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レビュー数1,234

全1,234件 1〜20 1/62ページ

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No.1234
(8pt)

現役判事にして連続殺人犯? 驚きの犯人に圧倒される

法廷サスペンスの第一人者・グリシャムの新作(2021年。翻訳版は2026年)。司法審査会調査官という大した捜査権限がない職員が、現役判事が連続殺人として告発された事件の謎を解く、新趣向のミステリー・サスペンスである。
フロリダ州司法審査会のベテラン調査官・レイシーは匿名電話を受け、仕方なく面会した女性ににわかには信じがたい告発を告げられる。ジェリと名乗った女性は大学教授で、22年前に父親を殺害されたのだが、その犯人を突き止めたという。しかも犯人は父親以外にも複数の殺人を犯しながら、捜査の網をかい潜って逃げおおせているという。まさかの話に仰天したレイシーだが、ジェリの熱意と推しの強さに降参し、持てる範囲の権限を使った調査に乗り出さざるを得なくなった。逮捕権すらない身分で狡猾で用意周到な犯人を追い詰めることができるのか?
なんといっても、判事がシリアルキラーという度肝を抜く設定だけでミステリー・サスペンスとしては成功したと言える。さらに20年以上を掛けて犯人を探し出した告発者・ジェリの狂気とも言える熱意が恐ろしい。犯人のキャラクターが圧倒的で、他の要素は全て付け足しに思えた。
ノワール、サイコ・サスペンスとP.I.的調査ミステリーの両方を備えた一級品のエンタメ作品であり、多くの人を満足させること間違いなし! オススメする。
ジョン・グリシャム:判事の殺人リスト 上
ジョン・グリシャム判事の殺人リスト についてのレビュー
No.1233
(8pt)

どんどんカッコよくなってきた、ろくでなし刑事たち

ナポリを舞台にした人気警察シリーズの第5作。パン屋殺害事件と奇妙なストーカー事件を「ろくでなし刑事」たちが素晴らしい捜査力で解決する警察集団捜査小説である。
街の住民から愛されている実直なパン職人のグラナートが店の裏で射殺された。現場に駆けつけたP分署のロヤコーノとロマーノはろくに捜査が出来ないうちに、スター検察官・ブッファルディ率いるマフィア対策班に主導権を奪われてしまった。最近、グラナートがマフィアの犯罪を目撃した証言を撤回するという因縁があり、マフィアが口封じしたというのがブッファルディの主張だった。しかし、現場の状況からマフィアの犯行ではないと確信するロヤコーノはマフィア対策班に対抗し、独自の捜査を決意する…。
パン屋殺しをメインに、サブとして冴えない外見の若いカップルが訴えてきた奇妙なストーカー事件が並行して展開される。二つの事案に対するP分署の面々の鋭い捜査、息のあったチームワークは、まるで87分署を見るようで一作ごとに成長するメンバーが有能な頼もしい警察官に見えてくる。同時に、各人が抱える人生のあれこれもさまざまな変化をみせ、人間ドラマとして味わい深くなっているのもシリーズならでは読みどころだ。
本国では11作目まで刊行され、連続テレビドラマ放送も始まったという。次作が待ち遠しい。
マウリツィオ・デ・ジョバンニ:対立: P分署捜査班 (創元推理文庫)
No.1232
(8pt)

