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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数581

全581件 321〜340 17/30ページ

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No.261
(8pt)

大人の女性の出会いと分かれと修復と(非ミステリー)

第132回直木賞を受賞した、30代女性の生きづらさと復活を描いた長編小説。女性同士の友情を描いているので女性にはより強く共感を呼ぶだろうし、もちろん男性が読んでも十分に楽しめる作品である。
職場の人間関係にうんざりして専業主婦になった35歳の小夜子は他者との関係性が上手くつかめず、3歳の娘とウチに引き蘢るように暮らしていたのだが、そんな自分を変えるために外に働きに出ようとする。そこで出会ったのが、同じ大学で面識は無かったものの同級生だったヴェンチャー企業の女社長・葵だった。自分とは正反対の性格の葵に魅了されて入社し、仕事を覚え、生き甲斐を感じ始めていた小夜子だったが、些細なことから、立場の違いから生まれる溝を感じるようになる。独身者と結婚した者、主婦と社会人、上司と部下などの差異がきっかけで生まれた溝は、やがては二人を分つ亀裂になって行った。
上記の小夜子の視点から語られる物語が中心なのだが、並行して語られる葵の視点からの過去の物語が重なって来ることで、単純な友情物語ではない、人間の成長物語になっている。ストーリーが進むほどに純真で脆かった青春時代が甦り、そのままストレートには成長できなかったことに対する後悔やもどかしさが胸を打つ。
男女の別なく、どなたにもオススメできる良質なエンターテイメント作品である。
角田光代:対岸の彼女 (文春文庫)
角田光代対岸の彼女 についてのレビュー
No.260
(8pt)

血か、育ちか?

アメリカでは発売のたびにベストセラー入りするという、ボストン市警の女刑事「D. D. ウォレン」シリーズの第7作。レクター博士ばりの女性サイコパスが登場する、サイコな警察ミステリーである。
自宅ベッドで殺された女性の体からは無数の皮膚片がはがされていた。現場の家を夜に再訪したD.D.は階段から転落し、左肩の剥離骨折という重傷を負い、さらに当時の記憶を失ってしまった。休職を余儀なくされたD.D.が復帰のために通い始めたペインコントロール専門の精神科医アデレインは、先天性無痛症という自身の遺伝に向き合うために痛みの専門医になったという。その独特の治療法に違和感を抱きながらも早期復帰をめざすD.D.だったが、なかなか職場復帰は叶わなかった。そうこうする内に同じ手口の第二の事件が発生し、D.D.とパートナーたちが事件のパターンを調べると、40年も前に同じような事件が起きていた。しかも、自殺したその犯人はアデレインの実父であり、さらにアデレインの姉シェイナも30年前、14歳のときに少年を殺害して逮捕され、刑務所内で連続殺人事件を起こし終身刑で服役中の悪名高い殺人鬼だと判明した。40年前、30年前の事件と現在の事件の関係は? 服役中のシェイナが関与しているのか? アデレインがD.D.の前に現われたのは果たして偶然か?
犯罪の態様は凄惨、D.D.の痛みに耐えながらの捜査が迫真的。あらすじだけ読めば、これぞサイコサスペンスだが、その実、サスペンス、スリラーというよりは犯人探しミステリーである。なかでもアデレイン、シェイナの姉妹の存在感が強烈。これほど対照的な立場になったのは成育環境の違いだが、では二人に共通する血はどんな影響を与えるのか、というのも読みどころ。ドラマチックな物語だが、ストーリー展開がやや遅いのと異常な犯行の割に動機が安直なのが、欠点といえば欠点である。
日本では、第8作「棺の女」が最初に翻訳出版されるというおかしな始まり方をした当シリーズだが、シリーズ展開とは関係なく読める作品なので、本作だけ読んでも十分に楽しめる。
リサ・ガードナー:無痛の子 (小学館文庫)
リサ・ガードナー無痛の子 についてのレビュー
No.259
(8pt)

