(短編集)
極めて私的な超能力
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著者はいわゆる文芸作品も推理小説も書いているという多才な人。新聞記者の経験があるという。 10編の中では、恋愛感情を人為的に持続できるようになっているという設定の「定時に服用してください」や、「共感」を最大化する機械が生むドタバタ(?)を描いた「アラスカのアイヒマン」が面白かった。 近年、若い知人でも婚活アプリで結婚相手を見つけたという人が増えてきた。「データの時代の愛(サラン)」は既に現実化しているということか。 共感と社会のあり方とか、人生における偶然の意義などときに哲学的である。まさに Speculative Fiction と呼ぶべきか。 | ||||
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作者であるチャン・ガンミョンの名は初めて聞いたが、調べると実は既に日本でも幾つかの作品が紹介されており、さらにそれらは全てがSFというわけではないという。つまりはマルチプレイヤーな作家であり、この短編集もそんなマルチプレイヤーぶりが活かされた、実に多彩な視点で描かれた作品が並んでいる。 収録作は10編、「多彩な視点」と書いたが、扱うテーマが様々であり、そのテイストもそれぞれに違い、ショートショートから中編まで、硬軟取り揃ったバラエティ豊かな短編集となっているのだ。そしてどれもクオリティが高い。 例えば「定時に服用してください」や「極めて私的な超能力」は清々しい程にふわっと書かれたSF作品だし、「データの時代の愛」はビッグデータとアルゴリズムの果てにある恋愛を描くけれども、その筆致はとても都会的で文学的だ。「センサス・コムニス」は黎明期の日本SFを思い出させる社会派SFで、「女神を愛するということ」は意識を持ってしまったゲームのNPCなんて発想が楽しい。「あなた、その川を渡らないで」は古い漢詩を基に終末SFを描く。この辺りは「硬軟」の「軟」の作品かな。 では「硬」のほうに行ってみよう。まずは「アラスカのアイヒマン」、これはアラスカに設けられたユダヤ人自治区が舞台となる並行世界SFだ。この設定からまずマイケル・シェイボンの名作並行世界SF『ユダヤ警察同盟』 を思い起こさせるが、物語はナチ戦犯アイヒマンに《体験機械》なるテクノロジーで「強制収容所での苦痛と絶望を体験させる」というものなのだ。いわゆる《共感》をテーマにしている部分にP・K・ディック的な視点を感じる。 「あなたは灼熱の星に」は金星探査隊員を苛むグロテスクなまでに行き過ぎた資本主義社会の在り方を描くが、これなどはかつての筒井康隆作品を思わせる。「アルゴル」は破壊的な超能力を持ってしまったばかりに火星衛星軌道に幽閉された超人たちにまつわる陰謀の物語となるが、物語の本質は「面白いネーミング」なのか?とちょっと思ってしまった。 この短編集で最も気に入った作品は「アスタチン」だ。これは100ページ余りの中編となるが、その内容はロジャー・ゼラズニイの『光の王』やダン・シモンズの『イリアム』『オリュンポス』を彷彿させる神話的な未来世界を舞台にしたニュー・スペースオペラなのだ!物語はこの宇宙世界の支配者アスタチンになるべく、そのクローンたちが血で血を洗うデスゲームを繰り広げるというもの。彼らは皆超テクノロジーによる特殊能力を兼ね備えており、まさに「神々の戦い」ともいえる壮絶な戦闘を繰り広げてゆくことになる。いやこれには魅せられた。この1作だけでこの短編集の価値は底上げされたと言っても過言ではないだろう。 なにしろあまりにバラエティ豊かなので逆にこの作者ならではの特色が掴み難いきらいがあるが、「アスタチン」レベルの煌びやかなSF作品を再び書いてくれたら是非また読んでみたいと思わせてくれた短編集だった。 | ||||
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