色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

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色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年の評価:

3.41/5点 レビュー 1,022件。 B ランク

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全562件 501〜520 26/29ページ
No.62
(5pt)

村上春樹の巡礼として

本作のこれまで作品との決定的な相違点は、主人公が職業を得て、その職業が仮のものでなく天職だという点にある。これまでの主人公も職業に就いてないことはなかったが、その職業は便宜的に設定され、ほぼ形骸化していた。主人公は、たとえば予備校講師にしろ、学校の教師にしろ、一応職業に就いてはいたものの、その職業に大して関心を持つことができずにいるし、その所属する組織なり共同体に本質的には所属することができずにいる。村上春樹の物語は、そもそもその所属することへの不可能性、違和感が推進力として作用してきたわけだが、本作の主人公多崎つくるは、駅をつくるという職業を、天職として、それ以外にはあり得ないものとして保有し、また、その職業として必要不可欠な組織上の関係をそれなりに健全に全うしている(全うしようとしている)。

ここでポイントになるのは多崎つくるの「駅をつくる」という職業だが、村上春樹がその職業に暗喩として込めた意味を読み取るとすれば、それは、村上春樹における「小説を書く」という職業を寓意してると読み取るのが、素直な読み方だろう。

「駅」が、目的地へ人を運ぶために必要不可欠だという合目的的存在であること、あるいは建造物としての個性が必要以上に求められない(駅という機能を最優先する必要がある)点、なによりターミナルとして交通を整理する点、駅という存在は、思考において小説の果たす役割をかなり率直に比喩している。

そういう理解で物語を理解しようとすれば、本作は「多崎つくるの巡礼」にまつわる物語でありつつ、ある意味では「村上春樹の巡礼」の物語として読むことも可能だ。

そのことは、主人公多崎つくるが、ある日とても仲のよかった友人達に、一方的に理不尽に関係を切られるというプロットからも読み取れる。村上春樹は「風の詩を聴け」でデビューし「1973年のピンボール」、「羊をめぐる冒険」と完成度の高い3作品を上梓するが、芥川賞の選考ではほとんど箸にも棒にもかからず、その後、彼の代表作となってしまう「ノルウェーの森」では、要約すれば「チープで悲劇的で気取ったリアリズム小説」として、大々的に批判され、決定的に日本の文壇から疎外されてしまう。彼は、文壇に一切関与しようとしなかったが、あるいはそれが一因ともなって、当時の文壇関係者に徹底的批判される。それは、本作において理不尽に一方的に関係を切られる多崎つくるの置かれた心境に、重ねて読むことが難しくない。(このときの心境は、例えば「考える人」2010年夏号のインタビューに詳しい)知っての通り、村上春樹は批評的な側面においては、世界的な評価を得て日本に返り咲いた作家だ。

つまり多崎つくるの物語は、ある時期の村上春樹の物語として読むことができるのだ。

ネタバレを含んでしまうので、これ以上本作とこれまでの作品との相違は明示しないが、本作における多崎つくるの問題との対峙の仕方は、これまでの村上春樹作品が有することのなかった、力強いポジティヴィティを有している。

「神のこども達はみな踊る」は、村上春樹にとってターニングポイントを迎えた作品だったが、そういった視点において、本作はもうひとつのターニングポイントとなる作品ということもできそうだ。

「神の・・・」以降の作品で、彼は「責任」について言及し、社会にコミットすることを問うてきたが、本作では「責任」ではなく「意思」によって社会に関与し、そのために自分を変革することを模索している。変われない自分に諦念しながら「やれやれ」などと社会を呪ったりしてはいない。多崎つくるは、幾人かの友人に支えられて、自らの意思によって、社会にしがみつこうとする。

それは、今までにない突き抜け方だ。

色彩を持たず、仲間はずれになった多崎つくるは、いかにして自分と向き合い、自分を、色彩を取り戻すのか。その、過程には現代人が普遍的に見失いつつある、魂の葛藤が描かれている。
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4163821104
No.61
(5pt)

