(短編集)

陽だまりの偽り



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    初公開日(参考)2008年08月
    分類

    短編集

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    陽だまりの偽り (双葉文庫 な 30-1)

    2008年08月07日 陽だまりの偽り (双葉文庫 な 30-1)

    物忘れのひどくなってきた老人が、嫁から預かった金を紛失。だがこのことで、老人は同居している彼女の気持ちに触れる―表題作。市役所管理の駐車場で人が転落死した。事件は役所内の人事に思いもよらぬ影響を与えた―「プレイヤー」。日常に起きた事件をきっかけに浮かびあがる、人間の弱さや温もり、保身や欲望。誰しも身に覚えのある心情を巧みに描きだした5編。2008年度日本推理作家協会賞受賞作家のデビュー作、待望の文庫化。 (「BOOK」データベースより)




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    陽だまりの偽りの総合評価:8.40/10点レビュー 10件。Bランク


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    全1件 1~1 1/1ページ
    No.1:
    (8pt)

    嗚呼、人生喜劇

    今や『このミス』の常連となりつつあるミステリ作家長岡弘樹氏。本書は彼のデビュー作が収められた短編集である。

    まず表題作は元市立中学校の校長だった老人のある出来事を綴った物。
    物忘れに苦慮する老人が元校長というプライドから周囲にばれないようにどうにか取り繕う日々を送るさまが綴られる。そしてそのプライドの高さがかえって変な気遣いを自らに課せさせ、事態が思わぬ方向へと転ずるというスラップスティック・コメディの様相を湛えながら、忘れ物が見つかったことでふとある事実に気付かされるというツイストが憎い。
    ほのぼのと心温まる1編だ。

    続く「淡い青のなかに」はシングルマザーと不良の息子というよくある取り合わせの母子の物語。
    仕事に専念するがために家庭を、自身では疎かにしていないとは思いながらも以前よりは子供の面倒を見ることが少なくなったシングルマザーの、どこにでもある家庭であろう。
    そんな矢先に車で人を撥ねるというアクシデント。その日は課長に昇進した日。キャリアウーマンとして躍進の第一歩を踏み出した彼女が動揺する中、不良息子が身代わりになる、しかも刑法にも引っかからない。
    なんともまあ誰もが陥りそうな悪魔の甘い囁きを作者は用意したことか。当事者だったら、息子の提案に従う人もあるのではないか?
    しかし私なら息子に罪を負わすよりも正直に警察に届け出ることを選ぶと思う。なぜならばそんな親に子供になってほしくないからだ。
    そして本書でも思わぬツイストがある。つまり被害者はいったい何者だったのか?
    しかし本書もまた謎の男の正体に読みどころがあるわけではない。この男の正体をファクターとして不和の母子に関係修復の機会が訪れるところがそれなのだ。
    またも温かい気持ちになれる作品だ。

    しかしそんな温まる話ばかりではない。次の「プレイヤー」はある人物の隠された悪意に気付かされる。
    市役所の駐車場で起きた転落死。しかも柵の横棒が外れていたため、事故死と判断される。通常ならば新聞の三行記事にしかならないような事件を警察の側からでなく、当事者である市役所々員の側から描くという着想が面白い。
    そしてその所員は春の人事異動で昇進が有力的だったから、自分の不祥事を免れようと必死に事件を独自に調べる。サラリーマンである私にとっても自分の人事のために殺人事件に必死になる主人公という着想はなかった。
    そして徐々に明らかになってくる被害者の不自然な行動から、主人公の崎本は自殺ではないかと推理し、それを裏付ける状況証拠を見つけるのだが、唯一の発見者である同じ市役所々員唐木の証言でなかなか事件が覆らない。なぜ唐木は嘘めいた証言をするのか?
    公務員の歪みと切なさが漂う作品だ。

