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モダン東京の検屍官 銀座カフェ女給連続怪死事件
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モダン東京の検屍官 銀座カフェ女給連続怪死事件の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.00pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
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全2件 1~2 1/1ページ
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ハードカバー375ページ、 各ページ上下二段、各20行の長編、 装丁は郷坪浩子、 昭和5年の東京を舞台とするミステリで、旧町名が頻繁に登場し、当時の東京市地図ならびに人名一覧表を付けてほしかったと思う、 日本橋横山町なら現在も在りおよそどの当たりか見当がつくが、神田下白壁町や浅草松清町に芝田村町では位置関係がわからない(東京市地図はやはり持っていたほうが何かと便利ということ)、 未知の作家だったが、蠱惑的なタイトルと愛らしい装幀画に惹かれて読み始めた、 文章はとくに作家性を主張しない通りの良い読みやすさなので、サクサクと読み進められる、 犯罪小説の常でもあるが冒頭はじゃっかんスロースタート、 いきなり死斑のあれこれについてうんちく開陳の問答が刑事同士で交わされ、ここで読者が選別されてしまうように思う、 ミステリとしての面白さは標準的と思うが、ミステリ/ハードボイルド小説と衒学趣味は不即不離という視点から読むと興趣の尽きない風俗小説としてかなりの面白さ、 著者は実際に医学博士であり、法医学方面も詳細の描写される、 特に、当時の東京メトロポリタン・エリア、それも最中央部の細かい描写が実に読ませるのだった、 退屈だったら途中棄権を想定したが、女給/現在のホステス連続殺人事件ということから銀座の描写へ、そしてカフェ内部の捜査へ進む章に入ると読者はすでに昭和5年の東京にタイム・トラベルしてしまう、 帝都物語が書き飛ばしてしまった帝都東京が懇切丁寧に語られるのだった、 主人公の娘を”おませ”と語る箇所がある、 おませという単語を久しぶりに見かけたように思う、 今日現在ではすでに日常会話ではほぼ死語に近いが、ローティーンの少女を好意的に評価する単語として改めて広く使われたほうが日本語に広がりが出るように思う、 以下蛇足、 物語は警視庁捜査一課部長刑事を主人公に語られる、 昭和5年の警視庁本庁舎は桜田門に移る前、日比谷にあった、 銀座二丁目までが紺屋警察署、銀座三丁目からが築地警察の管轄、 町名変更がおこなわれ銀座が現在の八丁になり、尾張町が銀座5丁目になったのも昭和5年らしい、 全盛期を迎えていたカフェ営業も紺屋警察の取り締まりが緩い銀座二丁目付近はエロ営業に強く、他は現在の銀座に続くホステス営業だったらしい、 昭和五年は偏向した歴史観だけから観察すれば不況にあえぐ時代だったと語られることが多いが、すでに満州国が建国され大東亜戦争を遂行するだけの国力が調え始まる時代と認識したほうがその後の昭和史の見通しが良くなる、 本書でも不況は語られこそするが、同時代、カフェ営業の全盛や、熱海の海水浴の繁盛が国内に同居していたのだった、 著者は医者でもあり、解剖の実際の微に入り際に行った描写や、絞殺と扼殺による死体の状態の違いなど、読了するととても物知りになったような気分にさせてくれる、 さらに興味深いのは、よく調べたと思うが、当時の警察庁通達を引用し、飲食・風俗業の取り締まり等を上手く娯楽小説描写にしている点、 例えば、昭和4年9月 警視庁保安部長通達の取り締まり要綱に”客席ノ照明ニシテ著シク暗キモノ、異様ニ渉ルモノ”がカフェ営業の不許可条件と書かれているらしい、 つまり現在の銀座の一見さんお断りのクラブの照明が明るいのは昭和4年の通達(の意思)が現在も引き継がれているのかもしれず、結果的にエロ営業の店内が暗いことと明確に差別化され続いていることになる、 そして警察官処罰令違反という摘発方法があったらしい、 これは違警罪即決令によって、警察署長が被告人に言い渡すだけで効力発生と書かれている、 戦前までの警官が威張りくさっていた根拠になると思われる、 昭和十年ごろにあった警視庁警官と陸軍軍人の大げんかもこの辺の価値観が対立したと思えば分かりやすい、 P.230 昭和5年8月1日の警視庁から各署長あての通達で第二用語標準が廃止されたらしい、 警官が市民を呼び止める際の言葉”オイオイ”禁止が大正二年の通達で禁止されているが、徹底されていなかったこと故のこと、 これとよく似た傲慢さ横柄さが最近の過剰な謝罪要求で相手に土下座を求める風潮で再現されているように見える、 P.198 当時お妾横丁と呼称された町は、上野桜木町、四谷坂町、日暮里渡辺町、蒲田、高円寺、 172 昭和四年の誘拐事件数 48件、犠牲者52人、 女性六割 おそらく売春宿へ、子供四割 おそらく旅芸人に売られた、 著者が書くとおりなら、なかなかにショッキングな記述である、 169 昭和四年 上野松坂屋屋上から飛び降り自殺相次ぎ、警視庁が六尺の金網設置を厳命、 260 昭和二年 陸軍少将令嬢強姦殺人事件 349 つばめ運転開始により東京神戸間が9時間となったのも昭和5年、 だから浜口首相が東京駅に向かい遭難したことになる、 322 上野松坂屋完成が昭和5年と書かれているので、建設中から自殺者を出したことになる、 上野駅完成が昭和6年、 谷口富士郎・昇次郎事件 173 岩の坂で起きた養育料目的の乳児殺害(遺棄?)事件・犠牲者40人以上、 58 恩給年金金融という年金担保の金貸しが当時すでに存在した、 昭和5年3月24日から一週間にわたり関東大震災からの帝都復興祭が行われた(天皇巡行有り)、 以下、初中に登場する本・映画・歌等、 ガストン・ルルー 黄色い部屋 ヴァン・ダイン グリーン家殺人事件・カナリア殺人事件 クリスティ アクロイド殺し 三好達治 測量船 小酒井不木 愚人の毒 映画 何が彼女をそうさせたか ナブロワ主演 思い出 キートンの結婚狂 ヒット曲 先端的だわね 河原喜久恵 ザッツ・オーケー ビーチ・パジャマ、 スポーツ・ドレス、 フレッチャー ライチェスター事件 | ||||
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実はコミックの「江戸の検屍官」から小説にスライドしてきた読者ですから あまり偉そうな事は言えません。この作者は医師であり「何とかの検屍官」というシリーズの著者です。 何とかの部分には「江戸」「宋」「平安京」等があり、他にもコミックの原作になった「蘭医おげん」とか法医学系小説という分野があれば その元祖かもしれません。 結構雑学にお強いのか、妙な分野に詳しい方で、それが「平安京の検屍官」にあらわれ、こちらの「モダン東京」は関東大震災からまもない頃、つまり「裁判医学」から「法医学」に変化する頃の東京が描かれています。 この本で知ったのですが 先々代の警視庁庁舎って築12年で関東大震災でボロボロになったんですね。それも帝国劇場の隣にあったそうで ちょっと「へえ」です。 なんとも面白い本ですので 是否お読みになって再評価→再販になるといいですね。 | ||||
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