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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数1,469

全1,469件 1,261〜1,280 64/74ページ

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No.209
(6pt)

謎が謎を呼び、最後まで謎だらけ

歴史に題材を取ったミステリー? 怪奇趣味の幻想譚? 「ダ・ビンチコード」の流れの美術品の暗号解読もの? そのいずれにも該当する、大変評価が難しい作品である。
急死した父親の遺品を整理していたリー・ホロウェイは、「ポールは溺れ死んだのではありません」という手紙を見つける。5年前にプラハで死んだ弟ポールは、何か事件に巻き込まれていたのか? 真相を探るためリーはプラハに飛び、差出人のヴェラという女性に会う。ところが、プラハの街でリーを待っていたのは、現実と幻想、過去と現在が入り組んだ迷宮の世界だった。
はっきり言って、途中は中だるみで退屈。幻想譚好きには受けるかもしれないが、ミステリーとしては面白くない。
ただ、最後の最後に、読者の意表をつく展開で大きな謎を残して終わるところは上手い。
アイザック・アダムスン:コンプリケーション (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
No.208
(7pt)

構成が巧みな本格ミステリー

イギリスの田舎町の新聞記者ドライデン・シリーズの第3作目は、なかなか渋いミステリーだ。
第二次世界大戦中に捕虜収容所があった場所での遺跡発掘作業中に、トンネルと骸骨が発見された。トンネルは脱出用で、遺骨は脱出しようとしたイタリア兵と思われたが、奇妙なことに、遺骨は収容所の中に向かう格好で死んでいた。さらに、頭には銃撃された跡があり、盗品と思われる真珠や銀の燭台を持っていた。果たして、この骸骨は誰なのか? なぜ、収容所の中に向かっていたのか?
犯人探しではなく、記事にするための調査を進めたドライデンは、戦後、収容所から解放されて地域に住み着いたイタリア人社会に接触し情報を集めていく。すると、収容されていたイタリア人捕虜による窃盗事件が頻発していたことを知り、さらに今度は、発掘を指揮していたイタリア人教授が殺されるているのを発見することになった。
第二次世界大戦当時からの因縁が絡み合い、一筋縄ではいかない複雑な事件の様相が明らかにされるプロセスは実にお見事! 最後にはすっきりした(解決した)感覚が得られること間違い無し。いわゆる「英国本格派ミステリー」好きにはオススメだ。
ジム・ケリー:逆さの骨 (創元推理文庫)
ジム・ケリー逆さの骨 についてのレビュー
No.207
(6pt)

いろんな意味で複雑

ニューヨーク市警の超美貌刑事キャシー・マロリー・シリーズの第7作。テーマ、構成、キャラクター、物語展開など、いろいろな意味できわめて複雑な作品なので、マロリー・シリーズを未読の方はぜひ第1作から読むことをオススメする。
マロリーの育ての親の親友でマロリーの相棒でもあるライカー刑事は、銃弾を受けた後遺症により傷病休暇中だが、一向に職場復帰の気配を見せず、弟が経営する事件現場清掃会社の経営に没頭し、さらに、そこで働く“せむし”の女性・ジョアンナに秘かに心を寄せていた。そんなライカーに苛立ったマロリーは、お得意の住居不法侵入、盗聴などを駆使して、謎の多いジョアンナの正体をさぐり始める。ジョアンナの周辺にはFBIの姿がつきまとい、ジョアンナに絡んでいたホームレスが殺されるという事件が発生した。ジョアンナとは、誰なのか? なぜ様々な事件を引き寄せるのか?
タイトル「陪審員に死を」が示すように、ある裁判の陪審員が次々に殺されるという連続殺人が中心のストーリーなのだが、その裁判の様子が詳しくは説明されず、ジョアンナと陪審員の関係もなかなか判明しないため、物語の前半は全体の複雑な構成を理解するのに非常に骨が折れて読みづらい。また、マロリーとライカーの関係を知っていないと、マロリーの苛立ちやライカーの心理を理解できないだろう。
この作品をネタバレ無しで説明するのは非常に難しい。重ねて言うが、絶対に第1作から読んで、マロリーのキャラクターを理解した上で読んでいただきたい。そうすれば、本作に登場する異様なキャラクター(ジョアンナ、彼女の飼い猫、ラジオパーソナリティー、音響係など)も受け入れて楽しめると思う。
キャロル・オコンネル:陪審員に死を (創元推理文庫)
キャロル・オコンネル陪審員に死を についてのレビュー
No.206
(7pt)

