苦役列車

【この小説が収録されている参考書籍】

【この小説が載っている参考書籍】

評判

苦役列車の評価:

3.84/5点 レビュー 276件。 C ランク

Amazon書評・レビュー点数毎のグラフです

平均点3.84pt

Amazonレビュー一覧

Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください

全370件 301〜320 16/19ページ
No.70
(5pt)

もたざる者たちのバイブル

今、テレビに出るのは「もってる」人ばかりだ。甲子園の優勝投手で早稲田に進学し、今季日本ハムに入団した斎藤佑樹は自らを「もってる」と言った。名声もあり、素晴らしい仲間もあり、今は、日本中の報道関係者をもっている。な〜んももってないオレは、口をアングリとして見るほかはない。

 テレビではニュースをやっている。直木賞、芥川賞の発表らしい。「道尾秀介」…あ、このまえ情熱大陸に出ていたぞ。才能あり、大ヒット作連発、セレブな友人多数。写真のモデルにもなっていた。こいつももってる奴だなあ。「きことわ」…なになに、慶應義塾大学院生の20代?フランス文学者一家?あ、きれいな人だ。才色兼備じゃねえか。この女性ももってるなあ。

 今や、もってる人でないと世に出ることは難しい。傑出した能力、清潔な外観、温厚な性格、つまり紳士淑女でないとダメなのだ。彼らは瞬く間にもってる者同士でネットワークを築き上げてしまう。今流行の「無縁社会」も、もってる人達による囲い込み運動の結果にすぎない。そして、彼らは決して「もってない」我々は視界に入らない。

 ニュースは続いている。え、もう一人、芥川賞いるのか。ぱっとしない中年男がでてきたぞ。
「今から、風俗行きます。祝ってくれる友だちもいませんし、連絡する人も誰もいません」 ???
なんだ、こいつは?見事なまでに、もってない!!!

 オイラはすぐに本屋に駆け込んだ。お金を使いたくないが仕方ねえ。「ボクに『苦役列車』を売ってください」

 すげえよ、これは。ここまで魂をゆさぶられたのは久しぶりだ。この孤独感。この孤立感。この虚無感。あがいてもあがいても浮かび上がれない息苦しさ、滑稽さ。これは、もたざる者の、もたざる者による、もたざる者のための書だ。

 日雇い先に向かうバスの中から野球場が見える。そう。オイラも何度も見てきた。バスからは決まって野球場が見える。誰もいない野球場が。
 圧巻は、日下部の彼女と接点をつくるため、一緒に野球を観に行くシークエンスだ。そこだけ主人公の頭は素早く回る。断じて怠惰ではない。フロイト曰く。「性衝動は自分が思っているよりもはるかに強い」しかし、主人公は失敗してしまう。

 『苦役列車』が優れているのは、もたざる者の声を代弁してるからではない。もたざる者が怠惰な海に心地よく浸ったときの苦境をあますところなく描いているからだ。

 それにしても、我々にしかわからない世界だ。よくぞ、選考委員の方々が推してくれたものだ。おかげで、怠惰なボクも西村賢太を知ることができた。その僥倖に深く感謝する。
苦役列車 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 苦役列車 (新潮文庫)より
4101312842
No.69
(5pt)

もたざる者たちのバイブル

今、テレビに出るのは「もってる」人ばかりだ。甲子園の優勝投手で早稲田に進学し、今季日本ハムに入団した斎藤佑樹は自らを「もってる」と言った。名声もあり、素晴らしい仲間もあり、今は、日本中の報道関係者をもっている。な〜んももってないオレは、口をアングリとして見るほかはない。

 テレビではニュースをやっている。直木賞、芥川賞の発表らしい。「道尾秀介」…あ、このまえ情熱大陸に出ていたぞ。才能あり、大ヒット作連発、セレブな友人多数。写真のモデルにもなっていた。こいつももってる奴だなあ。「きことわ」…なになに、慶應義塾大学院生の20代?フランス文学者一家?あ、きれいな人だ。才色兼備じゃねえか。この女性ももってるなあ。

