青年貴族デキウスの捜査
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まるで史実のような記述で、リアルです。 | ||||
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本書は、以下のようにはじまります。 「その夏、ミトリダテス王が死んだという報せが届いた。最初は信じられなかった。ミトリダテスはあまりにも長いあいだ、われわれの悩みの種だったから、日の出と同じくらい不変の、自然のひとつの力であるかのように思われていたのだ。ミトリダテスがわれわれを苦しめる存在ではなかった頃のことをおぼえているのは、最年長の市民たちだけだった。彼はキンメリオス人の住むポスポロスのどこかで、年老いて友もいない境遇のなかで死んだのだが、そのときにもまだ、ドナウ川ぞいにイタリアへ侵攻するという、ローマへの出撃を計画していたのだった。ミトリダテスはわれわれのもっとも執拗な敵だったので、彼がいなくなると寂しくなるだろう。 その報せが届いたのは夏のさなかだったが、それは記憶にあるかぎりもっともすばらしい夏だった。時あたかも平和と繁栄の時代であり、マリウスとスッラの内戦ははやくも記憶からうすれ・・・・」 本書シリーズ(日本では最初の2作しか出ていませんが、現在13作まで出ていて、続巻も予定されています)は、アウグストゥス時代、老齢を迎えた主人公デキウス・メテッルス(架空の人物、ただし一族は実在)が、老齢がゆえに政治的立場(失脚や暗殺)を気にする必要がなくなり、若き日々の回想を率直に行なう(前20年頃だと思われる)、という形をとっています(1作目が前70年、13作目が前45年となっており、大河物語となっています)。本作は前63年のカティリナ事件を扱っていて、前作よりミステリ色は薄れてしまってはいるものの、過去の出来事を回想する手法は、ある事件の将来への影響や出会った人々の将来をほのめかす記述を可能とし、「歴史性」を感じさせる記述となっています。例えば、前53年にカルラエの戦いでクラッススの軍団を壊滅させたパルティアの将軍スレナスがローマを訪問し(これは完全なフィクション)、主人公と言葉を交わします。その時主人公は、以下のような独白を行ないます。 「しかし、われわれはまずパルティアを征服するのだ。あの当時のわれわれに、それがどんな苦闘をともなうことかがわかってさえいればよかったのだが」(p163) 「言うまでもないことだが、パルティアでもっとも権力のある男と話しているとは知らなかったのだ」(p171) 物語の展開上、パルティア人が登場する必然性はまったくないのにも関わらず、敢えて登場させ、その時の主人公の認識を語らせるところが、この作者の上手いところです。それは冒頭のミトリダテス王死去時の回想にも良くあらわれています。 「日の出と同じくらい不変の、自然のひとつの力であるかのように思われていたのだ」 「彼がいなくなると寂しくなるだろう」 私には、ミトリダテスの死去でローマ人は単純にほっとして喜んだものという印象があったので、この記述を読んで視点が逆転した思いがしました。確かに!このような認識もあったかもしれない!そう思いました。 続く、「それは記憶にあるかぎりもっともすばらしい夏だった。時あたかも平和と繁栄の時代であり」も目から鱗でした。前63年といえば、前133年から続く一世紀の内乱と拡大戦争の最中とされていて、心休まる時などなかったような印象がありましたし、実際次のページで、主人公は、 「今こうして振りかえってみると、あれが古い共和制の最後の夏った。その秋に共和制は滅びてしまったのだ。けれども、当時ははっきりとはわからなかった」 と続けています。「素晴らしい夏」「平和と繁栄」はあくまで前63年の夏の一瞬のことだったわけですが、著者はその一瞬の"当時の人の意識"、それが史料に残っていない作者のフィクションだとしても、「そういう視点もあったか!」と唸らせられるものが、この作品の随所に登場します。 こうした長期の展望や、過去のある時点の認識を上手く描く手法は、ユルスナール『』に連なる部分があると思います。 最近、今年出版された45年のローマを描いた歴史ミステリー『』を読みました。アルベルト・アンジェラの『』並みの密度の濃い細部の描写に唸らされましたが、そこまで描きながら、どうにも時代劇であって、歴史小説という感じがしなかったので、なぜだろうか、と、同じく古代ローマの歴史ミステリーである本シリーズと密偵ファルコシリーズを少し見返してみたところ、(あくまで私にとって)何が違うのか、がわかりました。そこで本書のレビューを見てみたところ、まだレビューが書かれていないことを知り、書いてみた次第です。 本書は、歴史物語ではありません。一人称で書かれ、当時のローマの下町や日常生活がリアリティをもって描かれているという点では、『剣闘士に薔薇を』と同類の作品です。本シリーズを全部訳して欲しいとは言いません。しかし、前63年に主人公があったパルティア貴族スレナス率いるパルティア軍とクサッスス率いるローマ軍が激突するカルラエの戦いの年が描かれている8巻など、主人公がどのような感想を持ったのか、敵の司令官が10年前にあった人物とは予想もしていなかった、、、と驚いたりしたのか、、、興味があります。一部でもいいので、シリーズのどれかの邦訳を出して欲しいと思う次第です。 | ||||
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