失墜の王国
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ノルウェーをというより北欧、現代ノワール・ミステリーを代表するネスボの新シリーズ第1作。ノルウェーの山中の寒村に一人で暮らす兄のもとに、15年前にアメリカに渡った弟が美しい妻と豪華リゾートホテルの建設計画を持って帰郷したことから始まる、兄と弟の壮大な愛憎物語である。 | ||||
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※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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最後にジョー・ネスボを読んだのは、「レパード 闇にひそむ獣」(2019/9月)。印象に残っていないのは私の責任です(笑)。とは言え、「真夜中の太陽」(2018/8月)のことは良く覚えています。「目をつぶると、トナカイと遠く聞こえる教会の鐘の音が血にまみれた、でも揺るぎない、本当の愛を運んできます」と書いています。<愛>という使ってはいけないワードを使っていました。何とも恥ずかしい。 ノルウェー・ノワール。深い谷に阻まれた村、オスが舞台。 「王国」と呼ばれる農場で暮らすロイ・オプガルとカールの兄弟。父親の絶対的な支配の下で暮らしていた二人でしたが、両親が乗った車が崖から落下し、二人だけで暮らすことを余儀なくされます。カールは性的暴行を受けているのか?というミステリがあって、両親の車の事故は本当に事故だったのか?保安官のシグムンはそのことを確かめるために谷底をのぞこうとした瞬間、岩が崩落し彼も亡くなってしまいます。 十数年後、ロイは一人村に残り、ガソリンスタンドを経営していますが、アメリカに渡ったカールが突然戻ってきます。彼は農場の土地にリゾートホテルを建設する計画を携え、妻のシャノンを連れて帰還しました。その建設計画が着工されるや、村の新しい保安官、亡くなったシグムンの息子でもあるクルトが自分の父親の事件を再調査し始めます。物語はどう変遷し、いかなる結末を迎えるのか?ストーリー・テリングが肝ですから、あとはじっくりとお読みください。 まず、物語はロイの一人称で記述されています。そのため、その複雑なキャラクターの心の動きが丁寧に書き込まれています。また、ノワールでありながら幾つかの「恋」が描写されていて、それらが小刻みに暴発しながらストーリーを揺らし続けます。そのうねりの面白さ。篇中ドライサーの「アメリカの悲劇」が言及されています。そのことが私には鏡のように作用しています。 「真夜中の太陽」との共通項は、超法規的措置を超えた場所で語られる無条件の<愛>についてということになるかもしれません。共に戦いながら育った二人の兄弟の行く末が何ものにも変え難い<血>のつながりという強さを、或いは弱さを伝えようとしています。そのジョー・ネスボらしさが狂おしいまでの<愛>の物語を構築しています。(また、使ってはいけないワードを使ってしまいましたが・・・) カールの妻、シャノンも<ファム・ファタール>としての魅力を存分に振りまいています。いくつもの禁断の道行を推進するのは、常に女性たちであり(言い切ってはいけなかったか(笑))、どう寄り添うかもまた「真夜中の太陽」同様、男としての覚悟に由来しています。繰り返しになりますが、尽きるところ、<愛>と<血>は超法規的措置を超えた場所にあることを認識させてくれます。心理学的には<依存>と<共依存>の物語ととらえることもできますが、<罪>はまるで不治でありながら進行性の病のように作用します。 読了後、様々な思いが去来しました。とても良い物語だったと思います。 □「失墜の王国 “The Kingdom”」(ジョー・ネスボ 早川書房) 2024/12/16。 | ||||
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