ドイツ・ミステリーの新たな注目シリーズが始まった

ドイツ・ミステリー界の新星、マルク・ラーべの日本デビュー作。ドイツでベストセラーになった全4部作の第1作で、組織からはみ出した刑事がサイコパスを追い詰める警察ミステリーである。
ベルリン大聖堂の丸天井から女性牧師が吊り下げられていた。捜査に臨場したベルリン州刑事局刑事のトムは死体の首にかけられた鍵に衝撃を受ける。それは19年前、トムが少年時代に川で発見した死体のそばにあった、17という数字が刻まれた鍵と同じものに見えた。その鍵は当時10歳だった妹のヴィオーラが行方不明になった時に持ち出したままで、それがなぜ、今頃出現したのか? 鍵の謎を追うトムの捜査は19年前から続いている深い闇に迷い込んでしまうのだった。
主人公のトムは組織になじまない一匹狼でルールも倫理も無視してひたすらターゲットを追い詰める猟犬タイプ。相棒となる臨床心理士のジータは冷静沈着、度胸十分なクールビューティ。警察ミステリーにはよくあるタイプのバディものである。犯行の動機、犯罪の構成要素はサイコ・キラー色が濃く、しかも刑事・トム自体が常に妹の幻影を纏っているサイコ気質とあって、ストーリー展開を把握するのに時間がかかる。事件の舞台は壁崩壊前後のベルリンで、東ドイツ時代の組織が登場するのも味がある。
警察ミステリーの宝庫、ドイツ・ミステリーの中でも出色の快作。残りのシリーズ3作が気になる新シリーズの登場である。
マルク・ラーベ:17の鍵 (創元推理文庫)
マルク・ラーベ17の鍵 についてのレビュー
No.1231
(8pt)

主役をつとめるエリンボルクが良い。

アイスランドの捜査官「エーレンデュル」シリーズの第7作。エーレンデュルは登場せず、いつもは脇役の女性警官・エリンボルクが主役になった謎解き警察ミステリーである。
レイプ・ドラッグを飲ませて自宅に連れ込んで強姦を繰り返していた若い男・ルノルフルが自宅で殺害された。鋭い刃物で喉を掻き切られ床を血染めにして倒れた男は女性のTシャツを身につけ、その口には大量のレイプ・ドラッグが詰め込まれていた。現場に残されていたスカーフには微かにインド料理のスパイスの香りが残っていた。エーレンデュル不在で捜査の中心を担うエリンボルクは数少ない証言を拾い集め、関係者に尋問を重ね、ルノルフルの人間像を明らかにしていく。そして辿り着いた真相は…。
ずっと脇役を通してきたエリンボルクが主役で、これまでさほど言及されなかった彼女の家庭が取り上げられ、その家族生活が描写されるのが面白かった。もちろん事件の謎解きはオーソドックスで破綻がなく、納得できる結末を迎える。
シリーズ愛読者には新鮮なインパクトがあり、未読の方が読んでも違和感がなく、どなたにも安心してオススメできる警察ミステリーの傑作である。
アーナルデュル・インドリダソン:悪い男 (創元推理文庫)
アーナルデュル・インドリダソン悪い男 についてのレビュー
No.1230
(8pt)

誰も幸せには生きていない、ディープ・サウスの町の悲劇

デビュー作でありながら、2024年度のMWA賞最優秀新人賞を受賞した作品。バージニア州の忘れられた田舎町で起きた殺人・放火事件を巡るドロドロの人間関係を描いたノワール警察小説である。
バージニア州の大都会リッチモンドから10年ぶりに故郷に戻り保安官補になったウィルは火災現場に遭遇し、焼け跡から旧友のトムの焼死体を発見した。その場で、現場から逃げようとした古い知り合いのジークを逮捕した。しかし、解剖によりトムが刺殺された後で証拠隠滅のために放火されたことが判明し、旧知のジークの仕業とは考えられなかったのだが、ミルズ保安官はジーク犯人説を譲らなかった。ジークの妻ばかりかトムの母親もジークの犯行を信じず、私立探偵のベニコに調査を依頼した。ジークを信じるウィルも保安官に逆らい、ベニコと共に独自の捜査を進めることにした…。
近代化が進むバージニア州で見捨てられたような町に住む人々は、町を覆う閉塞感に苛まれ息苦しい人生を送っていて、その矛盾や葛藤が事件として噴出したのである。この設定、舞台装置は南部ノワールの基本型で目新しくはないが、主役を勤めるウィルとベニコの設定が上手い。二人は互いに話したくない過去を引きずり、重苦しく、出口がないような町でドロドロの人間関係を悩み、傷つき、それでも何とか正義感を持ち続けようとする。暴力の力とそれでは解決されない人の苦悩が、本書の読みどころである。
ノワール、警察小説のファンにオススメする。
ヘンリー・ワイズ:無垢なる町 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ヘンリー・ワイズ無垢なる町 についてのレビュー
No.1229
(8pt)

