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レビュー数1,469

全1,469件 1,241〜1,260 63/74ページ

※ネタバレかもしれない感想文は閉じた状態で一覧にしています。

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No.229
(6pt)

タイムトラベル&成長物語

グレゴリウス症候群という難病で高校生の息子・時生が死期を迎えたとき、主人公は妻に「二十年以上前に、花やしきで息子にあった」という話を始めた。
ジュリー(沢田研二)の「TOKIO」が街に流れていた時代、どうしようもない負け犬の日々を送っていた23歳の主人公は、トキオと名乗る青年と出会い、同居することになる。同じ頃、恋人が書き置きを残して失踪し、恋人を探そうとし始めた主人公の周辺に胡散臭い人物が出没するようになった。恋人は何やら訳ありの男と大阪に逃走したらしいという情報をつかんだ主人公とトキオは、正体不明のグループを相手に恋人奪還作戦を繰り広げ、その後の人生を決定づける出来事に出会うことになる・・・。
トキオの正体は時生が20年タイムスリップした若者という設定で、どうしようもない父親を叩き直すというのがメインテーマ。過去にタイムトラベルした人物は歴史に手を加えてはいけないというのが鉄則のようだが(このジャンルには詳しくないので不明だが)、トキオは大胆に歴史を変えてしまう。このあたり、作者の主眼がタイムスリップより成長物語の方にあることを明かしているのだろう。
東野作品のミステリーとしてはあまりいい出来だとは思わないが、青春物や家族物のバリエーションとしてはよく出来ていると思う。
東野圭吾:時生 (講談社文庫)
東野圭吾時生 トキオ についてのレビュー
No.228
(6pt)

ラテン的混とん?

チリでは大人気という探偵カジョタノ・シリーズの中でも、アメリカやドイツでも好評を博したという話題作である。南米のミステリーというのは、今まで読んだことが無かったので興味津々だったが、ミステリーとしてはさほど感心する作品ではなかった。
1973年、アジェンデ政権が危機を迎えていたチリで、社会主義指導者であり、ノーベル賞を受賞した国民的詩人と称えられていたパブロ・ネルーダと出会ったカジョタノは、極秘にある医師を探して欲しいという以来を受けた。それまで探偵の経験など皆無だったカジョタノは、シムノンの「メグレ・シリーズ」を参考に、メキシコ、キューバ、東ベルリンを訪ねて手探りでの人捜しを続けるが、ネルーダの依頼には全く別の目的が隠されていた・・・。
当時の社会状況が混乱しているいる上に、依頼人のネルーダが相当に矛盾だらけの人物で、読んでいる途中で物語の方向性がまったく見えなくなってくる。読み終えるのに、かなりの忍耐を必要とする作品だった。
ロベルト・アンプエロ:ネルーダ事件 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
ロベルト・アンプエロネルーダ事件 についてのレビュー
No.227
(7pt)

新シリーズ登場

リーバス警部シリーズで有名なイアン・ランキンの新シリーズ「警部補マルコム・フォックス」の登場作。今回も舞台はエジンバラ、主人公は警部補なのだが、警察官とはいいながら警官を監視する職業倫理班所属という点が、リーバス警部シリーズとは大きく異なっている。
同じ警官仲間からは「イヌ」と蔑まれ、忌み嫌われながら仕事を遂行するマルコムは、私生活でも過去のアルコール依存症と離婚歴、金のかかる介護施設にいる老いた父親、DV被害にあっている妹など、さまざまな問題を抱えていた。
新たな任務として、児童ポルノ犯罪を手がける部署から「児童ポルノのオンライン取引にかかわっている疑い」のある警官ブレックの調査を依頼された。ところが、妹に暴力をふるっていた同棲相手が死体で発見される事件が発生し、ブレックが捜査を担当することになる。さらに、その捜査過程で、妹を守るためにマルコムが殺したのではないかという容疑が浮上した。
「警官の犯罪」をテーマにしたミステリーは数多くあるが、本作品がユニークなのは、警官の不正を捜査する警部補自身も捜査対象となることだろう。児童ポルノ容疑のブレック、殺人容疑のマルコム、二つの事件は相互に絡み合って、予想も出来なかったきわめて複雑な展開をみせていく。
700ページを越える長さで、最後にはエジンバラの古い体質に起因する陰謀も絡んできて、読み終えるにはかなりの力技が必要だった。正直、もう少し簡略な方が好みではある。
本シリーズはすでに4作目まで発表されており、しかも3、4作目ではリーバス警部も登場するという。今後に期待したい。
イアン・ランキン:監視対象: 警部補マルコム・フォックス (新潮文庫)
No.226
(7pt)

