真実の眠る川

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評判

真実の眠る川の評価:

5.00/5点 レビュー 2件。 B ランク

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平均点5.00pt

Amazonレビュー一覧

Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

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全2件 1〜2 1/1ページ
No.2
(5pt)

ミステリ的仕掛けをもった、川の流れのような群像ドラマ。これは傑作です。

これは傑作。傑作でございます。まだ深い余韻が残ってます。
舞台は1958年のアメリカ、ミネソタ州。大きな川が流れる田舎町。かつてインディアンとの血なまぐさい抗争の歴史を持ち、また、第二次世界大戦に多くの若者が出兵した町で、異人種への偏見や悪しき権力主義、暴力衝動が残っています。
その川で、大きな農園を営む男、ジミー・クインが無残な死体となって発見される。事故か自殺か、あるいは他殺か。保安官ブロディは捜査を始める。すぐに容疑者として先住民スー族の血を引くノアが逮捕されるが、まだ真実が明らかになる前に、人種差別の意識が色濃い住民たちは異様な熱気に浮かされていく。やがてひとつの悲劇は多くの人物たちの過去をあぶり出し、人々は自らの人生の傷に直面していくことになる。
まず文章がすばらしい。人物描写、自然描写、シンプルな簡明な表現で、脳内に立体的な映像が立ち上がってきます。
次に、人物像の描き分けが見事です。戦争で心に深い傷を負っている保安官ブロディ。なぜか事件について口をつぐむ先住民ノア。ナガサキ生まれのノアの日本人妻キョウコ。ノアの弁護を請け負う誠実で深い知性をもつ女性弁護士チャーリー。戦争で夫を失い、ダイナーを営みながら子育てをする女性アンジー。アンジーの息子、心臓疾患に苦しみながら善き人であろうとする14歳のスコット。豊かな経験と孤独と優しさをもつ初老の保安官代理コニー。戦争で片足を失った新聞記者で作家をめざすサム。
この他にも多くの人物が登場し、川の流れのように群像ドラマを展開していきます。事件はある真実にたどり着くのですが、物語はもはやミステリという枠組みを超えて、大河小説を読んでいるような感動と心地よさと苦みを読者にもたらします。
けっこうな厚みの小説ですが、まったく飽きさせない。お見事です。
真実の眠る川 (ハヤカワ・ミステリ) Amazon書評・レビュー: 真実の眠る川 (ハヤカワ・ミステリ)より
4150020221
No.1
(5pt)

涙を禁じ得ない涙の川を渡ることで、私たちは静謐なエピローグを迎える

ウィリアム・ケント・クルーガーを読むのは「このやさしき大地」(2022/10月)以来になります。私はそのレビューで”この美しく、やさしき大地。魂のオデッセイ”と書いたと思います。
 1958年、5月、デコレーション・デー(現在のメモリアル・デー)。舞台は、ミネソタ州、ジュウェル。運命のアラバスター川。退役軍人らによるパレードの最中、郡保安官のブロディ・ダーンはアラバスター川で死体が見つかったことを知らされます。
嫌われ者の地主、ジミー・クインの遺体がナマズに食い荒らされたまま放置されていました。
 ジミーの複雑な家族関係、荒ぶる人間関係。その夜、ジミーは酔っ払って釣りに出掛けていましたが、直接の死因はショットガンの鹿弾によるものでした。誰が犯人なのか?動機は?その詳細をここで明かすわけにはいきません。
 保安官のブロディが主人公かと思い読み進めましたが、違っていました。スリラーの体裁を取ってはいますが、<全体小説>と言ってもいい内容ですので、多くの人物たちが登場して、それぞれの人生を垣間見せながら物語が展開されていきます。ブロディはこの<全体小説>の<狂言回し>と言っていい存在だと思います。ストーリーがそれほど進行しないうちに、ブロディは法執行機関側の人間でありながら、或る行動を私たちに見せることによって一筋縄ではいかない「真実の眠る川」を巡るオデッセイの幕開きを知らせてくれます。その大切なときめきが、炎のように心の中に燻り続けます。
 アルコール依存、支配と被支配、いくつかの戦争による後遺症、差別と被差別。特に(「このやさしき大地」同様)スー族と白人たちの間に大きな川のように横たわる差別の歴史があって、米国に今でも内在する多くの苦難、病、社会病質が物語を凄まじい勢いで撹乱させていきます。
 あまり物語とは関連はありませんが(実は関連しているかもしれない(笑))、27%あたり。
 シカゴ博物館にかかるホッパーのあの有名な絵画が話題になります。自分たちはどこにいるのか?「ガン・スモーク」、カントリー局から流れる「夢を見るだけ」、プレスリーによる「Love Me Tender」、そして読んでいる本は「キャッチャー・イン・ザ・ライ」。人は大人になるに従い、"Innocence"とどう向き合っていくのか?私たちは私たち個別の"Initiation"をどう育んできたのか?
 ネイティヴ・アメリカン、クイン家の元使用人、ノア・ブルーストンとその妻、キョウコの存在がこの物語の大いなる要なのかもしれません。キョウコは、ナガサキで被爆し、米国へと流れてきたわけですが、その佇まいの美しさに私はこの国、日本の持つたおやかさを思ったりもしました。
 そして、57%あたり。戦争未亡人であり、<ワゴンホイール>というカフェで働くアンジーは、そのカフェのドアから彼女の人生に入ってきた全員を愛していることに気づきます。「つむじ曲がり、無愛想、頑固者、心やさしき者、臆病者、愚か者、弱き者、素直な者、傷ついた物・・・・」。人の魂は、その居場所に救済されるのですね。
 いずれにしろ、この世の真実は、「・・・正義がおこなわれるために必要な嘘なのだ」から(84%あたり)。
 いつもより少し書き過ぎているかもしれません。お許しください。それだけ語りたいことが多く残されたフィクションだと言えるでしょう。
 
 また、「このやさしき大地 "This Tender Land"」同様、本作でもジョン・スタインベックへのオマージュを感じることになりました。巻中、弁護士、チャーリーが西海岸でスタインベックに会ったことがあるというエピソードが何故私にこれほどのインパクトを与えるのでしょう。それは、サリーナスで生まれたスタインベックの小説を私もまたこよなく愛しているからに他なりません。
 私たちは一人では生きてはいけない。だから、傍にいる人の手をやさしく取って、この闇に向かいましょう。
 "Darkness, Take My Hand"(Dennis Lehane)。そして、涙を禁じ得ない獰猛な涙の川を渡ることで私たちは静謐なエピローグを迎えることになります。
 ◻︎「真実の眠る川 "THE River We Remember"」(ウィリアム・ケント・クルーガー 早川書房) 2025/12/3。
真実の眠る川 (ハヤカワ・ミステリ) Amazon書評・レビュー: 真実の眠る川 (ハヤカワ・ミステリ)より
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