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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数581

全581件 181〜200 10/30ページ

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No.401
(8pt)

老いることの強さと悲しみと

デビュー作ながら様々なミステリー賞にノミネートされたという、英国ミステリーの大型新人のデビュー作。リタイア族が暮らす施設の趣味のクラブメンバーが現実の殺人事件の謎に挑戦する、ユーモラスだが王道をゆく謎解きミステリーである。
暇に飽かせて元警察官の入居者が持ち込んだ捜査ファイルを基に未解決事件を解き明かそうという「木曜殺人クラブ」。元看護師、元労働運動家、元精神科医、経歴不詳の切れ者女性など、メンバーは全員癖のある老人ばかりが集まって楽しんでいたのだが、施設運営者の一人が撲殺されるという事件が発生し、自分たちで犯人を捜そうと張り切りだした。推理には自信があるものの情報に乏しいため、現役の巡査を丸め込み捜査情報を手に入れようとする。機動力や科学的捜査力はないものの人生経験と人間観察力に優れた彼らの調査は、警察には想像できなかったルートで真相に迫っていく…。
老人(高齢者)が主役のミステリーは今や立派に一ジャンルとして確立されているが、本作はそれに新たな華を添えるインパクトがある作品である。犯人捜し、動機の解明というミステリー要素はきちんと押さえられ、さらに高齢者ならではのユーモアと悲哀が効果的にちりばめられており、味わい深いエンターテイメント作品となっている。
王道の英国ミステリーのファン、ユーモア・ミステリーのファンにオススメする。
リチャード・オスマン:木曜殺人クラブ (ハヤカワ・ミステリ文庫)
リチャード・オスマン木曜殺人クラブ についてのレビュー
No.400
(8pt)

いい年なのに体を張りすぎてるよ、ヴィク

4年ぶりに邦訳が出たV.I.ウォーショースキー・シリーズの第19作。身近な人々が巻き込まれたトラブルを解決するためにヴィクが体を張って駆け巡る、アクション・サスペンスである。
敬愛するロティの甥の大学生が殺人犯の容疑をかけられたとして、ヴィクに助けを求めてきた。頑迷な保安官を相手に四苦八苦しているところに、さらに元夫の姪が「シカゴにいる姉が行方不明になったので探すのを助けてほしい」と頼み込んできた。どちらも金にならない事件だが、正義を求めるヴィクは困っている人を放っておけず調査を進めることにした。気乗りしない調査だったが事件の中身を知るほどに巨悪の姿が見え隠れし、さらにヴィク自身の身体の危険も迫り、全身全霊をかけて真相に迫ることになった…。
もうとっくに50歳を過ぎたヴィクだが激しい気性と行動力は変わらないというか、ますます激しさを増し、次から次へと命を賭けたアクションが展開される。しかも、そのアクションの背骨になっているのが社会的不公正に対する激しい怒りなので、正義が貫かれる最後はすっきりと気持ちがいい。
シリーズ愛読者には文句なしのオススメ。ハードボイルドファン、社会性のあるアクション・サスペンスのファンにもオススメしたい。
サラ・パレツキー:クロス・ボーダー 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
サラ・パレツキークロス・ボーダー についてのレビュー
No.399
(8pt)

さらに重苦しくなった、異色の刑事ハードボイルド

マンチェスター市警エイダン・ウェイツシリーズの第3作。エイダンが警備中に病院で殺害された殺人犯を巡る謎に、エイダン自身の過去が絡んできて先が見えないサスペンスが続く警察小説であり、権力と暴力の醜悪な関係を映したノワールである。
12年前の一家惨殺事件で服役していた男が末期がんと分かり、病院に収容された。エイダンと相棒のサティは厳重な警備を命じられていたのだが、男が火炎瓶で襲撃されて死亡し、サティも重体に陥った。しかも、男は死ぬ間際にエイダンに「俺じゃない」という一言を残していた。エイダンは新たに相棒となったナオミ・ブラック刑事とともに事件を解明しようとするのだが、それは男を殺害した犯人捜しであると同時に、12年前の事件の謎を解くことでもあり、両方の事件に関係する人物たちの秘密を暴いていく困難な作業だった。さらに、捜査の途中からエイダンは何者かに監視され、命を狙われていることに気が付いた…。
過去の事件の関係者が殺されて再度捜査が進められるという警察捜査小説の王道の謎解きに、エイダンの過去と現在にまつわる因縁の人間関係から生まれるハードボイルドな展開が加えられた、非常に重厚で複雑なサスペンス・ミステリーである。前2作の登場人物やエピソードが重要な役割を果たすこともあり、ぜひとも第1作から読むことをオススメする。
ジョセフ・ノックス:スリープウォーカー マンチェスター市警 エイダン・ウェイツ (新潮文庫)
No.398
(8pt)

