■スポンサードリンク
ななもりやま動物園の奇跡
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
ななもりやま動物園の奇跡の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点4.33pt |
■スポンサードリンク
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全3件 1~3 1/1ページ
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
心温まるストーリーです。陽子お母さんがもっと幸せだったらもっと良かったけれど。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
不動産会社に勤める中年男性が、失われた家族の絆を取り戻すために動物園再建に乗り出すハートフルストーリー。 綿密に取材されたのであろう動物園運営の蘊蓄も面白く、話の展開も早めでとても面白かったです。 やや難があるとすれば、その目的のとなる家族の絆と、動物園再建との関連性がそこまで無いのではと感じられたところ。 結局、ちゃんと話し合えば娘とは和解できたわけだし、私財を投じてあれだけの努力をする動機付けとして弱かったかなと。 娘との絆に焦点が当てられていたため、ラストの感動も「もう一声」と言いたくなるシンプルさでした。 普通のメディアワークス文庫の本より文字も細かく、大ボリュームで描かれた物語だけに、 もう少し違った大団円の形があったのでは?と悔やまれました。 | ||||
| ||||
|
| ||||
| ||||
---|---|---|---|---|
ライトノベルっていうとその売り文句には「大冒険」が付きものだけど、一般的なライトノベルって主人公は10代の少年少女。人生のやり直しが幾らでも可能 …これって本当に「冒険」なんだろうか?本当の「大冒険」ってのは「負けたら全てがパー」という取り返しのつかなさがあってこそ、だと思う。そういう意味で 人生のやり直しが一切不可能な年代に入ってからの大博打的行動、これこそまさしく「冒険」の名に相応しい要素があると思う。久しぶりにMW文庫に登場の 上野遊の新作はそんな取り返しのつかない中年ど真ん中の男が挑んだ、ゼロから始める動物園の物語 主人公は稲葉幸一郎、旧姓・武内幸一郎。物語は東北の温泉街で旅館の息子として産まれた彼の学生時代にまで遡る。バブル崩壊直後に南東北の 間刈市にある大学で建築学を学んでいた幸一郎は先輩の紹介で不動産屋の事務員としてアルバイトに就く事に。社長の娘・稲葉陽子と交際を始めた 幸一郎だったが、卒業後に就職が内定していた設計事務所が倒産、追い打ちをかけるが如く陽子の妊娠が発覚してしまう。死ぬ思いで事情を打ち明けた 幸一郎に対して社長の吉治は「ならお前は今から俺の息子だ」と宣言、かくして武内幸一郎は名を稲葉幸一郎と変える事に。ほどなくして産まれてきた 娘の美嘉を含めた家族の為に身を粉にして働く幸一郎だったが吉治が脳梗塞で倒れた事が切っ掛けで社長代理を務める事に。社長として稲葉不動産の 経営状況を確認した幸一郎だったが不良債権としか言いようがない物件を山ほど抱え倒産寸前である事を知り愕然とする。義侠の人である吉治が バブル崩壊で苦しむ友人・知人を助ける為に抱え込んだその借金を清算するべく最古参の社員・石持を除いた全社員の解雇し吉治の頼みで稲葉家の 自宅を売り払うが苦境は続く。転機となったのは2011年3月、津波に襲われた人々の恐怖心から塩漬けになっていた吉治の残した山間の辺鄙な土地を 幸一郎は「高台の土地」として売る事を企図、幸運にもその土地に復興支援道路計画でバイパスが通る事になり一気に経営状況は改善される。更に 事業を吉治の転売中心の事業から間刈市に多い学生相手の賃貸事業へと切り替えた事で経営は安定、家族を路頭に迷わせる恐怖からは解放されるが そんな幸一郎に妻の陽子が告げたのは「しばらく離れて生活しましょう」という別居の申し出だった… んんん?おっかしいなあ…小生、動物園がタイトルになっている作品だったから「飼育員メインのお仕事物」を予想してたのに、なんで不動産屋の悲惨な 家庭崩壊を突き付けられて、主人公のヨメに「ふんふん、奥さん。それで貴女はダンナの何が不満なの?」