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iisan さんのレビュー一覧

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書評・レビュー点数毎のグラフです

平均点7.41pt

レビュー数1,476

全1,476件 1〜20 1/74ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。

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No.1476
(7pt)

日米の企業倫理の違いに起因する事件を描いた経済ミステリー

日経新聞が1990年前後に出した経済エンタメ「日経エコノミステリー」の一冊。佐々木譲らしい誘拐事件捜査を軸にした経済社会ミステリーである。
アメリカの子会社でも日本の慣行を押し付け、現地の人々の反感を買っている企業の日本人社員の子供が誘拐された。事件に居合わせたアメリカのコンサルタント会社所属の田畑は、日本の企業論理で押し通そうとする現地の管理職にアメリカの法やルールを尊重するようアドバイスするのだが、彼の意見は尊重されなかった。やむを得ず事件に巻き込まれた田畑は地元警察に協力し、日系企業に反感を持つ解雇者たちを中心に調査するのだが犯人特定には至らず、時間ばかりが経っていく…。
日本企業の進出で起きた日米の摩擦がテーマであり、同じような事件やトラブルは数限りなくあっただろうと想像させる。時代の影響が大きい設定だが、今でも十分に読み応えがある。解明された真犯人、動機はやや絵空事ではあるがミステリーとしても一定のレベルは達成している。
軽めの社会・経済ミステリーとして夏休みの頭休め読書にはぴったりか。
佐々木譲:ハロウィンに消えた (角川文庫)
佐々木譲ハロウィンに消えた についてのレビュー
No.1475
(8pt)

他人の悲劇をエンタメにしてるのは、無自覚なあなたではないか。

短編の名手とされるマカーイの長編ミステリー。母校から短期講師に招かれたポッドキャスターが20年以上前に殺されたルームメイトの事件の真相を探る謎解きミステリーである。
映画論のポッドで有名になったボディは母校である寄宿制高校の講師に招かれ、二十数年ぶりに母校を訪れた。学生時代、ボディのルームメイトで美貌の少女・サリアが殺害され、プールに浮いているのが見つかった事件があった。黒人のトレーナー・オマーが逮捕されて事件は終わったとされたのだが、明確な物証がなかったため、いまだにオマー犯人説を疑う素人探偵たちが引きも切らずネット上を賑わせていた。事件の現場に戻ったボディは、オマーは冤罪ではないかとの疑問を持ち、当時を回想すると共に関係者を訪ね歩く・・・。
悲劇の犠牲者、とりわけ白人少女を偶像化し、エンターテイメントとして消費する風潮はSNS時代になって過熱する一方で、素人探偵たちの妄想、暴走は止まることがない。ポッドキャスターであるボディは、その当事者であるとともに被害者の関係者でもある点が物語に深みを生んでいる。学生時代の自分を回顧するときのヒリヒリする痛み、未熟ゆえの後悔、無意識に身につけていた偏見など、ボディの心の揺れは読者を揺さぶらずにはいない。殺人の謎を解くミステリーとしても完成度が高く、さらにジェンダー不平等、人種差別、正義の暴走などさまざまな課題にも切り込んでいる。
最初はモタモタして読みづらいが、終盤になってからはどんどん面白くなってくる。諦めずに読み進めることをオススメしたい。
レベッカ・マカーイ:あなたに訊きたいことがある
No.1474
(8pt)

今回も大満足!

レネイ・バラード・シリーズ第6作。主役はバラードだが、いつものメンバーに加えてボッシュとボッシュの娘のマデリンまで活躍する豪華絢爛の警察ミステリーである。
早朝サーフィン中に車上荒らしに逢い、大事なバッジ、拳銃、IDカードまで盗まれたバラード。同僚や上層部に知られる前に取り返すべく奮闘するのだが上手くいかずボッシュに助けを求めた。また、本来の仕事である未解決事件捜査では、20年以上前の連続強姦殺人のDNA検査で浮かび上がったのはなんと上級裁判所長官だった。さらに、ボランティアを志願してチームに加わったマデリンが独自捜査であのブラック・ダリア事件の犯人を特定できたという。三つの重要事件を並行して進めるバラードは警察・検察内部の政治力学に悩まされながも奮闘し、全ての真相解明に近付いていく・・・。
74歳になるボッシュが少しも衰えず、さらに娘のマデリンが鋭い捜査センスを発揮し、これまで以上にワクワクするサスペンス・ミステリーである。バラードの未解決班指揮もずいぶんこなれてきて、癖が強すぎるメンバーを使いこなしているのが微笑ましい。最後、バラードの身辺に大きな変化がありそうなエピソードを配置し、次への期待を高めているのもお見事!
マイクル・コナリーのファンには文句なしのオススメである。
マイクル・コナリー:迷宮(上) (講談社文庫)
マイクル・コナリー迷宮 についてのレビュー
No.1473
(8pt)

交換殺人に新機軸、読み応えあり!