老嬢たちのバディ・ハードボイルド

本作品が長編3作目というアメリカの新進作家の本邦デビュー作。ひょんなことから友人になった老嬢二人が孫娘も巻き込んで、マフィアの金を横取りして逃げるバディもののハードボイルドである。
マフィア幹部の未亡人・リナは言い寄ってきた隣人の男をガラスの灰皿で殴りつけ、男の車を奪って娘の家に逃げ込もうとしたのだが、もともと折り合いが悪かった娘・エイドリアンはリナを追い返そうとする。そこに娘の隣家に住む引退したポルノ女優・ウルフスタインが声をかけ、隣家に入れてくれ、ほっと一息つく。だが、エイドリアンの愛人のリッチーがマフィアの金を強奪して逃げたため、リッチーを殺そうとするマフィアの殺し屋が襲ってきて、エイドリアン、リッチーと15歳の孫娘・ルシアが逃げ込んできた。さらに、ウルフスタインが金をだまし取った男も登場し、カオス状態になった現場からリナとルシア、ウルフスタインの3人は問題の金を奪い、車も奪って逃げ出した。深夜のハイウェイを必死で逃げる三人組とそれを追いかける男たちのサスペンス・アクションは予想を覆すドラマを生み出した…。
まず第一に、登場人物が魅力的。主役の三人はもちろん周辺人物もキャラが際立ち、生き生きと動き回っている。物語のメインは逃亡する女たちと追いかける男たちの追っかけっこなのだが、話の展開がスピーディでぐんぐん引き込まれて行く。さらに舞台に選ばれたニューヨークの街や映画を中心にしたポップカルチャーにも味わいがある。
熟女が主役のハードボイルドであり、バディものであり、しかもアクション・サスペンス。ハリウッドのコメディタッチのアクション映画が好きなら、絶対のオススメだ。
ウィリアム・ボイル:わたしたちに手を出すな (文春文庫 ホ 11-1)
No.397
(8pt)

SNSネイティブ世代の青春ミステリー

イギリスの新人のデビュー作。女子高校生がSNSを駆使して事件の真相に迫る謎解きミステリーであり、児童文学賞候補になった青春小説の傑作でもある。
平和で楽しい家庭で暮らす元気な女子高校生・ピップが自由研究のテーマに選んだのは、5年前に町を騒がせた17歳の女子高生・アンディ失踪事件だった。死体は見つかっていないものの、アンディの恋人だったサル・シンが警察の事情聴取の後で睡眠薬を飲み、頭からビニール袋を被った死体で発見されたことから、サルがアンディを殺して自殺したとされてきた。しかし、サルと親しかったピップはサルが犯人とは思えず、サルの無実を証明するために関係者へのインタビューを行い、それをレポートにまとめようとするのだった。何の権限もない高校生のピップだが、徹底的にSNSを調べ上げ、サルの弟のラヴィの助けも借りて事件関係者が隠してきた真実を次々に明らかにする。そしてたどり着いた結末は……。
誰もが顔見知りの小さな町での少女失踪事件は、昔から繰り返されてきた話だが、本作は探偵役が女子高校生ということで新鮮な作品となっている。特に、SNSを駆使して真相に迫るプロセスはユニークで軽快、ピップのキャラクターの良さもあり、爽やかな読後感をもたらしてくれる。また謎解きの部分も高レベルである。
若い世代だけでなく、幅広い年齢層の謎解きミステリーファンにオススメしたい。
ホリー・ジャクソン:自由研究には向かない殺人 (創元推理文庫)
No.396
(8pt)