老いてますます頑固に

ご存知、リーバス警部シリーズの第16作。2005年、G8サミットが開催されたエジンバラでの出来事を濃密に描いた、大型警察小説である。
G8に反対する大規模なデモで騒然とするエジンバラで、連続殺人と思われる事件が発生した。ひたすらG8の成功を願う警察上層部は、事件が大きな話題になるのを避けようとするが、老刑事・リーバスには、それが我慢できなかった。同僚・シボーンの協力を得て、上司に盾突きながら捜査を押し進めていくリーバスの前には、宿敵のギャング・カファティ、ロンドンの公安の責任者、防衛産業の大物などが立ちふさがる。
本作の読みどころは、定年まであと一年になったリーバスの磨きがかかった頑固さだろうか。政治的、社会的な権力からの圧力に屈することなく、ありとあらゆる知恵を使って捜査妨害をはねのけていく。それは、「犯人を逃がさない」という刑事としての使命感であり、そのために家族や自分の生活を犠牲にしてきた歴史を無価値にしないためでもある。
事件の真相を明らかにしてからのリーバスの孤独と執念深さに、一匹狼の美学とペーソスがよく表れていた。また、シボーンの両親が登場し、彼女の家族関係や家族観が明らかになるのも、新しい面白さだった。
シリーズ愛読者にはもちろん、警察小説ファンにもオススメ。
イアン・ランキン:死者の名を読み上げよ〔ハヤカワ・ミステリ1834〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
イアン・ランキン死者の名を読み上げよ についてのレビュー
No.205
(7pt)

やや重たいサイコミステリー

「夏を殺す少女」で日本デビューしたアンドレアス・グルーバーが、「夏を〜」以前に書いていた保険調査専門探偵ホガート・シリーズの第一作。シリーズはすでに第2作が発表されており、全3部作で計画されているという。
ウイーンの探偵ホガートが依頼されたのは、プラハの美術館に貸出した絵画が焼失した事件と、それを調査するためにプラハに派遣され、「焼失した絵画は偽物だ」という連絡をよこした後に行方不明になった保険会社調査員を探し出すこと。プラハでの調査を開始したホガートは、行方不明の調査員の足取りを追う中で、地元の女性探偵イヴォナと出会い、彼女が調査している猟奇連続殺人事件に関わることになる。
物語は途中から、保険会社からの依頼はそっちのけで連続殺人の捜査が中心になり、「あれ?」と思っているうちに意外な形で両者がつながり、一応の辻褄はあってくるのだが、やや強引な感じがするのは否めない。この点を始め、全体的に粗削りな印象を与えるが、古いモノクロ映画を偏愛する主人公のキャラクター設定が成功して、読み応えは十分。猟奇殺人のサイコパスが主題になっていることに加えて、「(プラハの中心を流れる)ヴルタヴァ川の霧の中では夢と現実の境界はあいまいになる」といわれるプラハの街も重要な役割を果たしている、やや重い印象のホラー風味サイコミステリーである。
アンドレアス・グルーバー:黒のクイーン (創元推理文庫)
アンドレアス・グルーバー黒のクイーン についてのレビュー
No.204
(7pt)

