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狼花 新宿鮫IX



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狼花 新宿鮫IXの評価: 10.00/10点 レビュー 1件。 Aランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点10.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
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No.1:
(10pt)

シリーズの大転換期とも云える作品

第5作の『炎蛹』以降、シリーズの通奏低音ともいうべき存在感で物語の影の部分で暗躍していたロベルト・村上こと仙田勝が今回鮫島の標的となり、とうとうこの時が来たかと一言一句噛み締めるように読んだ。

そして今回の泥棒市場の撲滅に関わってくるのが鮫島のライバルで同期のキャリア香田。
しかし今回香田は今までと違い、公安の立場ではなく組対部の理事官として鮫島と対峙する。それは外国人犯罪者に家族を傷つけられたという個人的な怨恨が原動力となっていた。そしてまた仙田も元公安の人間。香田の真意に鮫島は疑問を募らせる。

今までお互い水と油のように相対し合ってた2人がお互いの正義を振りかざし、真っ向から対抗する。
香田は大局的な見方で、関西の大規模ヤクザの稜知会と手を組み、複雑化する外国人犯罪を根こそぎ掃討し、かつての警察とヤクザの持ちつ持たれつの関係というシンプル化を図る。対する鮫島は法を遵守する側が大局的な視点とは云え、法を破り悪に組する事に疑問を呈し、香田の正義に問いかける。
このシリーズを通してのライバル2人が今まで以上に熱い真剣勝負を交わす。

仙田、そして香田。
このシリーズを通して常に鮫島に立ちはだかった2人のライバルが本書ではクローズアップされる事で、警察が歩んできた歴史の闇と光、功罪を浮かび上がらせる。しばしば何が正義なのかを読者にも問いかける。

社会人も20年過ぎてこのシリーズを読むと、鮫島のかざす正義の旗印という物が実に純粋であることが解ってくる。そしてそれを貫くがために輝かしいキャリアとしての出世街道を外れ、あくまで警察官としての正義、遵法者としての警察官であろうとする鮫島の主張が現実離れしているように思えたことを正直に告白しよう。
香田と鮫島のどちらを選ぶかと問われれば私は間違いなく前者を選ぶだろう。大人になると「自分」を貫くことがいかに困難かを思い知らされる。そんな世の中にこの鮫島という男は貴重だし、彼を求める読者がいるのだ。

かつて第2作『毒猿』では東京で幅を効かせる中国系マフィアと暴力団の一大抗争をテーマにしていたが、18年後の本作では外国人犯罪者と暴力団が協力しあい、複雑な犯罪システムを築き上げている。一日千秋の思いがする。

そんな多様化した犯罪を以前のように単純化するために組対部が画策するのはコピーブランドの摘発を端緒に外国人犯罪者の一掃だったというのが面白い。これが果たして今の警察にとって現実味がある方法なのか、もしくは実際に計画されているかどうかは寡聞にして知らないが、よく考えたものだと感嘆した。
そしてその最高責任者として常に鮫島の前に立ちはだかる存在である香田を配したのが面白い。その動機―自身の家族を自宅で外国人犯罪者にて襲われた―も十分練られていて無理がなく、思わず唸ってしまった。

このように犯罪が複雑化し、細分化されるにつれ、事件も複雑化する。つまりそれはストーリーをも複雑化を招く。
しかし作者大沢氏は練達の筆捌きで同時進行する複数のストーリーを一点に見事収斂させる。毎度の事だが、本当に見事と云うしかない。

ちょっと下世話な話をしよう。本作のキーパーソンである呉明蘭なる中国人の女性盗品鑑定人。恐らくタイトルはこの女性を指したものだろう。
本作には銀座・六本木の夜をホステスとして渡り歩いたこの明蘭の過去を探るに当り、東京のクラブの内情が語られる。この辺は銀座・六本木の夜を颯爽と闊歩している大沢氏の本領発揮とも云うべきで、恐らく連日連夜足繁くクラブに通い、ホステスを口説きながら取材したに違いない。
そしてその“夜のクラブ活動”の成果を作品の緊張感を損なうことなく、淀みなくストーリーに溶け込ませるのはやはり熟練の技。十分経費として落とせる内容になっている。

さて90年に「卑しき街の聖人」という英題を付して現れた「新宿鮫」こと鮫島もなんと45歳を越える年齢になってしまった。
そしてシリーズの巻を増すごとに恋人、晶の存在が希薄になっているが、本作でも彼女の占めるウェートはわずかに過ぎない。この辺りは作者も幾分持て余し気味のような気がしないでもない。この2人の年齢を考えるとそろそろ次作あたりで何らかの決着がつくような気がする。

警官を集団における一つの駒としてではなく、一個の人間として描き、それぞれの正義観の狭間でもがき、葛藤しながらそれぞれが生き方を貫く極上の警察小説、『新宿鮫』シリーズ。
この作品の熱気はまだまだ冷めそうにない。



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Tetchy
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