(短編集)
挫折のエリート
- 美容整形 (12)
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二十歳の頃に読んだ森村作品のなかのひとつで、 また読みたくなり発注しました。 ただ、文字が小さくて読みづらい 。。。 改訂版が発売されないかなぁ~ | ||||
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本作品は1970年11月青樹社から初出版された七編の短編集です。森村氏は大学を卒業後10年間勤めたホテルマン時代に、“人間をじっくり観察する機会を得て小説を書くヒントになった”と述べています。七編とも「〇〇社員」というタイトルになっています。 「埋没社員」 会社に全身全霊を傾け貢献し役職が上がるに従い、自分は会社にとって無くてはならない存在だと錯覚してしまう。実は会社にとって、それに代わる歯車はいくらでも用意してあるのだ。鳥居道也はサナトリウムで一年休職し、体調の回復とともに退院、復職する日が近づいていた。上司である高木正彦は鳥居の復帰を心待ちにして見舞いに行く。「鳥居君退院おめでとう」「会社は順調に業績を伸ばし、順風満帆だから、安心して帰って来なさい」と、お決まりの見舞い言葉をかける。しかし、鳥居は、二日後裏山で首を吊って自殺してしまった。自分なんていなくても会社は、なんの淀みもなく、自分は会社の小さな歯車の一つであった事を知り絶望するのだ。この話の面白いことは、高木が自殺した鳥居をバカな奴だと思うのだが、高木も同じ思いをさせられてしまう事だ。 「競合社員」 就職先ナンバーワンの旅行斡旋業(トラベルエージェント)「京急旅行」へ入社した大原金吾は、常に同期入社の渋江竹男と競いあっていた。しかし、それは大原の思い過ごしだった。何故なら、大原は全国営業所第二位の有楽町営業所所長渋江の部下として配属されてしまったからだ。それは渋江が、エリートコースのパスポートを獲得した証しでもあった。大原は挫折を感じないわけにはいかない。ところが、渋江は自ら獲得した地方農協旅行団の世界一周旅行旅費89万8千円、参加者62名分のパスポートと旅券の入った鞄を出発祝いの飲み会の後、公園に置き忘れてしまう。当然、旅行計画は大失敗に終わる。サラリーマンは常にライバルの失敗を喜ぶ屈折した心を持っている。大原は鞄を忘れていた事を知っていたのだろうか?が、興味深く書かれている。 「プロ意識過剰社員」 河西友信は家庭も円満で、飛行時間1万6千時間を超える全日本航空国際線のベテランパイロットだ。ところが、もう50才にとどこうとする年齢の河西だったが、自宅へ帰る途中のタクシー待ちの間に、丸の内の商社に勤める20代の女に一目惚れしてしまい、すぐに交際が始まってしまう。いつもの様に操縦席に座って飛行を開始した河西の航空機が何者かによってハイジャックされ“北K国へ行け”と命じられる事件に巻き込まれる。それと同時刻、地上では、河西の若い恋人が突然飛び込んで来た乗用車によって重症を負わされる。河西は空の上でハイジャックと争いながら乗客の安全を必死に守ろうとしていた。それと同時に最愛の恋人が死んでしまった事は空の上から知る由もない。なぜ、そこまで惚れ込んだかという記述は秀逸です。もちろん、過去日本で起こったハイジャック事件が題材になっています。 「復讐社員」 佐倉と井田は東京B大ワンダーフォーゲル部の主将と副主将であった。そもそも、ワンダーフォーゲルというのはドイツ語で「渡り鳥」を意味するもので、山野をハイキングする程度のものであった。しかし、近年の山岳登山ブームの影響もあり、本格的な山岳登山を目指すようになってしまった。高校を卒業したばかりの下級生に高度な登山技術を教え込まなければならない。当然としてスパルタ(しごき)教育が行われた。その訓練のやり過ぎによって下級生の仲岡良治を死亡させてしまうのだ。二人は刑務所に入る。しかし、今の法律では数年も入所すれば罪を償ったとして出所できる。しかし出所してからは前科者として扱われ肩身の狭い思いを強いられる。従って、就職のあても全く無かった。だが、デパートの向こうを張る小売業界の新興勢力として最近台頭してきたスーパーストア「エイコーストア」から社員採用の通知が来た。喜び勇んだ二人だったが、エイコーストアは息子や娘が暴力や理不尽な事件によって死亡させられた親たちが、法律以上に厳しい罰を与えることを目的とした組織だったのだ。可愛い息子や娘を失った両親は、数年刑務所に入っただけで罪を償って世間に出てくるのが許せないのだ。 「失脚社員」 サラリーマンとして勤めるからには誰でも栄光の階段を上り頂上へ行きたいと思うものだ。正木和也は、まさに、その頂上行きのパスポート握ったと思った。それは彼が勤務する東都観光社長、久永謹一郎の一人娘で美し過ぎる恵美を自分の腕に抱いた時だった。間違いなく握った(抱いた)栄光へのパスポートだったが、その栄光の世界は正木など底辺の者を撥ねつけるような厳格な世界であったのである。