(短編集)

カットグラス



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    初公開日(参考)1998年07月
    分類

    短編集

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    カットグラス (文春文庫)

    2001年07月01日 カットグラス (文春文庫)

    姪の病気の報に、失踪した義弟を探す並木。その男は昔、同じ女を愛した親友でもあった。時は流れても消えぬ男の約束。力作短篇集(「BOOK」データベースより)




    書評・レビュー点数毎のグラフです平均点9.00pt

    カットグラスの総合評価:9.67/10点レビュー 3件。Bランク


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    全1件 1~1 1/1ページ
    No.1:
    (9pt)

    思わず美酒を片手に読みたくなる

    人生の酸いも甘いも経験した大人たちを書かせたら一級品の作者による初の短編集。

    開巻の1本目は「アメリカン・ルーレット」。
    元相場師で今作家というおよそ作者自身を投影したような主人公。ここに書かれているバブル時代に合った高額金を賭け合う秘密の麻雀クラブは作者自身が経験したことだろう(しかし時効になっているのかな?)。
    相変わらず気障な台詞回しが気になるが読み心地は悪くない。

    「イヴの贈り物」は大手商事会社の部長である主人公戸辺と若い娘との交流の話だ。
    亡き娘の代わりとばかりに可愛がる女性と大手企業で働く男の交流を描いた作品と思わせて、後半はガンに侵され余命幾許もない男の復讐の話へと展開する意外な物語運びが印象に残る。
    戸辺と恵子の交流は男にとって理想的な関係であるのだが、結局借金で高利貸しから風俗で働くことを余儀なくされた恵子の境遇を知らずに父親代わりにと振舞っていた男のエゴに過ぎないことが解るところが、男の身には抓まされる思いがする。末期のガンが発覚し、退職してまで恵子をレイプし、死に至らしめた男に立ち向かう姿も、女性の目から見れば単なる自己満足の世界に過ぎないのかもしれないがこういう話は結構好きだ。
    クリスマス・ストーリーにまた名作が誕生した。

    続く表題作はこれまた泣ける1作だ。
    時折挿入されるナミカジキら三人のエピソードが眩しい。まだ無限の可能性を秘め、何をやるのも無敵感を感じていた若いエネルギーが溢れてくる。
    白川氏の筆致は決して起伏に富んだものではなく、むしろあふれ出るエネルギーを抑制するかのように淡々と語るのだが、それでもなお彼ら彼女らの青春は太陽のごとき眩しさを備えている。
    その眩しさがあるからこそ並木、その妹理絵、そして梶らの「今」が痛切に響いてくる。

    「浜のリリー」も切ない。
    法月のリリーと過ごした日々の回想が良くて、とても読んでいて心地よい。愛媛に住んでいた私にとって舞台が松山だったのもその一因かもしれない。都落ちの気分で東京から愛媛へ異動になった当時の主人公の心情も今月で東京から異動になった私の境遇と似たものがあり、さらに仕事は建築関係とのことでますます親近感が湧く。
    そんな彼がフラッと入った高級クラブで出会った一人の女性がリリー。横浜のクラブで歌姫として鳴らしていた彼女の歌をここで聴いた者は誰もいない。必然の如く法月とリリーは付き合うようになっていく。
    15年後突然のリリーの夫から呼び出しに抱える法月の不安。そしてやはり訪れる哀しみ。とても切ない。そして都落ちした法月のように私もこの地でリリーが見つかるのだろうか。そんな気持ちにさせられる一編だ。

    最後の「星が降る」も切ない物語だ。
    これも愛する者を死に追いやった者への復讐の物語。復讐の相手がノミ屋で復讐の方法が巨額の賭け金による多額の損失というのがいかにも白川氏らしい。
    ただなぜかこの手のギャンブルや株といった自分のフィールドの話になると結末をぼやかした終わり方をしてしまうのだろうか?闇麻雀の世界を扱った「アメリカン・ルーレット」もそうだったが、株やギャンブルの世界の結果を書くといかにも作り物っぽいと思う作者の照れなのかもしれない。
    実際にその世界に身を置いた人にはこんなドラマチックなことはそうそう起こることはない、と嘯いているのかも。


