遭難信号
評判
遭難信号の評価:
2.75/5点 レビュー 4件。 - ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全2件 1〜2 1/1ページ
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遭難信号の評価:
2.75/5点 レビュー 4件。 - ランク
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かなりの長編である。
理由は、登場人物たちの描写にある。主な登場人物たちの背景をしっかりと書き込んである。
これが退屈かというと、そうでもない。作者のキャサリン・ライアン・ハワードは、観察力が相当に鋭いのだと思う。だから、各登場人物の個性を会話で、実にうまく表現してゆく。
物語は、簡単そうに見えて、実は複雑でもある。いや、複雑というより偶然がもたらした悲劇と表現した方がいい。
ミステリでは、犯人が計画的に、あるいは突発的に殺人を犯すが、この作品では、ある意味、そうした犯人は存在しない(犯人らしきものは登場するが、ちょっと違うのだ。どう違うかは書けないけど)。つまり、犯人捜しというより、失踪した恋人探しの物語なのだが、いくつかの偶然というか、運命のいたずらによって、複雑なミステリ物語が成立してしまったとも言える。
主人公アダムは、自分にウソをついて失踪してしまった恋人(と言っても、すでに8年間も同棲していて、夫婦同然)の行方を必死で探す。
ひとつの手がかりが、次の手がかりへとつながり、読者はアダムと共に、必死で恋人の行方と、何故、ウソをついて失踪したのかを追いかけることになる。
本作の要は、その行方捜しにある。
ところが、これが、なかなか一筋縄ではいかない。偶然という運命が、事態をややこしくして、アダムと共に、イライラしながら、恋人の後を追いかけることになる。
その過程が読み所と言えそうだ。同時に、アダムはもちろん、登場人物ひとりひとりが、実に個性豊かに描かれ、アダムの目的を理解してくれる人もいれば、ただ、愛想をつかして出て行っただけだという人もいる。
それらの会話の中に、小さな手がかりがあり、アダムはそれを、あっちにぶつかり、こっちにぶつかりながら、一歩一歩、恋人へと近づいてゆく。
大体、30歳に近い大人の女性が、夫と呼んでも差しつかいない恋人のみならず、勤め先の会社にまでウソをついて失踪したのだ。事故に遭った可能性もなく、犯罪の匂いすらしない。普通に考えれば、自らの意志によって、アダムから逃げるために姿を消したと判断できる。
警察も同様の見方をするのも当然だ。
そこで、理由のわからないアダムは孤軍奮闘して、必死で彼女の行方とその理由を突き止めようとする。
要するに、ラストのアッと驚くような、犯人当ての面白さというより、小さな手がかりの積み重ねで、行方を探すことが本作の魅力なのだと思う。
まあ、一応、偶然の積み重ねによる、思いもよらぬ結末は用意されているけどね。
だけど、私は、むしろ、そのラストへ至るまでのアダムの奮闘ぶりの方を楽しく読ませてもらった。
こんなミステリもあっていいと思う。いや、むしろ、その点では、犯人当てをするだけがミステリと思っている人には、不向きかもしれない。
本作が英国推理作家協会新人賞の候補になったのもうなずける(さすが、英国推理作家協会は懐がデカイ。定番ミステリだけを評価せず、こうした変化球もちゃんと評価している)。
だけど、満点はあげない。読者をミスリードさせるため、アダム以外にもうひとり、フランス人の少年ロマンが、登場するのだが、彼の物語だけで、もう1作、別の小説が成立するぐらい、丁寧に書き込んであり、これが、もちろん、本筋に一応は絡んでくるのだが、かする程度(と言うのは少々オーバーかもしれないが)なのが、気になった。
でも、ちょっと好意的に解釈すれば、このかすり方が、事件をややこしくすることに一役買っているのは間違いない。間違いないが、ロマンの人生、丁寧に描写しすぎだよ、と言いたくなる。
まあ、デビュー作だから大目に見てもよいと思うが、多分、この作家の2作目(すでに完成しているようだ)は、さらにおもしろい作品に仕上がっている気がしてならない。