想像力を刺激する、奇想天外なユーモア作品(非ミステリー)

2010年に刊行された連作短編集に、伊坂幸太郎氏へのロングインタビューをプラスした文庫で読了。
二股ならぬ五股を掛けてきた男が、止むを得ない事情で別れを告げるために、婚約者(実は、男を監視するために某組織から送り込まれた怖い女)と一緒に五人の恋人を訪れる5つの物語と、男と婚約者との物語を合わせた、全6編。設定も、エピソードも、キャラクターもぶっ飛んでいて面白い。ただ、ミステリーではないので、このサイトの採点としては低くした。
伊坂幸太郎:バイバイ、ブラックバード〈新装版〉 (双葉文庫)
伊坂幸太郎バイバイ、ブラックバード についてのレビュー
No.225
(6pt)

業界情報ネタのブラックユーモア

ミステリー業界の裏側をテーマにした、ブラックなユーモア連作短編集。東野圭吾の多才さを証明する一冊である。
非常に面白い。ただし、ミステリーではない。
東野圭吾:歪笑小説 (集英社文庫)
東野圭吾歪笑小説 についてのレビュー
No.224
(8pt)

厳しくて味わい深い、ミネソタの大地のハードボイルド

ミネソタの保安官、コーク・オコナーシリーズの第7作。もっとも、本作ではコークは保安官を辞めて私立探偵のライセンスを取っているので、私立探偵コークシリーズと呼ぶべきかもしれないが。
今回は、これまでシリーズの重要なサブキャラクターを務めてきた、オジブワ族のまじない師メルーが病に倒れ、いまわの際の願いとして「まだ見ぬ息子を探して欲しい」と依頼するのが、メインストーリー。70年以上前に、生まれる前に別れた息子が、カナダのオンタリオ州にいるらしい。手がかりは、年齢、母親の名前、母親の写真が入った金時計だけだという。コークは、メルーの話に合致する男を探し出すが、その男はカナダ有数の大企業を育て上げ、現在は社会的なつながりを一切断って隠遁生活を送っている奇人だという。コークはメルーの願いに応えるために単身カナダに乗り込むが・・・。
メルーは、なぜ、今ごろになって息子に会いたがるのか? メルーと息子の間には、どんな事情があったのか? メルーがコークに語ったのは、70年前のインディアンが置かれていた過酷な社会状況だった。
さらに、家族を再建するために保安官を辞めたコークだったが、現実の家庭は彼が夢見たような平穏無事なものではなかった。
物語は三部構成になっており、全体を貫くテーマとして家族とは、父親とは何かという問いが設定されている。家族思いでありながら武骨な中年男コークの不器用で懐の深い生き方が、ミネソタからカナダまで広がる厳しくて優しい大自然の情景と相まって、厳しくても清々しい共感を呼び起こす。
シリーズファンはもちろん、初読の人にもオススメだ。
ウィリアム・K・クルーガー:血の咆哮 (講談社文庫)
ウィリアム・K・クルーガー血の咆哮 についてのレビュー
No.223
(8pt)

財布視点の劇場型犯罪小説。アイデアが秀逸!

1989〜92年に書かれた10編の連作小説。テーマはいわゆる「劇場型犯罪」だが、ストーリーを進めるのが「各編の主役が持っている財布!」という設定で読者を驚かせる。そして、その奇抜なアイデアが素晴らしい効果を上げている。
事件は、轢き逃げされた会社員に巨額の保険金が掛けられていたことからスタートする。受取人になる妻が疑われるのだが、彼女には完璧なアリバイがあった。捜査を担当する老刑事はやがて、彼女の不倫相手を探り出し、その男の周辺で奇妙な事故が起きているのに遭遇する。保険金目当ての相互殺人ではないかという疑惑が深まり、メディアの報道が過熱していく一方で、捜査陣は決定的な証拠を発見することが出来ず、メディアを利用して冤罪を訴える二人に振り回されることになる。
という、まあ、どこかで見たようなお話なのだが、10のエピソードを10個の財布が一人称で語るうちに全体のストーリーが展開し、完結するという構成が秀逸。財布の視点からの語りでありながら、それぞれの財布の持ち主の性格や行動が見事に描き出されており、その上手さには舌を巻く。アイデア、テクニックともに、「さすがは、宮部みゆき」と脱帽させられた。
宮部みゆき:長い長い殺人 (光文社文庫プレミアム)
宮部みゆき長い長い殺人 についてのレビュー
No.222
(7pt)