読後感が良い、爽やかなミステリー

弁護士として25年間働いた後に引退しミステリー作家となったという年齢不詳の作家のデビュー作。各種新人賞を受賞するなど高評価を得た、正統派の青春ミステリーである。
自堕落な母親と自閉症の弟を実家に残して家を出て、一人暮らししながら大学に通っていたジョーは、授業の課題で年長者にインタビューし半生記を書く必要に迫られ、苦し紛れに訪れた老人介護施設でカールに紹介された。末期がんで余命幾ばくも無いカールは、三十数年前に14歳の少女を強姦殺害した罪で収容されていた元受刑者だった。カールの話を聞き、ヴェトナム戦争時のカールの戦友と話したりするうちに、ジョーはカールは無罪ではないかと疑問を持つようになった。カールが命あるうちに真実を探り出し、無罪を証明したいと思ったジョーは、隣に住む美人女子大生ライラとともに事件の真相解明に乗り出したのだったが・・・。
基本は犯人探しミステリーであり、フーダニットの本筋をキチンを抑えたストーリーである。それに加えて、主人公のキャラが、思わず応援したくなる鮮烈で爽やかでストレートなところが青春ミステリーとして際立っている。事件を解明する手法は不器用そのもの、ライラに対する恋心の表現も不器用だが、弟に対する一途な愛情は感動的である。さらに、ジョーやカールの秘めてきた過去の悲しみ、それぞれの正義感などがハートウォーミングで、読後感がとても清々しい。ストーリー展開もスピーディで、エンターテイメント作品としての完成度も極めて高い。
ミステリーファンならジャンルを問わず、どなたにも安心してオススメできる佳作である。
アレン・エスケンス:償いの雪が降る (創元推理文庫)
アレン・エスケンス償いの雪が降る についてのレビュー
No.258
(8pt)

犯人より捜査側の複雑さが印象的だが

2001年のCWA賞にノミネートされた、カリン・スローターのデビュー作。ジョージア州の田舎町の検死官サラ・リントンシリーズの第一作である。
街のダイナーのトイレで発見された盲目の女性教授シビルの惨殺死体には腹部に大きく斬りつけられた十字の傷があった。発見した小児科医で検死官のサラ・リントンは検屍解剖のとき、さらにおぞましい現実に直面する。サラの別れた夫である警察署長ジェフリーを中心に事件に取り組む捜査チームには、シビルの双子の姉で署の最年少女性刑事であるリナも加わった。犯行の様態や使用された薬物、凶器などは判明したものの犯行の動機や背景が全く分からず、捜査が難航しているうちに、さらに第二の被害者が出てしまった。静かな田舎町を恐怖に陥れた連続殺人犯は、隣人の中にいる・・・。
残虐な殺害シーンが印象的なサイコ・サスペンスで、犯人の異常性は同種の作品と比べてもかなり際立っており、犯人探しのストーリーだけでも十分に楽しめる作品である。それに加えて、本作の主要登場人物たちが織り成す人間ドラマが複雑で面白い。分かれた夫婦であるサラとジェフリーの関係、サラの秘められた過去、被害者シビルと刑事リナの家族の関係性などが微妙に重なり、絡み合い、単なるサイコ・サスペンスでは終わらない深みがある。
異常な犯罪と犯人探しのサイコもののファンはもちろん、残虐シーンが嫌いでなければ、幅広いジャンルのミステリーファンにオススメできる。
カリン・スローター:開かれた瞳孔 (ハーパーBOOKS)
カリン・スローター開かれた瞳孔 についてのレビュー
No.257
(8pt)

人情味のある刑事もの

1992年のアンソニー賞最優秀長編賞を受賞した、警察ミステリー。英国の古都バースを舞台にしたダイヤモンド警視シリーズの第一作である。
バース近郊の湖で全裸の女性遺体が発見された。捜査を担当するのは、コンピュータや科学捜査が嫌いな、昔かたぎの頑固刑事ピーター・ダイヤモンド。聞き込みや推理を重視した捜査は難航し、身元の割り出しにも苦労していたのだが、地元の大学教授ジャックマンが妻の失踪を届け出たことから身元が判明。当初は夫であるジャックマン教授が最重要容疑者として取り調べられたのだが、確かなアリバイがあった。さらに、元テレビ女優だった妻の奔放な私生活、教授が川で溺れた少年を助けた出来事などが重なり、事件の真相解明は混迷を深めてゆくばかりだった・・・。
デブで頑固者の老刑事(ダイヤモンドは41歳だが、雰囲気は老刑事である)という、欧州の警察小説では王道のパターンで目新しさは無いが、舞台となったバースの情景、登場人物の性格描写などが丁寧で、じっくりと面白さが伝わって来る。著者が得意としてきた時代ミステリーとは異なり、もっと幅広い読者に受け入れられる作品である。
警察ミステリーファンには文句無しにオススメだ。
ピーター・ラヴゼイ:最後の刑事 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ピーター・ラヴゼイ最後の刑事 についてのレビュー
No.256
(8pt)