今は亡き「民主警察」への挽歌

昭和29年の大阪を舞台にした書き下ろし長編ミステリー。新人刑事が堅物の上官と組んで連続猟奇殺人事件を追う、バディものの警察小説である。
代議士の秘書が頭に麻袋をかぶせられて殺害されるという猟奇事件が発生し、捜査班に組み込まれた大阪市警視庁(当時は存在した)の新人刑事・新城は、テロ事犯を疑う国警から派遣されてきた警部補・守屋とコンビを組むことになった。上級公務員で東京から転勤してきたばかりの守屋はすべてに四角四面で融通が利かず、新城とは正反対の性格で、新城は先が思いやられるのだった。担当する聞き込みに回ると案の定、守屋は不器用で新城はしりぬぐいに汗をかかされるのだった。事件は、同様の手口で殺害された遺体が次々に発見され連続殺人の様相を呈してきたのだが、被害者の共通点が見つからず
捜査は難航した。それでも、新城たちの粘り強い聞き込みから、戦前の満州にさかのぼる背景が浮かび上がってきた……。
堅物上司と人情派の部下という、よくあるパターンのバディもので、そこに新味はない。しかし、かつて戦後の一時期だけ存在した自治警察と国家警察という歴史的背景が上手くいかされていて、なかなか読みごたえがある。
警察小説のファン、近代史ミステリーのファンなら十分に楽しめる作品としておススメだ。
坂上泉:インビジブル
坂上泉インビジブル についてのレビュー
No.395
(8pt)

勘違い(先入観)だけで、これだけ面白くできるのか!

2020年に週刊誌連載された長編小説。家族を守るために秘密を抱えた人々の葛藤と謎解きの面白さを兼ね備えたヒューマン・ミステリーである。
小料理屋を営む藤原幸人のもとにある日、脅迫電話がかかってきた。一人娘・夕見を守るために、幸人が必死で隠してきた秘密を知っており、金を渡さなければ娘にばらすという。脅迫のストレスに耐えきれずダウンした幸人はしばらく店を休業し、気分転換のために夕見と出かけることにしたのだが、夕見が行きたいといった場所は、30年前に幸人家族が逃げるようにして出てきた故郷だった。そこには幸人の母の死、さらに幸人と姉の事故を巡る深い闇が残されているのだった…。
主人公が隠していた秘密は物語の最初に明らかにされ、謎解きの本題は「母の死を巡る」一連の出来事である。母の死と、その一年後に起きた毒キノコによる殺人事件の責任はだれにあるのか? 素人探偵が地道に聞き込みと推理を重ねて行くプロセスは、もどかしいもののサスペンスがある。そして、最初の脅迫という伏線の回収もあっけないが面白い。
家族の秘密をテーマにした人間ドラマのファンにオススメする。
道尾秀介:雷神 (新潮文庫 み 40-23)
道尾秀介雷神 についてのレビュー
No.394
(8pt)

こういうどんでん返しなら納得!

「時計仕掛けの歪んだ罠」で日本でも人気が出始めた「サム&モリー」シリーズの第2作。前作以上に複雑な展開で読者を驚かすサスペンス・ミステリーである。
前作の結末から警察を退職したサム・ベリエルが収容されていた精神科病院から脱走を試みるが失敗し、サムを捜索していた公安警察に逮捕されるという衝撃のオープニングだが、すぐに元警察官のサムとは別人であることが判明する。そのころ元警官のサム・ベリエルはスウェーデンの最深部、電話の電波も届かない北極圏にあるロッジで元公安警察の潜入捜査官だったモリーに匿われ、絶対に警察の検索網にかからないようにひっそりと暮らしていたのだが、かつての相棒であるディアが訪ねてきたことから事態は一変する。ディアは、彼らが関わった事件で捜査ミスがあったことを示唆する手紙を受け取り、そこには無視できない事実が書かれているというのだ。犯人が逮捕され、すでに終結した事件であり、公式には再捜査できないため自由に動けるサムとモリーに非公式の捜査を依頼したいというのだった。あくまで私立探偵として捜査に協力し始めたサムとモリーだったが、すぐに連続殺人事件に巻き込まれ、公安警察に加えて見えない犯人からの危機にさらされることになった……。
ストーリー(謎解きのプロセス)がどんでん返しの連続で、どう書いてもネタばらしになりかねない作品である。ただ、どんでん返しに無理がなく、ジェフリー・ディーヴァー作品のようなあざとさが無いので、展開のスピードとサスペンスに心地よく身をゆだねることができる。
北欧ミステリーのファンには絶対のおススメ。またサイコ・サスペンスのファンにもオススメしたい。
アルネ・ダール:狩られる者たち (小学館文庫 タ 1-2)
アルネ・ダール狩られる者たち についてのレビュー
No.393
(8pt)