怪奇ホラーの手前で踏みとどまっているのが良い。

デイリーミラー紙の新人賞とCWA新人賞で最終候補になり、いくつかの賞を受賞したイギリス女性作家のデビュー作。犯罪史や生物学、解剖学に没頭する13歳の少女が同級生の死体を発見したことから街を震撼させた猟奇殺人の謎を解くダーククライム・ミステリーである。
交通事故で死んだ動物を収集した死体置き場を作り、死がもたらす変化を冷静に観察・記録するエイヴァが見つけたのは同級生でいじめっ子のミッキーの死体だった。放置して置けないと思ったエイヴァは大人の声色を使って警察に通報する。デライエ刑事部長が指揮するチームが捜査に乗り出したのだが、ほどなく行方不明だった少年の死体が見つかった。さらに奇妙なことに、どちらの死体にも首に深い咬み傷がつけられていた。その後も同様の事件が発生し連続猟奇殺人事件の様相を呈してきた。さらに街では人間とも獣ともつかぬ怪物の目撃情報が相次ぎ…。
自分の知識だけを武器に真相解明に乗り出すエイヴァの存在が際立つ。従順な親友のジョンを助手に独自の調査と推理を展開し、ときにデライエ刑事部長に的確なアドバイスを送るだけでなく、いざとなると自ら渦中に飛び込んでいく。それでいながら、時折は思春期の少女らしさも垣間見せる。これまでのミステリーにはなかった特異なキャラクターで強烈な印象を残す。さらに怪物としか言えない犯人の性格が形作られる過程の解明も、また考えさせられるものがあった。
怪奇ホラーに堕することなく、社会派ミステリーの味わいもあるエンタメ作品として、自信を持ってオススメしたい。
マリー・ティアニー:夜が少女を探偵にする
No.1228
(8pt)

人はそれぞれの過去を背負って生きていく

「元刑事コーク・オコナー」シリーズで人気のクルーガーのシリーズ外作品。ミネソタの森林地帯の田舎町を舞台に、まだ戦争の傷が癒えていない人々のドラマを描いたヒューマン・ミステリーである。
1958年、ミネソタの田舎町の川で大地主であるジミーの射殺死体が発見された。ジミーは町一番の悪名高い男で、その死を残念がる人はいなかったのだが、ジミーの農場で働いていた先住民のノアが容疑者に浮上すると人々は一転し、町は一気に憎悪に包まれた。保安官・ブロディの調べにノアは一切応えようとはせず、無実を主張することもなかった。状況証拠は圧倒的にノアの有罪を示しているのだがブロディは納得できず、事件を起こした要因を丁寧に掘り起こして行く…。
まだ戦争の記憶が生々しく残る時代、ミネソタの田舎町でも人々はそれぞれの傷跡、葛藤を抱えつつ必死で生きようとしていた。そこで生まれる緊張や憎悪、軋轢、あるいは情愛を作者はドラマチックに描き出し、静かながらも奥深いストーリーが展開される。物語の基調には社会的不公平、不正義、戦争への強い怒りが窺える、骨太の社会派ミステリーである。
読み終わった後、さまざまな思いが生まれる傑作であり、多くの人にオススメしたい。
ウィリアム・ケント・クルーガー:真実の眠る川 (ハヤカワ・ミステリ)
No.1227
(7pt)

車椅子生活に負けてない、明るい素人探偵の活躍話

2022年のエドガー賞最優秀長編賞にノミネートされた作品。作者は日本初紹介である。SMA(脊髄性筋萎縮症)を患う26歳のダニエルが偶然、目撃者になった女子学生誘拐の謎を解く、ヒューマン・ミステリーである。
ジョージア州の学園都市に暮らすダニエルは自宅のポーチから朝の街を見るのを日課にしていたのだが、ある日、最近目にするようになった女子学生が車に乗り込むのを目撃した。数日後、彼女が行方不明であることを知り、ダニエルは捜索に協力するべく、目撃談をSNSに投稿した。すると謎の人物から脅迫メールが届き…。
24時間介護を受ける車椅子生活のダニエルが旺盛な好奇心に駆られて素人探偵として大活躍するのが本筋。さらに、ダニエルを支える介護士のマージャニ、友人のトラヴィスが醸し出すユーモラスで心温まる日常が話に奥行きをもたらしている。難病ものにも関わらずお涙頂戴ではないことも高得点。
ハートウォーミングで読後感の良いエンタメ作品であり、多くの人に安心してオススメできる。
ウィル・リーチ:死ぬまでほんの二、三分 (ハヤカワ・ミステリ)
ウィル・リーチ車椅子探偵の幸運な日々 についてのレビュー
No.1226
(8pt)

26年ぶりに復活!