働く女子は男前(非ミステリー)

30代の働く女性を主人公にした、2006年発売の短編集。
5作品それぞれに、職場でも人生でも踊り場に差しかかった女性たちの生きづらさと心意気が生き生きと描かれていて飽きさせない。
改めて、奥田英朗の人間観察力と物語作りの上手さに感嘆した。
奥田英朗:ガール (講談社文庫)
奥田英朗ガール についてのレビュー
No.255
(8pt)

改めて、ノワールは犯人次第と感じた

大阪府警シリーズの第5作。1989年の作品だが、2018年に読んでも全く古くささを感じさせない、傑作なにわノワール作品である。
殺害された入院中の暴力団幹部は右耳を切り落とされ、そこには他人の小指が差し込まれていた。次に死体が発見されたバッタ屋のオーナーは舌を切り取られ、口には暴力団幹部の耳が押し込まれていた。問題の小指が行方不明の贈答品販売業者のものと判明し、事件は暴力団がらみの連続殺人事件と判断した大阪府警捜査一課の刑事たちが関係者の周辺を洗っていくと、さらなる犯行が危惧された。捜査側が警戒を強める中を、犯人は最終目的に向かって一直線に進んでいくのだった・・・。
冒頭からラストシーンまでゆるみが無く、どんどん引き込まれていく、密度の濃い作品である。基本的には犯人探しの警察ミステリーだが、正体不明(途中で正体は判明するが)の犯人側からのストーリーが挟まれることで、一気にサスペンスが高まって来る。やっぱり、ノワール小説は犯人像次第ということを再確認した。
黒川節というのだろうか、テンポのいい大阪弁の会話も楽しく、黒川作品ファンなら大満足すること間違いない。ハードボイルド、サイコミステリーのファンにもオススメしたい。
黒川博行:切断 (角川文庫)
黒川博行切断 についてのレビュー
No.254
(8pt)

第二次世界大戦の亡霊がハリーを走らせる

ハリー・ホーレシリーズの第3作。日本では2009年に刊行されていたのが、新たに集英社文庫として再登場したもの。第4作以降のシリーズへとつながっていく作品である。
暗殺に使われることが多い高性能ライフルがノルウェーに密輸されたことを知ったハリーは捜査を進め、購入したのは第二次対戦中にナチスドイツとともに闘った軍人ではないかという疑惑を抱く。さらに、銃密輸の背後には「プリンス」と名乗る男がいることもつかんだ。信頼する同僚エッレンと共に捜査を進めたハリーだったが、ひょんなことから「プリンス」の正体を知ったエッレンが悲劇に見舞われてしまった。一時は落ち込んでしまって廃人のようになったハリーだったが、密輸組織に関連すると思われる殺人事件が相次いだことから立ち直り、再び事件の解明に走りだすのだった・・・。
上巻はストーリーが現在と1940年代前半を行き来して背景説明が続くため、やや冗長だが、下巻になるとストーリー展開は一気に加速し、タイムリミットのある暗殺ものならではの緊迫感のあるサスペンスになる。ノルウェー版「ジャッカルの日」と言えば分かりやすいだろう。
「ネメシス」以降のハリーを理解する上では欠かせない作品であり、シリーズ読者には必読。シリーズ未読なら、本作から読み始めるのがオススメだ。
ジョー・ネスボ:コマドリの賭け 上 (ランダムハウス講談社文庫)
ジョー・ネスボコマドリの賭け についてのレビュー
No.253
(8pt)

