし,過ぎ去った時間を振り返ると,その完璧さ,自らの感情を抑制することによって執事としての完全性を得た犠牲として,美しい女中頭の想いを拒み,男性としては孤独である。
同時に,その職務への忠実さが,結果的かつ間接的にナチスの英国における影響力拡大に加担したという事実を否定出来ないことに気づいてもいる。
時計の針を戻すことの出来ない限りある人生というテーマを提示され,深い感動を覚えた。
日の名残り (ハヤカワepi文庫) Amazon書評・レビュー: 日の名残り (ハヤカワepi文庫)より
4151200037