久しく邦訳が途切れていた「マイロン・ポライター」シリーズの第12作。日本では第7作「ウィニング・ラン」以来の復活で、オールド・ファンには懐かしく、シリーズ未読の人にも違和感なくその世界に入っていける極上ミステリーである。
スポーツエージェント兼探偵であるマイロンの事務所に来たFBI捜査官が「グレグ・ダウニングの居場所を教えろ」と言ってきた。グレグは三年前に東南アジアで死亡し、マイロンは追悼式に出ている。戸惑うマイロンに、FBI捜査官はグレグは元スーパーモデル殺害の容疑者で、現場には彼のDNAが残されていたと告げた。やむを得ずマイロンはグレグが死を偽装して身を隠したのか否か、共同経営者のウィン、元同僚で弁護士のエスペランサの手を借りながら真相を探り始める…。
学生時代からバスケットのライバルで私生活でもさまざまな因縁があるグレグは、なぜ姿を消したのか? 同時に元スーパーモデル殺害から徐々に明らかになってくる連続殺人の犯人は誰か? 二つの真相解明ストーリーが絡み合いながらテンポ良く繰り広げられ、先が読めない展開にワクワクさせられる。さらにマイロン個人やグレグの家族関係・人間関係が話の奥行きを広げ、物語性を深めている。
シリーズ未読でも戸惑うことはない。P.I.もの王道を行くエンターテイメント作品であり、多くの人にオススメしたい。
ハーラン・コーベン:エージェントは二度推理する
No.1225
(7pt)

華やかなスタート、しょぼいクライマックス

2023年のネロ・ウルフ賞最終候補になった作品。南アジア系女性作家・カーンのブレイク作で、「イスラム教徒の女性刑事・イナヤ」シリーズの第1作である。
コロラド州の田舎町で、シリアからの移民イスラム教徒の少女が磔にされて殺されているのが発見された。担当するデンヴァー警察地域対応班の女性刑事・イナヤが捜査を進めると、さらに二人のソマリア移民の少女が行方不明になり、家出として処理されているのが分かった。二つの事件は繋がっていると確信したイナヤは地元イスラム移民のコミュニティを頼りに捜査を進めるのだが、白人至上主義者である地元保安官は非協力的で、さらに街を支配する白人至上主義者たちや福音教会からも妨害される…。
イスラムの少女がモスクの扉に磔にされるという派手なオープニング、捜査の出だしからイスラム女性刑事が白人至上主義者の地元保安官と対立し、さらに福音派教会やその配下のバイカー集団も加わり、先の読めない警察ミステリーへの期待が高まる。がしかし、話に恋愛要素が入り始めた途中からは、どうにも締りがない展開でがっかり。白人が支配する街にどんどん流入する移民、難民の苦悩と闘いという重要なテーマがぼやけてしまったのが残念。そんな中で、弱い立場の人たちのために奮闘する3人の女性、刑事イナヤ、メキシコ系の同僚刑事でプロファイラーのキャット、黒人弁護士のアリーシャは強く印象に残った。アメリカで絶賛されたとのも納得できる。
人種、民族、宗教間対立という日本人には馴染みが薄い背景に戸惑うが、現代社会が抱える難問に正面から挑んだ意欲作であり、一読をオススメする。
オースマ・ゼハナト・カーン:黒い滝 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
オースマ・ゼハナト・カーン黒い滝 についてのレビュー
No.1224
(8pt)

