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果てしなく流れる砂の歌
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果てしなく流れる砂の歌の評価:
書評・レビュー点数毎のグラフです | 平均点5.00pt |
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Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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みなさん、明けましておめでとうございます。そしてこの年の始まりに、今一度このハイファンタジーの意欲作を紹介します。 刊行されて1年以上経ちましたか。本書を一言で評するなら、冒頭の一節であり、何度も登場する印象的なスペル:呪文「うたえ、おどれ、さいわいな魂よ。」ということになるでしょう。「「歌」は激しく、攻撃的な感情をふくむ。(中略)それは怒り、強烈な悲嘆、苦痛、孤独、嵐のような激情を示し、(中略)宴席でうたえば、苦痛や怒りと区別できないほど強烈なよろこびの表現になる。」(本書p55より引用)ともあり、ここにこの作品の本質が凝縮されています。そう、これは「歌うことによる魂の発露」の『物語』、いや、『叙事詩』というべきでしょうか。本作は戦争と国家間の力学、個人の恋愛と支配の力学を象徴的に扱いながら、さらには天の〈父〉と地の〈母〉、兄弟姉妹、そして生きとし生けるもの全ての力学を神話的に展開します。その底部に通じているもの、それこそが「歌」なのです。「歌」は時空を超え、目の前の事物を変成させ(プリームが触れたものが塩の結晶になっていくのはシンボリックです)、人達(風神丸含む)の心まで左右する。兄弟姉妹の感覚網はこの「歌」に裏打ちされています。そして本作のクライマックス、8章の大戦闘シーンはいわば「歌」の百花繚乱、「ギリシャ神話」におけるトロヤ戦争のパッションとカタルシスに比すことが出来るかもしれません。そして本作は意外な静けさの中に結着していくのです。同じくp55で「霧」と表現された、「しずかでおだやかな感情」へ。そして「そのうたいたかった歌をうたってあげよう。」(p247 結びの一文)と、「歌」という激しい感情はそっと置かれるのです。 作者の大森葉音さんは『古事記』『ギリシャ神話』から父性・母性原理の相克という構造を発想したそうですが、これらは同時に叙事詩であり、「歌」であり、言霊の集大成でもあるのです。単行本一冊には収まりきらないスケール(察するに校正前はもっと物語の分量があったのでは)ですが、頁の一行一行に葉音さんがその素養、碩学、文章体験がぎゅっと煮染められたような珠玉の「言葉」が「歌われて」います。それは「言葉」への限りない信頼。普段は「大森滋樹」名義で推理小説評論をしている氏があえて「葉音」名義で本作をものしたのは伊達ではありません。「言葉」と「音楽」の奔流。評者の大森望氏が「圧倒的なスピード感」と書いたのは故あることなのです。 何か作品本体に対する紹介はあまりしませんでしたが、それは取りも直さず本書を手に取ってみて。「処女作には作家の全てがある」とはO.ウェルズの言葉ですが、確かに本作には大森さんの言語世界が惜しみなく注がれており、豊饒なテクストになっています。新しくやってきた2015年の幕開けに、ぜひにこの作品を薦めます。「果てしなく流れる砂の歌」のように、連綿と紡がれてきた「歌」と「言葉」の1つの精華を体験してみてください。 〈追伸〉葉音さんは大森滋樹名義で北海道新聞日曜版コラム「鳥の目虫の目」に断続的に書評を載せていますが、これが「思わずその本を読みたくなる」ような名紹介文! 残念ながら推理小説評論はあまり世に出ていないようです。私は1作だけ読んだことがありますが、これもまたスコーンと抜けた名文でした。ファンタジーだけでなく、こういうエッセイや、推理小説の実作がより多くの目に触れるよう願ってます。 | ||||
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