と、みのもんたみたいなツッコミ入れてんだ? 訳が分からないまま陽子と別居する羽目になった幸一郎だったが、いつか戻ってくると思っていた陽子はあっさりと事故死、「ママに会わせて」と泣き叫ぶ 娘の美嘉に見せられない悲惨な有り様に追い打ちをかけるかの様に、美嘉は「ママが死んだのはあんたの所為だ!」と娘を引き取ろうとした幸一郎との 同居を断固拒否。月に一回の生活費提供の面会も短時間で打ち切られ、一人寂しくファミリー向け3LDKに帰る幸一郎だったが、ある日商談の帰り道で 道を間違え辿り着いたのは寂れた動物園。「牟田動物園にようこそ」と書かれた門は開いているが営業しているかどうかも怪しいその施設に幸福だった 家族の記憶を求めるかの如く、フラフラと入って行った幸一郎が目にしたのは飢えたトナカイや狼たちの姿、衝動的に近くのスーパーで山の様な肉や野菜 を買い込んで動物たちに与えた幸一郎だったが、その場に現れた老人・牟田を心臓の発作から助けた事で牟田動物園が震災後ほぼ休止状態になって いた事を知る。幸一郎が不動産屋だと知った牟田は動物園の土地を処分して欲しいと申し出るが、検分の為に訪れた動物園で出会った少年・長谷慎吾 の「おじさんが新しい園長なの?」「狼のグレイを助けてくれるんじゃないの?」という涙ながらの訴えに幸福だった頃の記憶が蘇り、一つの決意を固める 会社に戻った幸一郎は社員を集めて宣言「俺が牟田動物園を再建してみせる」と… 動物に関して何の知識も無い不動産屋が動物園の経営…はい、無謀ですね。少なくとも自分がこの会社の社員だったら「社長ご乱心!」と真っ先に 逃げ出す算段を始めますわな。事業の多角化なんてバブル時代にあちこちの泡銭を掴んだ企業が挑んでは、見事にコケまくったのが記憶に残っている 人も多いと思うけど、よりにもよって少子化の時代に東北の地方都市で動物園!むちゃくちゃにも程がある…家庭が崩壊してヤケクソになった中年男が 孤独さのあまり明後日の方向に突撃したとしか言いようが無い。まさに現代のドン・キホーテ物語! 物語の構成は非常にシンプル。現代のドン・キホーテと化した不動産屋・稲葉幸一郎が休眠状態だった動物園を再建する為に奔走する、その一点だけに 絞られている。これじゃ起伏に乏しい話にしかならんのではないか、と不安になる方もおられるかと思うが心配ご無用。何の知識も無い人間が動物園という 専門知識と運営資金が山ほど求められる事業に挑むだけでそこには百の苦難と、千の難儀が待ち構えているのである。これが平坦な話になる訳が無い 「動物園の経営者に!!俺はなる!!」と決めたは良いけど、「動物はどこから仕入れるの?」、「飼育の方は誰がやるの?」、「そもそも事業の資金は どこから調達するの?」と幸一郎の目の前にはクリアするべき課題が満載 突撃開始した幸一郎だけど、そもそも動物の仕入れ方が分からない。動物がいなければ動物園なんて空っぽの檻が並ぶ公園でしか無いので、地元の 大学で農学を学んだのに何故か稲葉不動産のアルバイトをしている槙つむぎに伝手を辿って貰い動物商を紹介して貰うまでは良かったけど、成田空港で 動物商の真藤を前に「何が欲しい?」と聞かれて「何がありますか?」と聞いてしまった事で真藤を「舐めているのか?」と激怒させる羽目に。飲食店で メニューを尋ねるみたいに取扱商品を聞こうとして完全な素人である事を一発で見抜かれ「出直してこい」と相手にもして貰えないという初っ端から あり得ないレベルの「やらかし」を見せ付けるので、読んでいて「駄目だ、こいつ」と絶望感が広がる程に幸一郎のド素人っぷりがひどい。このレベルから 動物園経営者を目指す物語なのである。いかに困難な道のりなのかお分かり頂けるであろうか? ただし、無謀中年・幸一郎の見せ場はここからなのである。なんと最古参の社員・石持に経営を任せて一ヶ月もの間、経営者を休業。何をするのかと 思えば自分がこれから作ろうとする動物園のビジョンやコンセプトを固める為に、東北から関東までの東日本にある動物園全てを車で走り回るのである あとがきによれば作者の上野遊自身が取材の為に同じ事をしたらしい。動物そっちのけで板塀の厚みを測ったり、飼育員通路を覗こうとしたり、関係者 以外立ち入り禁止ゾーンに入ろうとして事務所に連行されたりとやっている事は不審者そのものなのだが…まさか作者も同じことを(以下略)周りも 周ったり、なんと一ヶ月で27か所も動物園を巡ってしまうのである。