差別と暴力が支配する街で戦う二人の女性警官のバディもの

叔父も兄も警察官という血筋に導かれて警官になった、貧乏白人街育ちのマギー。裕福な地区育ちながらベトナムで新婚の夫を亡くし、自立するために警官になったケイト。対照的な二人が反発し合いながらも力を合わせて連続警官殺人の正体を暴く、警察ミステリーである。
1974年のアトランタ、3ヶ月間に4人の警官が殺され、犯人は警察内部では「アトランタ・シューター」と呼ばれていたのだが、5人目の被害者となったのはマギーの兄・ジミーの相棒だった。事件現場にいたジミーも疑われる状況になり、マギーは兄の無実を証明しようと躍起になる。そんな最中に配属された新人警官ケイトは外見も態度もおよそ警官らしくなく「羊」とあだ名を付けられ、周囲からは「1週間持たないだろう」と言われた。だが、マギーと組まされたケイトは意外な対応力を発揮し、女性差別や人種差別が大手を振ってまかり通る警察内部では公然と「女は警官になるな」と言われていたのだが、マギーとケイトが独自の視点から捜査を進め、犯人を追い詰めて行く。
警官のバディ物語はいくらでもあるが、70年代のアトランタという保守的な街での女性バディものというのが目を引く。さらに犯人探しの謎解きも破綻がない。後年のスローターに特徴的な被害の残酷さが強調されていないのも良い。
シリーズ外の単発作品なので、スローターの世界の入り口に最適とオススメする。
カリン・スローター:警官の街 (マグノリアブックス)
カリン・スローター警官の街 についてのレビュー
No.1223
(7pt)

深い物語性があるけど、それにしても短い

デビュー25周年記念の書き下ろしということで、いかにも伊坂幸太郎らしい短編。「長さは短編、物語は壮大、読み応えは大長編」という帯のセールス・トークの通り。
次の大作のプロローグ、練習帳なのかな?
伊坂幸太郎:楽園の楽園 (単行本)
伊坂幸太郎楽園の楽園 についてのレビュー
No.1222
(7pt)

高級別荘地のドロドロの男女関係。古典的だが面白い。

2023年発売の刑事・加賀シリーズ第11作。高級別荘地で起きた大量殺人の真相を加賀刑事が暴いていく、謎解きミステリーである。
一晩に5人が殺害された事件。すぐに犯人は見つかったのだが、犯人は動機を明らかにせず、被害者たちとの関係は不明のままだった。そこで被害者の関係者が検証会を開くことになり、休職中だった加賀は、夫が被害に遭った鷲尾春那に依頼され同席する。関係者間の証言は矛盾、嘘が混じり、事件の構図は一向に判明しなかった。それでも加賀は関係者の動きを時系列で整理することで大まかな絵柄を作り上げた。そして、二度目に検証会が開かれ、加賀は集まった人々に驚くべき真相を語り出した・・・。
閉鎖的な別荘地、優雅な別荘人種のドロドロした人間関係、黙秘を続ける犯人という古典的なミステリー要素が上手に組み合わされ、古典的で陳腐な話が今風の読みやすいエンタメ作品に仕上がっている。
加賀シリーズのファンはもちろん、謎解きミステリーのファンにオススメする。

東野圭吾:あなたが誰かを殺した
東野圭吾あなたが誰かを殺した についてのレビュー
No.1221
(8pt)

嘘と野望と権謀術策がドロドロに。まさに政治の世界。

政治ハードボイルドが得意なロス・トーマスの80年代の傑作。
個性が強いというかクセがあり過ぎる主人公たちが、何が何だか分からないうちにどんどん話を広げていく。登場人物の人間関係、事件の背景が複雑で読みにくいが慣れれば面白くなる。オススメだ。
ロス・トーマス:悪党たちのシチュー
ロス・トーマス悪党たちのシチュー についてのレビュー
No.1220
(8pt)