英国田園風味の幻想的ミステリー

イギリスの片田舎の町で長年閉ざされていた教会が再開されることになり、新任の司祭・ハリーが赴任した。ある日、教会に隣接する墓地と隣の一家との境の塀が崩落し、塀際にあった少女の墓が暴れてみると、そこには三体の子供の遺体が埋められていた。しかも、その内の二体は最近埋められたもののようで、いずれも頭がい骨に深い傷を負っていた。遺体は、誰なのか? また、何のためにここに埋められたのか?
一方、隣家の子供たちは正体不明の誰かが一家に接してくるのを感じており、ハリーも、教会の中で誰かに見られている気配を感じていた。この教会には、あるいはこの古い町には、どんな因縁が隠されているのだろうか?
前半はゴシック的というか、オカルト的というか、「ひょっとして幻想小説?」と思わせるのだが、途中からは地縁・血縁に縛られた閉鎖的な社会が作り出す、不気味で切ない物語へと変わっていき、最後には読者を驚かせる秘密が明かされる。
犯人探し、動機探しのミステリーとしてはちょっと物足りなく感じるが、ホラー風味のミステリーとしてはストーリーがしっかりしていて面白い。
S・J・ボルトン:緋の収穫祭 (創元推理文庫)
S・J・ボルトン緋の収穫祭 についてのレビュー
No.221
(8pt)

主役は刑事か、詐欺師か

タイトル通り、結婚詐欺事件をテーマにしたエンターテイメント小説。文庫の裏表紙には「傑作サスペンス」とあるが、サスペンスではない。また、ミステリーというには、謎解き部分が重視されてはおらず、刑事物、人情物に分類されるジャンルだろうか。
ストーリーは、プロの結婚詐欺師がターゲットを次々に見つけ、見事に金を引き出す詐欺の話と、事件を扱うことになった、平凡な刑事の必死の捜査が並行して進められる。ターゲット(詐欺被害者)の一人が刑事と昔わけありの女性だったことから、単純な犯人追跡だけではすまない愛憎劇の様相を呈してくる。果たして、警察は詐欺師を検挙、起訴できるのだろうか?
刑事を主役として読めば詐欺師を追いつめる捜査物であるが、詐欺師を主役として読めば男女間のコンゲーム小説である。事実、文庫の最後には新潮文庫編集部による「詐欺師のくどき文句『つかみ』の研究」という付録がついている。読む人の好みで、どちらで読んでも満足できるところが、この作品の魅力といえる。
乃南アサ:結婚詐欺師〈上〉 (新潮文庫)
乃南アサ結婚詐欺師 についてのレビュー
No.220
(6pt)

超能力好きの方にはオススメ

それぞれに不思議な能力(いわゆる超能力)を持って生まれてきた3人の女性を主人公にした3本の中編集。物語の構成、話の運び方、キャラクターなどはさすがに宮部みゆき、一級品です。
スティーブン・キングなどが好きな方にはオススメだが、私的には魅力的ではなかった。
宮部みゆき:鳩笛草―燔祭・朽ちてゆくまで (光文社文庫)
宮部みゆき鳩笛草 についてのレビュー
No.219
(7pt)

人情物として、佳作です(非ミステリー)

谷根千で暮らす二人の前科者、芭子と綾香コンビのシリーズ第二弾。
それぞれに仕事や生き甲斐を見つけたような気がして張り切っていた二人だが、ふとすれ違った人たちから強い衝撃を受け、暮らしに大きな波紋が生じてくる。ひたすら平穏な暮らしを願っているだけの二人なのに、世間は放っておいてはくれないのか?
ムショ帰りであることを隠しながら生きている二人のほのぼのとした、しかし切ない4編のホームドラマ集である。表紙の折り返しに「シリーズ、大好評につき第二弾!」とあるように、前作「いつか陽の当たる場所で」を受け継ぎながらキャラクターの成長が加味されて、一段と面白くなっている。
ぜひ、第一弾から読むことをオススメする。
乃南アサ:すれ違う背中を
乃南アサすれ違う背中を についてのレビュー
No.218
(8pt)