南国の甘さをまとったハードボイルド

佐々木譲が1986年に発表した初期のハードボイルド作品。円熟期を迎える前の甘さが感じられるといえば大作家には失礼かもしれないが、ロマンチックな要素が強いハードボイルドである。
台風が接近する那覇に到着した主人公・泰三は、執拗な追手から逃れるために小さくて目立たないホテルに投宿し、那覇からの脱出の手段を模索する。ところが、ホテルの専務・順子は10年前、泰三が真剣に惚れながら挨拶もなしに別れざるを得なかった相手だった。嵐の那覇で再会した二人は、それぞれの10年の歴史を背負いながら交差し、海外脱出への道を突っ走る。
非合法組織から逃げる泰三を主人公にしたマンハントが本筋のサスペンスという作品の位置付けだが、私には、順子を愛しながら捨てざるを得なかった泰三の自分を締め上げるような生き方を中心に据えたハードボイルド作品と読めた。泰三を追う組織、泰三が追われる理由などがはっきり書かれていないことも、作者がサスペンスを重視していないことの現れだと思う。
台風に直撃された那覇の二日間に凝縮された、二人の人生。南国の花の甘さが香るハードボイルドである。
佐々木譲:夜を急ぐ者よ (ポプラ文庫)
佐々木譲夜を急ぐ者よ についてのレビュー
No.203
(8pt)

読みやすくて、面白い

ポール・リンゼイが別名で発表した、「元FBI捜査官スティーブ・ヴェイル」シリーズの第一作。残念ながら、2011年に作家が亡くなったためシリーズは2作で終わってしまっている。
TV司会者が殺され、FBIに100万ドルを要求する脅迫状が届き、支払われない場合には政治家を殺すと脅迫してきた。FBI捜査官がニセの金を持って指定の場所に赴くが、犯人は捜査官を殺害して逃走し、数日後に予告通り政治家が殺害された。次に犯人は、指名したFBI捜査官が200万ドルを持参するように要求するが、本物の200万ドルとともに捜査官が消えてしまった。捜査に行き詰まったFBI高層部は、犯人追跡に特異な才能を持っていた元捜査官スティーブ・ヴェイルに協力を依頼する。FBIの捜査手法を熟知し、さらに内部情報をつかんでいると思われる狡猾な犯人を相手に、ヴェイルは知力の限りを尽くした戦いを挑む。
ストーリーが明快でテンポ良く展開されるので、非常に読みやすい。また、それぞれのシーンが目に浮かぶように描写されており、登場人物も美男美女で、まさに映画向きのアクションミステリーといえる。
ノア・ボイド:脅迫(下) (ソフトバンク文庫)
ノア・ボイド脅迫 についてのレビュー
No.202
(7pt)

マッカーシーファンにオススメ

現代アメリカ文学の巨匠・マッカーシーが書き下ろした映画脚本。リドリー・スコット監督、主演がマイケル・ファスベンダー、ペネロペ・クルスという豪華な陣容で映画化された(日本でも公開済み。未見)が、評判はいまいちだったようだ。
濡れ手に粟の金もうけのためたった一度のつもりで麻薬密輸に関わった弁護士が、ある手違いが生じたために麻薬マフィアの報復を受けるハメになり、凄絶な暴力の世界に巻き込まれてしまう・・・。物語の始まりこそ穏やかで美しいが、中盤からは一気に、正義や倫理など無縁の暴力が連続し、いつも通りのマッカーシーの世界が繰り広げられる。そして最後に微笑むのは・・・。
本作はあくまで脚本であって、小説ではない。つまり、セリフとト書きだけで構成されており、心理描写は省かれている。したがって、映像的なイメージはありありと思い浮かべられるが、行間を読み込む楽しみは欠けている。この点が、小説好きには物足りないだろう。
コーマック・マッカーシー:悪の法則
コーマック・マッカーシー悪の法則 についてのレビュー
No.201
(6pt)

先駆的な社会派ミステリー

スイスの作家・フリードリヒ・デュレンマットの1953年の作品。
スイス・ベルンの引退間近の老警部が、ナチス強制収容所で悪行を働いた医師が身分を偽って病院を開いていることを暴こうをする、社会派の心理サスペンス。ただ、舞台装置も登場人物も1950年代そのもので、現在読むと古くささを感じざるを得ない。良くも悪くも、第二次世界大戦直後という時代背景の色濃い作品だ。
フリードリヒ・デュレンマット:疑惑
フリードリヒ・デュレンマット疑惑 についてのレビュー
No.200
(7pt)

尻すぼみの“罪と罰”