幸せな日々を守るために小さな嘘、大きな嘘、そして誠実な嘘

「容疑者」、「生か、死か」がちょっと話題になったロボサムの邦訳第4作。出産を間近に控えた二人の女性の出会いから起きた悲劇を描いた、サイコ・サスペンスである。
成功している夫と二人の子供を持ち、裕福に暮らしているメグは三人目の子供を妊娠していた。専業主婦でありながらブロガーとしても充実した日々を過ごしているメグをうらやみ、密かにストーカー的行動をとるアガサはパート店員で、恋人の子供を妊娠しているものの恋人は逃げ腰で、日々不安を募らせていた。不幸な少女時代を過ごしたアガサは子供を中心にした家庭生活にあこがれを募らせており、生まれてくる赤ちゃんがすべてを変えてくれるものと一途に思い込んでいた。メグを崇拝するあまりアガサは偶然を装ってメグに接近し、友達になることに成功する。しかしその出会いは、お互いの嘘を重ね合わせることで取り返しのつかない結末を招くのだった…。
出産を控えた二人の女性のドラマという設定から想像できるように、赤ちゃんを巡る悲劇になるのだが、そこに至る対照的なヒロイン二人のドラマが実に面白い。起きたことは犯罪だが、犯人を単純に断罪すれば済む話ではなく、読者が犯人に肩入れしたくなるドラマ作りが成功していて、ぐんぐん引き込まれていく。幸せを守るためには嘘も必要なのか、隠し事がないことが誠実なのか、人間の性(さが)について考えさせられる作品である。
ミステリーというよりサイコ・サスペンスとしてオススメする。
マイケル・ロボサム:誠実な嘘 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)
マイケル・ロボサム誠実な嘘 についてのレビュー
No.392
(8pt)

「グラント郡」と「ウィル・トレント」をつなぐ超大作

「ウィル・トレント」シリーズの最新作であると同時に「グラント郡」シリーズを締めくくる、カリン・スローターの転回点となるであろう力強い警察ミステリーである。
8年前、サラの元夫であるジェフリー・トリヴァー署長が捜査した事件で逮捕された服役囚・ネズビットが「冤罪である」と訴えてきた。事件は極めて残虐な連続レイプ殺害で、ネズビットが逮捕されてからは同じような事件が発生していなかったため警察は本気にしなかったのだが、同様の手口によるレイプ殺害事件が発生し、ウィルとフェイスたちは否応なく再捜査することになった。捜査が進むにつれ、トリヴァー署長たちの捜査には欠点があり、ネズビットは誤認逮捕ではないかと思われてきた。このことは、いまだにジェフリーを愛しているサラを傷つけ、それは同時にサラを愛するウィルを苦しめることでもあった。
捜査を進めるにつれて同一犯による犯行の疑いが濃くなる連続レイプ事件について、8年前のトリヴァーの捜査と現在のウィルたちの捜査が交互に展開し、しかも二つの時代をつなぐサラの動揺が激しく、ストーリー全体にきわめて緊張感がある。また、いつも通り事件の態様は暴力全開で読む側に緊張を強いてきて、740ページほどの長編を読み終えるとぐったりさせられる。読み終わってもカタルシスを覚えることはないのだが、確実に次作を読みたくなる不思議な引力を持つ作品である。
カリン・スローターのファンには必読。激しい暴力シーンに耐えられる警察ミステリーファンにもおススメだ。
カリン・スローター:スクリーム (ハーパーBOOKS)
カリン・スロータースクリーム についてのレビュー
No.391
(8pt)

