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(短編集)
繕い屋 月のチーズとお菓子の家
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繕い屋 月のチーズとお菓子の家の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.00pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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矢崎存美の作品はお初。 「ぶたぶた」シリーズなる作品でなかなかの人気を博しておられる方らしい。 構成は完全に独立したエピソードによる連作短編形式を取っている。 内容の方は「繕い屋」を自称する平峰花という女性によるある種のカウンセリング、ないしはヒーリング物という事になるだろうか? この平峰花が各エピソードの主人公となるゲストキャラたちの抱えた心の傷を癒す姿を追った物語となっている。 特徴的なのは花が傷を抱えた人物を癒すのが彼らが見る「夢」の中であるという点。 心の傷を抱えたまま灰色の人生を送っている人々の前に花が現れて「いったい誰?」と疑問を感じた途端、 彼らは夢の中に誘われて、その夢の中にも花が登場。 夢の中に描き出される傷負い人たちの心象風景の中に現れる「とあるモノ」が彼らの「傷」だと教えた上で 抱えている傷を癒すためにその「とあるモノ」を食べて消化してしまいましょう、と持ち掛けて 「美味しい食べ物」として彼らに平らげさせると、彼ら傷負い人は自分が目を背けていた 「苦々しい過去」や「認めたくない現実」と向き合い、大切なことに気付いた上でその後の人生を歩み始める …というのが各話に共通した流れとなっている。 各話に登場する傷負い人は 両親が相次いで亡くなった事で天涯孤独となった寂しさを突き付けられた女性であったり、 浮気が元で離婚した両親の下で母親から「全ての元凶は父だ」と言い聞かされて育った主婦、 学生時代から「レールの上を慎重に」というモットーに従い続けながらリストラを言い渡されたサラリーマン、 女癖の悪い事を知りながら結婚した夫と築いた冷え切った家庭から逃げられずにいるキャリアウーマン、 読者の誰にでもそうなる可能性がありそうな、普遍的な悩みを抱えた「普通の人々」であり、 それ故に設定の奇抜さの割には話としては取っ付きやすい話作りとなっている。 彼らが抱えてきた傷自体はどれも人間的な弱さであったり、誰もが選びがちな人生の過ごし方に対する後悔であったり、 ボタンの掛け違いが元になったちょっとした不運であったりとこれまた非常に普遍的と言って良いかと。 なので花が向き合わせる「傷」自体もそれほど「どぎつさ」は感じられず、読み進める上でのストレスも それほど感じられる事は無い。 花が彼らの抱えた傷をお菓子の家や食べても尽きないチーズ、かき氷に仕立て上げて食べさせる場面の描写は さすがに女性作家だけあって食べるのが好きな方には堪らないといった感じの表現が散りばめられている。 ……まあ、基本的には「ちょっといい話」であり、「女性受けしそうな美食の表現」であるのだけど どうにも各話の展開が上に紹介させて頂いたストーリーラインから一歩も踏み出さないので途中で若干「飽き」が入ってくる。 特に癒される傷負い人の人生が明かされる辺りはどの話も走馬燈的というか人生のダイジェストをサーッとなぞるだけなので それほど深みも感じられず、なんというか今一つ「物足りない」感が残ってしまった。 問題は最終章で、それまで花と相方の猫・オリオンのペアによる単独事業だと思われたヒーリング活動が 突如ある種の異能力者の組織に支えられたものである事が明かされたり、花の両親との関係が強調されたりと それまで大してフィーチャーされていなかった設定が突如として中心に躍り出てくるので相当に面食らった。 その設定が活かされるのであれば良いのだけど、これが最終章なのでまさに「出してみただけ」で終わっているのである。 二巻以降で使います、という腹積もりが作者にはあるのかも知れないが、それならわざわざこの一巻で出す事も無かったのでは? 「良い話だけどワンパターン」という大きな展開の無い話を続けた上でいきなり発展させようもない大きな設定を 最後の最後にぶち込んできた事で「この話は一体何がしたかったのか?」と大きなブレを感じた作品だった。 これなら終始「黄金のワンパターン」で勝負した方が良かったような気がするのだが……? | ||||
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