 今や、もってる人でないと世に出ることは難しい。傑出した能力、清潔な外観、温厚な性格、つまり紳士淑女でないとダメなのだ。彼らは瞬く間にもってる者同士でネットワークを築き上げてしまう。今流行の「無縁社会」も、もってる人達による囲い込み運動の結果にすぎない。そして、彼らは決して「もってない」我々は視界に入らない。

 ニュースは続いている。え、もう一人、芥川賞いるのか。ぱっとしない中年男がでてきたぞ。
「今から、風俗行きます。祝ってくれる友だちもいませんし、連絡する人も誰もいません」 ???
なんだ、こいつは?見事なまでに、もってない!!!

 オイラはすぐに本屋に駆け込んだ。お金を使いたくないが仕方ねえ。「ボクに『苦役列車』を売ってください」

 すげえよ、これは。ここまで魂をゆさぶられたのは久しぶりだ。この孤独感。この孤立感。この虚無感。あがいてもあがいても浮かび上がれない息苦しさ、滑稽さ。これは、もたざる者の、もたざる者による、もたざる者のための書だ。

 日雇い先に向かうバスの中から野球場が見える。そう。オイラも何度も見てきた。バスからは決まって野球場が見える。誰もいない野球場が。
 圧巻は、日下部の彼女と接点をつくるため、一緒に野球を観に行くシークエンスだ。そこだけ主人公の頭は素早く回る。断じて怠惰ではない。フロイト曰く。「性衝動は自分が思っているよりもはるかに強い」しかし、主人公は失敗してしまう。

 『苦役列車』が優れているのは、もたざる者の声を代弁してるからではない。もたざる者が怠惰な海に心地よく浸ったときの苦境をあますところなく描いているからだ。

 それにしても、我々にしかわからない世界だ。よくぞ、選考委員の方々が推してくれたものだ。おかげで、怠惰なボクも西村賢太を知ることができた。その僥倖に深く感謝する。
苦役列車 Amazon書評・レビュー: 苦役列車より
4103032324
No.68
(5pt)

平成の純文学は、癒し効果も

芥川受賞、おめでとうございます!

純文学エンターテイメント部門、私小説!
いったん読み始めると病みつきになるのは、町田康以来かな。
エンターテイメント作家は危機感を持ちましょう。
人殺しも、衝撃の真相もないけれど、
こっちのほうがずっと面白いじゃん、という読者が急増するの、請け合いだもの。

平成の純文学は、面白いだけじゃない。現代人のだーい好きな、癒し効果もありますよ。
自分より駄目な奴がいる? いえ、いえ、その逆です。
だって今の若い人(中年も)たいへんでしょ。
英語喋ってコンピューターを使いこなせなきゃ、もう生きていけません。
いろいろなところから役立つ情報を忙しなく掻き集め、就活に婚活。
一方で、ゆるやかに衰退に向う日本国。
そのうちホワイトカラーもブルーカラーも、メタルカラーだって、海外出稼ぎですよ。
最高学府を出たって、国内だけで通用する学歴。欧米どころかアジアでだって、もう誰も感心しない。ブルーカラーの出稼ぎも、片道数千円の航空運賃でアジアのどこかの国へ行き、発展途上国からやってきた労働者に混じって、日本では考えられないような劣悪な労働環境で汗を流さなくちゃいけない日が、近い将来くるかもしれません。
そんな世の中で、西村賢太氏の小説は、不思議な癒しの力を持っているのではないかしら。
笑いながら、癒される。いいじゃないですか!

でも出版関係の方々は、喜んでばかりもいられませんよね。
だって、西村氏は作家になってからのことも、引き続き私小説として書き続けるでしょうから。
笑っていられるのも今のうちかもよん。
苦役列車 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 苦役列車 (新潮文庫)より
4101312842
No.67
(5pt)

平成の純文学は、癒し効果も

芥川受賞、おめでとうございます!