ヴァランダー・マニアは必読・必携

ヴァランダー・シリーズの最終作(書かれたのは最後ではないが)となる未訳の中編小説と、著者自身によるシリーズの説明と索引を併録した「ヴァランダー解題」である。
中編「手」は、田舎に引っ越したいと願うヴァランダーが候補物件を見に行き、庭で人骨の手につまずいたことから難解な過去の事件を解明していく正統派ミステリー。地道な捜査で真相に迫るヴァランダー・シリーズの特性が十分に発揮されるとともに、中年の危機を迎えたヴァランダーの人間臭さが色濃くみられるしみじみとした作品である。
後半3分の2を占める紹介、索引は実に細かく、ヴァランダー・シリーズの誕生の裏話などもあって、ファンには思いがけないボーナスである。
シリーズを何度も何度も読み返すような、ファンというよりマニアには必携の一冊としておススメする。
ヘニング・マンケル:手/ヴァランダーの世界 (創元推理文庫)
No.390
(8pt)

さらに深みを増した第3作。絶対に第1作から読むべし!

老弁護士「トム・マクマートリー」シリーズの第3作。前2作同様というか、更に更に胸を熱くするリーガル・サスペンスの傑作である。
アラバマ州タスカルーサの川岸で射殺死体で発見された男性は、トムとリックたちと因縁深い(第1作)元運送会社経営者のジャック・ウィリストーンだった。さらに、容疑者として逮捕されたのは、ウィリストーンの裁判で最後に証言を翻してトムたちを苦境に追い込んだ元ストリッパーのウィルマだった。パートナーのリックが父親を亡くし、残された母親のために故郷に帰っていたため一人で事務所を預かっていたトムは、「母の弁護をして欲しい」と依頼して来た14歳の少女ローリー・アンがウィルマの娘だと知って驚愕する。しかも、法廷で戦うことになるのが古くからの友人のコンラッド検事、リッチー捜査官であり、さまざまな証拠もウィルマの犯行を示唆するものばかりだった。トム自身に体調不安があり、しかも圧倒的に不利な状況だけに、周囲は弁護を引受けることに反対するのだが、ローリー・アンの情にほだされたトムは、最後の法廷に臨む決意でチャレンジすることにした・・・。
前2作も圧倒的に不利な状況からの逆転劇がカタルシスを呼ぶ情熱的なストーリーだったが、本作はさらにトムの癌の進行などもあり、さらにさらに老弁護士の不屈の精神が強調されている。また、謎解きミステリーとしても最後まで犯人が分からず、終盤のどんでん返しには驚かされる。加えて、これまでトムの周囲に登場した人物たちが再登場し、重要な役割りを果たしているのもシリーズ物としての読みどころである。しかも、第1作で中途半端な印象を残したエピソードが、実は伏線であり本作でしっかり回収されているのにも驚かされる。
リーガル・ミステリーのファン、情熱的なヒューマン・ストーリーのファンには絶対の自信を持ってオススメ。なお、第1作、第2作を引き継ぐエピソードが多いため、絶対にシリーズの順に読むことをオススメする。
ロバート・ベイリー:ラスト・トライアル (小学館文庫 ヘ 2-3)
ロバート・ベイリーラスト・トライアル についてのレビュー
No.389
(8pt)

Every Lives Matter

韓国系アメリカ人女性作家の本邦初訳作品。アメリカでの人種間対立と犯罪に巻き込まれた家族の葛藤を描いた、社会派の犯罪エンターテイメントである。
27歳の韓国系アメリカ人の薬剤師・グレイス、41歳のアフリカ系アメリカ人のドライバー・ショーン。L.A.で暮らしていること以外には共通点が無さそうな二人だが、グレイスの母親が駐車場で撃たれた事件をきっかけにお互いの家族にまつわる過去と現在がぶつかり、それぞれのアイデンティティをかけて衝突することになる。通りすがりの犯罪と思われたのだが、被害者であるグレイスの母親に、ある過去があったことからL.A.の韓国系、アフリカ系社会に緊張を呼び起こし、街は暴動寸前の状態にヒートアップしてきた・・・。
物語は、1991年と2019年を行き来し、ショーンとグレイスの視点が交互に入れ替わることで事件の様相がさまざまに変わり、徐々に問題の深刻さが増してくる。事件の背景には韓国系とアフリカ系だけではない、さまざまな人種間対立があり、さらに犯罪被害者の報復感情、家族間での愛情と反発などが重なって深みがあるストーリーになっている。
あまり話題になっていない作品だが、社会派のミステリー、犯罪小説に関心がある方にはぜひ読んでいただきたい傑作である。
ステフ・チャ:復讐の家 (集英社文庫)
ステフ・チャ復讐の家 についてのレビュー
No.388
(8pt)

