(短編集)
希望
- 哲学 (25)
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表題作『希望』はオールタイム・ベスト級の中編。恐ろしいまでの完成度。 SF、サイエンス・フィクションは空想科学小説と翻訳され、またスペキュレイティブ・フィクション(思弁小説)であり、わが国においては、すこし・不思議な物語として受容されています。 著者のSFに対する考え方を、『3.11の未来』に収録された「SFの無責任さについて」と題されたエッセイから引きます。 「思いやりのSF」とは、たんに共感し同情するだけの物語から踏み出し、私たち人間が人間らしい心の能力を存分に発揮することで初めて享受できる、本当に大人のエンターテインメントであるということができる。 この物語は一見美しく、そしてとても難解です。私自身、はっきりエンパシイ(感情移入)出来ているかどうか自信がありませんが、心が動いたことだけは確かです。 希望、を語るインタビュー。語り手は言美という少女。 彼女の養父は重力感というパラメータによってコミュニケーションを計測し、ついにその定性・定量化をはたした医工学者。また、素粒子物理学を極め、世界が決してエレガントではないことを証明した美貌の養母。 少女は父の研究の被験者で、ふたりに軟禁されていた。長期間にわたって。少女は祈った。神に。 インタビュアーの男の前で、彼女は人生を語った。淡々と。そして、彼の眼前で結末をつけた。 エンパシイは,シンパシイ(共感・同情)の立場からすれば、無責任にみえることもある、とさきのエッセイで著者はいいます。もう一つ、引用します。 「他人を思いやるあたたかい心を……」 私たちの神様は、見事な贈り物(ギフト)を私たちに育ててくださった。 | ||||
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どの短編も、物語を綴る文章は瑞々しく美しい。 当たり外れはあるが、概して面白く読める短編が集められており、読書の喜びを味わえる。 物語が唐突に終わりを迎えるまでは。 多くの物語に、致命的にオチがない。 いずれも読み終えて最初に感じるのは、強い唐突感と困惑感。 え? そこで終わりですか? で結局なんだったの? もしかして重要な箇所を読み飛ばした? それとも自分の読解力不足でオチがないように感じてるだけ? ちょっと待ってよ? 慌ててページを戻り、もう一度注意深く読み返すが、やはりどう考えてもオチがない。 オチがない物語は必ずしも嫌いじゃない。しかし、本書におけるオチの欠落には、 強い肩透かししか感じない。もしも、オチに至るヒントが行間に隠されているのだとすれば、 残念ながら私の読解力では解読不能。 あとがきでSF評論家の先生が「瀬名秀明は日本SF小説界の至宝」的な論評を語られておられるので、 私の趣向もしくは感覚がズレているのかもしれないが、 ↑という具合に物語が終わっている感覚と言えば伝わるだろうか。 | ||||
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収録作は順に「魔法」「静かな恋の物語」「ロボ」「For a breath I tarry」「鶫とひばり(ひばりは旧字体漢字)」「光の栞」「希望」。 冒頭二篇「魔法」「静かな恋の物語」と読んでみた時点で「これは凄い」と思わされた。 そして「この人って、こんなに優れた(短編)SF作家だったっけ……?」と驚かされてしまった。 過去の幾つかの瀬名秀明の長編作品(デビュー作『パラサイト・イヴ』については後述するとして)例えば『BRAIN VALLEY』『八月の博物館』『デカルトの密室』等については科学とロマンチズム・叙情とエンターテイメントとしての配慮(?)が何やら混線して、特に後半「これは酷い」と思えもしていた。 しかし、かつての瀬名作品に対して僕の中に根強く合ったそうした反発なり残念は「魔法」「静かな恋の物語」の中にはまるで見出せなかった。 いや。確かに初出で読んでいた収録短篇「ロボ」「For a breath I tarry」「鶫とひばり」、そして何より表題作にもなった「希望」は大傑作だった。 