純文学エンターテイメント部門、私小説!
いったん読み始めると病みつきになるのは、町田康以来かな。
エンターテイメント作家は危機感を持ちましょう。
人殺しも、衝撃の真相もないけれど、
こっちのほうがずっと面白いじゃん、という読者が急増するの、請け合いだもの。

平成の純文学は、面白いだけじゃない。現代人のだーい好きな、癒し効果もありますよ。
自分より駄目な奴がいる? いえ、いえ、その逆です。
だって今の若い人(中年も)たいへんでしょ。
英語喋ってコンピューターを使いこなせなきゃ、もう生きていけません。
いろいろなところから役立つ情報を忙しなく掻き集め、就活に婚活。
一方で、ゆるやかに衰退に向う日本国。
そのうちホワイトカラーもブルーカラーも、メタルカラーだって、海外出稼ぎですよ。
最高学府を出たって、国内だけで通用する学歴。欧米どころかアジアでだって、もう誰も感心しない。ブルーカラーの出稼ぎも、片道数千円の航空運賃でアジアのどこかの国へ行き、発展途上国からやってきた労働者に混じって、日本では考えられないような劣悪な労働環境で汗を流さなくちゃいけない日が、近い将来くるかもしれません。
そんな世の中で、西村賢太氏の小説は、不思議な癒しの力を持っているのではないかしら。
笑いながら、癒される。いいじゃないですか!

でも出版関係の方々は、喜んでばかりもいられませんよね。
だって、西村氏は作家になってからのことも、引き続き私小説として書き続けるでしょうから。
笑っていられるのも今のうちかもよん。
苦役列車 Amazon書評・レビュー: 苦役列車より
4103032324
No.66
(4pt)

社会の闇に嵌った主人公の行く末

この作品は日雇い労働者の、平凡な2人を中心に物語が進んでいくのですが、平凡とはいえ、作者は主人公とその友人・日下部を対照的に描いています。
 日下部は両親もしっかりいて、世間の評価的には、いたって普通な人間。日下部は何をするにしても平均的にでき、
世間の批判も受けずに、生きていけます。
 それに対して、主人公の父親は性犯罪者で母一人、子一人で、11歳で人生が終わったととらえ、自暴自棄に生きる人間です。
この主人公を作者は徹底的に救いようのない「陰」に貶めていく。世間という枠からはずれ、なおかつ、過去に固執して前を
向けれない人間の末路がどれほど哀れか。そこを作者は主人公を通して、描き出したように私は感じました。
しかもこれは今の日本社会のリアルな実態の一つでもあります。
 本来、父が性犯罪者という汚名を着せられたことが、人生を終わらせるほどの絶望的なことであるとは私には思えません。
 そこまで世間が冷たいものだとも思えないし。
 ただ、この主人公にとっては絶望的であったようです。
なぜなら、主人公は無縁社会の代表例ともいわれる人間で、幼いころから、地域のおじちゃん、おばちゃんも含めて、
なんらいい出会いをもっていなかったからです。親の教育環境も影響して、自信も失い、愛ももてず、友達もいない。
そんな孤独な人間が日本にはわんさかいるんだということが本書を通して伝わってきました。
 無縁社会は、確実に社会を陰に貶めていく。主人公が幼き日から誰か一人でも対等に、希望をもって話し合えるような人間がいればどれほど救われたののかな。そんなことを思わずにはいられない作品でした。
苦役列車 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 苦役列車 (新潮文庫)より
4101312842
No.65
(4pt)