60年経っても古びない、衰えないシッド・ハレーの立ち姿

新競馬シリーズの第11作(邦訳は3作目)。競馬界を侵す不正を阻止するためにシッド・ハレーが危険を顧みず奮闘する、血湧き肉躍る競馬ミステリーである。
ハレーが同時期に騎手として競っていた調教師から「八百長を強要されている。助けてくれ」と電話があった。競馬協会の監視機関も見抜けない巧妙な手口で騎手や調教師を巻き込み、不正の罠を広げているという。競馬の公平さを何より大事にするシッドは見過ごすことができず、火中の栗を拾うことになる。同じ頃、ギクシャクし始めていた妻・マリーナはオランダに住む父の容態が悪いことを口実にオランダに帰り、しばらく距離を置きたいという。仕事でも家庭でも苦境に陥ったシッドだったが、それでも正義のために歯をくいしばって戦うのだった・・。
「大穴」で初登場したのが1965年。もう半世紀以上、60年ほどになるがシッド・ハレーの魅力は全く変わらない。とにかく読者を熱くさせる永遠不屈のヒーローである。
新競馬シリーズにまた一冊、名作が加わったことは間違いない。オススメだ。
フェリックス・フランシス:勝機 (文春文庫 フ 37-3)
フェリックス・フランシス勝機 についてのレビュー
No.1219
(8pt)

満州事変から大東亜戦争への歴史を改変せよ!

1949年から1931年にタイムスリップし、日本が破滅への道を歩むのを阻止しようという壮大なスケールの歴史改変ミステリーである。
敗戦4年後の夏、労働争議で逮捕された元諜報員の直樹は釈放してくれた守屋教授から和久田教授に引き合わされ、「時間を遡ることができる洞穴がある。そこを通って昭和初期に行き、日本の壊滅に繋がる事態を引き起こした者たちを排除してくれ」という荒唐無稽な提案をされる。一旦は断ったのだが、GHQに追われるトラブルに遭遇した直樹は追及の手を逃れるためにタイムスリップを決意する。同行するのは元同僚の与志と満州からの引揚者の千秋だけ。綿密な計画は立てられず、きちんとした支援組織があるはずもなく、それでも3人は洞穴に入って行った・・・。
満州事変を引き起こそうとする関東軍の参謀たちを、たった3人で排除するというアクション・サスペンス。歴史的事実と奔放な想像力が絡み合うストーリーは魅力たっぷり。佐々木譲ならではの「壮大なほら話」が楽しい。オススメだ。
佐々木譲:時を追う者
佐々木譲時を追う者 についてのレビュー
No.1218
(7pt)

悩みが多過ぎるんじゃないか、ビルボード弁護士

米国ディープサウス発の法廷ミステリーの第一人者による「ビルボード弁護士」シリーズ第2作。保守的な町で保安官殺しという厄介な事件を引き受けさせられたビルボード弁護士が、次から次へと襲ってくる苦境に必死で立ち向かう、胸熱リーガル・ミステリーである。
ビルボード弁護士リッチの元に持ち込まれたのは、荒んだ生活を送る青年・トレイが高校時代の級友で保安官補のケリー殺害容疑で逮捕された事件の刑事弁護だった。保安官殺しという町中の反感を買う事件の弁護を、刑事裁判の経験が一件しか無いリッチが引き受けたのはドラッグ密売組織のボス・ケイドに「引き受けなければお前の周囲がみな滅ぶ」と脅迫されたからだった。被告のトレイは口をつぐみ、明らかになる証拠はトレイの有罪を示唆するものばかり。さらに被害者ケリーの違法行為を内部調査していたダニエルズ刑事が行方不明となり、リッチは調査の手掛かりを失ってしまう。八方塞がりの苦境を、リッチはどう乗り越えるのか?
ドラッグ密売組織の脅迫、保安官事務所の隠蔽工作、さらにはリッチ自身や姪や恋人の依存症など根深い問題が重なり合い、絡み合い、息詰まる状況に追い込まれたリッチが、不屈の闘志で立ち向かい、最後に勝利をおさめるという、いつものロバート・ベイリーの胸熱ドラマである。ただ本作は事件構成要素が複雑過ぎて、登場人物も多く、何度も人物紹介に立ち戻らないと読み進められなかったためスピード感は味わえなかった。
ロバート・ベイリーのファン、法廷ミステリーのファンにオススメする。

ロバート・ベイリー:リッチ・ウォーターズ (小学館文庫 へ 2-8)
No.1217
(7pt)