さらに加速したドタバタミステリー

デビュー作でいきなり人気沸騰した「ワニ町シリーズ(by解説の大矢博子氏)の第二弾。またまた笑いとアクションとミステリーが凝縮された、期待通りの快作である。
前作の大騒動が終わり、やっと静かに暮らせると思ったフォーチュンだったが、翌朝にかかってきた一本の電話で、また事件に巻き込まれることになる。シンフル出身でハリウッドに行っていた元ミスコン女王のパンジーが町に帰ってきて、町のお祭り「子どものミスコン」で元ミスコンを偽装しているフォーチュンと一緒に運営することになったという。町中の男と関係があったと噂されるパンジーは強烈なキャラクターで、同じく強烈キャラのフォーチュンとは会った途端に公衆の面前で衝突することになり、翌日、パンジーが死体で発見されたため、フォーチュンは犯人と目されてしまった。そこでフォーチュンは、前作でも大活躍した婦人会のスーパーおばあちゃんコンビのアイダ・ベルとガーティの力を借りて、真犯人探しに乗り出すことになった。
犯罪の動機や背景は、言わば添え物程度で、メインディッシュは3人組の大混乱と大活躍である。CIAの秘密工作員フォーチュンは言うに及ばず、地元婦人会の二人も頭脳とアクションと口が抜群で、最初から最後までしっかり笑うことができる。
ユーモアたっぷりできちんとした構成のミステリーを読みたいというファンには絶対のオススメ。
前作の翌日から始まるストーリーは前作を受けての表現が多いので、ぜひ第一作から読み始めていただきたい。
ジャナ・デリオン:ミスコン女王が殺された (創元推理文庫)
No.252
(8pt)

「味方は家族だけ、世界は敵だ」という、家族の歪んだ絆

日本でも大ヒットした「熊と踊れ」の続編。前作とはやや異なったテイストながら、読者を引き込んで行く力強さは失っていないサスペンスフルな犯罪小説である。
(以下の感想は前作のネタバレを含んでいるため、未読の方は注意)

連続銀行強盗で6年間の服役を終えた長男・レオが出所してみると、6年間で、一緒に犯罪を犯した家族は大きく変化していた。父親は酒を断ち、次男、三男は社会復帰して真面目に働いていた。ところがレオは、獄中で知り合った殺人犯・サムと壮大な強盗計画を企てており、出所したその日に、先に出所していたサムと一緒に行動を開始する。レオが立案した緻密な計画は完璧に見えたのだが、ちょっとした手違いが生じたため、弟たちの手を借りる必要が生じた。しかし、二度と犯罪には手を染めないと決心していた弟たちはこれを拒否し、レオはサムだけを仲間に計画を強行することになった。
前回の強盗事件を担当したブロンクス警部は、今回も担当することになり捜査を進めていたのだが、レオの相棒になっているのが実の兄のサムであることを知り驚愕する。兄が服役したのは、弟である自分を守るために父親を殺害し、しかも自分が警察に通報したからだったのだ。そのことに罪悪感をいだいていたブロンクス警部は、警察としての責任と兄を助けたいという思いとに引き裂かれて苦悩する。そして、二組の兄弟たちの物語はひたすら終末へと失踪する・・・。
前作同様、緻密な犯罪計画がスリリングなのだが、本作は家族の絆というテーマが、より大きな比重を占めている。愛し合う家族同士が暴力の血によって反発し合う悲劇が、胸に重くのしかかる。エキサイティングながらも悲しみを感じさせる作品である。
前作を受けての話なので、「熊と踊れ」を読んでから本書を読むことを強くオススメする。
アンデシュ・ルースルンド:兄弟の血―熊と踊れ2 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
No.251
(8pt)

セバスチャンに人間味が見え始めた?

