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とかげ さんのレビュー一覧

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レビュー数3

全3件 1~3 1/1ページ

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No.3: 1人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

殺意の集う夜/怒涛の「そんなわけあるか」

友達が死んでいる!
確かにあたしは、ちょうど続けざまに6人も殺してしまったところだ。でも友達を殺したのはあたしじゃない。
ならば友達を殺した犯人に、あたしが殺した分も罪をかぶってもらおう! さっき殺した6人のうちの誰かに違いない、一体誰だ!?

もうこの設定を思いついた作者のセンスがすごいのだが、この作品を楽しむためには、少なくとも次の2つの性質が必要であろうと私は考える。

1つ目は、文体や設定への違和感があっても気にせず読めること。
古い小説や翻訳ものを読み慣れている人などは向いているかもしれない。 というのも、1996年の作品で、正直、舞台設定や人物設定、登場人物達のセリフも含めて、言い回しやそれぞれの描かれ方が古臭く感じてしまうのだ。
昔の本だしそういうもの、と割り切って読めれば問題ないが、序盤の万理と園子の会話が辛い人は、読み切るのが大変かもしれない。

2つ目は、バカバカしいことを素直に楽しめること。
「そんなわけあるか」の連続で、つっこみ出すとキリがない。潔く楽しんだほうがよい作品である。
しかしながら、実は細かい伏線がちゃんとあって、アホみたいな状況の影にやたらまともなトリックや論理展開がある。
私自身、どういう気持ちで読めばいいのか困惑しつつも、夢中になって考察して、一晩で読み切ってしまった。

この本を面白いと思うか、酷すぎると思うか、かなり好みが分かれそうな作品である。

今は電子書籍しか売られていないようなのだが、ぜひ手元に紙で欲しいので、新装版で出てほしい。

▼以下、ネタバレ感想
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殺意の集う夜 (講談社文庫)
西澤保彦殺意の集う夜 についてのレビュー
No.2:
(7pt)

密室殺人ゲーム王手飛車取り/不謹慎の極み、だがそれがいい

〈頭狂人〉、〈044APD〉、〈aXe〉、〈ザンギャ君〉、〈伴道全教授〉。
本名も容姿も年齢も職業も知らない、ネット上のニックネームで呼び合う5人が遊ぶのは、殺人推理ゲーム。
毎回1人が出題者となり、残りの4人が探偵役として、密室やアリバイのトリックを推理する――ただし、出題されるのは、現実に出題者が犯した殺人事件だ。

推理小説で「なぜ(ホワイダニット)」に全く触れられないというのは珍しい(「だれ(フーダニット)」がない倒叙ものはあるが)。しかし、『密室殺人ゲーム王手飛車取り』では、動機は「ゲームの出題のため」だし、犯人は「出題者」である。問答無用で「どうやって(ハウダニット)」の部分にだけ注目した、なんとも奇妙な設定だ。興味をそそられるというだけでなく、この設定だからこその謎や面白さもある。
世間では、推理小説というだけでも、不謹慎に感じる人はいるだろう。人が死ぬことを娯楽にしているのだから。それが、ただ「思いついたこのトリックを使ってみたい、それを仲間内で推理ゲームの題材にしたい。だから殺そう」というのだから、不謹慎の極みである。最高だ。

どうにもうろんな5人についても、それぞれの個性や、殺人を肴にしたやりとりが楽しく、読み進めるうちにどんどん憎めなくなってしまった。
全体的に5人で会話しているシーンが多いため、本がそれなりに厚い割に、一晩であっという間に読めてしまった。

ちなみに、タイトルにある「王手飛車取り」から将棋絡みを連想するかもしれないが、将棋の知識は必要ないので、安心してほしい。
また、続編の『密室殺人ゲーム2.0』は、この本を読んでいないとよくわからない部分も、この本を読んでいるからこそ楽しめる部分もあるので、順番通り、内容の記憶があるうちに読むことをお勧めする。

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密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社文庫)
歌野晶午密室殺人ゲーム王手飛車取り についてのレビュー
No.1: 2人の方が下記のレビューは「ナイスレビュー!!」と投票しています。
(7pt)

火車/クレジット社会の闇を知る

休職中の刑事のもとへ、親戚の青年が失踪した婚約者を探して欲しいと訪ねてくる。彼女に自己破産経験があると判明してすぐに、家も仕事も捨てて消え去ってしまったのだ。なぜそこまで徹底的に逃げるのだろうか……

初めて読んだのは中学生の頃で、そのときも面白く感じてはいたものの、やはり登場人物の設定やそれぞれの場面での感情など、よく捉えられていなかったように思う。
ふと、結末は覚えているけれど、途中経過を忘れたなあと思って、読み返してみた。

20年以上前に書かれた話なのでピンとこない描写もあるが、それでもクレジットカードやローンの怖さをリアルに感じられる。
刑事ドラマっぽさがあるストーリーで、主人公が地道な調査と推理を重ね、少しずつ真実が明らかになっていく。派手さはなく、良くも悪くも堅実な展開と言えるだろう。ぱっと盛り上がる展開が好きな人には物足りないかもしれない。

テーマになっているのはクレジットカード、ローンなどの「消費者金融」。
この「消費者金融」については、本当は誰もがきちんと学び、正しい知識を身につけなければならないだろう。
とは言え、実際には有名なタレントがカッコよくカードを使うCMがあったり、支払いは分割が当たり前かのような売り方をしていたりと、「借金」であることが直接的に感じられない世の中になっているようにも思う。
学校の授業で取り入れるという方向にも動いているようだが、やはり勉強となると堅苦しく感じてしまうものだ。

そう考えると、この『火車』ならば、ミステリとして楽しみながら、消費者金融の闇を知る良いきっかけになるのではないだろうか。
学べるミステリとしてオススメしたい作品だ。

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火車 (新潮文庫)
宮部みゆき火車 についてのレビュー