戦争の傷痕と恐怖政治。血の凍る恐怖小説である

イギリスの二人の合作者によるデビュー作。第二次大戦から6年後、スターリンによる恐怖政治時代のレニングラードを舞台に、いつ粛正の対象になるかという不安をかかえながらも難事件の解明に邁進する刑事の苦悩に満ちた捜査を描いた歴史警察ミステリーである。
吹雪のレニングラード郊外の線路上に整然と並べられた5人の惨殺死体が発見された。遺体はすべて顔の皮膚をはぎ取られ、歯を砕かれ、喉にガラス器具が差し込まれていたのだが、それぞれに異なる衣装を着せられていた。あまりにも奇怪な状況に、事件を担当する人民警察のロッセル警部補は頭を悩ませたのだが、病理医の話から身元解明の手がかりをつかんだ。かすかな手がかりをもとに身元を判明させてきたロッセルは、被害者の間にありえない共通点を発見し驚愕する。さらに、被害者の一人がスターリンの恐怖政治の手先・国家保安省の職員だったこともあって、捜査を担当する人民警察官たちには陰に陽に厳しい圧力がかけられたのだった。
レニングラード包囲戦の傷痕も癒えていない街、いつ、だれが逮捕・追放されるかも分からない密告社会という重苦しい時代に、それでも捜査を続けようとする主人公・ロッセル警部補だが、自身もかつて国家保安省に逮捕・拷問されて左手の指を失い、将来を嘱望されていたバイオリンの道を絶たれたという経歴の持ち主であり、作品全体が異常な恐怖感に包まれている。それは、最後に事件の動機や犯人が判明しても解消されることはない。
それでも、捜査プロセス、事件の謎解き、伏線の張り方と回収、キャラクター設定が巧みで第一級の警察ミステリーだと言える。
「チャイルド44」、「ゴーリキー・パーク」などが楽しめた方、北欧警察ミステリーのファンの方にはオススメする。
ベン・クリード:血の葬送曲 (角川文庫)
ベン・クリード血の葬送曲 についてのレビュー
No.387
(8pt)

いろいろとアラフィフになった「俺」

「ススキノ探偵」シリーズの第8作。50代に突入した「俺」が、知り合ったばかりの友人たちのために単身で暴れまくる、痛快ハードボイルドである。
地下鉄の中で酔っ払って喧嘩しているのを助けたのが縁で仲良くなった「俺」とイラストレーターの近藤は、二人で立ち飲みしていて近藤のファンだという老婆に出会った。痴呆の兆しが見える老婆を気遣った二人は、老婆を送る届けようとして地下鉄のホームに立ったとき、いきなり老婆が線路に飛び降りた。すぐさま近藤が線路に降り、老婆を助けた二人は一躍地元のヒーローになった。そんなこともあって飲み友達となった近藤が、真夜中の駐輪場で刺殺されるという時間が発生した。日ごろからトラブルを招き勝ちな近藤だったが、事件の状況に納得がいかない「俺」は誰に頼まれた訳でもなく、近藤のために、自分のために調査を開始する。すると何ものかが尾行に付き、突然襲撃された・・・。
ついに50代になった「俺」の、生活スタイルは全く変わっていないものの、体を始めいろいろと老いが忍び寄って来ているようで、感情の揺れが大きくなっているのが味わい深い。また、社会全体の精神的退行、馬鹿な若者や自律していない大人たちへの怒りが一層強く、直接的になっているところも「俺」が歳をとってきたことがうかがえる。あらゆる意味で、ススキノ探偵シリーズは円熟して来たのだろう。
シリーズ読者には文句無しに楽しめる作品としてオススメ。日本のハードボイルドもののファンにもオススメしたい。
東直己:探偵、暁に走る (ハヤカワ・ミステリワールド)
東直己探偵、暁に走る についてのレビュー
No.386
(8pt)