冷酷な父親に「この世界を不幸にする存在」、「邪」の家系を継ぐ者として育てられた少年は、愛する者を守るために父親の殺害を決意する・・・。数年後、大人になった少年は再び、愛する人のために、自分を捨てて行動を開始する。「愛する人のために殺人を犯すことは罪なのか?」という大きなテーマの意欲作である。
13歳の少年による父親殺害計画、大人になってからの整形手術による変身と愛する人を守るための連続殺人など、物語の基本構成とストーリー展開は非常に面白いのだが、終盤になってから尻すぼみの感があった。思うに、主人公の「邪」のスケールが小さいことと、本筋に絡んでくるテロ組織に現実感も恐怖感も感じないことが、尻すぼみの原因だろう。主人公の前に立ちふさがる老刑事、主人公をサポートする探偵など、魅力的なキャラクターが登場しているだけに、主人公の心理の振れ幅のスケールアップにもうひと踏ん張りして欲しかった。
中村文則:悪と仮面のルール (100周年書き下ろし)
中村文則悪と仮面のルール についてのレビュー
No.199
(8pt)

夜が明けない極北の村の憂鬱

フィンランド北極圏にある小さな町の警察署長カリ・ヴァーラ警部シリーズの第一作。アメリカ生まれでフィンランド在住という異色作家の実質的なデビュー作である。
一日中太陽が昇ることが無いという真冬の極北の村で、ソマリア人女優の惨殺死体が発見された。性犯罪でもあり、人種差別犯罪でもあるというやっかいな事件の捜査に取りかかったカリだが、容疑者として浮かび上がったのが、カリの前妻を奪った男性だったことから、微妙な立場に立たされることになる。さらに、第二、第三の殺人が起き、事件はいっそう複雑な様相を呈してくる。
二十四時間闇が続く極夜を、人々は家に隠り、酒を飲んでひたすら耐え忍ぶ。そんな極北の村の重苦しさに押し潰されそうになりながら懸命に捜査するカリに、小さなコミュニティならではの複雑な人間関係と、人種差別に敏感なフィンランド社会で政治問題化することをおそれる警察上層部からのプレッシャーがのし掛かってくる。さらに、カリのアメリカ人妻は妊娠中で、初めての出産への不安とフィンランド社会に溶け込めないことへの焦燥から情緒不安定になってきた。そんな八方ふさがりのカリが苦闘の末に見いだした事件の真相は、「真相を見つけなければ良かった」と思うほど重く、切なく、やり切れないものだった・・・。
スウェーデンのヴァランダー警部シリーズに通じる、社会派の色が濃い警察小説であり、今後の翻訳出版が待ち遠しいシリーズである。
ジェイムズ・トンプソン:極夜 カーモス (集英社文庫)
ジェイムズ・トンプソン極夜 カーモス についてのレビュー
No.198
(7pt)

良くも悪くも、桐野ワールド

「OUT」、「柔らかな頬」以降、2005年までに書かれた短編集。どれも、一筋縄ではいかない女性たちが登場し、黒々とした毒が充満した、その後の桐野ワールドを想像させる。
好き嫌いがはっきり別れそうな作品集である。
桐野夏生:アンボス・ムンドス―ふたつの世界 (文春文庫)
桐野夏生アンボス・ムンドス についてのレビュー
No.197
(6pt)

混迷の街のポリスストーリー

ニューヨーク市警の現役刑事が書いて、エドガー賞の候補になったという警察小説。主役はニューヨーク市警刑事のニック・ミーアン。鋭い推理力を持っている訳ではなく、暴力的な訳でもなく、格別粘り強さで評価されている訳でもない、どこにでもいそうな刑事である。
物語の発端は、公園の木で首吊り自殺した女性が発見されたこと。女性の身元の確認が必要だし、発見者の男もうさんくさいしで、ニックと相棒のエスポジートは気が乗らない業務にうんざりしていたところに、射殺事件が発生。射殺された男はエスポジートの情報屋だった・・・。さらに拉致監禁事件や連続強姦事件も発生し、ニックとエスポジートは捜査に振り回されることになる。その一方でニックは、内部監察局からエスポジートを監察する任務も命じられていた。
関係なさそうな事件や相棒との関係が段々と絡み合ってきてクライマックスを迎えるところは、作者の構成力を感じさせる。ただ、自らの体験をベースに書き上げたというだけあって、妙なリアリティーはあるが、その分、エンターテイメントとしてはスケール感に欠ける作品だった。