良くも悪くも60年代のニューヨーク・ハードボイルド

植草甚一氏が絶賛した幻の名作の本邦初訳。謎が多い富豪の名誉毀損訴訟を引き受けた若き弁護士が殺人、脅迫に巻き込まれる都会派のハードボイルドである。
表4の紹介や売り文句では、高層アパートから飛び降りようとする娘を助けるために、殺人の容疑をかけられている孤独な富豪が自身の過去を洗いざらいに語りかける心理サスペンスの印象だが、読後感としては未完成のハードボイルドと言える。殺人事件の謎解きはパターン化されたものだし、飛び降りを図る娘の動機、それを防ぐための周囲の働きかけもイマイチ説得力がない。歴史的価値以外に注目すべき点は無かった。
古き良きハードボイルドを味わいたいときにオススメする。
ジャドスン・フィリップス:終止符には早すぎる
No.1216
(7pt)

長くてスローな話なので、切れ味が悪い

2025年のN.Y.タイムズのベストセラーリストで一位を獲得したノン・シリーズ作品。ジョージア州南部の小さな街で二人の少女が誘拐された事件を起点に、女性保安官補が町の奥深くに潜む闇を明らかにする警察ミステリーである。
保安官補のエミーは父のジェラルド保安官と共に15歳の少女二人が誘拐・殺害された事件で犯人・アダムを検挙し刑務所に送り込んだ。12年後、アダムが釈放され地元に帰ってきた直後に、14歳の少女が失踪した。またアダムがやったと激怒する地元民がアダムの家に押し掛け、それを制止しようとしたジェラルドは12年前の被害者の父親に銃殺される。父から自分の後継保安官になるように説得されていたエミーは父の遺志を継ぎ、必死で捜査に当たる。そこに捜査の助力を依頼したF.B.Iから送り込まれて来たのがジュード特別捜査官で、何かと口を出すジュードにイラつきながらもエミーは力を合わせて捜査を進めた…。
小さな町に潜む小児性愛者を炙り出す警察捜査がメインだが、それ以上に南部の町に根付く一族の歴史、エミーを中心にした家族間のドラマが大きな比重を占めている。従って、犯人探し、動機の解明というミステリーの本筋がややモタモタした展開で冗長。それでもいつも通りのスローターの世界で、被害に合う女性たちの怒りと哀しみが全編に溢れている。
ノン・シリーズ作品なのでスローターが初めてという方にも楽しめる警察ミステリーとしてオススメする。
カリン・スローター:無垢で清らかなあなたのために (ハーパーBOOKS)
No.1215
(8pt)

色んな意味で盛り沢山! お腹いっぱいになる

グラスゴー市警の刑事「ハリー・マッコイ」シリーズの第3作。はみ出し刑事のハリーが少女誘拐、ロックスターの不審死、さらに家出少女の捜索など複数の事件に孤軍奮闘するモジュラー型警察ノワール・ミステリーである。
ウマが合わない上司の嫌がらせで、暑の全員が駆り出された少女誘拐事件から外されたハリーはロックスターが不審死した事件を担当させられた。麻薬過剰摂取に見えた事件は検視により殺人の疑いが出てきた。さらに敬愛するマレー警部から家出した姪を秘密裏に探し出して欲しいと依頼される。どれも一人では手に余る事件だったがハリーは独自の人脈を頼りに捜査を進め、やがて事件の背後に絡み合うものがあることに気が付いた…。
一つの事件捜査だけでも難航しているのに、そこに警察内部の人間関係、街の犯罪組織、さらにはIRAまで出てきてストーリーは波乱万丈、行き着く先が容易に見えない。また、ハリーの元妻・アンジェラをはじめとする強烈な個性の女性たちが登場し、幼馴染のギャング・クーパーとの友情物語も華を添える。不審死したロックスターのエピソードも見逃せない。これでもか、これでもかという盛りだくさんの読みどころに圧倒され、最後はお腹いっぱいになる。
エドガー賞最優秀ペイパーバック賞にふさわしい傑作エンターテイメントであり、ミステリーファン、ノワールファンに強力にオススメしたい。
アラン・パークス:悪魔が唾棄する街 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アラン・パークス悪魔が唾棄する街 についてのレビュー