地図のない街



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初公開日(参考)1992年02月
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長編小説

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地図のない街 (ハヤカワ文庫JA)

1996年01月31日 地図のない街 (ハヤカワ文庫JA)

雪の夜、チンピラ二人組にボーナス袋を強奪され、北岡吾郎の平凡なサラリーマン人生は終わりを告げた。彼は相手を叩きのめしてドロップアウト、いつしか山谷に流れついていた。自由気儘なその日暮らし、今では立派なアル中だ。そんな彼が、同じ山谷のアル中で、連続行き倒れ事件を追うライターの初島から誘われ、一念発起して断酒に挑むが…謎の連続怪死事件を縦糸に、男たちの勇気と友情を感動的に描く、地獄の断酒小説。 (「BOOK」データベースより)




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地図のない街の総合評価:7.67/10点レビュー 3件。Cランク


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(7pt)

人生の落伍者たちの、そして酔いどれたちのブルース

風間一輝。
1999年に癌で亡くなり、既にこの世にはいない作家。
その作品は多くないが、私は彼のデビュー作『男たちは北へ』で大いに心打たれ、たちまちその世界に魅了されてしまった。

そんな彼の作風はその第一作がそうであったように作者自身の影が投影された人物が主人公を務めるところに特徴がある。無頼派的な人物が作者の言葉を代弁するかのように心情を吐露し、そして難癖を付ける。
それは決して付き合いやすさを感じる男ではないけれど、その武骨さが何とも魅力的に見える、不思議な雰囲気を醸し出している。

本書は断酒小説と銘打たれている。そう、アル中がいかにアルコール依存症を同類の仲間たちと共に克服するかが綴られている。
従ってここに登場する人物たちは極度のアル中ばかりで信じられないほど酒を飲む。全編これ飲酒シーンばかりと云ってもいいほどの内容だ。

勿論酒を飲んでばかりでは話は進まない。主人公が流れ着き、やがてそこで知り合い飲み友達(アル中友達?)となった仲間たちがドヤ街山谷で続発する真夏の夜の連続行き倒れ事件の謎に肉迫していくことでトラブルに巻き込まれていくのだ。

さてそんな酔いどれたちが繰り広げる舞台となる山谷についてその独自の文化を詳らかに描く。

例えば今では一般的になった酎ハイはこの山谷で金のない者たちが安い焼酎をソーダで割って飲んだ焼酎ハイボールが始まりらしく、なんとこの山谷が発祥の地らしい。

また流れ者が行く着くこのドヤ街でもそれなりに住処についてはランクがあるらしく、1室に二階建てベッドをたくさん置いたベッドハウスに始まり、畳2畳から4畳半までの広さがある個室、そしてビジネスホテルに代表される個室ホテルと大きく3つに分けられる。

そんな社会の底辺の落伍者たちの社会が克明に描かれる。それはまるで作者自身が山谷にしばらく暮らしたかのように鮮明だ。

しかしやはり物語の中心は主人公北岡吾郎とその仲間初島肇と木沢完らが行う断酒計画の顛末だ。

その計画とは日中の午前10時から午後6時までをワンセット、次の午後6時から午後10時までをもうワンセットと設定し、第1日目はそれぞれ6杯ずつ飲み、2日目はそれぞれ5杯とワンセットごとに1杯減らしていく。そして6日目がそれぞれ1杯ずつとなり、7日目でとうとう酒を絶って、それを継続させるというもの。

これが彼らにとって悪夢のカウントダウンのように徐々に効いてくる。第3日目の日中4杯、夜4杯の段階から禁断症状が出てくる。そして寝ても悪夢しか見ない。それは幻覚や幻聴と云った類のもので、彼らにとって夢なのか現実なのかが区別がつかず、そして際限なく恐ろしい夢ばかりを見てしまう。寝るのが怖くなるので置き続けるが、その間は手の震えが止まらず、脂汗が滴り、ひたすら苦しむばかり。