80年代歌舞伎町ハードボイルド

1984年に発表された、佐々木譲がバイク小説からハードボイルド、ミステリーへの飛躍を遂げた記念すべき作品。バブル経済の初期、熱に浮かされたような狂乱が繰り広げられていた歌舞伎町を舞台にした、鮮烈な読後感を残すハードボイルドである。
主人公は1968年、「新宿米タン闘争」の際に機動隊に追われて逃げ込んだ歌舞伎町のジャズの店のマスターにかくまわれて以来、新宿に住み着き、歌舞伎町の片隅で流行らないスナックの雇われマスターとして過ごしてきた。その店が今日で閉店という6月末の土曜日、開店準備をしていた店にケガをした若い女が逃げ込んできた。彼女は不法滞在のベトナム難民で、売春目的に彼女を拉致した暴力団組長を撃って逃げてきたという。歌舞伎町では暴力団員たちが血眼で探し回り、事件を知った警察も暴力団より先に彼女を確保すべく歌舞伎町一体を包囲し始めた。事情を聞いた主人公は、店の常連客の協力を得ながら、彼女を脱出させようとする・・・。
第一に、二人の出会いから脱出まで、わずか6時間ほどの間に繰り広げられる、人間的で密度の濃いストーリー展開がサスペンスを高める。さらに、バブル期の歌舞伎町の無法地帯ともいえる猥雑さがハードボイルドさを際立たせる。
ハードボイルドファンにはかなりオススメだ。
佐々木譲:真夜中の遠い彼方
佐々木譲真夜中の遠い彼方 についてのレビュー
No.217
(7pt)

卓越した構成力

発表されたのが1992〜3年、東野圭吾が大きく変身し始めていたのが実感できる力強い作品である。
函館生まれで札幌の大学に通う18歳の鞠子は、母親の自殺を巡る謎を解くために、昔父親が通った東京の大学を訪れて、父親の過去を探り始めたが、その途中で自分と瓜二つの女性がテレビに出ていたことを知らされる。東京の女子大生20歳の双葉は、アマチュアバンドでテレビに出演することになったが、なぜか母親からテレビに出ることを強く反対される。母親の反対を押し切ってテレビに出た双葉だったが、その後、轢き逃げされて死亡した母親の遺品を整理していて不思議なスクラップブックを発見、さらに母親の過去を知っているという旭川の大学教授から誘われて母親の秘密を探るために旭川に出掛けることになる。
誰もが見間違えるほどそっくりな顔形、体型の鞠子と双葉。二人には、本人たちがまったく知らなかった強い結びつきがあった。それぞれが自分の出生にまつわる謎を解明するために、鞠子は東京で父親の、双葉は北海道で母親の過去を探し始めるが・・・。
タイトルや物語のイントロから分かるように、人口受精やクローン作成が主テーマだが、作者の巧みな構成力によって、単なる医学技術批判の物語だけには終わらない、謎解きとサスペンスが楽しめる、エンターテイメントしても良質な作品に仕上がっている。

東野圭吾:分身 (集英社文庫)
東野圭吾分身 についてのレビュー
No.216
(7pt)

じわじわと効いてくる

名無しのオプシリーズの記念すべき第一作。プロンジーニが、1970年代のいわゆる「ネオ・ハードボイルド派」の新人として注目を集めるきっかけとなった作品である。
サンフランシスコに事務所を構える一匹狼の主人公は、息子を誘拐された金持ちの父親から依頼され、犯人に身代金を届ける仕事を引き受ける。簡単に終わるはずの仕事だったが、金の引き渡し現場で殺人が起き、主人公もナイフで切りつけられるハメになる。身代金を奪われた上に息子が解放されなかったため、主人公は引き続き調査を進めることになり、やがて事件の醜い背景をえぐり出す・・・。
誘拐事件の構図は比較的シンプルで、まあさらっと読めるのだが、主人公のキャラクター設定がネオ・ハードボイルドの真骨頂ともいうべきユニークさで実に魅力的である。47歳、独身、唯一の趣味がパルプマガジンの収集というだけでも個性的なのだが、さらに、恋人との関係、多量の喫煙による“いやな咳”に悩まされているという。霧深いサンフランシスコの街並みとともに主人公の葛藤がじわじわと心にしみてくる、味わい深いミステリーである。
ビル・プロンジーニ:誘拐―名無しの探偵シリーズ (新潮文庫 フ 12-1)
ビル・プロンジーニ誘拐 についてのレビュー
No.215
(7pt)