本国はもちろん日本でも人気を確立している「犯罪心理捜査官セバスチャン」シリーズの第4弾。犯人を追う警察小説としての面白さはもちろん、主要登場人物たちの心理的なドラマも読み応えがある、北欧らしいミステリー作品である。
スウェーデン西部の田舎町で二人の子どもを含む一家4人が銃殺される事件が発生した。すぐに怪しい男が判明したのだが証拠が何も見つからず、捜査の行き詰まりを恐れた地元警察の担当者はトルケル率いる殺人捜査特別班に助けを求めた。現場に駆けつけた特別班のメンバーは、前作でのケガがもとで休職中のウルスラの協力もあって、事件現場には、もう一人、少女がいたことを突き止めた。唯一の目撃者である少女が犯人から狙われると判断した捜査班は、犯人より先に少女を発見しようと焦るのだったが・・・。
一家惨殺の犯人探しが本筋で、地道な聞き込みと徹底した証拠調べで犯人をあぶり出して行くストーリーは極めて完成度が高く、ラストでのどんでん返しもインパクトがある。だがそれ以上に、それぞれに心理的な傷を抱えた特別班メンバーの苦悩や葛藤、変化が面白い。特に、主人公セバスチャンの変化、世界最強の迷惑男にも人間味が垣間見えるときがあることに驚かされる。
シリーズ愛読者は必読。シリーズ未読の方は、ぜひ第一作から読み始めていただきたい。
ミカエル・ヨート:少女〈上〉 (犯罪心理捜査官セバスチャン) (創元推理文庫)
No.250
(8pt)

拾い物(失礼!)の警官ハードボイルド

2016年のエドガー賞候補作、ネロ・ウルフ賞受賞作。「冷戦下のニューヨークを舞台にした歴史ノワールの会心作」というセールストークに少しだけ期待して読み始めたのだが、いい意味で期待を裏切る傑作ハードボイルド作品である。
マッカーシーによる赤狩り旋風が吹き荒れていた1954年、NY市警の刑事キャシディは拷問を受けて殺された男性ダンサーの捜査を担当することなった。現場となった被害者の自宅を訪れると、安アパートの住人には似つかわしくない高級な家具や衣類があり、被害者はどうやらゆすりを働いていたようだった。ダンサーがキャシディの父親がプロデュースする演劇に関わっていたことから、劇場のロッカーを調べると何の変哲も無い50セント硬貨が隠されていた他に、めぼしいものは見つからなかった。相棒のオーソーとともに本格的に捜査を進めようとしたキャシディだったが、FBIからの指示で捜査から外されてしまう。納得がいかないキャシディとオーソーは、様々な妨害にあいながらも独自に捜査を続行し、マッカーシー、FBI、CIA、ソ連の情報部が絡んだ醜悪な現実に直面するのだった。
殺人事件の捜査のはずがスパイ摘発の政治闘争になり、さらに主人公の家族を巻き込んだ脅迫事件になり、米ソの情報戦とスキャンダルになり、そんなカオスを真っ正直に切り開いて行くハードボイルドな警官の物語で幕を閉じる。550ページを越える長編だが、波乱に満ちた展開で飽きさせることが無い。本作がデビュー作で、アメリカではすでに次作が発売されているというので楽しみに待ちたい。
物語は複雑だが表現が映像的で、ストーリー展開もシンプルなので読みやすい。歴史ノワールというより、ハードボイルドとして読むことをオススメする。
デイヴィッド・C・テイラー:ニューヨーク1954 (ハヤカワ文庫NV)
No.249
(8pt)

スケールの大きな国際冒険エンターテイメント

日本推理作家協会賞をはじめ、数々の読者ランキングで1位を獲得した、大型冒険小説。新人類の誕生というSF的なテーマながらリアリティを感じさせる、スケールが大きなエンターテイメント作品である。
イラクの民間軍事会社で働くアメリカ人傭兵と創薬を研究する日本人大学院生という、縁もゆかりも無さそうな二人が、ある難病を介してつながったとき、世界は人類史上最大の分岐点を迎えることになった。そこに、人類絶滅の危機を察知したアメリカ合衆国が介入し、事態は激しく動いて行く・・・。
物語の舞台はイラク、ワシントン、アフリカ大陸、東京とグローバルに広がり、事件の背景に潜んでいるのは人類絶滅の危機という壮大なテーマで、しかも傭兵と民兵との白兵戦や衛星を使った戦闘、アメリカ政府内部での権力闘争や情報戦など、アクションシーンも盛り沢山で、最初から最後まで飽きさせない。医学関連で難解な説明があるのが難点だが、そこは流して読んでも全く問題は無い。
アクション系のエンターテイメント、国際謀略系の作品が好きな読者には、絶対のオススメだ。
高野和明:ジェノサイド
高野和明ジェノサイド についてのレビュー
No.248
(8pt)