    「写心」は他の作品とは異なり、誘拐という犯罪を前面に押し出した作品。
    誘拐犯が逆に脅迫されるというアイデアが面白い。そこには夫に逃げられた水落詠子が抱える心の闇があるのだが、本作の焦点はまさにその闇の正体を探ることだ。
    元報道カメラマンの守下が誘拐計画のために水落詠子の日常を観察しているときに一瞬捉えた彼女の笑顔の正体はいったい何だったのか?
    ただ本作のもう1つのサプライズである事実はさすがに気付くのが遅すぎる。この鈍感さは常に被写体に向き合うカメラマンとしては失格だろう。

    「淡い青のなかに」では関係が上手くいっていない母と子が主人公だったが最後の「重い扉が」ではしこりを抱えた父と子の物語。
    一緒にいた親友が重体になり、敵討ちを誓った息子が突然捜査に協力したくないと云った理由。そして事件現場の商店街の通りを間違えた理由、さらに過去祖父を亡くし、自身もサッカー選手の夢を途絶えさせることになった交通事故の真相がある1つのことですべて氷解する。
    それらを承知し、また自分で調べて理解する克己の人格の素晴らしさが際立つ。よくできた高校3年生だ。そしてそれぞれが抱えていた確執が氷解する。実によく出来たストーリーだ。


    今や現代を代表する短編の名手ともされる長岡弘樹氏。
    彼のデビュー作は読者の町にもいるであろう人々が出くわした事件、もしくは事件とも呼べない出来事をテーマにした日常の謎系ミステリの宝箱である。

    物忘れがひどくなった老人が必死にそれを隠そうとする。

    自身のキャリアを高めるために必死に働くがために一人息子を問題児にしてしまったキャリアウーマン。

    卒なく業務をこなし、出世の道を順調に上がろうとする公務員。

    同僚にケガをさせたことで自責の念から職を辞し、実家の写真屋を受け継ぐが資金難に四苦八苦する元報道カメラマン。

    ある事件から息子との関係が悪くなった荒物屋の店主。

    全て特別な人たちではなく、我々が町ですれ違い、また見かける市井の人々である。そしてそんな人たちでも大なり小なり問題を抱えており、それぞれに隠された事件や出来事があるのだ。

    これら事件や出来事を通じてお互いが抱いていた誤解が氷解するハートウォーミングな話を主にしたのがこれらの短編集。
    中に「プレイヤー」のような思わぬ悪意に気付かされる毒のある話もあるが。

    気付いてみると5編中4編はハートウォーミング系の物語であり、しかもそれらが全て親子の関係を扱っているのが興味深い。

    「陽だまりの偽り」はどことなくぎこちない嫁と義父の、「淡い青のなかに」と「写心」は母と子の、そして「重い扉が」はと父と子の関係がそれぞれ作品のテーマとなっている。

    それはお互いがどこか嫌われたくないと思っているからこそ無理に気を遣う状況が逆に確執を生む、どこの家庭にもあるような人間関係の綾が隠されていることに気付かされる。
    逆に正直に話せばお互いの気持ちが解り、笑顔になるような些末な事でもある。

    人は大人になるにつれ、なかなか本心を話さなくなる。むしろ思いをそのまま口にすることが大人げないと誹りを受けたりもするようになり、次第に口数が少なくなり、相手の表情や行動から推測するようになってくる。そしてそれが誤解を生むのだ。
    実はなんとも思っていないのに一方では嫌われているのではと勘違いしたり、良かれと思ってやったことが迷惑だと思われたり。逆に本心を正直に云えなくなっていることで大人は子供時代よりも退化しているかもしれない。

    作者長岡弘樹氏はそんな物云わぬ人々に自然発生する確執を汲み取り、ミステリに仕立て上げる。恐らくはこの中の作品に自分や身の回りの人々に当て嵌まるシチュエーションがある読者もいるのではないだろうか。

    私は特に中学生の息子を持つがゆえに「重い扉が」が印象に残った。
    いつか来るであろう会話のない親子関係。その時どのように対応し、大人になった時に良好な関係になることができるのか。我が事のように思った。

    しかしこのような作品を読むと我々は実に詰まらないことに悩んで自滅しているのだなと思う。ちょっと一息ついて考えれば、そこまで固執する必要がないのに、なぜかこだわりを捨てきれずに走ってしまう。歪みを直そうとして無理をするがゆえにさらに歪んでしまい、状況を悪化させる。他人から見れば大したことのないことを実に大きく考える。
    本書にはそんな人生喜劇のようなミステリが収められている。

