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(短編集)
幻想列車
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幻想列車の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点3.50pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全2件 1~2 1/1ページ
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あー忘れたいの言葉とチョコがあれば幻想列車は現れます。 忘れたいなら忘れさせてあげる、でも忘れたい記憶分、忘れたくない記憶も消しちゃうよ、それでも良いかい? 数話に分かれた小説の中に、人それぞれの人生が 忘れたい過去は、本当に忘れて良いものなのか?本当は消しちゃいけない過去なのではないか、記憶を消した未来と、消さなかった未来どちらも、ほんの少しだけ列車の車掌は見せてくれます、そこで主人公達が選んだ人生はどちらなのか? 忘れたいことよりも大事な事はなんなのか、 なんだか、切なくもあり、悲しくもあり、 なんとも言えない気持ちが心に残ります。 | ||||
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電撃文庫の大賞を受賞してメディアワークス文庫でデビューした後、あちこちの出版社で書いてる桜井美奈の新作。たぶん講談社タイガからは初のリリース作品。 物語の方は上野駅を22歳になる青年・紺野博己がある悩みを抱えたままあても無くウロウロしている場面から始まる。一流とは言えない音大の卒業を控えて東北にある故郷の学校に音楽教師の内定も貰った博己だが内心ではピアニストとして生きる事への未練があった。とはいえ到底一流とは言えない自分の腕前でピアニストとして生活を成り立たせる自信も無く、実家が太い訳でもない以上故郷への帰還まで残された時間はあと僅か。 悩み疲れてベンチに腰掛けて鞄に入っていたチョコレートを食べようとするが謝ってベンチの下に落としてしまう。慌てて拾おうとした博己の目に入ったのはベンチの下に転がる一本の鍵。ふと持ち上げたそれは博己の意志とは無関係に近くのドアへと博己を引っ張り鍵を開けさせる。戸惑う博己だったが、目の前に現れたのは上野駅には存在しない筈の18番ホームと線路に佇む一両編成の列車。 そして博己に声を掛けてきたのは二本足で立つ奇妙な人語を話す見慣れない動物と端正な顔立ちの車掌だった。車掌姿の男は博己に「この列車はお客様が本当に忘れたい記憶へご案内します」と語りかけるが…… んー……デビュー作でも感じたのと同じ「ぼんやり感」が漂う。読者に訴えかけたいテーマは何となく分かるんだけど「お話」として読むと今一つ平坦というか盛り上がりを欠いたまま終わってしまい残る印象がどうにも薄い。双葉文庫で出した「塀の中の美容室」みたいなタイトルだけで「これは何?」と引き付けられる目新しさも欠くので「これはどこで勝負しようとした作品なのだろう」と読み終わった後首を傾げるタイプ。 物語の方は連作短編形式で全四章構成。存在しない筈の上野駅18番ホームを舞台に悩める人々が人語を解する奇妙な動物テオと自分の事については余り語ろうとしない車掌のコンビと出会って自分の悩みを産み出している記憶と向き合い、その記憶を消した場合に自分が歩むであろう未来を見せられた上で抱える悩みを記憶と共にを消すかどうかの選択を迫られるというのが基本の流れ。 作品の雰囲気自体はどこか藤子F不二雄を思い出させる。藤子Fのテーマの一つに「人生を左右する分岐」があると思うのだが、それこそ「ドラえもん」からSF短編まであの巨匠の作品は「人生の分岐点で違う選択をしていたら、その後はどんな道を歩む事になったか」という悔いと期待が半ばする想いに彩られていると思う。 少し話が逸れたが各章の主役はそれなりにバラエティに富んでいる。音大卒業後の進路に悩む青年や妻子を不幸な形で失った父親、痴漢・失業・火災・失恋・交通事故と不運のオンパレードに見舞われた女性、義父のDVによって男性不信を抱いてしまった女性と悩みの種は人それぞれ。 彼らは一様に「この記憶を失えば自分の人生は救われるのに」と思い込んでいるが、18番ホームの車掌が突き付ける条件がちょっと問題。自分を悩ませる悪い記憶を消す代わりに同じぐらい良い記憶を失うというマイナスの等価交換みたいな選択を迫られるのである。突き付ける条件は厳しい車掌だけど、親切な事に「記憶を消したらどうなるか」という未来を見せてくれるのだが、この未来図が本作のキモ。人間はどういう選択をした所でそう簡単に満足する人生になどあり付けないという中々に厳しい現実が悩む人々と読者に突き付けられる事に。 (余談だがこの上で挙げた藤子FのSF短編に結婚という人生の選択を巡ってやり直しを望む男を主人公にした「分岐点」というビターな作品があるので一読をお勧め) ここまでは良いのだけど……なんか今一つ話自体があっさりしている……あっさりし過ぎている。第一話の音大卒業を前に悩む青年の話ぐらいは良いのだけど、基本同じパターンの話が四回繰り返されるので途中から「またこのパターン?」と飽きがきてしまうのである。「どんな選択をしても後悔は付きまとう」という真実を前に現実を受け入れて前に進むという「良い話」も繰り返され続ければ陳腐感が否めなくなる。 もう一つ付け加えて言えば人語を解する不思議動物やミステリアスな車掌というコンビが狂言回しにしてはちょっとキャラ付けが濃い過ぎるというか、各章の主人公がリアリティ重視の市井の人々という事もあって存在感を主張し過ぎている気がしてならない。キャラ付けした以上そこには必然性が求められると思うのだけど不思議動物のテオも車掌も掘り下げがえらく中途半端で謎めいた過去を匂わすのは良いが「結局彼らはどういう存在なのか?」というのが明かされない。「以下次号」という事にしても本作の「主役」は誰なのか、という読者の困惑は募る。 本来この手のオムニバス形式の物語であればスポットライトを当てられるべきは場面ごとの主人公であって、話を進める役の狂言回しはそこまで自己主張するべきでは無いと思うのだが…… かくのごとく話が「良い話」ではあっても同じパターンの繰り返しで、各章の主役たちも変にキャラ付けされたテオと車掌のコンビニどこか存在感を食われている所もあって全体的に「本作はここが売り」という強烈なインパクトを形成できず散漫な印象を受けた。同じオムニバス形式でも「塀の中の美容室」なんかはキャラを活かす事が出来ていたと思うだけにムラっ気を感じる。 期待をしている作家さんなのだけど、安定して「読ませる」作品を書くのは簡単では無いのだなと思わされた一冊。 | ||||
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