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とかげ さんのレビュー一覧

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レビュー数7

全7件 1~7 1/1ページ

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No.7: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

殺意の集う夜/怒涛の「そんなわけあるか」

友達が死んでいる!
確かにあたしは、ちょうど続けざまに6人も殺してしまったところだ。でも友達を殺したのはあたしじゃない。
ならば友達を殺した犯人に、あたしが殺した分も罪をかぶってもらおう! さっき殺した6人のうちの誰かに違いない、一体誰だ!?

もうこの設定を思いついた作者のセンスがすごいのだが、この作品を楽しむためには、少なくとも次の2つの性質が必要であろうと私は考える。

1つ目は、文体や設定への違和感があっても気にせず読めること。
古い小説や翻訳ものを読み慣れている人などは向いているかもしれない。 というのも、1996年の作品で、正直、舞台設定や人物設定、登場人物達のセリフも含めて、言い回しやそれぞれの描かれ方が古臭く感じてしまうのだ。
昔の本だしそういうもの、と割り切って読めれば問題ないが、序盤の万理と園子の会話が辛い人は、読み切るのが大変かもしれない。

2つ目は、バカバカしいことを素直に楽しめること。
「そんなわけあるか」の連続で、つっこみ出すとキリがない。潔く楽しんだほうがよい作品である。
しかしながら、実は細かい伏線がちゃんとあって、アホみたいな状況の影にやたらまともなトリックや論理展開がある。
私自身、どういう気持ちで読めばいいのか困惑しつつも、夢中になって考察して、一晩で読み切ってしまった。

この本を面白いと思うか、酷すぎると思うか、かなり好みが分かれそうな作品である。

今は電子書籍しか売られていないようなのだが、ぜひ手元に紙で欲しいので、新装版で出てほしい。

▼以下、ネタバレ感想
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殺意の集う夜 (講談社文庫)
西澤保彦殺意の集う夜 についてのレビュー
No.6:
(7pt)

密室殺人ゲーム王手飛車取り/不謹慎の極み、だがそれがいい

〈頭狂人〉、〈044APD〉、〈aXe〉、〈ザンギャ君〉、〈伴道全教授〉。
本名も容姿も年齢も職業も知らない、ネット上のニックネームで呼び合う5人が遊ぶのは、殺人推理ゲーム。
毎回1人が出題者となり、残りの4人が探偵役として、密室やアリバイのトリックを推理する――ただし、出題されるのは、現実に出題者が犯した殺人事件だ。

推理小説で「なぜ(ホワイダニット)」に全く触れられないというのは珍しい(「だれ(フーダニット)」がない倒叙ものはあるが)。しかし、『密室殺人ゲーム王手飛車取り』では、動機は「ゲームの出題のため」だし、犯人は「出題者」である。問答無用で「どうやって(ハウダニット)」の部分にだけ注目した、なんとも奇妙な設定だ。興味をそそられるというだけでなく、この設定だからこその謎や面白さもある。
世間では、推理小説というだけでも、不謹慎に感じる人はいるだろう。人が死ぬことを娯楽にしているのだから。それが、ただ「思いついたこのトリックを使ってみたい、それを仲間内で推理ゲームの題材にしたい。だから殺そう」というのだから、不謹慎の極みである。最高だ。

どうにもうろんな5人についても、それぞれの個性や、殺人を肴にしたやりとりが楽しく、読み進めるうちにどんどん憎めなくなってしまった。
全体的に5人で会話しているシーンが多いため、本がそれなりに厚い割に、一晩であっという間に読めてしまった。

ちなみに、タイトルにある「王手飛車取り」から将棋絡みを連想するかもしれないが、将棋の知識は必要ないので、安心してほしい。
また、続編の『密室殺人ゲーム2.0』は、この本を読んでいないとよくわからない部分も、この本を読んでいるからこそ楽しめる部分もあるので、順番通り、内容の記憶があるうちに読むことをお勧めする。

▼以下、ネタバレ感想
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密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社文庫)
歌野晶午密室殺人ゲーム王手飛車取り についてのレビュー
No.5: 3人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

ハサミ男/異色の模倣犯探し

メフィスト賞を受賞した、殊能将之のデビュー作。

次の獲物である美少女の周辺を調査していた主人公は、死体となった彼女の第一発見者となる。美少女の首にはハサミが突き立てられていたのだが、これはマスコミから「ハサミ男」と呼ばれている殺人犯の手口にそっくりだ。しかしそんなはずはない。「ハサミ男」は自分なのだから――

模倣犯自体はさほど珍しい要素ではないが、『ハサミ男』では殺人犯が主人公で、自分の手口の模倣犯を探すという設定が目新しい。
また、その主人公自身の性格もなかなか面白い。淡々とした語り口で、「医師」と呼ぶ人物と不思議な会話をし、自殺未遂を繰り返し、何事もなかったかのように仕事をこなし、そして推理を働かせながら模倣犯を探すのだ。
このシリアルキラーに共感はできないのだけれど、なぜか応援したくなってしまう。

本文では主人公視点の他、警察視点でもこの事件を追っていく。
警察側も個性のある面々で、若い刑事の目線から、事件の情報や警察の捜査状況が徐々に判明していく。

アンフェアな表現やあからさまなミスリードなど、少し引っかかる点はあるものの、模倣犯探しを純粋に楽しむことのできる作品だと思う。
ネタバレ被害に遭いやすい作品でもあるので、早めに読んでおくことをオススメする。

