やはり雨は嘘をつかない こうもり先輩と雨女
- 心霊写真 (12)
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雨女と雨大好き男子を主人公とした物語だ。「五色の雨の降る朝に」「七夕に乞う酒涙雨」「雨夜の月にさよならを」の3話+αから構成されている。 全体としては、ミステリ風味。殺人や窃盗といった事件が起きるというのではなく、主人公の名前がどうして付けられたのかとか、傘の意外な利用法とか、ほのぼのとしたものだ。 雨についての蘊蓄ももりこまれ、興味深い一冊となっている。 | ||||
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皆藤黒助氏の作品を読ませて頂くのは初めてなのだけど、 元々は集英社のスーパー―文庫でデビューされたライトノベル出身の方らしい。 タイトルが雨尽くしで「こうもり先輩」なる謎のフックにも惹かれて拝読する事に。 物語は6月28日、雨の特異日と呼ばれる日に生を受けた空木五雨(いさめ)が十六歳の誕生日を迎えた所から始まる。 名前に雨の名を持つ五雨だったが、筋金入りの雨女であり運動会も遠足も遊園地も ことごとく雨に祟られてきた事もあって大の雨嫌いの少女になっていた。 通学の途上で誕生日まで雨が降る事を友人の三子に揶揄われ、ムッとする五雨だったが、 ふと思い出した様に三子にある写真を見るよう頼みこむ。 全体的に白い靄の様なものがかかって、薄らと確認できる光の中心に黒い人影の様な物が写るポラロイド撮影された写真。 ラミネート加工され、裏に「五色の雨が降る朝に」という謎めいた言葉と6月28日午前4時28分という五雨が16年前に 生まれたのとほぼ同時刻を記した文字が書き込まれたそれは、一日前に外出先で倒れ意識が戻らない五雨の祖父が 病院に搬入される際にも決して手放そうとしなかった手帳の中から見つかったものだった。 幼い頃は自分をからかった男子に怯える事無く突っかかっていく事から「勇ましい五雨ちゃん」と呼ばれていた自分の名前を どういうつもりで付けたのか尋ねた五雨に「お前が生まれた朝に五色の雨が降っていたからだ」とだけしか答えてくれなかった 寡黙で武骨な祖父が手放そうとしなかった写真には何が映っていたのか、祖父の見た「五色の雨」とは何だったのか、 この読みにくい名前にはどんな想いを込めたのか、その真相を是非とも知りたくなった五雨は視聴覚教室へと足を向ける。 視聴覚教室が施錠されていた事から尋ね人はどこへと思案する五雨が窓の外に目を向けると中庭に奇妙な人影を見付ける。 六月下旬に全身を学ランと黒いこうもり傘、黒い皮手袋と黒髪で包み、それと対照的な白い肌と端正な顔が特徴的な少年、 雨の中でジーン・ケリーの様に軽やかなステップを踏む雨の日にしか投稿してこない奇人・雨月先輩。 彼こそ五雨の探し求めていた人物だった。 「五雨の雨」とは何か、という事を雨の事なら知らない事は無いと豪語する雨月に尋ねる五雨だったが、 視聴覚教室にマスクとミネラルウォーター、散布式の殺虫剤を用いて雨月が明かした写真の秘密は実に意外な物であった。 明かされた謎の正体に唖然とする五雨だったが、殺虫剤をバラまいたお陰で火災報知器が発報。 雨月にどうするんですかと尋ねた五雨だったが、気が付けば雨月の姿は消えており、一人こってりと教師から絞られる事に。 報知機を誤作動させたのは自分じゃなく雨月先輩だと弁解する五雨だったが、教師から返ってきたのは 「この学校のどこにも雨月などという名前の生徒はいない」という意外な物だった… うはー、これは凄い!頭からケツまで「雨ネタ」が詰め込まれている。 一つのネタで勝負する作品は時々見るけど、270ページ全編に渡って「雨・雨・雨」のオンパレードである。 ここまでやられては「参りました!」と白旗を上げざるを得ない。 