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Tetchy さんのレビュー一覧

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レビュー数142

全142件 141~142 8/8ページ

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No.2: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(2pt)
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まさかまさかのトリック

新本格1期デビュー組のうち、この歌野氏は他の三人とはいささかデビューの趣が違う。綾辻氏、法月氏、我孫子氏ら三人が同じ京都大学のミス研出身であり、素人時代からなんらかの形で島田氏と交流を持っていたのに対し、歌野氏は単なる一読者の立場から創作し、島田氏に直接持ち込んだというちょっと変わった経緯がある。この辺については後に述べる。

本作はタイトルどおり、長い家で起こる密室殺人事件を取り扱っている。で、もちろんメインはこの長い家の特性を活かしたトリックにあるのだが、これがもしかしてこれじゃないよなぁと思ったトリックその物だった。誰かは思いつくけど、せいぜい推理クイズぐらいのネタにしかならないと思っていたアイデアで長編を書いたという陳腐な作品だ。一応第2の殺人も起きるが、トリックは同じというのが痛い。連続殺人事件にしてはバリエーションに乏しいが、一度上手く行った手は二度も通じると思うのが犯罪者の心理と捉えると、ある意味リアルなのかもしれない。せめてもの救いはプロローグのミスディレクションがちょっと良かったことか(しかし今こんな隠語を使うのだろうか?)。
物語の裏に隠された内容、犯人の動機だが、最近ニュースで取りざたされている社会問題を扱っているのが興味深い。発表された88年から同じ事件は起きていたのだろうが、それでも単発的な物だっただろうし、現在のように社会人、芸能人、学生を巻き込んでの騒動までにはなっていなかったように思う。だからもし今初めて手に取った読者ならば案外このプロローグのミスディレクションも予想がつくのではないだろうか。ただこの一点を以って、この作品が先駆的であったとか今日性が高いなどというつもりは毛頭なく、これは単なる偶然の産物だったといっても差し支えないだろう。
また他の3人が擁するシリーズ探偵に比べると、本書で探偵役を務める信濃譲二のキャラクターは魅力に欠ける。奇抜な服装を特徴にし、大麻を好むというエキセントリックさを売り物にしているが、どうにも貌の見えないキャラクターだ。大麻を好むのはかの有名なホームズを思い出させるだけだし、なんとなく島田氏の想像した御手洗の影がちらついている。極端に云えば、物語に終止符を付ける安心感というのが感じられないのだ。後の作品でこのキャラクターについて触れることになると思うので、この辺で止めておこう。

さて巷では文庫版の末尾に御大島田荘司による推薦の文章が付せられているのが話題となっているようだ。この文章、本来は解説のための原稿のはずなのだが、作品云々に関してはほとんど(全く?)触れられておらず、歌野氏が島田氏の推薦を受けるまでに至った経緯が細かく記されており、それ自体が1つの物語として面白い物になっているのが特徴的だ。この文章からも冒頭で少し触れた他の作家と歌野氏が一線を画した存在であることがわかる。
なんとなくハンデを背負ってデビューした感のあるこの作家の作品をなぜか私はその頃から中断することなく買い続けて今に至る。2003年に『葉桜の季節に君を想うということ』でいきなり各種ランキング本で1位を獲得した時の感慨はひとしおだった。その辺のことはまた後で触れることにして、このくらいで本書の感想については筆を措くことにしよう。

長い家の殺人 (講談社文庫)
歌野晶午長い家の殺人 についてのレビュー
No.1:
(3pt)

なにか合わないんだよなぁ。

シリーズ第2弾は長編。あのあと調べてみたら、どうやらこのシリーズは「人形探偵シリーズ」と云われているようだ(このサイトでは人形シリーズ)。

腹話術師朝永嘉夫に恋する保母の妹尾睦月、通称おむつの幼稚園の遠足に朝永と鞠夫の2人(?)が同行したところ、そのバスがハイジャックされ、事件に巻き込まれるという物。
園児の乗った車をハイジャック。日本でも昨今同種の事件が起きていたが、その緊張感はあまりあるものがある。私も三児の父親だけにこのような事件に巻き込まれた親御さんの心情は計り知れないものがある。

とまあ、ちょっと深刻に書いたが、実はそんな子を持つ親の心配とは裏腹に事件はハイジャックという緊張下とは思えぬほどのどかに進む。関西のお笑いをこよなく愛す作者ならではのボケとツッコミを交えながら進行するが、私個人的にはハイジャック物のようなリアルタイムサスペンスはこの作者には合わないと感じた。きつい云い方をすれば作者の技量が追いついていない。場と状況に流されるように、結局終ってしまった、そんな食べ足りなさを感じる作品だ。

で、このシリーズ、実は私はあまり好きではない。ストーリー云々というよりも主人公の朝永嘉夫にどうにも感情移入できないのだ。無口な自分の代わりに人形が雄弁にしゃべらせるというこの人物、一歩引いて見てみると実にアブナイ人間ではないか。これがどうも私には生理的に受け入れ難く、どうも入り込めなかった。
しかし私は付いていくと決めた作家は全作品読むので、その後もこのシリーズの作品は積読本として確保してある。もしかしたら読んでいくうちにこの思いも変わっていくかもしれないが、それはまたそのときにでも。

人形は遠足で推理する (講談社文庫)
我孫子武丸人形は遠足で推理する についてのレビュー