ならば、僕の驚きは着実にその歩みを追って来た瀬名ファンからすれば「なにを今更」というものだったのだと思う。 この場を借りて、一読者として瀬名秀明さんとそのファンに失礼をお詫びしたい。 その上で以下、各小説についての感想。 「魔法」は充実した科学知識の積み上げと、時に批判もされてきた著者の色濃いロマンチズムが美しく結びついた傑作。 また、恋人たちが交わすあるカードを示す符号から「これがジャンルとして本○○○○○作品でもある」こともさりげなく示され、その面からみても素晴らしい短篇。 「静かな恋の物語」も同じく「科学+ロマンチズム」という一篇。 「魔法」があるジャンルにも属する作品だったのに対して、こちらは「○史○○○Fでもあること」に仕掛けと妙味があると思う。 この作品が「For a breath I taryy」と同じ本に収録されていることも、興味深くも美しいことと思える。 「ロボ」。この一篇への感想は複雑だ。 巻末の風野春樹さんの解説にもある「瀬名秀明とSFの間には、ちょっとした因縁がある」という話、特に『パラサイト・イヴ』に対する自分の反応を振り返らざるをえないから。 「「アーネスト・シートンも、一時期は擬人化が過ぎていると学者たちから厳しい批判を浴びたのでしたね」 彼は無言だった。言葉をつないだ。 「学者だけじゃない、狩猟仲間だった当時の大統領からも手厳しい批判を受けて、シートンは社会的な名声を、自然史家としての信用を急速に失い、ほとんど作家生命を絶たれたと評伝で読んだことがあります。彼は社会から離れてこつこつと地味な博物誌を書き続け、後年になってようやくその仕事は評価されたそうです」」(p131-132) このくだりからは『パラサイト・イヴ』への負の反響が連想されてしまってならない。 『パラサイト・イヴ』を読んだ当時僕は「一人だけで本を読み、特にSFと意識せずSF小説も時折手にする読者」であったのだけれど。 あの「擬人化」と、当時あの本が「ちゃんとした研究者がちゃんとした学問成果を踏まえて書いた小説」という売り出し方が相まって「ただでさえ竹内久美子みたいなクソがのし歩いている中に……」と非常に強く反発し、その後数年に渡り「瀬名秀明」という作家の活動に関心を向けようとしなかった。今になって振り返れば、諸々考えさせられてしまうところはある。 とりわけ「ロボ」のその後の展開。とりわけ締め括りの「自然史家」の叫びと「ぼくたち」の疾駆を目にするとき。 稚く狭量な決め付けと自分の世界からの排除とを、恥らいと反省を以て振り返らずにはいられないと思いもする。 「鶫とひばり」については巻末解説が素晴らしい。付け加えられることなどなさそうだ。 ただ「(初出の)『サイエンス・イマジネーション』は一冊の本として大変に野心的かつ素晴らしい構成を持ち、優れた考察と小説が集まった良著だ」という推薦(「僕ごときが何を」とは思いつつ)はしておきたい。 「光の栞」と「希望」については、あまりにも美しく肯定的な「光の栞」がそこまでの流れを受け、いわば総決算のように現れた上で。 その直後かつ巻末という場において、大傑作にして解説においても「現時点での代表作」と評される「希望」の懐疑と強烈な批判が示される構成が凄まじい。 二作合わせて、短篇集『希望』におけるハイライトであると思う。 なお、「希望」については初出の『NOVA3』(2010/12)の時点で直ちに界隈で話題になっていた(と思う)作品でもあり、この一冊で気になった人は『NOVA3』の感想や評を探して読んでいくのも興味深いことだろうと思う。 僕の中で書評家、本の紹介者としての瀬名秀明の評価は以前からとても高く持っていたけれども。 この『希望』を読んでしまった以上、今後は小説家・瀬名秀明についても高い注目と期待を以て見ていかざるを得ないと思えた。 連作短編集『ハル』『第九の日』の存在がありながらも、「作者本人も本書を第一短篇集としたい意向」(巻末解説より)のだという。 新たに優れたSF短編作家としての顔を見せた瀬名秀明の第一歩として、実に力に満ちた一冊であると思う。 | ||||
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