「弁護士の血」以来、11年ぶりに邦訳されたキャヴァナー作品。交換殺人というありがちな設定に新機軸を導入した傑作サスペンスである。
一人娘を誘拐殺人され、それに責任を感じた夫まで自殺で失ったアマンダは、有力容疑者でありながら金と権力で法の裁きを免れたウォレスに復讐を試みるも失敗。それでも諦めきれず、グループセラピーで出会った同じような経験を持つナオミに交換殺人を持ちかける。ナオミは承諾し、お互いにチャンスを窺ううちに、ナオミから「ウォレスを殺した」と告げられた。アマンダは約束を守るため、ナオミに依頼されたクウィンを殺害しようとする。一方、不動産業に勤務するルースは夫が留守にした夜、暴漢に襲われ瀕死の重傷を負い、その恐怖から夫と共にホテルに閉じこもっていたのだが、気晴らしに出たレストランで犯人と同じ目をした男を目撃しパニックになる。
ナオミとルース、二人の女性がそれぞれの復讐を果たす二つのエピソードが交互に展開し、どんどんサスペンスが高まっていく。さらに途中から誰が正義で、誰が騙しているのかが錯綜し、謎は深まっていく。名作「見知らぬ乗客」へのオマージュであり、それを越えるサスペンスを生み出した大傑作。
交換殺人ものに新たな地平を開く作品として、多くのミステリー、サスペンスファンにオススメしたい。
スティーヴ・キャヴァナー:キル・フォー・ミー キル・フォー・ユー
No.1472
(7pt)

ミステリーというより、家族を見直す人間ドラマかな

美術学修士で大学で創作を教えている女性のデビュー作。母親の介護のために故郷に戻った鳥類画家が、ずっと心にわだかまっていた父親の死にまつわる謎を解き、家族の関係を変化させる物語である。
スミソニアン博物館で鳥類画家として活躍していたロニは母が介護施設に入ったため、介護休暇を使ってふるさとのフロリダに戻らざるを得なくなる。2週間で戻るつもりだったのだが、母の荷物を片付けていて25年前に溺死した父親の死に不明瞭な点があることを示唆するメモを発見。漁業局の野生動物保護観察官でフロリダの湿地を知り尽くしていた父が溺死したことにかねてから疑問を抱いていたロニは実情を探ろうとする…。
自殺したとされ、家族でも話題にすることを避けていた父の死。長年の疑問を解くためにロニが頼るのは関係者たちの証言のみ。捜査権限はなく、捜査の知識もないためロニの調査は遅々として進まない。事態の朧げな姿が見えるまでの展開がスロー過ぎてサスペンスはゼロ。ギクシャクする母親や歳の離れた弟、その妻との人間関係、父親コンプレックスが事細かく描写され、はっきり言って半ばまでは退屈。最後の真相究明もあまり説得力はない。
ミステリーというより、家族とは何かを模索する女性の人間ドラマとして読むことをオススメする。
ヴァージニア・ハートマン:アオサギの娘 (ハヤカワ・ミステリ)
ヴァージニア・ハートマンアオサギの娘 についてのレビュー
No.1471
(8pt)

