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エール



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【この小説が収録されている参考書籍】
エール
エール―愛を闘え、女と男 (徳間文庫)

エールの評価: 1.00/10点 レビュー 1件。 Eランク
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No.1:
(1pt)

壁本決定!

人生における闘いをテーマにした、肉体派作家鈴木氏の精神基盤そのものともいえる作品である。
闘い。それは各々の人生に直面した苦難との闘いである。

まず文字通り、格闘技という世界に身を置き、肉体と肉体がぶつかり合う闘いを生業とすることで己を見出す者、それが主人公の1人、真島一馬だ。
そしてもう1人の主人公、社会的地位のある親元で育ち、その後一流大学を卒業して、一流出版社に入社し、そこの編集者という、絵に描いた順風満帆な人生を歩む梅村靖子。彼女の闘いは後で述べるとしよう。

ノンフィクション作家山極恵子は正に生まれた時からが人生との闘いの始まりだった。出産直後、父親に誘拐され、全国を転々とする暮らしを余儀なくされ、終いには父親は仕事上のトラブルで逆上し、取引先の子供を誘拐したかどで地元ヤクザにリンチに遭い、殺されてしまう。
その後母親の許で成長するが、不倫をして子供を宿し、しかも不倫相手は癌で余命幾許もなく、人生を悲観し、自殺。頼る者もないまま、出産を決意し、仕事と家庭の両立で孤軍奮闘。しかも更に数年後同じ過ちを犯し、不倫の子を産み落としてしまう。更には癌にも侵され、仕事と家庭に加え、闘病生活という三重苦に苛まれるという、書こうと思えばこの人物を主人公にするだけで1冊の長編になるのではないかと思われるほど濃密な闘いの人生だ。

これら三人が物語の主軸となるのだが、実は前述で棚上げした靖子のみが闘いに直面していない。
まず彼女にとっての初めの闘いとなったのは、恵子が癌の再発により、入院生活を強いられる段に至り、担当編集者として恵子の息子の世話をする、具体的には高校のお弁当を作ることになったことがそれに当るだろう。
キャリアウーマンである恵子は息子らを溺愛するあまり、子供に家庭の手伝いをさせず、何でも自分でやってしまい、その結果、挨拶といった基本的な礼儀すらも出来ない息子に育ててしまう。靖子はその息子、亮をどうにか自立させようと、お弁当を作りにいくのではなく、自分で作らせる習慣を付けさせようと奮闘する。結果的にはそれは思ったよりも早い段階で成就する。それは亮が真島一馬の熱烈なファンである事を察し、彼の連載記事を担当することでその後、何度となく個人的にも付き合うことになった靖子はそれを糸口に、亮が尊敬する一馬というカリスマを利用して、亮に物事の動機付けを植え付ける。

読んだ時はちょっと安直な流れだなぁとは思ったが、これはこれでまあ、いいだろう。というよりも、子供との会話がない、子供とどう接したらいいか悩んでいる親御さん達には1つのモデルとして参考になる事例でもある。
しかし、その後の靖子はいただけない。

夫と疎遠になり、もはや何の魅力も感じなくなった理由として、夫が彼の人生において常に勝負を避けて言い訳することで逃れてきたことを挙げる。しかし私にしてみれば一流広告会社のエリートサラリーマンとして、高給を取る彼は、社会的にはむしろそれだけの地位を獲得してきたように思えるのだが。靖子はその夫にそういう危難を乗越え、打ち克ってきたことがないから、経験に裏打ちされた言葉というのを持っていない、それが欠点であると指摘する。
しかし、その反面、靖子は離婚を決意しても、夫と直接話し合い、説得することなく、スペインへの出張に旅立つ際、自分の名前を署名し、捺印した離婚届をテーブルに置くだけで、夫が自分の欄を埋めることを期待するのである。
闘いをテーマにしている小説なのに、主人公が闘いを避けていることが、読書中、どうにも腑に落ちなかった。

しかし次第に読み進めると靖子は自分に足りない闘いに向かう覚悟を一馬から得ようとしているのが解る。あまりに他力本願なのだが、まあそれはよしとしよう。
しかし、一度一馬は難敵であるブラジルの柔術家に打ち克っているのだ。そして靖子はそれを聞いて力を得ているのだけれど、結局何も変えようとしない。
終いにはあの結末。
あれを読んだとき、何じゃこりゃ?と思った。
働く女性の立場、格闘家という闘争に身を置く者の話を8年もの歳月を語り、築き上げてきた物語をフイにする結末である。
一瞬壁に打ちつけようかとも思った。

鈴木光司はやはり作家として終わったのだろうか?


▼以下、ネタバレ感想

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