社会の闇に嵌った主人公の行く末

この作品は日雇い労働者の、平凡な2人を中心に物語が進んでいくのですが、平凡とはいえ、作者は主人公とその友人・日下部を対照的に描いています。
 日下部は両親もしっかりいて、世間の評価的には、いたって普通な人間。日下部は何をするにしても平均的にでき、
世間の批判も受けずに、生きていけます。
 それに対して、主人公の父親は性犯罪者で母一人、子一人で、11歳で人生が終わったととらえ、自暴自棄に生きる人間です。
この主人公を作者は徹底的に救いようのない「陰」に貶めていく。世間という枠からはずれ、なおかつ、過去に固執して前を
向けれない人間の末路がどれほど哀れか。そこを作者は主人公を通して、描き出したように私は感じました。
しかもこれは今の日本社会のリアルな実態の一つでもあります。
 本来、父が性犯罪者という汚名を着せられたことが、人生を終わらせるほどの絶望的なことであるとは私には思えません。
 そこまで世間が冷たいものだとも思えないし。
 ただ、この主人公にとっては絶望的であったようです。
なぜなら、主人公は無縁社会の代表例ともいわれる人間で、幼いころから、地域のおじちゃん、おばちゃんも含めて、
なんらいい出会いをもっていなかったからです。親の教育環境も影響して、自信も失い、愛ももてず、友達もいない。
そんな孤独な人間が日本にはわんさかいるんだということが本書を通して伝わってきました。
 無縁社会は、確実に社会を陰に貶めていく。主人公が幼き日から誰か一人でも対等に、希望をもって話し合えるような人間がいればどれほど救われたののかな。そんなことを思わずにはいられない作品でした。
苦役列車 Amazon書評・レビュー: 苦役列車より
4103032324
No.64
(4pt)

一気に読めるが

一気に読めるが、女子供などにはきつい内容で共感がよべなそう
男性でも、ちょっと忌避感があるひとが多いような作品

私にはおもしろかった。でもこの作品を面白いっていうことが
ちょっと恥ずかしい人が多いかも知れない

まあドラマ化や映画化もするでしょうし、
そちらの方が楽しみかも

さっと読めるので周りで回し読みします。
こんなに話題になる本も珍しい。
苦役列車 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 苦役列車 (新潮文庫)より
4101312842
No.63
(4pt)

一気に読めるが

一気に読めるが、女子供などにはきつい内容で共感がよべなそう
男性でも、ちょっと忌避感があるひとが多いような作品

私にはおもしろかった。でもこの作品を面白いっていうことが
ちょっと恥ずかしい人が多いかも知れない

まあドラマ化や映画化もするでしょうし、
そちらの方が楽しみかも

さっと読めるので周りで回し読みします。
こんなに話題になる本も珍しい。
苦役列車 Amazon書評・レビュー: 苦役列車より
4103032324
No.62
(4pt)

知的なろくでなし!

自分をとことん暴いて、さらけだして、「どうだ、俺ほどどん底はそういないだろう!」
作者は意気がっているが、ここまで開き直り自分を客観視できるのは、きちんとした知性が必要だ。

事実、自分と正反対の日下部を敵対視するのでなく親しくなりたい、対等になりたいという主人公がなんだか愛おしい。
まっとうな生活はできないけど、まっとうに暮らす人間にも少しは敬意みたいな感情を持っている。

どん底の生活をしても、何処からか薄日が差してくる。精神の根っこは病んでいない。
これがバブル時期の若き日を書いたという所が「私小説」なんだが、昨今の社会状況を思うとリアルだ。

この作者は人を動かす術を心得ている、と感じた。
苦役列車 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 苦役列車 (新潮文庫)より
4101312842
No.61
(5pt)

文章力がすごい

彼の文章の素晴らしさ、語彙の豊富さは、ちょっと真似のできない熟成されたレベルだと感じる。

話の筋自体はすごく単純だ。
しかし著者のいう苦役とは何も港湾荷役の仕事自体を指しているのでは無いのは明らかである。

普通の人なら脱出することがそれほど困難でもないにもかかわらず、
自らの生い立ちやそれによる狷介で攻撃的な、それなのにプライドが高い性格などの要因が作用して、
そこから脱することのできない貫多の現在の境遇そのものを指している。
だから何も大きなことは起こらないし、淡々とダメな日常生活が続く。
しかしこれこそがこの作品のキモだと思う。

