沈黙のパレード
評判
沈黙のパレードの評価:
4.08/5点 レビュー 263件。 S ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
全498件 21〜40 2/25ページ
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沈黙のパレードの評価:
4.08/5点 レビュー 263件。 S ランク
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緊迫感が薄れていく。『容疑者Xの献身』は、堤真一の主役を上回る存在感と、渋い撮影などの
諸要素がうまく組み合わさり、ラストで原作にない名台詞で締めくくることもできた。
『真夏の方程式』は、少年と過ごす一夏の詩情を画面に定着させていた。しかし『真夏の
パレード』は、日中に行われるパレード描写に寄りかかり、全体が妙に明るい薄味で、
ミステリーとしての緊迫感を感じなかった。
しかし2回目をみた時、印象が変わった。全体の流れがうまく語られている。明るい画面は、
町の善良な人たちが決定的な犯行を行なっていないことからくるものだった。誰1人重罪に
問われない、あの出来事が”一瞬の夢”だったような終わり方にも照応している。2回目の方が
楽しくみられた。だから原作に興味を持ち、手に取った。
マジシャンのMr.マリックが言っていたが、「手品でトリックを3つ組み合わせると奇跡に
見える」と。ひとつのトリックでは薄っぺらな奇術に終わるが、3つがうまく重ねられると、
誰にもわからない不思議になる。ミステリー小説もそうだろう。ただの凝ったトリックでは、
面白みがない。日本のミステリー小説の名作の中にも、そうしたものが少なくない。
だから純文学の人たちに馬鹿にされ、優れた作品でも偏見に邪魔されて直木賞を射とめられない。
その点、東野圭吾作品には、3つのトリックを実現した手品のような厚みと充実がある。
1)優れたトリックを思いつく本格性。2)地の文章の質の高さ。3)理系の豊富な知識。
4)人間の業の深さを描く力量。5)ミステリーに対する客観的な俯瞰の視野。これらが
駆使されていく。『沈黙のパレード』もそうした作品。
しかし、その分、他のミステリー小説にありがちな猟奇性とか、異常な世界というものは
現れない。そこをうめていくのは「ガリレオ・シリーズ」の場合、大学に勤める科学者の
湯川学が持っている知識と分析力。
ミステリーでは、何が謎になっているかで内容が分かれる。「犯人:Who」「犯行の経緯:
How」「動機:Why」。『沈黙のパレード』では、犯人ははっきりしていないが、その動機は
明確になっている。主要登場人物の誰もが被害者を深く憎んでいる。多くのミステリーで
最もなおざりにされるのが「動機」だが、『沈黙のパレード』ではしっかり説得力を持って描かれる。
『沈黙のパレード』は映画でもそうだったが、犯人となるのが普通の市民生活をおくっている
常識人たち。そこに作者の挑戦や意欲もあった。だがその分、記述に一般生活とのギャップが
少なく、中盤になると、読み進める熱意が薄れる。他のミステリーだと猟奇的殺人や、謎解きの
興味で物語を強く引っ張っていくのだが。
*以下、内容に触れ、ネタバレになっています。
作者はそれを計算していたように、重要なカードを切ってくる。それが23年前の「本橋優奈
ちゃん事件」。それとと今を繋ぎ、計画の要となる増村栄治(映画では酒向芳)の存在。
『沈黙のパレード』の軸となっているのは、この23年間という時の流れ。23年間、少女の命を
奪っておきながら罪に問われなかった犯人に対する怒りと憎しみを変わらずに持続した男、増村。
その痛みを共有していたのが、刑事・草薙俊平。彼らの過去と今を繋ぐことが、この小説のキモになる。
映画だと、その描き方が希薄で、単純なイメージで処理されている。例えば、草薙にとっての、
その重大さは、2つの事件を結ぶ同一犯の存在を捜査本部で知り、その場で嘔吐するという描写で
表される。嘔吐という現象で、ことの重大さを示そうとしているのだが、それが唐突で迫るものに
なっていない。増村の存在も取調室で説明的に示されるだけ。この2つをじっくり描いていたら、
映画の質も変わっていた。
物語の最終部分になって、作者が力を入れて描くのは、増村という男の執念と生き様で、犯行
トリックではない。作者は、蓮沼への制裁に3段階を踏んでいる。並木、増村、そして実行犯
となった新倉。これらの顛末が語られ、事件の全容は見えている。物語は収束に近づいた。
しかしそこからまだ50ページ残っている。
この事件のすべての真相は、映画を見ただけではわからない、”なんとなくこんなことか”くらいの
納得になる。しかし原作には、すべてのピースが提示され、それがあるべき場所に収まっていく。
最後に登場する意外な”犯人”である新倉留美は、苦悩の淵に落ちていく。作者は、その間に起こる
ことを見逃さない。金をたかられるだけでなく、肉体も食われてしまう。この時点で、夫は留置場
の中にいるが、小説はまだ30ページある。
名作と言われているミステリーの中にはどう見ても破綻しているものがあるが、『沈黙のパレード』は
少しの破綻もなく、一連の複雑な背景を持った流れが十分に語られる。