作中の音楽「巡礼の年」にこめられた作家の意図

村上春樹氏の小説には、デビュー作「風の歌を聴け」以来、作中に音楽が頻繁に登場し、重要な役割を担っています。ビートルズの「ノルウェイの森」はそのままタイトルに使われましたし、前作「1Q84」ではヤナーチェックの「シンフォニエッタ」が天吾と青豆を結びつけるキーファクターでした。村上作品を読む楽しみのひとつは、音楽に造詣の深い村上春樹氏が取り上げる曲にどのような意味を込めたのかを思いめぐらしながら、彼に導かれて音楽を聴くことだと私は考えています。

この新作では、フランツ・リストがかつて訪れた土地の印象を表現したピアノ曲集「巡礼の年」がそのままタイトルに使われています。また、4集あるうちの第1集「第1年スイス」から8曲目「郷愁 Le mal du pays」(作中では「ル・マル・デュ・ペイ」と表記される)が繰り返し出てきて、作品全体の通奏低音の役割を果たしています。

リストは「ル・マル・デュ・ペイ」でふるさとへの望郷の念を表現しています。主人公の多崎つくるに置き換えれば、高校時代の友人との親密な関係への「郷愁」に当たるでしょう。彼が高校時代にあこがれた美少女「シロ」は「ル・マル・デュ・ペイ」をピアノで弾いて何度も彼に聴かせました。彼は一方的に拒絶されて「シロ」に会えなくなってもこの「ル・マル・デュ・ペイ」を弾く彼女の姿をなつかしく思い出すのです。やがて彼は大学の後輩・灰田からこのLPを譲り受けて、繰り返し聴くようになります。多崎は、恋人の勧めにしたがって彼に死を考えさせた出来事の真相を知るために高校時代の友人を訪ねる「巡礼」へと出発します。そして最後のフィンランドへの「巡礼」の旅で「クロ」と再会し、真相の一端を掴むのでした。

村上春樹氏は「巡礼の年」と「ル・マル・デュ・ペイ」をリストの作曲動機にまで遡って考察し、この曲をモチーフに選んだのは明らかです。作家はこの曲からストーリーを着想してのでしょうか、それともストーリーが先にあって曲を選んだのでしょうか、私の疑問です。ピアニストに有名なアラウやブレンデル盤ではなくベルマン盤を選んでいるのには理由があります。前2者の演奏にベートーベンのような剛直さがみられるのに対してベルマン盤にあふれるロマンチズムが女子高生の演奏に通じると共にこの小説の主題にふさわしいからでしょう。この作品の読後感とピアノ曲の印象は共にあたたかく、両者がシンクロしているように感じられました。村上春樹氏は何と思慮深く、センスのいい文学者だろうと、私は感嘆したのでした。
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4163821104
No.60
(5pt)

現実感はそんなに必要なのでしょうか…。

内容の良さは多くのレビューに書いてある通りなので特に書きません。
じゃあ何が書きたいのかと言えば、否定的なレビューに対して感じた部分についてです。

否定的なレビューのほとんどは「リアルさ」=「現実感」に依拠しているように思われます。
《こんなことは起こらない、冷静すぎる、訛りが無い……》
あげれば際限がないのですが、だいたいが「リアリズム」に関するものでした。

しかし私は、それらをひっくるめて、
「小説はすべてがリアリズムであるわけではない」
ということを言いたい。

「本当に世の中で起こったこと」や「起こりそうなことをそのまま書く」ことを求めるのなら、小説は読まなくても良い、あるいは、読まない方が良い、と思います。
もちろん小説には様々なものがあって良いのであって、徹底的にリアリズムを突き通すものがあってもいいでしょう。それは否定しません。
しかしだからと言って、(だからこそ)現実感を欠いた小説が否定される必要もないでしょう。
むしろ、現実をそのまま描くのではなくて、現実を別の角度から、もっと言えば、有り得ないことを想定することによってこそ、現実と言うものを、今までにない、もっと現実的な見方で捉えなおすことが出来る場合だってあるのではないでしょうか。非常に簡単な例ですが、顕微鏡と言う装置を使うことによって、我々は自分たちが捉えきれる限界を超えて、そこに有るものを知覚しえるわけです。