物語の方は短編三本からなる連作短編形式となっているが、本当に雨尽くし。 6月28日という雨の特異日に生を受け、名前に雨の字が付いた筋金入りの雨女・五雨と 雨の日にしか登校しない真夏でも学ラン姿(なんだか「究極超人あ~る」みたいだが)の雨オタク・雨月先輩が 第一話の五雨の名前に込められた祖父の想いと、謎めいた一枚の写真の謎に挑む話から始まり、 公園の東屋の中で蛇の目傘を差す奇妙な女性の正体と、 小学校の校庭でドライアイス式のペットボトルロケットを打ち上げる少年が父親から授かった 「七夕の夜に星が降れば」というメッセージに隠された秘密の意味を解き明かす第二話。 五雨の脚に残った傷跡と封印された雨の日の記憶と過去、学校に籍が無い謎の少年・雨月自身の正体に迫る第三話。 …本当に雨ネタ一本勝負のミステリ仕立てな短編集である。 第一話から出るわ出るわ、雨月先輩の語る雨ネタトークの濃い事! 「糸雨」「虎が雨」「白雨」「白撞雨」「青葉雨」「紅雨」そして「空知らぬ雨」 第一話だけでこれだけの「雨」について語られるのだから驚きである。 正直、小生の様な無知な輩にはどれをとっても初耳なのだが、単なる蘊蓄というか衒学趣味に陥らず 第一話のキーとなる「五色の雨」の正体を明かす為に話の展開上活用している辺りが素晴らしい。 中には「それを『雨』と解釈するとかありなのか?」と思う物も含まれているのだけど、 読み終わってみると「なるほど」と頷かされるほどにしっかりと練り込まれ、無理が感じられない。 この手の情報量というか知識量勝負みたいな作品だと、人物造形は大したことが無い物も多いのだが、 本作は登場人物のキャラ立てもしっかりとしているのでその点に於いても抜かりはない。 頭脳よりもまず行動、というか先に手が出る「勇ましい五雨ちゃん」ことイノシシ娘のヒロイン・五雨、 誰よりも雨を愛し、雨に関する知識の塊であり、それでいて逃げ足はやたらと早い変人・雨月、 主役二人だけでも個性バリバリなのだけど、脇役も高校デビューでギャルになった元おかっぱ娘の三子や やたらと惚れやすく、東屋の下で出会った謎の美女に一目惚れした五雨と三子の幼馴染・振谷。 頑固だが、誰よりも孫想いの五雨の祖父、それぞれに活き活きと動いており話を盛り上げる存在となっている。 一応この巻のクライマックスは五雨の過去と雨月の正体が明かされる第三話となっているのだけど、 第一話、第二話でちょこちょこと挿入されていたネタを全回収しているのはお見事。 大きなところでは学校に籍の無い雨月自身の素性であったり、五雨の苦手な物、幼馴染の間ではばっちり記憶に残っているのに 五雨自身はさっぱり覚えていない「幼い頃のとある記憶」であったりと、出された時には「何じゃそら」となった小ネタが きっちりと回収されている。 中には五雨の苦手な物の正体みたいに「うーん、ちょっと強引かな?」というネタもあるので読む人によってはその辺りが 気になってしまうかもしれない。 加えて五雨自身がかなり感情の振れ幅が大きいヒロインなので、この辺りが読む人によって「うーん?」となるかも。 特に終盤の自分の過去と向き合ってからの五雨はかなりの荒れ方なので、それまでのコメディリリーフ的振る舞いとの ギャップが大きく感じられるかもしれない。 ともあれ、ここまで「雨ネタ」一本で勝負し、しかも話の中にそのネタをしっかりと展開上不自然さが感じられないぐらいに 練り込んで、個性豊かなキャラクターを動かして話を構築した作者の手腕は認めざるを得ない。 衒学趣味に陥らず、さりとて単なる種明かし小説みたいな下手なミステリに陥らないよう登場人物も掘り下げてある。 さすがにこれ以上は雨ネタ一本で勝負するのは厳しいかと思うので単巻完結であろうが、まず佳作と言って良い一冊だった。 | ||||
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