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時間の砂



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【この小説が収録されている参考書籍】
時間の砂〈下〉
時間の砂〈上〉
時間の砂〈下〉

時間の砂の評価: 9.00/10点 レビュー 1件。 Bランク
書評・レビュー点数毎のグラフです平均点9.00pt

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サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
全1件 1~1 1/1ページ
No.1:
(9pt)

未だにタイトルの意味は解らないのだが。

当時『なるほど・ザ・ワールド』という世界のトピックをクイズにした番組が人気を博していたことは記憶に新しいと思うが、その中でスペインの牛追い祭について放送されたことがあった。その映像は衝撃的で、映像の中には牛の角に太股を刺されて突き上げられている者や、転倒して人ごみの波と牛の大群に踏まれて消えていく者も散見され、実際死者も大勢出ているようで、スペイン人ってやつは無茶するなぁと思っていたが、本編はその牛追い祭から幕を開ける。その狂騒を利用してバスクのレジスタンスが行動を起こす、そんな内容だったように思う。

シドニー・シェルダンはアメリカの作家でありながら、作中の舞台をアメリカに固定せず、南アフリカやスペイン、ヨーロッパ諸国と実に多彩だったように思う。高校生当時はアメリカでさえ小説の舞台として馴染みの薄い国だったので気にならなかったが、数多の海外作品を読んだ今振り返ってみると再認識させられる。
で、本作はハイメ・ミロ率いるレジスタンス軍と修道院の尼僧4人が逃亡行を共にする内容で、これがまた読ませる。普通、レジスタンスの人質として追随する修道女ならば世間知らずゆえに恭順にならざるを得ないのだが、選らばれた4人は無色透明な修道女にあって、それぞれに複雑な事情を持った異色の存在。この辺の味付けは上手いね。特に4人の修道女の性格付がたくみであり、私はその中でも特に犯行からの逃走中に隠れ蓑として修道院に入ったルチアがお気に入りだった。
そしてこの状況の変化で4人の修道女たちも変化を強いられ、厳格な規律に守られた修道院生活ゆえに、心に波立てることなく毎日を平穏に暮らし、神へ仕える日々に人生の喜びまで見出していた彼女らが、世俗とレジスタンスらの男に感化され、俗性を取り戻していく。しかし確か1人はどうしても俗世に馴染めず、次第に狂っていき、そして最後に驚愕の行動に出るところは、人物が人物だっただけにかなりの衝撃を受けた。

前にも述べたがシドニー・シェルダンの描く世界は当時高校生の私には全てが未知であり、全てが新鮮に映った。冒頭の牛追い祭の荒々しい始まりから、静謐な修道院での生活へと動から静へ移る物語の運び方は話の抑揚のつけ方としては抜群であるし、今読んでも引っ張り込まれるだろう。
本作でスペインの複雑な民族事情を知ったのはまさに幸運だったと云える。その後の人生で折に触れ、このバスク地方とスペイン政府との抗争に触れる機会があり、この本を読んだことが予備知識となり、理解が早かったからだ。知的好奇心に満ちていた高校生の頃に読んだというのもまた最良の時期だったと思う。

そして本作から私は自分の小遣いでシェルダン作品を買い出した。そして私が買った本を弟はもちろんのこと、両親まで読み出す始末。しかし当時は自分でハードカバーの本、しかも外人の書いた小説を買うことが自分の中で大人の第一歩という一種のステータスのようになっていたように思う。そして本作がその対価に見合った作品だったのだから、小遣いの使い道としては良かったわけだ。
しかし今まで作品はタイトルが作品を表していることは解ったが(『ゲームの達人』も高校生の知識でもおぼろげながらも理解できた)、本作は解らなかったなぁ。この後続く作品はそんなことなく、上手いタイトルだなと思ったが。今読んだら解るのだろうか?

Tetchy
WHOKS60S

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