期待が高まる新シリーズが始まった

日本では「警部ヴィスティング」シリーズで知られるノルウェーの人気作家ホルストが新たに若い作家と組んで発表した新シリーズの幕開け作。犯罪関連のポッドキャスターが15年前の少女失踪の謎を解くP.I.ミステリーである。
ノルウェーの田舎町でポッドキャスト番組「クライムキャスト」を聞いていた地元紙の臨時記者・マチルデは、15年前に7歳の少女が行方不明になった事件に興味を引かれた。少女の死体は発見されなかったのだが、父親が逮捕され、服役中に自殺したという。番組は「次回の予告」を最後に更新されておらず、気になったマチルデは番組ホストのマルクスに問い合わせたのだが相手にされなかった。めげないマチルデは独自に調査を始め、判明したことをしつこくマルクスに報告して来た。煩わしく感じていたマルクスだったが、マチルデ山で遭難死したのをきっかけに自分でも調査を再開する。そこで情報を頼ったのが、3人を殺害した罪で服役中の実父・フランクだった…。
警察ではない、ただのポッドキャスターが粘り強く関係者に聞き込みを続け真相に辿り着くまでがリアルで熱い。さらに父親の食ないキャラクターが、単なる探偵ものではない彩りを添えて味わい深い。謎解きの展開は論理的で分かりやすく、スイスイ読み進められる。事件は解決するのだが、主人公のマルクス、父親のフランクにまつわる謎は残されたままで、次回をお楽しみに。
未解決事件に挑戦するのは「警部ヴィスティング」シリーズ同様だが、またひと味違うテイストで楽しめる。ヴィスティングのファンをはじめ、北欧ミステリーのファンにオススメする。
ヨルン・リーエル・ホルスト:クライムキャスト: Vol.1 届かなかった叫び (小学館文庫)
No.1470
(8pt)

一作目よりテンポもよく、キャラに好感が持てて良かった

ドイツの人気警察ミステリー「トム・バビロン刑事」シリーズの第二作。国際映画祭のオープニングで上映されたスナッフ・フィルムにまつわる深い闇を手探りで解明するノワール・ミステリーである。
ベルリン国際映画祭の開会式場で、若い女性が殺されるスナッフ・フィルムが上映された。しかも殺されたのは女優を目指すベルリン市長の娘であることが判明した。フィルムは目出し帽の男が持ち込み、映写技師を脅迫して上映させたという。誰が、何のために上映させたのか? さらに、関係者の娘が誘拐される事件も発生し、捜査は混迷を深めて行く…。
捜査を担当するのは、前作で相棒となったトムと臨床心理士のジータ。まだギクシャクしたところは残るものの、前回よりは息が合ったコンビとなり、バディものとして完成度が高くなっている。事件の謎を解く鍵はフィルムに写っていた19という数字で、そこにはジータの古傷に繋がる18年前の出来事が絡んでいたという、前作を彷彿させる構成だが、事件の背景も犯行動機も複雑かつ精緻になり、前作の数倍読み応えがあった。トムとジータだけでなく同僚のヨー・モルテン、上司のブルックマンもキャラがくっきりして存在感を発揮しているのも高評価できる。
事件は解決しても、トムとジータの過去にまつわる謎は残されたままで、次作が待ち遠しい。警察ミステリーファンには絶対のオススメだ。
マルク・ラーベ:19号室 (創元推理文庫)
マルク・ラーベ19号室 についてのレビュー
No.1469
(6pt)

奔走する狂気の暴発に付いていけなかった(非ミステリー)

フランス在住アルゼンチン女性作家のデビュー作。映画化されるほどの人気で続編も出ているらしいが、自分には良さが分からなかった。
フランスの田舎町に移住した若い夫婦。男の子が生まれたのだが、妻は「母であること。妻であること」に馴染めず、精神的均衡を崩し、狂気的な想念が爆走し始める。夫も息子も愛してるのに死んでもらいたい。そんなホラーな現実とも夢想とも区別できない叫びがパワフルに紙面にほと走る。
ジェンダーや社会的背景を抜きにしても、自分には馴染めない世界だった。
アリアナ・ハルウィッツ:死んでよ、アモール
No.1468
(8pt)