父親の謹一郎は、出世目的で娘の恵美に近付いた正木の過去を全て炙り出し、社員としても、人間としても底辺に突き落としてしまう。 「女衒社員」 “女衒(ぜげん)”とは今では聞きなれない言葉。辞書を調べると、芸娼斡旋人とある。今日では女性に売春をさせて金を得る人物のことだろう。中川は大手週刊誌「週刊世論」の嘱託ルポライターだ。「週刊世論」の企画で「世界の私娼窟(あかせん)」探訪の企画が起きた。中川は定石通りハンブルグやアムステルダムの「飾り窓」あたりから取材を始めたが、すでに多くの記事が書かれていて新鮮味が無いことを感じる。そこからフェリーに乗ってイスタンブールへ渡った時“ポン引き”から声をかけられた。片言で話を聞くと皮肉なことに「いい日本人の女がいるよ」と言うのだ。信じられない思いで、その誘いにのると、そこで待っていた女は、かつて、中川が上野行きの急行列車に同乗した八城幸子だった。当時、彼女はまだ18才で素朴であか抜けない風貌ながら、東京に出て美容師になると夢を語っていた。都会を全く知らない地方から来る若い少女を言葉巧みに誘い、将来の夢や希望を蝕む女衒人たちを許せない。 「美容整形社員」 交際していた中山洋一と藤森彩子は、総合商社東洋物産の平凡なサラリーマンだった。サラリーマンが出世するには仕事と同じくらい見た目も重視される。しかし、二人は風采や容貌が貧弱で、ビジネスエリートとしては当てはまらなかった。そこで訪れたのが都心の美容整形医院だった。すると二人は見間違える様な容姿を手に入れる。彩子に至っては人工の処女膜再生手術まで施してもらった。同じ仕事をしていても容姿が良くなっただけで社内での評価は上昇し、それぞれ花形部署へ昇進した。それと同時に異性からも好まれる様になり、二人は別れ、別々の相手と将来へ歩み出すのだ。しかしながら美容整形で得た二人の容姿は虚偽であるのだから、二人の社会での栄光も、ほとんど虚偽なのだ。美容整形などしなければ二人は平凡ながらもサラリーマン家庭を築いていただろう。 平凡で様々なサラリーマンや人間ドラマを描きながら、そこに潜む矛盾を提議している様子が十分に読み取れます。 | ||||
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本作品は1970年11月青樹社から初出版された七編の短編集です。森村氏は大学を卒業後10年間勤めたホテルマン時代に、“人間をじっくり観察する機会を得て小説を書くヒントになった”と述べています。七編とも「〇〇社員」というタイトルになっています。 「埋没社員」 会社に全身全霊を傾け貢献し役職が上がるに従い、自分は会社にとって無くてはならない存在だと錯覚してしまう。実は会社にとって、それに代わる歯車はいくらでも用意してあるのだ。鳥居道也はサナトリウムで一年休職し、体調の回復とともに退院、復職する日が近づいていた。上司である高木正彦は鳥居の復帰を心待ちにして見舞いに行く。「鳥居君退院おめでとう」「会社は順調に業績を伸ばし、順風満帆だから、安心して帰って来なさい」と、お決まりの見舞い言葉をかける。しかし、鳥居は、二日後裏山で首を吊って自殺してしまった。自分なんていなくても会社は、なんの淀みもなく、自分は会社の小さな歯車の一つであった事を知り絶望するのだ。この話の面白いことは、高木が自殺した鳥居をバカな奴だと思うのだが、高木も同じ思いをさせられてしまう事だ。 「競合社員」 就職先ナンバーワンの旅行斡旋業(トラベルエージェント)「京急旅行」へ入社した大原金吾は、常に同期入社の渋江竹男と競いあっていた。しかし、それは大原の思い過ごしだった。何故なら、大原は全国営業所第二位の有楽町営業所所長渋江の部下として配属されてしまったからだ。それは渋江が、エリートコースのパスポートを獲得した証しでもあった。大原は挫折を感じないわけにはいかない。ところが、渋江は自ら獲得した地方農協旅行団の世界一周旅行旅費89万8千円、参加者62名分のパスポートと旅券の入った鞄を出発祝いの飲み会の後、公園に置き忘れてしまう。当然、旅行計画は大失敗に終わる。サラリーマンは常にライバルの失敗を喜ぶ屈折した心を持っている。大原は鞄を忘れていた事を知っていたのだろうか?が、興味深く書かれている。 「プロ意識過剰社員」 河西友信は家庭も円満で、飛行時間1万6千時間を超える全日本航空国際線のベテランパイロットだ。ところが、もう50才にとどこうとする年齢の河西だったが、自宅へ帰る途中のタクシー待ちの間に、丸の内の商社に勤める20代の女に一目惚れしてしまい、すぐに交際が始まってしまう。いつもの様に操縦席に座って飛行を開始した河西の航空機が何者かによってハイジャックされ“北K国へ行け”と命じられる事件に巻き込まれる。それと同時刻、地上では、河西の若い恋人が突然飛び込んで来た乗用車によって重症を負わされる。河西は空の上でハイジャックと争いながら乗客の安全を必死に守ろうとしていた。それと同時に最愛の恋人が死んでしまった事は空の上から知る由もない。なぜ、そこまで惚れ込んだかという記述は秀逸です。