エンタメ度の高さはシリーズでも最高の傑作アクション・ミステリー

スウェーデンの大人気ミステリー「グレーンス警部」シリーズの第8作で、共著者のヘルストレム亡き後、ルースルンドが単独で書いた最初の作品。シリーズ内シリーズとも言える「潜入者・ホフマン」シリーズの第3作でもある。
ある朝、ストックホルムの病院の遺体安置所に係員が出勤すると、死体が一体増えていた。遺体が搬入された記録はなく、遺体は健康そうに見えるアフリカ系の若い男性で、致命傷も見つからなかった。残された遺品や指紋などからも身元が判明しないうちに、さらに、今度は若い女性の遺体が増えていた。この人たちは誰なのか、なぜ死んだのか、どうやって安置所に運び込まれたのか? 闇の中を手探りするようなグレーンス警部たちの捜査が行き着いたのは、放置されたコンテナの中に73人の死体が詰められているという、想像を絶する悲惨な犯罪現場だった。そこでグレーンスが見つけた携帯電話の指紋から割り出されたのは、前作で南米麻薬組織から脱出し、スウェーデンで平穏に暮らしているはずのピート・ホフマンだった。ホフマンの家族を守るために二度と関わりを持たないと決めたグレーンスだったが、この悲惨な事件を解決するには、再びホフマンを訪ねるしかなかった・・・。
冒頭のインパクト、スピーディーな展開、事件の背景の深刻さと謎解きの妙味、潜入者・ホフマンの戦いのサスペンス、そしてガンコ親父・グレーンスが見せる人間的な激情など、エンタメ要素が満載。しかも、全部の要素がこれまでで最高の完成度で、まさに傑作である。
シリーズ最高傑作として、グレーンス警部ファンは必読。シリーズ未読の方なら本書をきっかけに遡って読みたくなること間違い無し。オススメである。
アンデシュ・ルースルンド:三時間の導線 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アンデシュ・ルースルンド三時間の導線 についてのレビュー
No.385
(8pt)

多彩な技巧が光る、ヴァラエティに富んだ短編集

史上初の三冠で話題になった短編集。収録された6作品はすべて高レベルで、しかもそれぞれにジャンル・テイストが異なるというヴァラエティ豊かな短編ミステリー集である。
これだけ完成度が高い、しかもジャンルが異なる短編集は初めて読んだ。すべてのミステリー・ファンに先入観無しに読むことをオススメする。
米澤穂信:満願 (新潮文庫)
米澤穂信満願 についてのレビュー
No.384
(8pt)

セレブ・ストーカーものの傑作

多彩なミステリーを描くスチュアート・ウッズによる、ストーカーをテーマにしたエンターテイメント・サスペンス。ハリウッド女優がヒロイン(被害者)だけあって華やかでスリリングな作品である。
大作のヒロインまであと一歩という地位にあり、普段からプライバシー管理には神経を使っているクリスだったが、ある日、自宅ポストで消印の無い封筒を受け取った。手紙には「賞賛者」という署名があり、これからも手紙を書くと書かれていた。クリスはプライバシーが侵害された不快感と気味悪さを感じたものの無視しようとしたのだが、クリスの行動を監視しているとしか思えない内容の手紙や花束が次々と届いた。さらに、自宅の新築現場を訪れて事故に遭い視力が失われたあと、現在の住まいに誰かが侵入したため地元警察に助けを求め、ストーカー対策専門刑事・ラーセンが派遣されて来た。身元につながるようなものは一切残さない、狡猾なストーカーに対しラーセンは奮闘するものの、ストーカーの行動はエスカレートするばかりで、ついにはクリスの秘書や親友のダニーまで命の危険にさらされるようになった。あらゆる手段で犯人を暴き出そうとしたクリスとラーセンだったが万策尽き、最後の手段としてクリス自身が囮となって罠を仕掛けることになった・・・。
攻撃がエスカレートするばかりで最後まで正体が判明しないストーカーの恐怖、果敢に反撃しようとするクリスの強さ、わずかな証拠から犯人像を突き止めようとするラーセンの執念がダイナミックでスリリングなストーリーを生み出している。さらに、ハリウッドという華やかな舞台で踊る個性的なキャラクターも魅力がある。
ストーカーものとは言え、残虐な要素が排除されているため、多くのミステリー・ファンに安心してオススメする。
スチュアート・ウッズ:デッド・アイズ (角川文庫)
スチュアート・ウッズデッド・アイズ についてのレビュー
No.383
(8pt)