現役判事にして連続殺人犯? 驚きの犯人に圧倒される

法廷サスペンスの第一人者・グリシャムの新作(2021年。翻訳版は2026年)。司法審査会調査官という大した捜査権限がない職員が、現役判事が連続殺人として告発された事件の謎を解く、新趣向のミステリー・サスペンスである。
フロリダ州司法審査会のベテラン調査官・レイシーは匿名電話を受け、仕方なく面会した女性ににわかには信じがたい告発を告げられる。ジェリと名乗った女性は大学教授で、22年前に父親を殺害されたのだが、その犯人を突き止めたという。しかも犯人は父親以外にも複数の殺人を犯しながら、捜査の網をかい潜って逃げおおせているという。まさかの話に仰天したレイシーだが、ジェリの熱意と推しの強さに降参し、持てる範囲の権限を使った調査に乗り出さざるを得なくなった。逮捕権すらない身分で狡猾で用意周到な犯人を追い詰めることができるのか?
なんといっても、判事がシリアルキラーという度肝を抜く設定だけでミステリー・サスペンスとしては成功したと言える。さらに20年以上を掛けて犯人を探し出した告発者・ジェリの狂気とも言える熱意が恐ろしい。犯人のキャラクターが圧倒的で、他の要素は全て付け足しに思えた。
ノワール、サイコ・サスペンスとP.I.的調査ミステリーの両方を備えた一級品のエンタメ作品であり、多くの人を満足させること間違いなし! オススメする。
ジョン・グリシャム:判事の殺人リスト 上
ジョン・グリシャム判事の殺人リスト についてのレビュー
No.1467
(8pt)

どんどんカッコよくなってきた、ろくでなし刑事たち

ナポリを舞台にした人気警察シリーズの第5作。パン屋殺害事件と奇妙なストーカー事件を「ろくでなし刑事」たちが素晴らしい捜査力で解決する警察集団捜査小説である。
街の住民から愛されている実直なパン職人のグラナートが店の裏で射殺された。現場に駆けつけたP分署のロヤコーノとロマーノはろくに捜査が出来ないうちに、スター検察官・ブッファルディ率いるマフィア対策班に主導権を奪われてしまった。最近、グラナートがマフィアの犯罪を目撃した証言を撤回するという因縁があり、マフィアが口封じしたというのがブッファルディの主張だった。しかし、現場の状況からマフィアの犯行ではないと確信するロヤコーノはマフィア対策班に対抗し、独自の捜査を決意する…。
パン屋殺しをメインに、サブとして冴えない外見の若いカップルが訴えてきた奇妙なストーカー事件が並行して展開される。二つの事案に対するP分署の面々の鋭い捜査、息のあったチームワークは、まるで87分署を見るようで一作ごとに成長するメンバーが有能な頼もしい警察官に見えてくる。同時に、各人が抱える人生のあれこれもさまざまな変化をみせ、人間ドラマとして味わい深くなっているのもシリーズならでは読みどころだ。
本国では11作目まで刊行され、連続テレビドラマ放送も始まったという。次作が待ち遠しい。
マウリツィオ・デ・ジョバンニ:対立: P分署捜査班 (創元推理文庫)
No.1466
(8pt)

ドイツ・ミステリーの新たな注目シリーズが始まった

ドイツ・ミステリー界の新星、マルク・ラーべの日本デビュー作。ドイツでベストセラーになった全4部作の第1作で、組織からはみ出した刑事がサイコパスを追い詰める警察ミステリーである。
ベルリン大聖堂の丸天井から女性牧師が吊り下げられていた。捜査に臨場したベルリン州刑事局刑事のトムは死体の首にかけられた鍵に衝撃を受ける。それは19年前、トムが少年時代に川で発見した死体のそばにあった、17という数字が刻まれた鍵と同じものに見えた。その鍵は当時10歳だった妹のヴィオーラが行方不明になった時に持ち出したままで、それがなぜ、今頃出現したのか? 鍵の謎を追うトムの捜査は19年前から続いている深い闇に迷い込んでしまうのだった。
主人公のトムは組織になじまない一匹狼でルールも倫理も無視してひたすらターゲットを追い詰める猟犬タイプ。相棒となる臨床心理士のジータは冷静沈着、度胸十分なクールビューティ。警察ミステリーにはよくあるタイプのバディものである。犯行の動機、犯罪の構成要素はサイコ・キラー色が濃く、しかも刑事・トム自体が常に妹の幻影を纏っているサイコ気質とあって、ストーリー展開を把握するのに時間がかかる。事件の舞台は壁崩壊前後のベルリンで、東ドイツ時代の組織が登場するのも味がある。
警察ミステリーの宝庫、ドイツ・ミステリーの中でも出色の快作。残りのシリーズ3作が気になる新シリーズの登場である。
マルク・ラーベ:17の鍵 (創元推理文庫)
マルク・ラーベ17の鍵 についてのレビュー
No.1465
(8pt)