リーガルに謎解きをプラスした面白さ

リンカーン弁護士シリーズの第5作。法廷シーンの面白さは従来通りで、さらに謎解きミステリーの面白さがプラスされた傑作エンターテイメント作品である。
エスコートガール殺害容疑で逮捕された「デジタルぽん引き」ラコースから弁護を依頼されたハラーは、ラコースにハラーを教えたのが、かつて何度も窮地を救ってやった高級娼婦のグロリアで、しかも殺されたのがグロリアだったことを知り仰天する。依頼を引受けて調査を始めたハラーは、ラコースは罠にはめられただけで無罪だと確信し、真犯人を探し始めるのだが、それに気づいた犯人側から執拗な妨害を受け、命まで狙われることになる・・・。
真相解明までのプロセスは良くできた私立探偵ミステリーのようで、謎解きもアクションも楽しめる。さらに、いつも通りに二転三転する法廷シーンのスリリングさは秀逸。シリーズの中では一番の華やかな作品である。
「訳者あとがき」に「ひょっとするとシリーズ最後の作品か」とあり、同じような感想を持ったのだが、これまでとは違う路線への転換点なのかもしれないと、密かに期待してもいる。
シリーズ作ではあるが、本作だけでも十分に楽しめる作品であり、法廷もの、私立探偵ものファンには自信を持ってオススメしたい。
マイクル・コナリー:罪責の神々 リンカーン弁護士(上) (講談社文庫)
No.247
(8pt)

カッコいい老人に憧れる

2006年に発表された長編小説。サンディエゴを舞台に、引退したマフィアが「自分流の生き方」を貫くために闘う、老人が主役のクライム・アクション作品である。
かつては「マシーン」というあだ名を持っていた凄腕のマフィア、フランク・マシアーノは、62歳になる今はサンディエゴで「餌屋のフランク」と呼ばれ、釣り客相手の商売と魚の販売などのビジネスと、元妻、愛する一人娘、恋人との関係を大切に、平穏な日々を送っていた。ところがある日、マフィアのチンピラが自宅を訪れ、フランクに力を貸して欲しいという。嫌々ながら昔の義理から力を貸すことになったフランクだったのだが、話をつけに行ったところで襲撃され、殺されそうになる。その場は窮地を脱したフランクだったが、その後も執拗にマフィアから命を狙われるようになった。誰が、何の目的でフランクの命を狙うのか、思い当たる過去がいっぱいあるだけに相手を特定できず、フランクは徐々に追い詰められて行く・・・。
老サーファーにして元マフィアの凄腕、しかも商売上手という主人公の設定がかっこいい。「夜明けのパトロール」、「紳士の盟約」の主人公が歳をとったらこんな感じになるのか。空気はあくまで乾いているのだが、登場人物たちの言動は極めて生臭い。そんな中で「自分流の生き方」を貫き通すフランクは、まさにハードボイルド・ヒーローで、最後までかっこよさを失わない。
スカッとした読後感の作品を読みたい方には、絶対のオススメだ。
ドン・ウィンズロウ:フランキー・マシーンの冬 上 (角川文庫)
No.246
(8pt)

設定が異様過ぎるけど面白い!