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ここからは完全に私見ですが、この小説を否定しきれる人は「現実にべったり適応でき、タフに生きていける人」なのでは。(アカやアオにそれを感じました。シロやクロのような陰のある生き方=現実から大きく離れてしまった存在、に比べて華やかな色合いをしているのも、そのような意味合いがあるのかもしれません)それは悪くない生き方だし、むしろ良いともいえる。レクサスを売ることも大切だし、セミナーを必要とする人にその機会を与えるのもいいでしょう。

しかし、世の中にはそうじゃない人だっていると言うことを考える必要もあるでしょう。それこそがシロ=ユズであり、つくるでもあるのかと。

では彼らはどうやって生きていくのか。現実に生きる場所を見いだせない彼らはどうするのか。様々な生き方が(或いは死に方が)あるのでしょうが、僕なら村上春樹のような稀有な作家の小説を読んで、そこに生きる場所を見出して生きていくと思う。現実では生きていけないのだから、フィクションで生きていくしかないんです。

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現実感のなさを引き合いに否定する人には、小説とはそもそも現実感を求めるだけに存在しないということ、そして現実世界で生きていくことの出来ない人、のことをもう少し考えてほしいと思いました。
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No.59
(5pt)

久しぶりの求めていた村上さんらしい作品

久しぶりに、時間を惜しんで小説を読むという体験を持つことができました。ここ数年の村上氏の作品は私にとっては冗長的すぎて正直余楽しめませんでしたが、今回の新作は一気に読んでしまえる長さとテンポの良さでとても楽しめ「中国行きのスローボート」や「レキシントンの幽霊」をよ読んだ時と同じ感じを持ちました。
 「IQ84」「ねじまき鳥」の時には味わえなかった読了後の自分が別の場所にいるような村上氏独特の感覚もありとても懐かしい感じがする作品でした。
 今までの主人公の一人称「ぼく」が「おれ」に変わっていること、すべての事象について中途半端なエンディングであることなどいろいろ違和感はありますが、それでも30年近くの村上氏のファンの私にとっては久しぶりの春樹節でうれしかったです。
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No.58
(4pt)

近年の作品の中では一番好き

近年の作品の中では一番好きでした。
村上さんの作品にしては珍しく、固有名詞がたくさん出て来て、現実感のある登場人物たちが新鮮。
自分に馴染みのある、名古屋と東京の舞台で、空気感がよく分かったのか余計面白かったのかもしれません。
方言が無くて不自然とのレビューもありましたが、実際コテコテの名古屋弁はあまり聞かないし、そもそもこのお話では不必要だと思いました。
ただ、いつも適度にワークアウトしてこざっぱりしている主人公像に少々飽き飽きしているので、☆ー1です…(まぁ、小気味良くはありますが。)
この時代に生きて、村上さんの“新作”を読めるのは幸せなことだなぁと思います。
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No.57
(5pt)

けっこう好きかも

深く結びついていた4人の仲間から、大学2年の夏に突如、
絶縁された、多崎つくる。
その理由を16年後の「巡礼」によって知るという
村上春樹にしては、分かりやすく、読みやすい物語。

 毎日死を考えるほど絶望する出来事はあまりないかもしれないけれど
誰にでも向き合うべき過去はあり、それを記憶の底に沈めることはできても、
なかったことには出来ない、というのは、そうかなと思った。

 つくるの佇まい、つくると沙羅、つくるとエリの会話は、
いかにも村上春樹的で、心地よい。
 やはり、いいですね。堪能しました。
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No.56
(5pt)

世界が求めるもの…

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」を読み終わりました。村上さんの作品にはいつも、見たくない自分の暗部、しかし見なければならない、もしくは見たほうがいい暗部を見せつけられる。できれば、眼を背けておきたい気もするけど、しかし、そこを直視すると何か「勇気」というか、自分の中の自分で気が付いていなかった「強さ」というようなものに気がついたりする。それはやはり「希望」なんだろうか?でも、村上さんは「過剰に期待した希望」についての「大いなる絶望」にまで思いを巡らせて、読者を包んでくれる。
そう、べったりとまとわりつくわけではない、本当の「優しさ」が全世界を巻き込んで人々に「危うさとだからこその安定」を感じさせてくれるのだろう。そこに世界中の人々は救いを求めているのかもしれない。
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No.55
(4pt)

村上ワールドの中では王道の類い?