エドワード・コンロン:赤と赤〔上〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
エドワード・コンロン赤と赤 についてのレビュー
No.196
(6pt)

軽〜い泥棒ファンタジー

かなり腕のいい泥棒が、ひょんなことから郊外の住宅に置き去りにされた中学生の双子と知り合い、疑似家族を築いていくという、短編7本シリーズ。まあ、良くあるタイプの義賊というか、憎めない泥棒が主人公で、7本それぞれにひねりが効いた、起承転結のある泥棒話が挿入されている。
こういうタイプでは、どうしてもローレンス・ブロックの「泥棒バーニイ」や「殺し屋ケラー」を想起してしまうので採点が辛めになりがちだが、本作も「どうも、いまいち」な評価になってしまった。日米の社会的背景の違いもあるし、主役に中学生を設定した時点で軽くならざるを得なかったということだろう。
宮部みゆき:ステップファザー・ステップ (講談社文庫)
宮部みゆきステップファザー・ステップ についてのレビュー
No.195
(8pt)

怪人だらけのドタバタコメディー

これはもうカール・ハイアセンにしか書けない、カール・ハイアセンの世界。読者を選ぶ作品だ。これまでの彼の作品の愛読者ならツボにはまること間違い無し。あとは、フロスト警部などのドタバタコメディー系ミステリーが好きな人にはオススメ。
カール・ハイアセン:これ誘拐だよね? (文春文庫)
カール・ハイアセンこれ誘拐だよね? についてのレビュー
No.194
(6pt)

上手いけど、感動はない

娼館で育てられた孤児のアイ子は、怪物的な悪女になって、幸せそうな世間に復讐する。
こういう話を書かせると、桐野夏生は本当に上手い!と感心するのだが、本作はキャラクターもストーリーも類型的過ぎて物足りない。もうちょっと粘っこく書いて欲しかった。
特に、最後の決着の付け方は、作者もどうしていいか分からなくなったのかと思うほどバッサリで、脱力させられた。
桐野夏生:I'm sorry,mama. (集英社文庫)
桐野夏生I'm sorry,mama. についてのレビュー
No.193
(9pt)

予想を裏切った、大傑作!

ノルウェーを始め、北欧で大人気という「ハリー・ホーレ警部」シリーズの第7作目(日本では2作目)。先に、シリーズ外作品「ヘッドハンターズ」を読んでイマイチだったのでさほど期待しないで読み始めたのだが、期待を裏切る傑作ミステリーだった。
オスロ警察のはぐれ者・ハリー警部が挑むのは、これまでノルウェーにはいないと思われていた連続殺人犯。事件の発端は、どこにでもありそうな主婦の失踪事案だったが、捜査に着手したハリーは、ここ10年ほどで似たような、未解決の女性失踪事案がかなりの数に登ることに気がつき、連続殺人の疑いを持つ。さらに、ハリーのもとに「スノーマン(雪だるま)」と署名された、挑戦的な手紙が届き、失踪した主婦の家の庭には雪だるまが作られていた。
新たに部下になった美人刑事・カトリーネほか3人を加えた、たった4人のチームながら、じわじわと犯人を追いつめていくハリーに対し、狡知に長けた犯人は様々なミスリードを仕掛けて捜査をかく乱する。
猟奇的な連続殺人が10数年前の警官失踪事件とつながり、物語は複雑で深くなり、犯人探しのサスペンスがどんどん緊迫感を増していく。さらに、何度もどんでん返しがあり(ディーヴァーほどではないが)、最初に張られていた伏線が最後に効果的に明らかにされ、読者はあっと驚き、ほっと息を吐くクライマックスを迎えることになる。
警察小説、サイコミステリー、社会派サスペンス・・・どのジャンルのファンにもオススメだ。
ジョー・ネスボ:スノーマン 上 (集英社文庫)
ジョー・ネスボスノーマン についてのレビュー
No.192
(7pt)

