ダッハウから来たスパイ



    ※タグの編集はログイン後行えます

    【この小説が収録されている参考書籍】
    オスダメ平均点

    7.00pt (10max) / 1件

    7.00pt (10max) / 1件

    Amazon平均点

    0.00pt ( 5max) / 0件

    みんなの オススメpt
      自由に投票してください!!
    0pt
    サイト内ランク []-
    ミステリ成分 []
      この作品はミステリ?
      自由に投票してください!!

    0.00pt

    52.00pt

    85.00pt

    0.00pt

    ←非ミステリ

    ミステリ→

    ↑現実的

    ↓幻想的

    初公開日(参考)1986年12月
    分類

    長編小説

    閲覧回数679回
    お気に入りにされた回数0
    読書済みに登録された回数1

    ■このページのURL

    ■報告関係
    ※気になる点がありましたらお知らせください。

    ダッハウから来たスパイ (ハヤカワ文庫NF)

    1986年12月01日 ダッハウから来たスパイ (ハヤカワ文庫NF)

    1941年4月、ダッハウのナチ強制収容所に囚われの身だったパウル・ファッケンハイムは、密かにその生き地獄から連れ出された。突然のこの釈放は、ユダヤ人をユダヤ人の国パレスチナに送り込み、中東における英側の軍事情報を収集させようとの、皮肉で抜け目ないナチ・ドイツ謀報機関の計画のためだった。ナチを憎みながらも、ドイツ国民として国を愛するファッケンハイムは、スパイのための訓練を受け、パレスチナに落下傘降下した。しかし、そこで彼を待ちうけていた運命は?…人気のスパイ・スリラー作家が放つ、異色のノンフィクション!(「BOOK」データベースより)




    書評・レビュー点数毎のグラフです平均点7.00pt

    ダッハウから来たスパイの総合評価:7.00/10点レビュー 1件。-ランク


    ■スポンサードリンク


    サイトに投稿されている書評・レビュー一覧です

    新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!
    全1件 1~1 1/1ページ
    No.1:
    (7pt)

    ウソのような実話

    これは数奇な運命を経た、あるスパイの人生を描いたノンフィクション作品だ。

    ナチス人強制収容所ダッハウの囚人26336号はその日、何の仕事もあてがわれず、病院に行くよう命ぜられた。そこで彼は数日前から発症した首筋の潰瘍の治療を受け、そして数日後、突然釈放された。そして彼はそのまま参事官に連れられ、列車に乗ってベルギーのブリュッセルまで行くことになる。車内で彼は自分の名前がその日以来パウル・ファッケンハイムからパウル・コッホと名乗る事を命じられ、身分証明書を渡される。
    それは彼が今後数奇な運命を辿る始まりだった。

    ドイツ系ユダヤ人のドイツ人パウル・エルンスト・ファッケンハイムは入った者は生きて出られない地獄とまで呼ばれたユダヤ人強制収容所ダッハウに収容されていたが、ドイツ陸軍の秘密情報機関国防軍防諜部より目を付けられ突然釈放される。そして彼はパレスチナに潜入し、ロンメル将軍を助けるためにユダヤ人スパイとなってイギリス軍を混乱に陥れ、彼の地にドイツ軍の勝利をもたらすよう、命じられる。

    しかし奇妙なのはこのドイツ陸軍の秘密情報機関国防軍防諜部(アプヴェール)の作戦を邪魔しようとしているのがなんとナチス・ドイツの諸機関であることだ。つまりアプヴェールは反ナチ派であり、ユダヤ人を忌み嫌うナチスは逆にパウルがスパイであることを敵国英国に伝え、作戦を失敗させようと画策する。そんな只中に放り込まれた一介のユダヤ人パウル・ファッケンハイム。彼の存在は当時の歪んだドイツ政府の構造が生んだ仇花と云えるだろう。

    パウル・コッホという偽りの身分を与えられたファッケンハイムはパレスチナに潜入することがナチスのSSの工作によって知られることになり、アプヴェールの思惑とは違い、すぐさま英国軍に囚われの身になる。そこで待ち受けていたのは運命の悪戯としか云いようのない皮肉だった。
    まずコッホというSSの高官が実在した事。英国情報部がアプヴェールにパウラ・コッホなる女性工作員がいることを知っており、パウルはその関係者でパウラ同様、危険なスパイとみなされていた事。
    さらに姿を消し、行方知れずとされたスパイ、ファルケンハイム大佐なる人物が存在した事。偽名のみならず実名さえも非常によく似たナチス軍人がいたことがファッケンハイムにとっての最大の不運の始まりだった。これを皮肉と云わずして何と云おう。

    ところでパウル・ファッケンハイムと云う男はユダヤ人という特性なのか、とにかく行き先々でコネクションを作るのが非常に上手く、それは発展途上国である東南アジアでもその地に溶け込み、料理人として生計を立てられるほど器用でもあるのだ。

    そして驚くべきことに彼はかなりモテるのだ。なぜか彼の周りには女性が1人だけでなく複数おり、しかも美人であるというモテぶり。付された写真を見る限り、いわゆるイケメンとは思えないのだが、これも上に書いたような社交的な性格が醸し出す人間的魅力によるところが大きいのだろう。しかし奇妙なことになぜか結婚生活は上手く行かないのだ。
    色男にはよくある話だが、彼の風貌はそんな地に足がついていないような生活を送っている風には見えない。

    そしてこの彼の社交性が彼の窮地を最後に救う。頼みの綱の父親でさえ、彼の素性を証明する事を拒否した彼を救ったのは過去に自身が開いた料理学校の生徒で恋慕を抱いていた女性の母親だった。彼女が彼がナチスの高官であるという誤解の産物である軍事裁判にて証言台に立ち、彼の素性を証言するのだ。

    この決定的な証言によって無罪の判決が下されるシーンは圧巻。こんなドラマティックなことがあるのかと感嘆した。『奇跡体験!アンビリバボー』を観ているかのような錯覚を覚えた。

    かようにバー=ゾウハーが描く実在したスパイのノンフィクションは一級の小説のように語られる。その内容は全て実話だという事を忘れてしまうほど、濃度が高く、読み物として実に面白い。

    そしてよくもこのような題材を見つけた物だと感心した。結局、ダッハウ強制収容所の囚人からユダヤ人のスパイに抜擢されたファッケンハイムはパレスチナに降下した後、すぐに捕まってしまい、その後は収容所での尋問と軍事裁判に明け暮れる日々が綴られる。つまり彼はスパイとしては全くの役立たずだったわけだ。寧ろファッケンハイムの後に新たに送られたユダヤ人スパイ、ヨーン・エブラーこそが語られるべきスパイだったのだろう。しかし逆にバー=ゾウハーはスパイとしては何の成果も挙げられなかったファッケンハイムが実に数奇な運命を辿ったことを発見したのだ。
    名も知られずに隠密裏に葬り去られた星の数ほどの諜報員たち、ファッケンハイムもその中の1人になり得た1人であり、しかも歴史の翳に埋もれていたスパイだ。そんな彼に日を当てた本書はナチスが自我崩壊していく様と、ナチスの狂気に翻弄された数多くの人々への鎮魂歌として読まれるべきだ。
    現在バー=ゾウハーのノンフィクションは『ミュンヘン』が現在でも版を重ね、手に入れることが出来るが、本書も誰もが読めるよう復刊させてほしいものである。

    Tetchy
    WHOKS60S
    新規レビューを書く⇒みなさんの感想をお待ちしております!!

    スポンサードリンク