火定
評判
火定の評価:
4.29/5点 レビュー 56件。 A ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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4.29/5点 レビュー 56件。 A ランク
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昨2021年に『 星落ちて、なお 』で直木賞を受賞した澤田瞳子氏が、2017年に上梓したパンデミック小説です。新型コロナウイルスの感染が収束の兆しを全く見せない2022年、手にしてみました。
現今のコロナ禍の到来など一切予測されていなかった5年前に書かれたとはにわかには信じられない時代小説です。ここで描かれている状況は、まさに21世紀の今と大いに重なります。貴賤や貧富の差を越えて万人に等しく襲いかかる疾病への恐怖、先の見えないウイルスとの長く険しい闘い、我が身を顧みず献身的に治療にあたる医療従事者たち、不安に煽られた人々による外国人への差別や偏見、科学的根拠に基づかないデマ情報の蔓延――。
そうした混沌状態を、澤田氏の筆は仮借なく描き続けます。澤田氏は『 星落ちて、なお 』では、関東大震災の惨状を容赦なく描写し、その迫力にはとても圧倒されましたが、今回の『火定』でも、病に斃れた人々がやがて放ち始める腐臭が読者の鼻の奥を突くのです。
しかし天然痘との過酷な闘いの中で、主人公たちが惑い、悩む姿によって浮き彫りにされてくるのは、人はいかに生きるべきかという大きな課題です。
若き名代は「おれは施薬院なんぞでくすぶっている男ではない」という、慢心を抱えています。他人への奉仕など眼中になく、いかに自分の立身出世を実現するかに汲々とするばかり。まだまだ青いそんな彼に対して、医師の綱手(つなで)がこう静かに諭す言葉に虚を衝かれました。
「己のために行なったことはみな、己の命とともに消え失せる。じゃが、他人のためになしたことは、たとえ自らが死んでもその者とともにこの世に留まり、わしの生きた証となってくれよう。つまり、ひと時の夢にも似た我が身を思えばこそ、わしは他者のために生きねばならぬ」(192頁)
またいまひとりの主人公ともいえる元侍医・猪名部諸男(いなべのもろお)もまた、濡れ衣を着せられて在任として長く不遇の時を送ったことについて、世間を、そして他人を、強く恨んでいます。その諸男が、蔓延する天然痘と闘う中で、生きながら死の淵をのぞいたからこそ、はじめて自分の生の意義を知ることになります。
「この高い空にもいつかは蜻蛉(とんぼ)が群れ、白い雪が降り始めよう。ならば自分たちに今できるのは、この日を精一杯生きることだけだ」(402頁)
メメントモリ。
これこそがこの小説を閉じた果てに読者を諭し、導く言葉だと感じました。
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