つまり、淡々としたダメな日常的なストーリーだからこそ、
著者の豊富な語彙力や文章力によって読者を一気に引き込む。

何も発想力だけが小説じゃない。
小説に華々しさや荒々しさなどのアイディアだけを求める人こそ偏ってはいないか。

未来や過去を行き来するような未来的な話も小説なら、
こういう古臭くて何もできないダメ人間のくすぶった話だって小説だと僕は思う。
苦役列車 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 苦役列車 (新潮文庫)より
4101312842
No.60
(5pt)

旺盛な食欲

もう読んで何日か経つのだけれども、天丼をかきこんで、
そばのつゆを最後の一滴まで飲み込んで、やっと人心地つく、
という食いっぷりが忘れられない。
思い出してはニヤニヤしてしまう。

労働で汗を流した後の飯のうまさは、やっぱり格別だよな
と肉体労働のバイトをしていたころを思い出した。(港湾労働ではなく物流系だけど)
三ツ矢サイダーも美味そうなんだよな。

星4ってとこだけど、ご祝儀も兼ねて、星5で。
苦役列車 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 苦役列車 (新潮文庫)より
4101312842
No.59
(4pt)

知的なろくでなし!

自分をとことん暴いて、さらけだして、「どうだ、俺ほどどん底はそういないだろう!」
作者は意気がっているが、ここまで開き直り自分を客観視できるのは、きちんとした知性が必要だ。

事実、自分と正反対の日下部を敵対視するのでなく親しくなりたい、対等になりたいという主人公がなんだか愛おしい。
まっとうな生活はできないけど、まっとうに暮らす人間にも少しは敬意みたいな感情を持っている。

どん底の生活をしても、何処からか薄日が差してくる。精神の根っこは病んでいない。
これがバブル時期の若き日を書いたという所が「私小説」なんだが、昨今の社会状況を思うとリアルだ。

この作者は人を動かす術を心得ている、と感じた。
苦役列車 Amazon書評・レビュー: 苦役列車より
4103032324
No.58
(5pt)

文章力がすごい

彼の文章の素晴らしさ、語彙の豊富さは、ちょっと真似のできない熟成されたレベルだと感じる。

話の筋自体はすごく単純だ。
しかし著者のいう苦役とは何も港湾荷役の仕事自体を指しているのでは無いのは明らかである。

普通の人なら脱出することがそれほど困難でもないにもかかわらず、
自らの生い立ちやそれによる狷介で攻撃的な、それなのにプライドが高い性格などの要因が作用して、
そこから脱することのできない貫多の現在の境遇そのものを指している。
だから何も大きなことは起こらないし、淡々とダメな日常生活が続く。
しかしこれこそがこの作品のキモだと思う。

つまり、淡々としたダメな日常的なストーリーだからこそ、
著者の豊富な語彙力や文章力によって読者を一気に引き込む。

何も発想力だけが小説じゃない。
小説に華々しさや荒々しさなどのアイディアだけを求める人こそ偏ってはいないか。

未来や過去を行き来するような未来的な話も小説なら、
こういう古臭くて何もできないダメ人間のくすぶった話だって小説だと僕は思う。
苦役列車 Amazon書評・レビュー: 苦役列車より
4103032324
No.57
(5pt)

旺盛な食欲

もう読んで何日か経つのだけれども、天丼をかきこんで、
そばのつゆを最後の一滴まで飲み込んで、やっと人心地つく、
という食いっぷりが忘れられない。
思い出してはニヤニヤしてしまう。

労働で汗を流した後の飯のうまさは、やっぱり格別だよな
と肉体労働のバイトをしていたころを思い出した。(港湾労働ではなく物流系だけど)
三ツ矢サイダーも美味そうなんだよな。