もちろん、過去日本で起こったハイジャック事件が題材になっています。 「復讐社員」 佐倉と井田は東京B大ワンダーフォーゲル部の主将と副主将であった。そもそも、ワンダーフォーゲルというのはドイツ語で「渡り鳥」を意味するもので、山野をハイキングする程度のものであった。しかし、近年の山岳登山ブームの影響もあり、本格的な山岳登山を目指すようになってしまった。高校を卒業したばかりの下級生に高度な登山技術を教え込まなければならない。当然としてスパルタ(しごき)教育が行われた。その訓練のやり過ぎによって下級生の仲岡良治を死亡させてしまうのだ。二人は刑務所に入る。しかし、今の法律では数年も入所すれば罪を償ったとして出所できる。しかし出所してからは前科者として扱われ肩身の狭い思いを強いられる。従って、就職のあても全く無かった。だが、デパートの向こうを張る小売業界の新興勢力として最近台頭してきたスーパーストア「エイコーストア」から社員採用の通知が来た。喜び勇んだ二人だったが、エイコーストアは息子や娘が暴力や理不尽な事件によって死亡させられた親たちが、法律以上に厳しい罰を与えることを目的とした組織だったのだ。可愛い息子や娘を失った両親は、数年刑務所に入っただけで罪を償って世間に出てくるのが許せないのだ。 「失脚社員」 サラリーマンとして勤めるからには誰でも栄光の階段を上り頂上へ行きたいと思うものだ。正木和也は、まさに、その頂上行きのパスポート握ったと思った。それは彼が勤務する東都観光社長、久永謹一郎の一人娘で美し過ぎる恵美を自分の腕に抱いた時だった。間違いなく握った(抱いた)栄光へのパスポートだったが、その栄光の世界は正木など底辺の者を撥ねつけるような厳格な世界であったのである。父親の謹一郎は、出世目的で娘の恵美に近付いた正木の過去を全て炙り出し、社員としても、人間としても底辺に突き落としてしまう。 「女衒社員」 “女衒(ぜげん)”とは今では聞きなれない言葉。辞書を調べると、芸娼斡旋人とある。今日では女性に売春をさせて金を得る人物のことだろう。中川は大手週刊誌「週刊世論」の嘱託ルポライターだ。「週刊世論」の企画で「世界の私娼窟(あかせん)」探訪の企画が起きた。中川は定石通りハンブルグやアムステルダムの「飾り窓」あたりから取材を始めたが、すでに多くの記事が書かれていて新鮮味が無いことを感じる。そこからフェリーに乗ってイスタンブールへ渡った時“ポン引き”から声をかけられた。片言で話を聞くと皮肉なことに「いい日本人の女がいるよ」と言うのだ。信じられない思いで、その誘いにのると、そこで待っていた女は、かつて、中川が上野行きの急行列車に同乗した八城幸子だった。当時、彼女はまだ18才で素朴であか抜けない風貌ながら、東京に出て美容師になると夢を語っていた。都会を全く知らない地方から来る若い少女を言葉巧みに誘い、将来の夢や希望を蝕む女衒人たちを許せない。 「美容整形社員」 交際していた中山洋一と藤森彩子は、総合商社東洋物産の平凡なサラリーマンだった。サラリーマンが出世するには仕事と同じくらい見た目も重視される。しかし、二人は風采や容貌が貧弱で、ビジネスエリートとしては当てはまらなかった。そこで訪れたのが都心の美容整形医院だった。すると二人は見間違える様な容姿を手に入れる。彩子に至っては人工の処女膜再生手術まで施してもらった。同じ仕事をしていても容姿が良くなっただけで社内での評価は上昇し、それぞれ花形部署へ昇進した。それと同時に異性からも好まれる様になり、二人は別れ、別々の相手と将来へ歩み出すのだ。しかしながら美容整形で得た二人の容姿は虚偽であるのだから、二人の社会での栄光も、ほとんど虚偽なのだ。美容整形などしなければ二人は平凡ながらもサラリーマン家庭を築いていただろう。 平凡で様々なサラリーマンや人間ドラマを描きながら、そこに潜む矛盾を提議している様子が十分に読み取れます。 | ||||
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以前読んだのですが再度読みたくなり購入。 まさか入手できるとは。 短編集ですので読み易いです。 面白さは人それぞれですから何とも言えませんが、時代はちょっと前です。 携帯もパソコンも無い時代ですので、その上で読んでみると面白いと思います。 今の時代なら「そうは行かないでしょ」と言う場面もありますが、そこは「そういうものだ」 と思って読んでください。 個人的には「競合社員」が面白いです。 | ||||
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エリートサラリーマンの挫折をコミカルに描いた7作の短編集。 どの作品も洗練された結末で面白かった。 欲を出すとせっかく手に入れた地位、名誉共あっけなく崩れ去ったりぼろが出て自らが滅びるさまがよく描けている。 一般文学通算1772作品目の感想。2016/12/01 18:10 | ||||
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