    全5編。とにかく胸を打つ短編集だ。主人公や登場人物たちはどれも40代以上。そう、もはや限られた未来しか残されていない人々だ。

    人生も半ばまで来た男と女たちの何かを諦めた思いが行間から伝わるのが非常に心に染み渡る。全てが丸く収まることはなく、良しとなるにはお互いが何かしらの痛みを伴わなければならない。理想に描いていた未来とは違った人生だがそれでも一生懸命に明日を生きる。夢とか理想とかそんなものではなく、生きていくために現状に甘んじ、しがみつく。
    そんな人間たちの物語が本書には収められている。

    若い頃に読んでいたならばこの作品の味はこれほどまでに深く心に染み込まなかっただろう。私も齢四十を過ぎた今だからこそ、そうこの物語の登場人物たちの年齢に近づいたからこそ胸に響く音ははるかに大きくなっている。

    それは過去との対峙がどの作品にもあるからだ。前述したように今を生きることに体と心が馴れてしまった4、50代の男女に訪れる報せ。それは若かりし頃に付き合い、愛を交わした、もしくはバカをやって楽しく暮らしていた記憶を思い起こさせる。そのどれもが美しいからこそ胸にこみ上げてくる物がある。
    そのこみ上げてくる物とはやはり喪失感だろう。

    若い頃はこんな楽しく、またお互いを愛しむ日々が永遠に続くと思っていた。が、しかし今ではそう思っていた彼らとは疎遠になってしまい、日々の生活を送るだけになってしまっている。そして4、50代にもなると訪れるのが体への変調。死につながる病だったり、一生抱えていかねばならない病だったりする。そんな現実があるからこそ喪失感もまた否が応にも増すのだ。

    そして人生を重ねたからこそ気付かされる人と人との思いもここにはある。特に良かれと思ってしたことが逆に相手にとって重荷になってしまう、愛しているからこそ、思い切り生きさせてやりたい、そのためなら自分とは違う相手と愛を重ねても構わない、などという若い頃には想像もできないような人と人との交わり方が白川氏の豊かな人生経験に裏打ちされた感情論が登場人物たちの口から繰り出される。
    思わず頷いたことが何度あっただろう。

    闇麻雀の話の「アメリカン・ルーレット」が巻頭を飾り、ノミ屋の競輪を扱った「星が降る」で幕を閉じるのは、切った張ったの世界で生きてきた白川氏の矜持かもしれないが、ギャンブルだけの話ではなく、先に書いた人生の折り返し地点に差し掛かった人々の人情譚の物語だ。
    私が特に好きなのは「浜のリリー」だ。こんな話が私は読みたかった。

    昭和の香りがするといえばそれまでだが、読み終わった後、暗い部屋でアルコールを片手にじっと浸りたくなる、大人の小説集。その味は一級であることを保証しよう。


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    Tetchy
    WHOKS60S
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    No.2:
    (5pt)

    小僧を寄せ付けない「渋み」

    「天国への階段」でとても感動して、
    「竜の道」で、ずっぽりとはまり、もう大ファンである。

    なぜなんだろう・・・・

    それは、男が男に抱く憧憬が描かれているからだと思う。

    力ある描写に、場面の推移、ロマンス、そして何よりにじみ出る「情」。

    人生に疑問をいだいたことが少しでもあるお人に、

    絶対的にオススメしたい作家です。
    カットグラスAmazon書評・レビュー:カットグラスより
    4163178406
    No.1:
    (5pt)

    男のロマン

    長編小説が多い白川作品の中で、珍しい短編集です。この本が発売されて直ぐに「おすぎ」さんが絶賛されていたので、半身半疑で買って読みました。どの作品も男のロマンが感じられ、
    女性より男性が好む作品に仕上がっています。5つの短編の中、1つが50頁強でどの作品も甲乙付けがたく、読み手を引きつけます。これを機会に「病葉流れて」(3部作)「終着駅」「12月のひまわり」「天国への階段」上、下など読み漁りました。今でも文庫本なら出ているでしょう。
    カットグラスAmazon書評・レビュー:カットグラスより
    4163178406



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