夜の闇を待ちながら
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少し面白そうなミステリを読んでみたいと積んである在庫の本の中から本書レニー・エアース著『夜の闇を待ちながら』を手にしてしまった。 奥付には、2001年と記してあるから評者が読んだのは14年前になる。 再読し始めても記憶になく毎度のことながら初めて読むように楽しく読むことができた。 評者は、著者のレニー・エアースの本はこの一冊のみを読んだ記憶である。 話の粗筋はありきたりな狂気の連続殺人事件であるが、この猟奇的な殺人事件の舞台であるイングランドの美しい田園地方の情景や登場する人物描写など著者の筆致が優れていて読ませてくれた。 この物語の主人公は第一次世界大戦後、九死に一生を得て帰還したジョン・マッデン警部補であるが、いまだ塹壕陣地での記憶が癒されることもなく毎夜悪夢に襲われている。 著者が、そのマッデン警部補が戦場を思い出しながらその心情を吐露するくだりがなかなか秀逸であるから下の・・・内に転載したい。 ・・・マッデンはいまも亡霊とともに生きていた。亡霊たちは夢のなかに出没する。みんな前線で顔なじみになった連中だ。親しかった友もいれば、もう顔さえさだかに思い出せない人たちもいる。 ほとんどが時を同じくして兵役にとられた、店員やら、服地商人、シティの事務職員、見習い職人といった若者たちだった。おたがい肩を並べて吹奏楽隊のがなりたてる調べに足並みを揃え、民間人の服装でロンドンの街路を威風堂々と行進した。やがてはドイツ軍の機関銃という仮の姿で待ち受けている運命などつゆ知らず、誇りと勇気に胸ふくらませ、旗をちぎれるほど振って見送る群衆にとって一日だけの英雄を演じた。誇りと勇気はソンムの地で夏の一昼夜だけであえなく消えてしまった。 所属大隊の数少ない生き残りとして、マッデンはつぎつぎ死んでゆく戦友を葬送してきた。最初のうち、友を失うことは癒しようのない傷のように思われたが、戦闘が長びくにつれ、死者たちのことはしだいに考えなくなった。まわりで兵士たちがばたなた斃れてゆくのだ。あいつぐ死。また死はやがて意味を失い、みずから生きながらえる望みもなく、感情は鈍麻し、ついにはなにひとつ感じなくなった。・・・ 訳者の田中靖氏が、あとがきで多くの賞にノミネートされながら、本書が選ばれなかったことを訝っていたが、たしかに優れた作品であることは間違いないだろう。 「往古の大戦への神魂の書ともなっている」と、訳者あとがきで述べていたが、本書がたんなるミステリではない域を超えたところにあり、読み応えのある作品にしているのは、戦争の惨禍を色濃く背景にしていたからであろう。 | ||||
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イギリスで猟奇殺人が発生、捜査が始まるが難航し・・・というお話の推理小説。これだけだと類型的な感じがしますが、時代設定が第一次大戦の頃で普通なら本格推理小説にしそうな展開の話に現代的題材を投入した所がユニークで新鮮な感じを読者に与えます。本格というよりサスペンスに近い作品。扱ってる題材は陰惨なものなのに読後感がよく読んでる間も非常に楽しめたのはこの著者の手腕の故か。著者は男性か女性か判りませんが、作品全体にそこはかとなくイギリス特有の寂寥感が立ち込めていてこの雰囲気も素晴らしい。 訳者あとがきによると結構経歴のある作家のようで他の物も読んでみようと思います。 | ||||
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スリル満点のストーリー展開が秀逸だ。息つく間もなく一気に読んでしまった。主人公マッデン警部補の人物造型がいい。戦争の後遺症をひきずり、人生への希望を失いかけていた彼が、魅力的な女医ヘレンと知り合って彼女の愛に次第に癒されていく過程の描写が感動的。イングランドの田舎の美しい風景や人々の描写も絵を見ているよう。当時の警察の様子が描かれているのも興味深く読んだ。途中で犯人が明らかになるのが謎解きの面でやや物足りないが、その分、犯人と警察との追いかけっこのスリルが味わえて面白いだろう。 本書には「闇」という言葉が頻出する。戦争の、塹壕の暗闇、夜の暗闇、そして人間の心の闇。「リバー・オブ・ダークネス」(心の闇を流れる川)という原題が象徴的だ。 MWA賞はじめ各賞の候補に挙げられたという本書、読み応え十分のミステリ作品だ。 | ||||
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本作は主要ミステリ三賞にノミネートされ、惜しくも受賞を逃した作品である。読了した今、本作を差し置いて見事賞に輝いた作品とはそれぞれどんな傑作なのかと思ってしまうほど、本作は完成度が高く、満足のいく作品だ。 時代設定が一九二一年なので“歴史ミステリ”にジャンル分けされるだろうが、大戦後の英国田舎町という雰囲気がとてもよく出ている。だいたい主人公のマデン警部補が妻子をインフルエンザで亡くし、戦争神経症で疲弊した“警官というより僧侶のような目をした人物”なのだ。だが見かけとは裏腹に、この警部補は切れ者だ。鑑識技術もまだまだ未熟でプロファイリングなどというもの自体が存在しない二十年代、地道な捜査で証拠を集め、その証拠から適確な推論を下す天賦の才がある。この警部補側から語られる警察小説と、犯人側から語られるサイコな内容、そして時代を匂わす描写に絶妙なバランスで筆が割かれ、怒涛のクライマックスまで一気に読ませてしまう。間違いなく注目度ナンバーワンスリラーといっていいだろう。 また、どのキャラクターも丹念に掘り下げられている点は特記すべき点であろう。この世になんの充足感も持てなくなったマデンが、戦争によって夫と兄弟を亡くし同じように辛い思いをしている女性医師ヘレンと心を通わせることで、次第に生きる喜びを見出すところはなかなか感動的だ。(個人的には、ヘレンが当時としてはかなり“ススんだ”女性として描かれているのがいい。)そして新米巡査ビリー・スタイルズ。初めて手がける事件がこんな凄惨な事件とあって、現場に足を踏み入れるや吐きそうになり、それでも心配するマデンに大丈夫だと強がってみせる。とにかくやる気はあるのだが、新人によくあるように勇み足になってしまうのだ。それでもマデンから信頼され、捜査を通して少しずつ警官として成長していくさまがじつに初々しい。(がんばれ、ビリー! いいぞ、ビリー! と読みながら応援してしまう。)マデンとその上司シンクレア主任警部との絶対揺るがない信頼関係といい、読み手を納得させる犯人像といい、挙げればキリがないくらいよく書き込まれており、それにより本書はリアルに迫ってくるのだ。 著者のレニー・アースは南ア生まれで、イタリア在住。ロバート・ゴダードも絶賛の新たな作家に今後も注目。 | ||||
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