▼以下、ネタバレ感想
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ハサミ男 (講談社文庫)
殊能将之ハサミ男 についてのレビュー
No.4: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

火車/クレジット社会の闇を知る

休職中の刑事のもとへ、親戚の青年が失踪した婚約者を探して欲しいと訪ねてくる。彼女に自己破産経験があると判明してすぐに、家も仕事も捨てて消え去ってしまったのだ。なぜそこまで徹底的に逃げるのだろうか……

初めて読んだのは中学生の頃で、そのときも面白く感じてはいたものの、やはり登場人物の設定やそれぞれの場面での感情など、よく捉えられていなかったように思う。
ふと、結末は覚えているけれど、途中経過を忘れたなあと思って、読み返してみた。

20年以上前に書かれた話なのでピンとこない描写もあるが、それでもクレジットカードやローンの怖さをリアルに感じられる。
刑事ドラマっぽさがあるストーリーで、主人公が地道な調査と推理を重ね、少しずつ真実が明らかになっていく。派手さはなく、良くも悪くも堅実な展開と言えるだろう。ぱっと盛り上がる展開が好きな人には物足りないかもしれない。

テーマになっているのはクレジットカード、ローンなどの「消費者金融」。
この「消費者金融」については、本当は誰もがきちんと学び、正しい知識を身につけなければならないだろう。
とは言え、実際には有名なタレントがカッコよくカードを使うCMがあったり、支払いは分割が当たり前かのような売り方をしていたりと、「借金」であることが直接的に感じられない世の中になっているようにも思う。
学校の授業で取り入れるという方向にも動いているようだが、やはり勉強となると堅苦しく感じてしまうものだ。

そう考えると、この『火車』ならば、ミステリとして楽しみながら、消費者金融の闇を知る良いきっかけになるのではないだろうか。
学べるミステリとしてオススメしたい作品だ。

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火車 (新潮文庫)
宮部みゆき火車 についてのレビュー
No.3: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

カラスの親指/オッサンを応援したくなる

詐欺師の中年二人は、それぞれ暗い過去を抱えていた。ひょんなことからそこへ少女が加わり、更に増えて結局5人と1匹の不思議な生活が始まった。平穏な毎日を手に入れるため、彼らは驚きの計画を実行する。

オッサン二人にあまり惹かれず、最初だけ読んで放置してしまっていた本だった。
最近また続きを読み進めていたのだが、少女が登場してからは展開も速くなり、面白い方向に転がりそうだぞと中盤からは夢中になって読めた。
ところどころで登場する詐欺の手口もなかなか見事で、なるほどなあと感心してしまう場面もあった。

詐欺と借金が題材で、登場人物達は様々な事情を抱えているのだけれど、主人公の語り口が軽いせいか、そこまで暗い雰囲気はない。
「謎を探って推理していく」というザ・ミステリな形式ではないが、エンターテイメントとして「次はどんな展開になるのか?」とわくわくしながら読んでいける作品。
最後にはオッサン二人も好きになっていた。

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カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫)
道尾秀介カラスの親指 by rule of CROW's thumb についてのレビュー
No.2: 4人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

十角館の殺人/古き良き時代のミステリ

十角形の不思議な館がある孤島へ、ミステリ研究会のメンバー7人がやってきた。半年前に殺人事件が起きたその島で、1週間を過ごすつもりだ。
一方、殺されたはずの島の主人の名前で送られた怪文書を、本土に残っていた会員が受け取り、その謎を追って調査を始める。

書かれたのが80年代ということで、時代が違うなと感じてしまう。しかし、文章自体は読みやすく、ストーリー展開も淀みないので、読み始めてしまえばすんなり最後まで読み切ってしまえるだろう。
次々に事件が起こる「島」と、謎の手紙の真相を探っていく「本土」の2つの舞台が交互に展開され、今度は何が起こるのだろうとわくわくしながら読めた。
そこに謎があり、その謎に対して解決を試みるという、昔ながらのミステリ的展開――これぞミステリ、と思わせてくれる作品だ。
登場人物の名前については、正直とっつきにくい印象を受けたが、そこでこの作品を食わず嫌いしてしまうのはとても勿体ない。

ただ、あまりに有名な作品ゆえ、ネタバレ情報が多いのが難点だ。未読の方は、もうこれ以上の情報は仕入れず、本書を読むことをオススメする。
しいて言えば、『十角館の殺人』を読む前にアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』を読んでおくと、より楽しめると思う。

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十角館の殺人 (講談社文庫)
綾辻行人十角館の殺人 についてのレビュー
No.1: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(8pt)

そして誰もいなくなった/初心者向けミステリ

1939年に発表された、アガサ・クリスティの代表作。
10人の老若男女が孤島に招待されたが、招待状の送り主は姿を現さない。やがて招待客は一人、また一人と何者かに殺されていく……。

70年以上前に書かれた海外作品であるため、作中の時代背景は古く、最初はなかなかこの世界観に入り込めないかもしれない。
しかし、しばらく読んでいけば、次々と起こる殺人事件、疑心暗鬼に陥る登場人物達、テンポよく進んでいく物語にどんどん惹かれていく。
良くも悪くもシンプルなつくりなので、ミステリを読み慣れている人には物足りないかもしれないが、ミステリ初心者には安心しておすすめできる作品だ。

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そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)