寝ても地獄、起きても地獄。その地獄から解放されるには酒を飲むしかない、といった堂々巡りの無間地獄に苛まれる。

アルコール中毒ことアル中、最近ではもはやアルコール依存症と呼ぶようになったが、昔はよくこのような叔父さんを見たものだった。終始手が震え、顔は酒焼けで真っ赤、話すこともよく呂律が回っていないため不明瞭。典型的なアルコール中毒者を小さい頃私が住んでいた界隈でも見かけた記憶がある。しかし最近は見なくなって久しく、忘却の彼方だったため、これほどまでに大変なのかと再認識させられた。

アル中にも種類があるらしい。本書では初島、北岡、桐沢それぞれが同じアル中でもタイプが違うように書かれている。
飲酒後いつ頃禁断症状が現れるかで分かれており、それぞれ8時間後に訪れる即刻タイプ、1時間後に訪れる1時間タイプ、そして1日は持つ1日タイプ。

私もお酒は好きで、週に一回はジョギング後に缶ビール1本に焼酎湯割り1杯と缶チューハイ1本を飲む。
平日は飲まないが飲み会があればビールに始まり、日本酒、ワイン、ウィスキーに焼酎とチャンポンするのが当たり前になった。ウィスキーや焼酎も水割り、お湯割りで飲んでいたのが、今ではロックで飲むのが通常になってきた。
しかしそれでも二日酔いになることはなく、耐性が強くなってきたと思っていた矢先に最近泥酔して失敗したこともあった。

幸いにして私は本書の主人公らと違い、日常生活には支障が出ていないが、上の状態から逸脱し、週一が毎日に変わり、やがて酒量が増えだすと私も彼らの仲間入りになることだろう。彼らは私にとっていい反面教師になった。

彼らのそうまでしてまで断酒を決行するのはそれぞれに拠り所があるからだ。

云い出しっぺの初島は素面で一般人が遊びに訪れる公園を散歩したり、休んだりしたいからだ。
アル中の彼が行くと日中から酒臭い男を見た子供連れの母親や夫婦が嫌悪感剥き出しに立ち去るのが嫌だからだという。彼はそんな慎ましい願いのために断酒に望む。

主人公の北岡はかつて自分が捨てた街宇都宮で最後に行ったバーのマスターの姪村雨零子に再び逢いたいからだ。彼女の前に酔っ払いの姿ではなく、まともな素面の人間で綺麗な姿で逢いたいからだ。

そうこの北岡という男は元サラリーマンで広告代理店の支店長にまでなった男は我々と近い価値観がある。

暴力など振るったことがなく、小学生から大学まで続けていたサッカーで鍛えた脚を武器に暴力団と戦い、人生を踏み外した男。

彼はボーナスを暴力団に奪われ、それを取り戻すために彼らに復讐する。警察に被害届を出すことを敢えてせず、自分で戦うことを選ぶ。

それは多分彼が日本の街の闇を知ったからだろう。
日向で生きてきた男に初めて襲い掛かった闇。暴力という理不尽な行為に屈した自分が許せなかったのだろう。
それを彼はどうしても克服したかった。彼の中の獣が目覚め、その瞬間家族や仕事といったしがらみからも解放されたのだ。

だから彼は復讐を終え、ボーナスを取り戻した後にこう自問自答する。
第二の人生に踏み出すなどというわけでなく、今までと違った生き方をしてみることにした、と。
彼は闇を知ってしまい、いわばコツコツ働いてお金を稼ぐといった間接性よりもほしい物は他所から奪うといった直接的な生き方、明日など考えず、今を考える生き方に魅了されたのだろう。妻と子供を養うために引かれたレールから外れることを選んだ。

だから知人の紹介で仙台で仕事を得てもそれはかつての自分の延長戦であったから続かなかった。そこでの暮らしは憎悪もなければ愛情もなかったと呟く。
つまり新しい生き方としてはあまりに無味無臭、平穏すぎたのだ。彼はもっと逸脱したかったから、東京に戻り、何者かも問われずに生きられる山谷に住み着いたのだ。