まず冒頭でこの不思議なタイトルの意味が判明し、そこからはこの物語に於いて主人公が終始負い目として感じ続ける自分自身の存在意義の希薄さ、そして自ら望んだものでは無いにせよそれを探しに行くという、作者得意の「喪失とその奪還」の物語です。

とてもフィットした五人の少年少女達は絶妙なバランスで五角形を保っていたが、その一角=主人公はそこから強制的に排斥される。それは主人公に意向常に死を考えさせる程深い傷を与える事になり、そこから物語は始まります。

人は誰でも一度は「夜の冷たい海を一人で泳ぎ切らなければならない時」が来る。
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No.54
(5pt)

スケールが大きく進化したノルウェイの森みたい

ノルウェイの森に似ている。
ある意味で。
直子と緑。
でも、今回緑が弱く、どうも魅力的な女性に思えなかった。
風景描写は圧巻。とくにフィンランドと新宿駅。
題名通りのノスタルジア。
美しく甘い、そしてやはり孤独で静かな小説でした。
つまらないところがいっさいない、
圧倒的な比喩、
安心して読み進めることができます。
彼がどんなに否定しようと、天才ですね。
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No.53
(5pt)

面白かったです。

今までの村上春樹さんの作品と少し違う感じでしたが、村上春樹初心者でも読みやすかったと思います。
ひとつひとつの言葉が厳選されていて、心地よく感じました。
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No.52
(5pt)

公立高校卒業生小説

村上春樹には、高校生活の思い出を主題にした小説がいくつかある。

「めくらやなぎと眠る女」
「1963/1982のイパネマ娘」
「我らの時代のフォークロア 高度資本主義前史」

などである。これらはいずれも短編だが、今回初めて長編小説として高校時代に焦点をあてたものが本書である。

公立の進学校には、この小説に描かれたような質の経験が確かにある(誰にでもではないけれど)。小説の描く細部から
自分自身の物語をなにがしか聞き取ることが、本書の最大の楽しみです。大変興味深く、ハルキワールドを味わいました。

次のエッセイの一節を敷衍した小説といえるでしょう。

・でも10代後半くらいの少年少女の恋愛には、ほどよく風が抜けている感じがある。深い事情がわかっていないから、
実際面ではどたばたすることもあるけれど、そのぶんものごとは新鮮で感動に満ちている。もちろんそういう日々は
あっという間に過ぎ去り,気がついたときにはもう永遠に失われてしまっているということになるわけだけど、でも
記憶だけは新鮮に留まって、それが僕らの残りの(痛々しいことの多い)人生をけっこう有効に温めてくれる。
(『村上ラヂオ』所収「恋している人のように」)

以下は、ちょっと引っかかったこと。どなたか「正解」を知っていたらご教授下さい。

・主人公の卒業したのは、東工大とおぼしいが、なぜそう書かれていないのか。名古屋大学は実名で出てくるのに、
アンバランス。

・267頁「ダイハード12」って、誤植なのでしょうか。

同時代の作家の新作を発売すぐに読むことの小さな幸せを確かに感じました。
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No.51
(5pt)

ハルキストからお願いを申し上げます!

さっきこの作品を読破させて頂きました・・・。
今、その余韻に酔い浸りながら泣きながらレビュー書いております。
あぁ、何故春樹氏の作品はここまで素晴らしいのだろうか。
小生の欲求と不安な部分をここまで潤してくれる作品はなかなかないです。
現代で比喩が秀逸で綺麗で美しく読みやすい文章を書ける著者はこの人以外いないでしょう。

ただハルキスト代表として愚痴を少しだけ溢させて頂きます。
マスコミは春樹氏の作品をゴリ推しするのをやめていただきたい。
春樹氏の作品はあくまでも『純文学』なのだ。そんな大衆向けのエンタメ作品ではないのだ。
なので早急にやめてもらいたいです。

あとこの作品は高尚な純文学小説なので、
流行ってるからこの作品を手に取ろうとする主体性の無い人や感受性が乏しい人は読まないで頂きたい。

宜しくお願いします。
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No.50
(4pt)

歴史修正主義者へ

多崎つくるは沙羅の言葉を巡礼の先々で繰り返す。
「記憶を隠すことはできても、歴史を変えることはできない」(p193)