続編も、期待を裏切らない「エンタメ満載」

「用心棒」のジョー・ブロディーが帰って来た。ニューヨークの裏社会の保安官に任命されたジョーが再びテロ組織を壊滅させるべく立ち上がる、アクションミステリーであり、マカロニ・ウェスタンであり、現代ノワール小説である。
アルカイダ系組織の代理人がニューヨークで大量のヘロインを売りさばこうとしているという情報が裏社会のボスたちにもたらされた。問題のヘロインはニューヨークの組織と関係がある麻薬密売組織から奪ったもので、テロ組織側は活動の資金源とするために代金400万ドルにはダイヤモンドを要求しているという。このままではニューヨークの裏社会のバランスが崩れ、街が深刻なテロ被害に遭うと恐れたボスたちは、裏社会の保安官・ジョーに「囮となって接触し、ヘロインを買い取ったら代金を奪い返せ」という任務を課す。つまりジョーは、厳重に警備されているダイヤモンド会社から400万ドル相当のダイヤモンドを盗み出し、テロリストと交渉をまとめ、さらに相手に渡したダイヤモンドを再び奪い取るという、三つの極めて困難なミッションに挑むことになったのだ。ニューヨークの裏社会を牛耳る各組織からのバックアップを得て個性的なメンバーを揃えたジョーは、知恵と度胸でテロ組織、警察に対峙し、手に汗握るクライム・アクションを繰り広げるのだった…。
ダイヤモンドの強奪、テロ組織との血みどろの戦い、警察との攻防など、エンタメ要素が盛りだくさんで息つく暇も無い、ジェットコースター・クライムノベルである。それに加えて、前作から引き継ぐ複雑な人間関係、登場する悪党たちの人間くさいドラマ、ジョーの人情味と恋のゆくえなど、サイド・ストーリーも華やかで、まさにハリウッド映画顔負けの賑やかさである。
前作でジョーにハマった人には絶対のオススメ、また現代ハードボイルド、ノワール、クライムのファンにも自信を持ってオススメする。
デイヴィッド・ゴードン:続・用心棒 (ハヤカワ・ミステリ 1966)
デイヴィッド・ゴードン続・用心棒 についてのレビュー
No.382
(8pt)

たった一晩に全部を盛り込んだエンタメのメガ丼!

骨髄移植のドナーとなるはずの男が謎の連続殺人に巻き込まれ、東京中を逃げ回るアクション・エンターテイメント作品。何も知らない男の逃亡アクション、警察による犯人探し、権力の陰謀など、冒険ものの面白さをたった一晩のできごとにてんこ盛りにした密度の濃い物語である。
生まれた時からの悪党を自認する八神が一生に一度の善行として骨髄移植のドナーとなることになり、入院準備のために悪党仲間である島中のアパートを訪ねると、島中は殺害されており、八神も謎の三人組に襲撃された。辛うじて逃げ出した八神だが、襲撃者たちは執拗に追跡し、八神は訳も分からず約束の時間までに入院予定の病院にたどり着けるように夜の東京中を駆け回ることになる。同じころ都内で一人住まいの女性の殺人事件が発生したのだが、被害者には奇妙な細工が施されており、同じような細工は島中にも施されていた。同一犯による犯行を疑った警察だったが、発生時刻と現場の位置関係から一人では実行不可能と判断し、犯罪者グループの存在を疑った。さらに、今度は八神を襲撃したグループのメンバーが殺害され、謎のグループを狙う別の犯罪者の姿まで垣間見えてきた。必死で逃げる八神、それをチームプレーで追い詰める犯人グループ、そしてある目的を秘めて神出鬼没の動きを見せる謎の男、連続殺人を防止するため懸命の捜査を進める警察・・・夜の東京に四巴の戦いが繰り広げられた…。
事件の背景になる要素がやや貧弱な印象だが、物語の展開がスピーディで登場人物のキャラクターが立っているので最後まで面白さが緩まない。現在の日本のミステリー、冒険小説の面白要素を全部盛り込んだ痛快な作品である。
アクションもの、警察もの、社会派ものなど、どのジャンルのファンでも楽しめる一冊としておススメする。
高野和明:グレイヴディッガー (角川文庫)
高野和明グレイヴディッガー についてのレビュー