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Tetchy さんのレビュー一覧

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レビュー数202

全202件 201~202 11/11ページ

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No.2:
(8pt)

魅力的な逆説集

『詩人と狂人たち』の出来栄えに失望した私は本作に関してはチェスタトンコンプリート達成(当時出版されていた分に関して)のための一里塚として惰性的に本書を手にしたのだが、これが当たりだった。
先に書いたようにブラウン神父シリーズでもチェスタトンが得意とする逆説を利用した短編は数多く収録されていたが、本書はその名の通り、逆説ばかりを集めたミステリ短編集である。
ブラウン神父シリーズの時に若干この逆説に慣れというか、飽きにも似た感慨を抱いていたが、そんなときでもこの短編集に収録されている逆説は斬新さに溢れた煌めきがあった。
どんな逆説か以下に挙げてみよう。

「三人の騎士」:死刑執行の中止を伝える伝令が途中で死んでしまったために、囚人は釈放された。
「博士の意見が一致すると・・・」:二人の男が完全に意見が一致したために、一人がもう一方を殺した。
「道化師ポンド」:赤い鉛筆だったから、黒々と書けた。
「名指せない名前」:国民から好かれていた思想家は政府から忌み嫌われていたが追放されなかった。
「愛の指輪」:ガーガン大尉は誠実な人がゆえに、不必要な嘘をつく。
「恐るべきロメオ」:明らかにその人だと思われる影法師ほど見間違えやすい物はない。
「目立たないのっぽ」:背が高すぎるために目立たない。

と、ちょっと読んだだけでは???と首を傾げる逆説ばかりだが、これらの逆説がポンド氏によって非常に合理的に解説される。
中にはその逆説が成立する状況を想定しやすいものもあるが、そのほとんどは謎という魅力に満ちている。特に1編目の「三人の騎士」は「ああ、そういうことだったのか!」と膝を打ってしまった。そしてこの1篇で私はこの逆説ミステリ集に取り込まれてしまった。
そして本書は最後に読んだだけあって、私の中でチェスタトンの評価を決定付けた作品集とも云える。最後が『詩人と狂人たち』だったら、今もこれほどにチェスタトンという名前は私の中に深く刻まれていたか、微妙ではある(でも『~童心』があるから、チェスタトンはやはり忘れられない作家ではあっただろうけど)。

現在この作品は絶版だが、この作品と『奇商クラブ』はぜひとも復刊して、多くの人に読んで欲しい短編集だ。
光文社が『木曜日だった男』みたいに古典新訳文庫で上梓してくれると一番いいのだが。

ポンド氏の逆説【新訳版】 (創元推理文庫)
G・K・チェスタトンポンド氏の逆説 についてのレビュー
No.1:
(8pt)

個人的に思い出深い作品です

シドニー・シェルダン原作の作品をドラマ化することで数字が取れることが解ったのか、テレビ朝日は本作もドラマ化したらしい。しかしそれは土曜ワイド劇場という2時間枠でのドラマ化であった。しかし本作は実は昔にオードリー・ヘップバーン主演で映画化されたらしいが、全く知らなかった。

プロットとしては比較的単純。大企業の社長が事故で亡くなり、莫大な遺産を相続した娘が他の親族から命を狙われるという物で、ミステリの定型としても非常に古典的であるといえるだろう。
ストーリー展開はもう定石どおりで、最初に命を狙う会社の重役連中の人となりがエピソードを交えて語られる。それぞれに大金が必要な事情があり、誰もが命を狙ってもおかしくない。
で、娘のエリザベスが何度も命を落としそうになるわけだが、やっぱりこの辺の危機また危機の連続というのは確かにクイクイ読ませる。

ただここまで来ると読む側もこなれてきて、パターンが読めてくるのだ。特にシドニー・シェルダンの人物配置が常に一緒なのが気になる。主人公はいつもヒロインで、それをサポートする魅力的な男性がいる、そして2人で降りかかる災難や危難を乗り越えていく。絶体絶命のピンチになった時にこの男性が颯爽と現れ、カタルシスをもたらすというのが、共通しており、それは藤子不二雄の一連のマンガのキャラクター構成がほとんどの作品で共通しているのに似ている。いじめられっ子の主人公にそれを助ける特殊能力を持ったキャラクター(ドラえもん、怪物くん、オバQ、etc)、いじめっ子とその子分、そして憧れのヒロインとほとんどこの構成である。これは両者が自分の作品が売れる黄金の方程式を見つけたということなのだ。で、私はこういうマンネリに関しては全く否定しない。なぜならマンネリは偉大だからだ。この基本構成を守りながらもヒットを出すというのは作者のヴァリエーションに富んだアイデアが必要だからである。そしてこの両者はそれを持っているのだ。これはまさに才能と云えるだろう。

さて本作では他の作品と比べて、意外と先が読める。さらには最後に明かされるエリザベスの命を狙う犯人も案外解りやすい。巷間ではそれが他の作品よりも評価がちょっと低い原因となっている。でもシェルダン作品を初めて読んだ人はどうなんだろうか?私は今まで何作か読んできて、作者の創作テクニックに馴れてきたがために見破れたように思える。なんせこの時まだ高校生だし。
しかし本作は私にある一つの希望を与えてくれた本でもある。本作でヒロインのエリザベスをサポートするリーズ・ウィリアムスという人物の生い立ちだ。彼は貧しい家の出ながらも一生懸命努力して一流企業でその地位を固める。それだけならばまだよくある話なのだが、彼は自らを磨き、どんな場所に出ても恥ずかしくない、社交界でのマナーを身に付け、洗練された人物となり、周囲の信頼を得るのだ。それがゆえに自分が貧しい出自であったことをちらりとも窺えさせない。
私も決して裕福な家庭ではなく、それどころかむしろ貧しい家庭の部類だったといえよう。しかし本作でのリーズの生き様は努力すれば自分も洗練された男になれるかもしれないという希望を与えてくれた。今の自分を振り返って果たして自分が洗練されているかどうかはわからないが、両親が私を育てくれた環境よりは裕福だし、それなりにいいお店に出入りもでき、そういう場所での振舞いもそつなく出来るようになった。思えば今の自分があるのはこのリーズの影響が強かったように思う。高校のときにこの本を読み、リーズのような男に出会えたことは私にとって非常な幸運だったのだろう。
本書はシドニー・シェルダンのこれまで読んだ所作では出来栄えという点では確かに面白いけれども並みの部類になるだろうが、このリーズというキャラクターのお陰で私の中ではちょっと特別になっている。

血族〈上〉
シドニィ・シェルダン血族 についてのレビュー