主役をつとめるエリンボルクが良い。

アイスランドの捜査官「エーレンデュル」シリーズの第7作。エーレンデュルは登場せず、いつもは脇役の女性警官・エリンボルクが主役になった謎解き警察ミステリーである。
レイプ・ドラッグを飲ませて自宅に連れ込んで強姦を繰り返していた若い男・ルノルフルが自宅で殺害された。鋭い刃物で喉を掻き切られ床を血染めにして倒れた男は女性のTシャツを身につけ、その口には大量のレイプ・ドラッグが詰め込まれていた。現場に残されていたスカーフには微かにインド料理のスパイスの香りが残っていた。エーレンデュル不在で捜査の中心を担うエリンボルクは数少ない証言を拾い集め、関係者に尋問を重ね、ルノルフルの人間像を明らかにしていく。そして辿り着いた真相は…。
ずっと脇役を通してきたエリンボルクが主役で、これまでさほど言及されなかった彼女の家庭が取り上げられ、その家族生活が描写されるのが面白かった。もちろん事件の謎解きはオーソドックスで破綻がなく、納得できる結末を迎える。
シリーズ愛読者には新鮮なインパクトがあり、未読の方が読んでも違和感がなく、どなたにも安心してオススメできる警察ミステリーの傑作である。
アーナルデュル・インドリダソン:悪い男 (創元推理文庫)
アーナルデュル・インドリダソン悪い男 についてのレビュー
No.1464
(9pt)

今回も期待以上の熱い作品だった。

大人気警察小説「オリヴァー&ピア」シリーズ第11作。少女誘拐殺害と犬を使ったリンチ殺人の二つの事件の裏に潜む組織犯罪を解き明かす、フーダニット、ワイダニットの傑作ミステリーである。
クリスマスを控えた日、16歳のラリッサが行方不明になり、翌朝、雪に埋もれた遺体で発見された。DNA検査で浮かび上がったのが前科があり、移民申請中のアフガニスタン人の青年・マハムーディで、ラリッサが行方不明になる直前に一緒にいるところを目撃されていた。警察は重要参考人として事情聴取しようとしたのだが、マハムーディが姿を消してしまった。しかも、容疑者が移民申請中の前科持ちであるとの情報が漏れ、事件は政治問題化し、世間に反移民・ヘイトの嵐が巻き起こった。数日後、森から飛び出した男性が車に撥ねられて死亡する事故がり奇妙なことに被害者は真冬に裸足で、首には大型動物に噛まれた跡があった…。
少女誘拐、リンチ殺人だけでも立派な物語になりそうだが、二つの事件の捜査が重なり、絡み合ったところから物語は極めて複雑に展開し、政治と社会を揺るがしただけでなく、結束が固いオリヴァーのチームや警察にも深刻なダメージを与えることになる。いつも通り、捜査のプロセスに説得力があるので長いストーリーも読み進めやすい。やたらと多い登場人物もキャラの書き分けがしっかりしているので混乱することが少ない。最後の真相解明がちょっと「何、これ?」ではあるものの、まあ納得できる。
さらにシリーズならではのいつものメンバーのやり取り、それぞれの家庭の事情などに大きな変化があり、これまたシリーズ読者を喜ばせる。
本作も期待以上の素晴らしいミステリーであり、警察小説、現代社会ミステリーのファンならどなたにもオススメしたい。
ネレ・ノイハウス:怪物を捕らえる者は (創元推理文庫)
ネレ・ノイハウス怪物を捕らえる者は についてのレビュー
No.1463
(8pt)

誰も幸せには生きていない、ディープ・サウスの町の悲劇

デビュー作でありながら、2024年度のMWA賞最優秀新人賞を受賞した作品。バージニア州の忘れられた田舎町で起きた殺人・放火事件を巡るドロドロの人間関係を描いたノワール警察小説である。
バージニア州の大都会リッチモンドから10年ぶりに故郷に戻り保安官補になったウィルは火災現場に遭遇し、焼け跡から旧友のトムの焼死体を発見した。その場で、現場から逃げようとした古い知り合いのジークを逮捕した。しかし、解剖によりトムが刺殺された後で証拠隠滅のために放火されたことが判明し、旧知のジークの仕業とは考えられなかったのだが、ミルズ保安官はジーク犯人説を譲らなかった。ジークの妻ばかりかトムの母親もジークの犯行を信じず、私立探偵のベニコに調査を依頼した。ジークを信じるウィルも保安官に逆らい、ベニコと共に独自の捜査を進めることにした…。
近代化が進むバージニア州で見捨てられたような町に住む人々は、町を覆う閉塞感に苛まれ息苦しい人生を送っていて、その矛盾や葛藤が事件として噴出したのである。この設定、舞台装置は南部ノワールの基本型で目新しくはないが、主役を勤めるウィルとベニコの設定が上手い。二人は互いに話したくない過去を引きずり、重苦しく、出口がないような町でドロドロの人間関係を悩み、傷つき、それでも何とか正義感を持ち続けようとする。暴力の力とそれでは解決されない人の苦悩が、本書の読みどころである。
ノワール、警察小説のファンにオススメする。
ヘンリー・ワイズ:無垢なる町 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ヘンリー・ワイズ無垢なる町 についてのレビュー
No.1462
(8pt)