歴史修正主義者に対する批判と受けとめた。
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No.49
(4pt)

一夜の夢のような物語

この小説、いやどのような作家のどのような作品にも、本来評価などというものは当てはまらない。ましてや村上春樹さんを評価するなど、僭越なことです。
半日を費やして、一気に読ませていただきました。登場人物は多くなく、それぞれがそれぞれの役割を担うべく発言をしますが、結局は主人公の心の葛藤がテーマ。
高校時代から大学二年に至るまでの友好的な友人関係の崩壊に端を発し、30歳半ばにしてその理由を確かめる旅に名古屋へフィンランドへと旅をするのだが、そこには単なる事実だけが存在し、それを受け入れ自分の人生を再考するきっかけにしかならない。

様々な人生での出来事を一夜の夢の物語として捉え、目覚めてしまえばまた新しい一日を過ごすしかない。
そんな繰り返しを、村上春樹さん流の巧みな文章で綴られた物語。
飽きもせず、眠くもならず、360ページを一気に読ませられる小説を書ける数少ない存在の作家、村上春樹さん。

楽しませていただきました。
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No.48
(4pt)

心ひかれる表現、心地よい文体

相変わらずの心地よい文体、メタファーの洪水…。
直近の村上春樹にしては平易な長編…むしろ短編群に近い空気感。
自分の年齢もあるのか、「羊をめぐる…」や「世界の終り…」の時のような衝撃ときらめき感は弱かったが…。
シロとクロの転化を想定させる灰田くんや(光の三原色?)絡みでアカ・アオに呼応する緑川さんが消えていく挿話も村上春樹らしい心地よい仕込みだと感じました。
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No.47
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どんな言語で説明するのも難しすぎるという物事が私たちの人生にはある

多崎つくるは,20歳のときほとんど死ぬことだけを考えて生きていた。
 名古屋での高校生の時から親密に交際していた4人の友だちから,ある日,もうお前とは顔を合わせたくないし,口をききたくもないと告げられたのだ。妥協の余地なく唐突に。そしてその理由はなにひとつ説明してもらえなかった。
 「乱れなく調和する共同体」みたいなものを維持しようとしていた高校時代の5人。
 それなのになぜ・・。あまりの出来事に何もかもがどうでもよくなってしまったつくるは,半年で体重が7キロ落ち,顔つきも一変し世界を見る目も変わってしまった。
 それから16年。
 多崎つくるは36歳。
 突然夜の海に突き落とされたような状態からなんとか一人で泳ぎ切れたつくるは,東京で駅をつくる仕事をしている。
 20歳の時の経験が原因か,人と深いところで関われない,他人との間に常に一定のスペースを置くような傾向を持つようになっている。
 そして,現在,木元沙羅という二つ年上の女性とつきあい始めた。
 沙羅はつくるの高校時代の話に興味を持ち,つくるが抱えている心の問題を解決するには名古屋に行って,突然関係を打ち切られた原因を確認する必要があり,そうしない限り二人の関係は前に進まないと言われる。
 こうして多崎つくるが高校時代の友人たちを訪ね,16年前の原因を確認する過程がえがかれる。

 ただ,本書では,時系列的に原因究明の旅をえがくだけでなく,同時に,つくるが大学時代,なんとか死ぬことを乗り越えた直後に出会った二学年年下のある男(灰谷)との関係が描かれ,この物語が本書全体に村上春樹ならではの不思議な雰囲気を与えている。
 灰谷は,鉄道の駅を作ることに興味を持つ多崎つくるに対し「限定して興味を持てる対象がこの人生でひとつでもみつかれば,それはもう立派な達成じゃないか」と言って,つくるに関心を寄せる。
 そんな灰谷がつくるに話した,灰谷の父の経験談が奇妙だ。
 そして私は「海辺のカフカ」や「スプートニクの恋人」などに含まれる奇妙な物語が大好きだ。
 村上春樹の作品は,すべてなんらかの奇妙な物語が含まれ,それこそが村上春樹の醍醐味だと思います(「ノルウェーの森」だけはリアリズムの手法で書かれたものだと思いますが,それでも何か奇妙な感じも内包しています)。
 本書において,灰谷の物語がなくとも作品は成り立ちそうですが,この灰谷の物語によって,本書を安易に,多崎つくるの喪失から再生への物語だ,とも言えないような雰囲気を醸し出しています。
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No.46
(5pt)