どうしても映画と比べてしまうので

いわずと知れた大傑作映画の原作。もともと映画の企画としてスタートし、小説として完成してから監督と作家が協議してシナリオ化したとのこと。映画を見たのは、もう40年ほど昔のことなので詳細は覚えていなかったが、本作を読むに連れて甦るシーンも数多かった。
映画の名シーンの記憶が鮮烈なため、小説を読むより映画のあらすじを読んでいるようで・・・。作品のテーマ、ストーリーはレベルが高いのだが、映画の記憶が邪魔をしてミステリーとしての楽しみは減殺されてしまった。
グレアム・グリーン:第三の男 (ハヤカワepi文庫)
グレアム・グリーン第三の男 についてのレビュー
No.214
(8pt)

完結編にふさわしい

お人好し編集者・杉村三郎の素人探偵シリーズ三部作の完結編。685ページというボリュームもさることながら、内容的にも盛り沢山だし、完結編にふさわしい『落ち』がしっかり付けてあり、三作品の中では一番面白かった。
三作とも徹底して「巻き込まれ型』の事件が中心になるのだが、今回はたまたま乗り合わせたバスが老人にジャックされるという、まあ奇跡的に「トラブルを呼び込む人」でなければ遭遇しないような事件が発端となる。バスジャック自体はたった3時間ほどで解決されるのだが、人質となった7人に、事件現場で自殺した犯人から「慰謝料」が送られてくる。なぜ送られてきたのか、誰が送ってきたのか、慰謝料の出所はどこなのか? 三たび、素人探偵が調査に乗り出すことになる。
バスジャック犯の老人の背景を探りながら現代社会の病巣を描き出すのが第一のストーリーで、サブストーリーして杉村三郎の個人生活の葛藤が描かれ、最後はちょっと苦い結末を迎えることになる。
最初の老人によるバスジャックという設定から最後の甘く切ないエンディングまで、伏線を上手に生かしたストーリーでミステリーファンには十分に満足してもらえると思う。ただ、サブストーリーの杉村三郎の個人生活はシリーズの前2作を読んでいないと面白さが半減してしまうので、ぜひ前2作を読んでから手に取ることをオススメします。
宮部みゆき:ペテロの葬列 上 (文春文庫)
宮部みゆきペテロの葬列 についてのレビュー
No.213
(8pt)

巨匠、健在!

ジョン・ル・カレが2008年に発表した21作目の長編。1931年生まれなので、77歳での作品なのだが、老いをまったく感じさせない、エキサイティングな国際謀略小説に仕上がっている。
イギリスで誕生し、現在はハンブルグに拠点を置くプライベート・バンクの2代目オーナー、トミー・ブルーは、ドイツ人女性弁護士、アナベルから面会を求められ、「わたしの依頼人は、あなたが救ってくれると信じています」と告げられる。その依頼人とは、テロの容疑者としてロシア、トルコの刑務所で拷問を受け、脱走してハンブルグに密入国したチェチェン人とロシア人のハーフの青年イッサで、ブルーの銀行の秘密口座の番号を書いた紙を所持していた。
イスラムの過激派として国際手配されているイッサがハンブルグにいることを発見したドイツの諜報機関は、イッサを利用したある諜報作戦を進めようとする。だが、その作戦はドイツ内部の権力争い、イギリス、アメリカの諜報機関からの介入によって、思い通りにはいかなくなってしまう。果たして、トミーとアナベルはイッサを救うことが出来るのか? 最後の最後に訪れたのは・・・。まるで映画のような幕切れが印象深い(すでに映画化されており、2014年中に日本でも公開予定という)。
ル・カレの作品にしては分かりやすい筋書きで、どんどん物語の世界に引き込まれて行く。また、お得意のスパイの世界での駆け引きもたっぷりと描かれていて、古くからのファンも満足できるだろう。
ジョン・ル・カレ:誰よりも狙われた男 (ハヤカワ・ノヴェルズ)
ジョン・ル・カレ誰よりも狙われた男 についてのレビュー
No.212
(8pt)