怪奇ホラーの手前で踏みとどまっているのが良い。

デイリーミラー紙の新人賞とCWA新人賞で最終候補になり、いくつかの賞を受賞したイギリス女性作家のデビュー作。犯罪史や生物学、解剖学に没頭する13歳の少女が同級生の死体を発見したことから街を震撼させた猟奇殺人の謎を解くダーククライム・ミステリーである。
交通事故で死んだ動物を収集した死体置き場を作り、死がもたらす変化を冷静に観察・記録するエイヴァが見つけたのは同級生でいじめっ子のミッキーの死体だった。放置して置けないと思ったエイヴァは大人の声色を使って警察に通報する。デライエ刑事部長が指揮するチームが捜査に乗り出したのだが、ほどなく行方不明だった少年の死体が見つかった。さらに奇妙なことに、どちらの死体にも首に深い咬み傷がつけられていた。その後も同様の事件が発生し連続猟奇殺人事件の様相を呈してきた。さらに街では人間とも獣ともつかぬ怪物の目撃情報が相次ぎ…。
自分の知識だけを武器に真相解明に乗り出すエイヴァの存在が際立つ。従順な親友のジョンを助手に独自の調査と推理を展開し、ときにデライエ刑事部長に的確なアドバイスを送るだけでなく、いざとなると自ら渦中に飛び込んでいく。それでいながら、時折は思春期の少女らしさも垣間見せる。これまでのミステリーにはなかった特異なキャラクターで強烈な印象を残す。さらに怪物としか言えない犯人の性格が形作られる過程の解明も、また考えさせられるものがあった。
怪奇ホラーに堕することなく、社会派ミステリーの味わいもあるエンタメ作品として、自信を持ってオススメしたい。
マリー・ティアニー:夜が少女を探偵にする
No.1461
(8pt)

人はそれぞれの過去を背負って生きていく

「元刑事コーク・オコナー」シリーズで人気のクルーガーのシリーズ外作品。ミネソタの森林地帯の田舎町を舞台に、まだ戦争の傷が癒えていない人々のドラマを描いたヒューマン・ミステリーである。
1958年、ミネソタの田舎町の川で大地主であるジミーの射殺死体が発見された。ジミーは町一番の悪名高い男で、その死を残念がる人はいなかったのだが、ジミーの農場で働いていた先住民のノアが容疑者に浮上すると人々は一転し、町は一気に憎悪に包まれた。保安官・ブロディの調べにノアは一切応えようとはせず、無実を主張することもなかった。状況証拠は圧倒的にノアの有罪を示しているのだがブロディは納得できず、事件を起こした要因を丁寧に掘り起こして行く…。
まだ戦争の記憶が生々しく残る時代、ミネソタの田舎町でも人々はそれぞれの傷跡、葛藤を抱えつつ必死で生きようとしていた。そこで生まれる緊張や憎悪、軋轢、あるいは情愛を作者はドラマチックに描き出し、静かながらも奥深いストーリーが展開される。物語の基調には社会的不公平、不正義、戦争への強い怒りが窺える、骨太の社会派ミステリーである。
読み終わった後、さまざまな思いが生まれる傑作であり、多くの人にオススメしたい。
ウィリアム・ケント・クルーガー:真実の眠る川 (ハヤカワ・ミステリ)
No.1460
(7pt)