星4ってとこだけど、ご祝儀も兼ねて、星5で。
苦役列車 Amazon書評・レビュー: 苦役列車より
4103032324
No.56
(4pt)

その存在が他人を救う

小説、ましてや純文学とは無縁の私ですら、この「苦役列車」は面白くスラスラと読めてしまった。同じ平成という時代を生きる一人のダメ男として、似たようなコンプレックスや願望を持ち、似たような行為をする主人公、北町貫多に素直に共感する所が多かったからだろう。一方で著者の西村賢太氏がインタビューで「自分よりダメな人間がいると思ってもらえれば・・・」と語っていた通りに、「いくら私がダメ人間とはいえ北町貫多よりは余程ましだ」という上から目線で安心して、半分面白がりながら「ほんとにこいつ(北町貫多)はしょうがないなー」と他人事のように読めた事もあるだろう。
 もう一つの小説「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」では、文学賞というものを散々コケにして、文学賞を欲しがる作家を俗物扱いしながら、実は北町貫多自身が誰よりも文学賞を欲している一番の俗物だったということを恥も外聞もなく告白している。
 このような読みやすい(「読みやすい」というのは西村氏の優れた技量による)純文学の私小説作家の存在は貴重である。読者が抱えている他人に対する卑俗なコンプレックス、嫉妬、妬み、厭らしさなどを吸収し、その代わりにカタルシス、自己の存在の安心感というものを読者に与えてくれるからだ。
苦役列車 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 苦役列車 (新潮文庫)より
4101312842
No.55
(4pt)

その存在が他人を救う

小説、ましてや純文学とは無縁の私ですら、この「苦役列車」は面白くスラスラと読めてしまった。同じ平成という時代を生きる一人のダメ男として、似たようなコンプレックスや願望を持ち、似たような行為をする主人公、北町貫多に素直に共感する所が多かったからだろう。一方で著者の西村賢太氏がインタビューで「自分よりダメな人間がいると思ってもらえれば・・・」と語っていた通りに、「いくら私がダメ人間とはいえ北町貫多よりは余程ましだ」という上から目線で安心して、半分面白がりながら「ほんとにこいつ(北町貫多)はしょうがないなー」と他人事のように読めた事もあるだろう。
 もう一つの小説「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」では、文学賞というものを散々コケにして、文学賞を欲しがる作家を俗物扱いしながら、実は北町貫多自身が誰よりも文学賞を欲している一番の俗物だったということを恥も外聞もなく告白している。
 このような読みやすい(「読みやすい」というのは西村氏の優れた技量による)純文学の私小説作家の存在は貴重である。読者が抱えている他人に対する卑俗なコンプレックス、嫉妬、妬み、厭らしさなどを吸収し、その代わりにカタルシス、自己の存在の安心感というものを読者に与えてくれるからだ。
苦役列車 Amazon書評・レビュー: 苦役列車より
4103032324
No.54
(4pt)

汗の匂いと熱気を

正直、作者の経歴に興味を持ち読みたくなった本だった。
もう一方の文学一家に育ちきっと何の不自由もなく育った「お嬢様」作家とかことごとく違った作品だ。
ある意味殺人と同じくらい忌み嫌われている「性犯罪」を犯した父を持ち、母からも愛を受ける事なく育った作者のただひねくれた性格から
起こった出来事なのだからそれこそ「自己責任」の一言で終わるものかも知れない。
しかし、作家として「書きたい」という思いと「作品」の中には熱すぎる熱気と汗と泥臭さがドン!と読む側に伝わってくる。
その臭さがまったく嫌な感じがしなかったのが不思議だった。
また次の「作品」を読みたいと思わせる十分な「作品」だと思う。
苦役列車 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 苦役列車 (新潮文庫)より
4101312842
No.53
(4pt)