新訳で再読。やっぱり傑作だ

ミステリーファンには何の説明も不要なスウェーデンの超傑作警察小説シリーズが、全巻新訳になるという。その第一弾(シリーズ4作目)は、シリーズの中でも傑作の評価が高い「笑う警官』で、30数年ぶりに再読したが、期待にたがわぬ面白さだった。
著者ふたりは、シリーズ10作でスウェーデンの10年の同時代史を書き残すという意図を持っていたといわれるが、再読してあらためて、ふたりのジャーナリスティックな視点の鋭さを感じさせられた。さらに、エンターテイメントとしてのレベルの高さがいささかも古びていないことにも驚嘆させられた。
シリーズを初めて手に取る方にはもちろん、再読の方にも文句なくオススメ。今後の新訳の登場が非常に楽しみである。
マイ・シューヴァル:刑事マルティン・ベック 笑う警官 (角川文庫)
マイ・シューヴァル笑う警官 についてのレビュー
No.211
(8pt)

歴史は凍らせておいた方が良いのか?

フィンランドの硬骨の捜査官カリ・ヴァーラ警部シリーズの第2作。前作同様に重苦しく、真相を解明してもカタルシスは味わえない、それでも読者を引き付ける傑作警察小説である。
前作での事件解決の功績により、ヘルシンキ警察殺人捜査課に異動したカリは、上司である国家警察長官から奇妙な極秘捜査を命じられた。それは、ホロコーストへの加担を疑われてドイツから身柄引き渡しを求められている旧フィンランド公安警察職員を調査し、証拠をもみ消せというものだった。その理由は、この老人が戦時中のフィンランドの英雄として知られる人物であり、フィンランドがホロコーストに関わった事実をほじくり返されたくないという政府の意向でもあった。さらに、カリの尊敬する祖父が、この老人と同じ時期に同じ任務に着いていたことも告げられた。複雑な心境のまま調査を始めたカリだが、すぐにロシア人実業家の妻が惨殺された事件の捜査も担当することになり、私生活を犠牲にして捜査に没頭せざるを得なくなる。そんな苦労に苦労を重ねた末にたどり着いたところは、前作同様、真相解明が救いにはならないような事実だった・・・。
物語は、2つの捜査が並行しながら進んでいくのだが、もうひとつ、カリの妻ケイトの出産が迫っていること、カリに原因不明の頑固な頭痛がつきまとっていることなど、私生活のトラブルも重要なエピソードとなっている。特に、ケイトの出産を祝うためにアメリカからやってきたケイトの妹弟との「異文化の衝突」が興味深い。
物語の最後では、カリは国家警察長官から新たな秘密警察を組織することを命じられ、さらに頭痛の原因を探るための検査で思い掛けない事態に直面することになる。これは、次回作が見逃せない。

ジェイムズ・トンプソン:凍氷 (集英社文庫)
ジェイムズ・トンプソン凍氷 についてのレビュー
No.210
(6pt)

ゆったり流れる50年代ミステリー

著者ストロングの名前は聞いたことがなかったが、戦前から戦後にかけて活躍したイギリスの作家で、日本で長編が翻訳されたのは、本作が初めてだという。40〜50年代にエリス・マッケイ警部シリーズを4作、発表しており、本作はその3作目にあたる。
主人公のマッケイ警部は、自分の本質は作曲家であり、ロンドン警視庁の警部は生きるための稼業と考えている芸術家気質の探偵というユニークな設定。したがって、その捜査も危険なアクションや地道な聞き込みなどとは無縁で、どちらかといえば、アームチェアディテクティブ。相棒となる、地方警察勤務のブラッドストリート警部とのコンビで、優雅に推理を進めていく。
本作では、若い女性の連続失踪事件と諜報機関からの情報漏えいがストーリーの二本柱となって展開されるのだが、犯人は? 動機は? というミステリーの本質より、登場人物たちの人間ドラマの方に力点が置かれているようで、物語はゆったりと流れていく。作中で重要な役割を果たす死体の謎が、最後まで解明されなかったり・・・。でも、そんなことは気にしないで、ゆるくておだやかなミステリーの世界を楽しんだ方がいいだろう。
L.A.G.・ストロング:終わりのない事件 (論創海外ミステリ)
L.A.G.・ストロング終わりのない事件 についてのレビュー