    全5作の水準は実に高い。正直ベストは選べない。
    どれもが意外性に富み、そして登場人物たちの意外な真意に気付かされた。実に無駄のない洗練された文体に物語運び。
    デビュー作にして高水準。今これほど評価されているのもあながち偽りではない。
    また一人良質のミステリマインドを持った作家が出てきた。これからも読んでいこう。


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    No.9:
    (5pt)

    短編の名手

    推理小説の短編の名手 長岡 弘樹の作品 ”傍聞き”でのすばらしい書きっぷりで 熱烈なファンを歓喜させた筆者の その発表3年前の作品で 同じような短編集。この作家の良いところは 短編でありながら長編に勝るとも劣らない スリルとサスペンス満載で 作品により 背景 狙いや 展開も 異なり 作品ごとに とても楽しめます。 また 作風が読みやすく 肩を張らず 楽しめます。 また 作中に 必ず 親子愛や 家族愛 が ベースになったものも多く 読んだ後に 暖かい気持ちにさせられます。大した作家です。
    陽だまりの偽り (双葉文庫 な 30-1)Amazon書評・レビュー:陽だまりの偽り (双葉文庫 な 30-1)より
    4575512192
    No.8:
    (4pt)

    これも一流のミステリー短編集

    私は、この著者の短編集「傍聞き」を読み、なんと切れ味の鋭い短編集かと感嘆した。今回の「陽だまりの偽り」は、その「傍聞き」
    よりも前に書かれた短編集。全般的なレベルとして、どうしても「傍聞き」には及ばないと思うが、それでもかなりハイレベルな短編集で
    あることは間違いない。一般人の身の回りに起こりうる事故や犯罪などをテーマに、病や老い、出世欲、などから醸し出される人間の
    弱さをすべてミステリーとして描いていく。すべての作品において、状況設定、ストーリーどれをとっても一流だ。きちっとプロットを工夫し、
    切れ味の鋭い「落ち」を用意してくれてもいる。私は、本書に収められている作品の中では、表題作「陽だまりの偽り」が一番
    好きだ。段々進行する自分の痴呆を隠すべく、狂言ひったくりを演じようとする老人が描かれるが、意外なストーリーの展開とラストの
    優しい落ちが感動的だ。ほかの作品もいい。横山秀夫がなかなか次作を出してくれない中で、今間違いなくミステリー短編の第一人者は、
    この長岡弘樹であると思う。
    陽だまりの偽り (双葉文庫 な 30-1)Amazon書評・レビュー:陽だまりの偽り (双葉文庫 な 30-1)より
    4575512192
    No.7:
    (5pt)

    吉田紀彦

    ペーソス感が至極のミステリー小説、読後感がやられた―という満足感、評判どうりの期待される小説家です。この本と出会えて感謝です。
    陽だまりの偽り (双葉文庫 な 30-1)Amazon書評・レビュー:陽だまりの偽り (双葉文庫 な 30-1)より
    4575512192
    No.6:
    (1pt)

    期待外れ

    どの話も、だから何なのよ?と聞きたくなるような結末だと思う。
    陽だまりの偽り (双葉文庫 な 30-1)Amazon書評・レビュー:陽だまりの偽り (双葉文庫 な 30-1)より
    4575512192
    No.5:
    (5pt)

    なかなかでした

    時間つぶしに短編集を、と何冊か購入したうちの1冊です。が、ひねりが効いていて一番面白かった。
    予想通りのものあり、思いがけない展開のものあり。
    ちょっと、子供たちが健気で親たちが情けなさすぎる気がするが・・・
    オトナになると、しがらみや妙なプライドのせいで自己保身に走ってしまう浅ましさが哀しい。
    長岡弘樹の作品は初めて読んだが、これから他の作品も全て読みたいと思う。
    陽だまりの偽り (双葉文庫 な 30-1)Amazon書評・レビュー:陽だまりの偽り (双葉文庫 な 30-1)より
    4575512192



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