ヤケクソになった中年男の行動力を舐めてはいけないw しかし行動力だけで物事がうまく行くほど、現実は甘くない。動物園再建に本格的に乗り出した幸一郎に神様のイジメじゃないのかと、トラブルがわんさか 降って来てしまうのである。改築工事を始めれば、元の園長であった牟田が火事を起こしてしまい事務所と獣舎が丸焼けになってしまうわ、真藤を頼って やっとの事で仕入れの目処が付いたキリンは身体に異常が見つかって輸入前に話がご破算になってしまうわと、読んでいて目を覆いたくなるぐらいに 幸一郎の行く手にはトラブルが待ち構えている。そして最大の問題はやっぱりお金。ただでさえ事業の為の資金は本業の不動産から持ち出さない、という 考えてみれば当たり前の条件を社員と約束しているので車はコンパクトなエコカーに乗り替えたり、実家の温泉旅館に無心しに行ってはいい歳こいて 父親と胸倉を掴み合っての大喧嘩になるわ、最後はクラウドファンファンディングに望みを賭けるわと「結局、物事は全てお金だよなあ」と現実の厳しさ・ 世知辛さに泣けてくる展開が続くので読んでいて実に遣る瀬無い気分になった。 しかも幸一郎の抱えている問題が動物園だけでないのが更に辛い所…そう、娘の美嘉である。同居は断固拒否、面会してもまともに話もしてくれない上に 父親を「あんた」呼ばわりし、母親の死の原因が父親にあると信じて疑わない困ったチャンである。訳も分からないまま妻に出て行かれた上に娘からは 全ての原因を押しつけられるので、この美嘉が登場する場面は読んでいて居た堪れない。幸一郎の動物園再建の最大の目的は自分以上に孤独な筈で 笑顔を失った愛娘に家族が幸せだった頃の思い出を通じて再び笑える日を迎えさせたい、という所から発しているのだけど…これが一筋縄ではいかない バイト先で同じ女性店員を守ろうとした美嘉の顔を警察に連れて行かれたという誤解から「人様に迷惑をかけるな!」と張り倒したり、動物園運営の貴重な 戦力になってくれたつむぎを食事に誘った所を見られて「ママが死んで一年も経ってないのに、不潔!裏切り者!」と罵られて復縁するどころか、仲が こじれて行く一方なのである。これは辛い。幸一郎があまりの辛さに男泣きに泣き崩れる場面もあるのだけど、本作のヒロインとも言えるつむぎに 慰めて貰ったりちょっと羨ましい場面もあるのでここだけはちょっと救われた。見せ付けやがってこの野郎、と同年代としては羨ましくなるけど…同時に 身を粉にして養っているのだから愛情は伝わる筈だ、と家族と正面から向き合わずある意味甘えていた幸一郎が「言葉にしなければ愛情なんか伝わる 筈も無い」と遥かに若いつむぎに指摘され我が身を省みる辺りは、愛情を口にするのは恥ずかしいと思う中年男としてえらく身につまされる話でもあった …まあ、これだけ困難な道を歩み続ける450頁なのである。終盤の大逆転によるカタルシスが小さい筈も無い。正直二、三年に一度味わえるかどうか、 と失禁しそうなレベルであった。動物園の目玉として用意しようとしたキリンの購入資金は集まらず、美嘉との仲が修復不可能と思われるまで拗れ切った 状態から起きた奇跡の展開は…ただもう家族を失い、愛娘の笑顔だけでも取り返したいと願った中年男の「虚仮の一念」が現実の壁を貫いた様に 同年代として喝采を送りたくなった。知識ゼロから始めた動物園再建というどう考えても無理な道を乗り越えようと七転び八起きし続けた男に最初は 「何やってんだ、このバカは」と呆れかえるだけだった人々が少しずつ感化され、ドン・キホーテを応援する側になる…素敵な話だと思いませんか! 手に取った瞬間に「うわ、分厚いな」と思った一冊だったけど、読み始めたら一気に持って行かれるという怒涛の如き読書が体験できる一冊である 少年少女と違って、人生にやり直しなんか効かない中年男が挑んだ大冒険。失われた家族と娘の笑顔取り戻す為に動物園に夢を賭けた、一生に一度の大博打 最近はカフェにあやかしばかりですっかり女性向けレーベルに舵を切ったと思っていたメディアワークス文庫だけど、これ程の「男の生きざま」を真正面から 描いた作品を出すとは意外であった。七転び八起きの苦闘と男泣きの果てに夢を叶えた男の熱いドラマを是非ご堪能いただきたいと全ての同年代諸氏にお勧めする。 見事という他ない一冊であった | ||||
| ||||
|
■スポンサードリンク
|
|
新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!