我々一般社会人からすれば彼はドロップアウトした落伍者に移るだろう。
しかし彼にとっては本当の生き方を選んだ世捨て人と思っている。彼は自由を手に入れたのだ。
しかしその代償として酒に溺れ、アル中になってしまう。

やがて主人公北岡吾郎の仲間木沢完の正体は桐沢風太郎であることが解る。そう、売れないグラフィック・デザイナーを生業にしたあの『男たちは北へ』の主人公であり、作者自身を色濃く想起させるあの無骨な優しき男だ。彼がフリーライターの初島に誘われて山谷の取材をすることになり、一緒に移り住むようになったのだった。
あの自転車乗りとこんな形で再会するとは。確かにアル中ではあったが、ここまで重度とは思わなかった。男桐沢の意外な側面を見た思いがした。

しかし桐沢の正体が解ってからは物語は北岡から彼にシフトする。何しろ前作で自衛隊たちともやり合った胸の据わった男だ。戦う術を心得ており、おまけに闇の情報へも詳しい。

この桐沢との再会は思いもかけないプレゼントに思え、素直に嬉しかった。
本書では元暴力団員だった宇都宮でバーを営むBAR酔虎伝のマスター村雨泰次と北岡が心の拠り所としている姪の零子、そして桐沢の切り札となる私立探偵の室井辰彦など今後も風間一輝氏の作品世界に登場しそうで、彼ら彼女らは今後とも心に留めておかねばならないだろう。

そしてなんといってもこの作家、無骨な男たちの友情を書かせたら非常に上手い。

桐沢がリンチに遭い、仲間たちが集まり、暴力団員3人に復讐をする顛末はほとんど『スタンド・バイ・ミー』のような青春小説の煌めきを見せる。
1人1人ではただの酔いどれだが、束になって掛かればヤクザさえも一網打尽。世は捨てたがプライドは捨ててない男たちの生き様が鮮やかに描かれる。

しかしやはり酔いどれは酔いどれ。ここにはどうしようもない男たちの足の引っ張り合いもまた描かれる。アル中だからこその団結力は裏返せばお互いがアル中であることを確認し合い、そして安心していることを意味する。
従って断酒なぞをしてそこから脱け出そうとすれば真人間になった仲間に置いていかれるのではという焦燥感に駆られ、足を引っ張ることも辞さない。彼らの団結力とは皆が同じ人種であることの安心感に由来していることが解ってくる。

本書はようやく週休二日制が普及し出し、今では死語になっている「ハナキン」という言葉が出来た頃の話だ。
しかしだからと云って本書で描かれているドヤ街山谷は令和の今なお実在し、そこには初島、北岡、桐沢や彼らを取り巻くオヤジたちが今なお半ばホームレスのような状態で生活しているのだ。東京スカイツリーのお膝元のような場所に今なお彼らは住み着いている。

47都道府県それぞれに異なる文化や風習があるように巨大都市東京都1つ取ってもそれぞれ独自の規律と文化で生きる人たちもいる。山谷には山谷でしか通用しないルールと暗黙の了解があり、それが今なお連綿と続いている。
サラリーマンで支店長まで登り詰めた北岡がこの異質な秩序で形成されるドヤ街で生きゆくさまはもしかしたら近い将来の私の姿かもしれない。

彼ら人生の落伍者たちの、そして酔いどれたちのブルース。
地図にない街山谷。
それは未来という地図のない街でもある。
明日なき街を行く2人にまたどこかで出逢うことだろう、間違いなく。


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No.2:
(3pt)

★★★☆☆

★★★☆☆
地図のない街 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:地図のない街 (ハヤカワ文庫JA)より
4150305404
No.1:
(5pt)

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この作家の新刊がもう出ないのが本当に悔しい。単行本で状態の良いのが100円で売られていたりすると、思わず買ってしまう。だから本棚には「男たちは北へ」が何冊も並んでいたりする。稲見一良の「セントメリーのリボン」なんかもそう。おもしろいぞう!
地図のない街 (ハヤカワ文庫JA)Amazon書評・レビュー:地図のない街 (ハヤカワ文庫JA)より
4150305404



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