車椅子生活に負けてない、明るい素人探偵の活躍話

2022年のエドガー賞最優秀長編賞にノミネートされた作品。作者は日本初紹介である。SMA(脊髄性筋萎縮症)を患う26歳のダニエルが偶然、目撃者になった女子学生誘拐の謎を解く、ヒューマン・ミステリーである。
ジョージア州の学園都市に暮らすダニエルは自宅のポーチから朝の街を見るのを日課にしていたのだが、ある日、最近目にするようになった女子学生が車に乗り込むのを目撃した。数日後、彼女が行方不明であることを知り、ダニエルは捜索に協力するべく、目撃談をSNSに投稿した。すると謎の人物から脅迫メールが届き…。
24時間介護を受ける車椅子生活のダニエルが旺盛な好奇心に駆られて素人探偵として大活躍するのが本筋。さらに、ダニエルを支える介護士のマージャニ、友人のトラヴィスが醸し出すユーモラスで心温まる日常が話に奥行きをもたらしている。難病ものにも関わらずお涙頂戴ではないことも高得点。
ハートウォーミングで読後感の良いエンタメ作品であり、多くの人に安心してオススメできる。
ウィル・リーチ:死ぬまでほんの二、三分 (ハヤカワ・ミステリ)
ウィル・リーチ車椅子探偵の幸運な日々 についてのレビュー
No.1459
(8pt)

26年ぶりに復活!

久しく邦訳が途切れていた「マイロン・ポライター」シリーズの第12作。日本では第7作「ウィニング・ラン」以来の復活で、オールド・ファンには懐かしく、シリーズ未読の人にも違和感なくその世界に入っていける極上ミステリーである。
スポーツエージェント兼探偵であるマイロンの事務所に来たFBI捜査官が「グレグ・ダウニングの居場所を教えろ」と言ってきた。グレグは三年前に東南アジアで死亡し、マイロンは追悼式に出ている。戸惑うマイロンに、FBI捜査官はグレグは元スーパーモデル殺害の容疑者で、現場には彼のDNAが残されていたと告げた。やむを得ずマイロンはグレグが死を偽装して身を隠したのか否か、共同経営者のウィン、元同僚で弁護士のエスペランサの手を借りながら真相を探り始める…。
学生時代からバスケットのライバルで私生活でもさまざまな因縁があるグレグは、なぜ姿を消したのか? 同時に元スーパーモデル殺害から徐々に明らかになってくる連続殺人の犯人は誰か? 二つの真相解明ストーリーが絡み合いながらテンポ良く繰り広げられ、先が読めない展開にワクワクさせられる。さらにマイロン個人やグレグの家族関係・人間関係が話の奥行きを広げ、物語性を深めている。
シリーズ未読でも戸惑うことはない。P.I.もの王道を行くエンターテイメント作品であり、多くの人にオススメしたい。
ハーラン・コーベン:エージェントは二度推理する
No.1458
(6pt)

記憶を上書きして人格破壊するSF話

エドガー賞最優秀新人賞最終候補になった、アメリカの女性作家のデビュー作。人工的に記憶を書き換える超高級精神医療施設の恐怖を描いたサイコ・サスペンスである。
セレブたちが最先端の治療を受ける趙豪華な施設「ワイルダー」に入所したホープ。だが、そこでは入所者が消え、治療はどんどん厳しくなり、医師たちが語るホープの過去は覚えがないことばかりで、これは人格改造ではないかと疑う。そんな気配を察したのか、医師たちが勧める治療はさらに強力になり、ホープはアイデンティティの危機を覚える。そしてホープは全てを賭けた反逆を開始する…
全体にSF的で舞台装置がイメージしにくいし、悪の側の目的が分かりにくいので読み進めるのに往生した。はっきり言って、冗長だし焦点がボケている。
自分には合わなかった。
オードリー・リー:記憶の帝国 (新潮文庫 リ 10-1)
オードリー・リー記憶の帝国 についてのレビュー
No.1457
(6pt)

謎も物語も中途半端、長過ぎる。

現在のオリエント急行を舞台にした、クリスティへのオマージュ作品という売り文句に惹かれたのだが、期待外れ。描かれたテーマは重厚だがストーリーや登場人物は軽い。しかも、イタリアの観光地やソ連時代のロシアの暗黒など、挿入されたエピソードが無駄に長い。
舞台設定、謎の構成、キャラクターなどは面白いが、ミステリーとしては凡作。
ジャクリーン・ゴルディス:メインキャラクター (創元推理文庫)