「その女 アレックス」で爆発的人気を呼んだピエール・ルメートルの2010年(「その女 アレックス」の前年)の作品。リストラされて失業中の57歳の男が人生の一発逆転をかけて爆走する、疾風怒濤の長編サスペンスである。
中堅企業の人事部長の職をリストラされて4年目を迎えたアランは、再就職のエントリーを繰り返すものの57歳という年齢がネックとなり、最低賃金のバイトで食いつないでいたのだが、そのバイト先で上司と衝突しバイトさえ失ってしまった。八方ふさがりのアランだったが、なんと大企業の人事部副部長の候補に残り、最終試験を受けて欲しいという知らせが届き有頂天になる。ところが、その試験の内容は「就職先の企業の重役会議を襲撃し、重役たちを監禁、尋問する」という異様なものだった。危機的状況での重役たちの対応能力と就職希望者の力量を同時に査定するというのが、企業側の狙いだと言う。あまりの無理難題に疑問を持ったアランだったが、背に腹は代えられず、この試験にすべてを賭けることにした・・・。
物語は「そのまえ」、「そのとき」、「そのあと」の3部構成で、面接試験まではアラン、試験当日は試験を設定した男、試験後はアランの視点から語られる。主人公は57歳の失業者というありきたりの設定なのだが、その置かれる状況が異様過ぎて読者は最初から最後まで翻弄されてしまう。ヴェルーヴェン警部シリーズのような残酷なシーンやサイコな描写は皆無だが、最後までスリルとサスペンスに満ちている。さらに、主人公の言動にはブラックなユーモアもあり、読後感もいい。
ノンシリーズ作品なので、ルメートル作品は未読の方にも自信を持ってオススメしたい。
ピエール・ルメートル:監禁面接
ピエール・ルメートル監禁面接 についてのレビュー
No.245
(8pt)

欠落している自分を、何で埋めるのか?

柴田錬三郎賞を受賞し、テレビドラマ化、映画化されて高い評価を得た長編小説。41歳の女性契約社員が、勤務する銀行から一億円もの巨額を横領したのは何故なのか? ミステリー部分は弱いものの、現代人の精神的な渇望を深く掘り下げた傑作エンターテイメント作品である。
裕福な家庭に育ち、平凡な結婚をし、子どもに恵まれなかったことからパートで勤め始めた銀行で真面目に勤務し、契約社員に抜擢された梅澤梨花が、ふとしたことから銀行の金に手を出し、やがては一億の巨額を横領し、タイに逃げ出すまでの転落の道が、周辺人物のストーリーを交えながらスリリングに描かれている。主人公の梨花を始め、彼女に関係する友人たちも「自分が自分でない」違和感を抱えており、その欠落を金(経済)で埋めようとする。特に梨花の場合は、精神的な飢餓を癒すはずだった恋愛も、いつしか金を与えることで自分の満足を得るという代償行為に変質してしまっていた。それを自覚したとき、梨花はもういちど逃げ出そうとする。
犯罪行為そのものや犯行が発覚するプロセスなどはさらりと描かれており、ノワール小説のスリルは無いが、金に縛られ、金に溺れる登場人物たちの姿には冷たい手で肌をなでられるような恐怖感がある。
犯罪小説ファンというより、宮部みゆき、奥田英朗などのファンにオススメだ。
角田光代:紙の月
角田光代紙の月 についてのレビュー
No.244
(8pt)

主役級キャストが勢揃いの豪華版

ハリー・ボッシュ・シリーズの第10作。私立探偵になったボッシュが連続殺人犯を追い詰める、サスペンスミステリーである。
自分が所有する釣り船の中で死亡した元FBI捜査官テリー・マッケイレブの死因について、彼の妻から調査を依頼されたボッシュは、友人のために調査を開始し、テリーがある事件に関心を持っていたことを知る。同じ頃、ラスベガス近郊の砂漠で男性ばかりの多数の死体が埋められている事件が発覚し、犯人「詩人」からのメッセージによって、左遷されていたFBI捜査官レイチェル・ウォリングが現地に呼び出された。紆余曲折を経た後、ボッシュとレイチェルの行く道が交差し、二人は力を合わせて連続殺人犯「詩人」の足どりを追跡することになる。狡智に長けた「詩人」に翻弄されながらも、二人は反発したり共感し合ったりを繰り返しながら「詩人」にじりじりと迫って行く。
話の始めの方から犯人は分かっており、ストーリーの中心は犯人とボッシュたちの知恵比べ、逃亡と追跡、反撃というサスペンス・アクションに主眼が置かれた派手なストーリー展開。しかも、ボッシュ、レイチェル、テリーという、コナリー作品の主役たちが揃い踏みするというサービス満点のエンターテイメント作品である。さらに、連続殺人犯「詩人」が驚異的な頭脳の持ち主で、「悪役が魅力的なほどサスペンスミステリーは面白い」というセオリーを再認識させられた。
ボッシュ・シリーズのファンには絶対のオススメ。単発で読んだサスペンスミステリーのファンも絶対に失望させない、傑作ミステリーである。
マイクル・コナリー:天使と罪の街(下) (講談社文庫)
マイクル・コナリー天使と罪の街 についてのレビュー
No.243
(8pt)