もうちょっと読ませて欲しい

アメリカでノアール小説への貢献ということで受賞した、中村文則の2作品のひとつ。中村文則という作家は知らなかったのだが、ノアール小説好きとしては見逃す訳にはいかず、手に取ってみた。読後感を一言でいえば、「え、もう終わり?」というところ。テーマ、ストーリー、キャラクター、いずれも文句無く面白いのだが、エンターテイメントとしては短か過ぎる。少なくとも倍以上のボリュウムで書き込んでもらいたかった。
掏摸(すり)のテクニックは詳細で緊迫感のある描写で読ませるが、ストーリーの肉付けが薄いのが物足りない。主人公の生い立ち、別れた女、重要な役割を担う少年との関わり、主人公が強制される犯罪の背景など、エンターテイメントとして膨らませていける要素がいっぱいあるだけに、残念な気がした。
中村文則:掏摸
中村文則掏摸 についてのレビュー
No.191
(8pt)

黒トリュフ、食べてみたいもんだなぁ

フランスの片田舎、サンドニ村の唯一人の警察官にして警察署長であるブルーノ・シリーズの第三弾。この地方の貴重な特産品であるトリュフに中国産の粗悪品が混入されているという疑惑の調査が、フランス現代史の暗部に端を発した凄惨な殺人と移民間の抗争にまで発展し、愛する村の平穏な生活を守るためにブルーノは全身全霊をかけて戦うことになる。
シリーズ初読なので断言は出来ないが、超人的な推理や科学的な捜査ではなく、鋭い人間観察と冷静な判断力で問題解決に当たる主人公ブルーノ署長のキャラクターが、本シリーズの一番の魅力ではないだろうか。事件の捜査というより、村の治安の維持を重視した言動はまさに田舎のお巡りさんそのもので好感が持てるし、別れた恋人との再会や現在の恋人との行き違いに悩む姿も微笑ましい。かといってただ優しいだけじゃなく、危険な場面でもひるむことなく派手なアクションも見せてくれる。主人公を始めとする登場人物のキャラクターが秀逸で、さらにストーリーも波乱に富んだ、読み応えのある警察小説だった。
それにしても、随所で登場する黒トリュフ料理の美味そうなこと! 「さすがフランス!」と言いたくなるグルメ小説というのも、本シリーズのもう一つの魅力である。
マーティン・ウォーカー:黒いダイヤモンド (警察署長ブルーノ) (創元推理文庫)
No.190
(8pt)

派手なアクション好きの方にオススメ

またまた北欧・スウェーデンの新人作家のデビュー作。文末の解説によると、「英訳原稿が百頁しか無い段階で注目を集め、数ヵ月で26ヶ国に翻訳権が売れ」、「映画化権も売れた」というが、それも納得。「ミレニアム」に通じる派手さがあるアクション小説だ。
主人公はシングルマザーの看護師・ソフィー。交通事故で入院しているエクトルに惹かれ、軽い付き合いを始めたが、エクトルは実は国際犯罪組織の大物だった。何も知らないソフィーだったが、やがてその身辺に国際犯罪組織間の争いの火の粉が降りかかり、さらには警察からも接触され、ついには最愛の一人息子・アルベルトまで巻き込まれる事態になった。
平凡な看護師が犯罪組織に関わってしまう話、国際犯罪組織間の争いの話、スウェーデン警察の内部事情の話という3つの話が絡み合う物語の始めはゆったりした展開で退屈だが、3つの話の全体像が見えてくる中盤からは壮絶な殺し合いやカーチェイスのクライマックスに向かって突っ走っていく。作品紹介の「クライム・スリラー」というより、「クライム・アクション」と呼びたいスピード感だ。
解説によると「ソフィーを主人公にした三部作の第一弾となる予定」ということだが、捜査員でも私立探偵でもなく、ましてや犯罪者でもない、平凡な看護師が主人公でいったいどういう展開になるのか? その行方がいまとても気になっている。
アレクサンデル・セーデルベリ:アンダルシアの友 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)