神様のスイッチ
- 奇跡 (159)
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お名前は聞いていたけど読むのは今回初めてとなる藤石波矢の作品。あらすじなどから好きなジャンルである群像劇スタイルであろうかと推察して拝読する事に。 舞台は大都会・東京。ある日の宵の口から物語は動き始める。 物語の軸となるのは5人の男女。 真中美夜子・25歳。居酒屋バイトのフリーター。彼氏と同棲中だが将来を悩んでいる。幸せになる事をどこか恐れている様な女性。かつての恋人・ユウから貰ったジッポのライターをお守りの様に持ち歩いている。 鴻上優紀・37歳。警視庁勤務。機動捜査隊の警察官で正義感の塊。元は本庁所属であったがとある組織上の都合から現部署に異動。各方面にパイプを持つが、部下で同性の警官である飯島を持て余している部分がある。 志田正好・34歳。南千住に本部を置く暴力団・名取会の構成員。構成員二人を殺し、若頭である茶木の身柄を浚った上で保有していた覚せい剤を要求してきた半グレ集団「レッドキャップ」を追う任務を与えられている。 畠山瑛隼・19歳。高校生の時に恋愛ミステリ「放課後は虹と消える」でデビューした若手作家。実際にはひどく奥手な性格だが友人の彼女であり視覚障害を持つ花沙音の悩みに乗った事から有人を裏切る形で彼女持ちになる事に。 春日井允朗・24歳。誰に対しても人当たりが良い若いサラリーマン。娘との関係に悩む上司に付き合わされるが、自分自身は生い立ちの過程で母ともども自分を苦しめた父親を許せずにいる部分がある。 この個性豊かで基本的にはあまり関わり合いになりそうもない5人の一夜が描かれるのだけど、予想通りこの5人の視点を速いテンポでザッピングの様に切り替えていく群像劇独特の非常にスピーディーなスタイル。当然登場人物はべらぼうに多いのだけど、このスタイルのお陰で頭の中でチャンネルが切り替わっていく事で登場キャラ数の多さには悩まされずに読み進める事ができる仕様となっている。即ち小生自身の好みのスタイルと言う事でまずは「当たり」の部類と称して良いかと。 もっともこのザッピング型群像劇にも主たる登場人物の関わり具合に程度の差があって主たる登場人物がチームを組んで動く様な物から互いに殆ど関わり合いが無いまま終わるタイプまで様々なのだけど、本作はどちらかと言うと後者寄りと言うか主たる5人の一夜の行動は時にニアミス寸前まで寄ったり、時には面識を持ったりもするけど結局は「相手には相手の事情があるのだから」と互いにそれほど踏み込まずに、ギリギリの所ですれ違う様な形で進み、やがて物語の終わりとなる朝を迎える形で完結する。 個人的にはこの微妙な人生の関り合いというのがこの作品のミソかと思わされた。タイトルに「神様のスイッチ」とある様に人物Aのちょっとした行動が意図しない形で人物Bの運命にガッツリ影響してしまう結果を生んでしまうなど、神様のピタゴラスイッチというか「運命のいたずら」ぶりを読者に味わせ「え、こんな偶然があるのか!」と話の流れの中で目を見張らせる事に。例えば大学生カップルである瑛隼と花沙音が花沙音の元カレに対して仕掛けたとあるイタズラが暴力団構成員である志田がド修羅場に陥った場面で思わぬ形で作用した場面など「うわ、こういう仕掛けになっていたのか!」と喝采を送りたくなるぐらいに伏線の張り方が絶妙なのである。 これだけであれば「よく出来た群像劇」で終わるのだが、この5人の人間模様を太い一本のテーマが貫いている点も本作を大いに特徴付けている。同性相手である蓮と将来どうするかに悩んでいる美夜子や視覚障害を持ちながら父親の反対を押し切って一人暮らしを始めた花沙音あたりにそれはよく出ているのだけど「許す事の難しさ」というものが作中では繰り返し描かれている。 特に物語の中盤で瑛隼・花沙音の初々しいカップルと「娘の所に顔を出すのが辛いから付き合ってくれ」と上司から頼まれた允朗が接触する場面にはその辺りがよく出ている。視覚障害を持つ事で父親に一人暮らしを反対されながら「普通でないから普通でありたい」という思いを抱く花沙音に対し、同じ様に父親との間に蟠りを抱えたまま努めて八方美人であろうとする允朗が「君の父親は不器用なりに君に責任を持とうとしている」という事を諭す場面なんかは認めたくない父親からの愛情を他人の親子関係を通じて認めたいというアンビバレンツさが感じられ作者の人物造形の巧みさが透けて見える好シーンであった。 同様に同棲相手との将来に悩む美夜子は過去に不仲な両親との確執や家を飛び出して恋人のユウと過ごした経緯が少しずつ掘り下げられていくのだけど、親に対して殺意を抱くに至った自分が親になる資格があるのかと悩む美夜子がどの様にして救われ、許せなかった親を、幸せになる事が良いのかと悩んだ自分を許すまでの経緯は瑛隼・花沙音のカップルとの関わり方や前半は謎めかせてあった「ユウ」の正体なども含めてこれまた「縁」というものの奇妙さを存分に感じさせてくれる。 互いの関わり方が薄い事もあって終盤の展開が割とあっさり目と言うか、主たる登場人物一人一人の人生が新しい局面を迎えたという形で終わるので「グランドフィナーレ」的な印象はあまり無い事もあって「大団円」的な終わり方を好む方には少しばかり物足りなさが残ってしまうのが玉に瑕という気もするが、個人的にはこういう静かな終わり方も 「あり」ではないかと思う次第。 初めて読ませて頂いた藤石波矢作品だったけど、好みのスタイルである高速ザッピング型群像劇というスタイルに加えて明確なテーマ性も打ち出されたなかなかの好作品であるという印象を受けた。この群像劇スタイルが作者の特徴なのかどうかは他作品を読んだ事が無いので何とも言えないが「群像劇大好き」という方には手に取って頂いて損の無い一冊である事は保証させて頂く。 | ||||
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