汗の匂いと熱気を

正直、作者の経歴に興味を持ち読みたくなった本だった。
もう一方の文学一家に育ちきっと何の不自由もなく育った「お嬢様」作家とかことごとく違った作品だ。
ある意味殺人と同じくらい忌み嫌われている「性犯罪」を犯した父を持ち、母からも愛を受ける事なく育った作者のただひねくれた性格から
起こった出来事なのだからそれこそ「自己責任」の一言で終わるものかも知れない。
しかし、作家として「書きたい」という思いと「作品」の中には熱すぎる熱気と汗と泥臭さがドン!と読む側に伝わってくる。
その臭さがまったく嫌な感じがしなかったのが不思議だった。
また次の「作品」を読みたいと思わせる十分な「作品」だと思う。
苦役列車 Amazon書評・レビュー: 苦役列車より
4103032324
No.52
(4pt)

芥川賞受賞を言祝ぐ

本書には、芥川賞受賞で話題になった表題作ほか1篇が収録されている。その「苦役列車」の方は、まずまず期待していた通りのおもしろさであった。こぢんまりとはしているが、最後にやはり藤澤清造の名が出てくるところなど、演出もうまく利いていて、小説として体よくまとめられていると思った。また、わずか40頁ほどの「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」の方もなかなかよい。古本を買うシーンが出てきて、こういうのは古本好きにはたまらない。主人公が買う本がまたシブくて、唸ってしまった。

さて、西村賢太の魅力は、何といっても自分の言葉を持っているところにあると思う。この作家にしか使えない言葉があるのだ。あまり馴染みのない語彙や言い回しがそこには多く含まれ、辟易する読者もいるかもしれないが、作家の固有性はまずその言葉にこそ表象されるものである。それらは何も奇を衒って使われているのではなく、長い年月をかけて熟成させ血肉化してきた言葉なのだ。他に名を挙げれば、野坂昭如、車谷長吉、町田康なども同列に並べることができるかもしれない。私はこういう作家たちを大切に読んでいきたいと思う。
苦役列車 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 苦役列車 (新潮文庫)より
4101312842
No.51
(4pt)

そこはかとなく感じられる「おかしみ」

芥川賞を受賞作をいち早く読むという習慣もなく、『KAGEROU』のような
話題作にもまったく食指が動かない私のような人間でも、授賞式の記者会見で著者
を初めて知って以来、読まざるを得ない気持ちになった。この著者は小説を書か
ざるを得ない人だということが直感的に伝わってきたから。

私小説であるというその内容は、罪なき罰を背負った青年の、孤独と不満と諦念
の入り混じった塩辛い日常を淡々と描いたものである。もちまえの過剰な自意識
がこの青年にことさらに卑屈な態度をとらせ、せっかくできた友人も遠ざかって
いく。かといって青年は一念発起するわけでもなく、凶悪犯罪に走るでもなく、
自分を罵ったり、他人を妬んだり、もうどうでもよくなったりしつつ、日雇いの
仕事と居酒屋と風俗店のループから出ることなく日々過ぎていく。

暗くて後味の悪い小説を予想していたが、意外にも、その独特な文章からは「お
かしみ」が滲みでていて、深刻になりすぎないよう絶妙にコントロールされてい
る。語り口を変えれば、「未来を閉ざされ、友も恋人もなく、単純労働で日銭を
稼ぐ毎日」という設定のこの物語も、随所で笑えるドラマやマンガにさえなるよ
うな気がした。その「おかしみ」は、この本に収録されている短編、「落ちぶれ
て袖に涙のふりかかる」でも存分に発揮されている。著者は、尊敬してやまない
藤澤清造の作風を「滑稽だけど悲惨味もある」と評しているが、この小説は、
「悲惨だけど滑稽味もある」ふうに仕上がっている。私小説が日記や自伝と違う
のは、自分の人生や経験なりをあくまで第三者的に見て、読者目線で構成しなお
し、悲惨さなり滑稽さなりで入念に味付けをしているところだろう。
苦役列車 (新潮文庫) Amazon書評・レビュー: 苦役列車 (新潮文庫)より
4101312842