退職警官もので時効捜査もの

スウェーデンを代表するベテラン作家だが、これまで日本では翻訳されておらず、本邦初訳という作品。脳梗塞で倒れ麻痺が残る元犯罪捜査局長官が、時効を過ぎた未解決事件を解決するという、骨太でスリリングな警察ミステリーである。
脳梗塞で入院した元長官ヨハンソンは、主治医である女性から「牧師だった父が、25年前の少女惨殺事件の犯人を知っているという懺悔を聞き、悩んでいた。犯人を見つけ出せないだろうか」という相談を受ける。だが、事件は数ヶ月前に時効を迎えており、公に捜査をすることはできなかった。そこでヨハンソンは、麻痺が残った体に不満を覚えながらも、信頼する元同僚、外見とは裏腹に頭が良い個人介護士、大金持ちの長兄から派遣されてきた頭脳も肉体も優秀な若者などの手を借り、鋭い推理力で犯人をあぶり出すのだった。そしてついに犯人を発見したのだが、時効の壁があって裁判にかけることはできなかった。そこで罪を償わせるためにヨハンソンが選択した手段は・・・。
老いた警官や探偵が主役という点では「もう年はとれない」などと同系列で、さらに法で裁けない罪をどう償わせるかという時効捜査もののテイストも加えられている。主人公をはじめ主要な人物のキャラクターがきちんと立ち上がっているし、ひたすら未解決事件の犯人を追うというストーリーも明確で、560ページを越える長編だがとても読みやすい。
本作はヨハンソンを主人公にしたシリーズの最終作とのこと。次は、シリーズの前作になるのか、他のシリーズになるのか、いずれにしても今後の翻訳が期待できる作家といえる。
北欧の警察ミステリーファン、老人が主人公のミステリーファンには絶対のオススメ。のみならず、事件捜査ものが好きな読者には自信を持ってオススメしたい。
レイフ・GW・ペーション:許されざる者 (創元推理文庫)
レイフ・GW・ペーション許されざる者 についてのレビュー
No.242
(8pt)

刑事生活最後の年も、ボッシュは衰えず

ハリー・ボッシュ・シリーズの第17作。定年延長制度での勤務も最後の年を迎えたボッシュが、これまでと一つも変わらぬ激しさで2つの難事件を解決して行く、傑作警察小説である。
ラテン系の若い女性刑事ソトとコンビを組むことになったボッシュが取り組むのは、10年前に銃撃されたときに体の中に残った銃弾が原因で死亡した、マリアッチ楽士・メルセドの事件である。検屍解剖で銃弾が取り出されたことから、再捜査が始まったのだった。事件で車椅子になったメルセドが市長選に利用された経緯もあり、捜査は政治的な案件として注目され、警察上層部や外部から様々なプレッシャーを受けた。
また、ソトは7歳のときに遭遇した火災事件にとらわれており、ひとりで密かに捜査を再開しようとするのだがボッシュに知られ、メルセドの事件と並行して捜査することになった。10年前、20年前の事件だけに物証はほとんどなく、事件関係者もバラバラになっており、捜査は難航するのだが、引退した元刑事の話からボッシュたちは新たな事件解明の糸口をつかむのだった・・・。
一見無関係な2つの未解決事件が思わぬところからつながって行くというのは、よくあるパターンだが、本作ではそれぞれの事件捜査が丁寧に描かれているので、ストーリー展開に無理がない。ただ、最後の真相判明が徹底的ではなかったのが、ちょっと物足りない。
定年延長も最後を迎えたボッシュだが、シリーズはまだ続いており、2018年には21作目が発表された。ボッシュは、まだまだ衰えそうにない。
シリーズ読者には必読。警察小説ファンにも自信を持ってオススメできる。
マイクル・コナリー:燃える部屋(上) (講談社文庫)
マイクル・コナリー燃える部屋 についてのレビュー