いつも通りの村上春樹でした

名前に色の名前を含む5人の仲良しグループの中で、
ひとり色を持たない多崎つくるが突然グループから決別させられ、
36歳になってその理由を確認するため、友人一人ひとりを巡礼していく。
途中殺人で死んでる友人や、突然出てくるホモ等ミステリアスな展開がありますが、
けっきょく犯人もホモの行方もなにも解決せず、全てがうやむやに終わるところは、
いつも通りの村上春樹作品らしい真骨頂でした。
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No.45
(5pt)

死と再生の物語

生きていても死んでいることもあって、死んでいても生きていることがある、そんな肉体と魂の話という読後感です。

30も後半になれば必ず人生を左右する出会いがあり、別れがあり、恋愛とか狭義ではない魂と魂の深い結びつきであったからこそ、引きちぎられるような別れもある、そういう諦観の中で生きている(生きざるをえない)人には響くプロットです。

何人かがご指摘のとおりおそらくモチーフが国境の南太陽の西に近いですが、モチーフやひとつひとつのエピソードやキャラ設定ではなく、作者の伝えたい心理学的な無意識(あっちとこっち)の世界のつながりを意識すると、メッセージが深く伝わります。

全体の構成が古典「クリスマスキャロル」に近く、オムニバス的に過去の人との出会いを通じて、いまの自分を取り戻すものの、結局相手を考えるがゆえに受身のような選択をする主人公が歯がゆかったです。ただそれも単なるつくるの婚活の物語にしなかったところに、ありきたりの恋愛小説から脱却しようとする作者の狙いなのかなと思いました。

人から深く傷つけられたこと、同時に相手も傷ついたこと、しかしそれは悪意の出来事ではなく偶然であったがゆえに、誰かを悪者にできず、ずっと苦しんできたことがすっと氷解するようでした。このカタルシスこそが村上春樹の求めている小説の作用だとしたら狙い通りですが、喪失感を抱えたまま生きるという、救済のない(もしかしたら作者的には救済かもしれませんが)現代人の生き方そのものの哀しみを同時に得ました。

関係ないですが物語の進行役として、サラさんが妙に自覚的な発言でつくるを導くのですが、こういう自覚的な女性ってそんなにたくさん(パーティで紹介してもらえるほど)いるものなのでしょうか・・・。

なお、青山の骨董通り周辺は村上春樹小説によく登場しますが、ここ通るたびに、「この土地の何があっちとこっちの世界の入り口の象徴として彼を惹きつけるのか」かを考えます。
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No.44
(5pt)

村上さん、エールをありがとう♪

とても温かい、勇気のわく1冊でよかった。

登場した4人の昔の友達の16年後の様子、その一人ひとりが、自分の中にすべてある様な気がして、はっとしました。

車のディーラーで表面的に成功している友達、啓発セミナーのような会社を興して「やる気」を商品にしてる友達、クリエイティブなことを追及している友達、そして、自分の存在を許せなくなっている友達。

こういう要素、全部自分の中にあります。

そして「いいじゃんそれで。」と村上春樹さんに言われているように感じました。

特にディーラーの友達は、ありありと情景が思い浮かび、伝わるメッセージがものすごく明確でした。私の表の顔とかぶる。

主人公が東京にいて、友達が名古屋にいる。

ちょっと時間をかけたら、すぐに会える距離にいる友達。でもほとんど会いにいかない。

これって、日常生活に疲れてなかなか気づかない、自分の内側にいるいろんな性格をした自分に会いにいかないことと、同じに思えました。

震災後、何がなんだかわからないまま過ぎた時間を超えて、春に届いた村上さんからのエールでした。
ありがとう。と言いたいです。
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No.43
(4pt)

書を置き、外へ出よう

気軽に読めて、そして読後、外に出て風景のひとつひとつが、世界が、愛おしいものであることを再確認したくなる小品。リストの「巡礼の年」をかけながら読むと更に良いかも。
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4163821104