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iisan さんのレビュー一覧

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レビュー数1,469

全1,469件 1,421〜1,440 72/74ページ

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No.49
(5pt)

サイコ・ホラーだけど

最初の内は、筆者得意のサイコものかと期待して読み進めたが、ホラーの部分が恐いというよりグロテスク、不気味で、読後感は良くなかった。
オウム真理教、北九州の一家監禁殺人事件、最近では中島知子騒動などを思い出した。あり得ない、想像できないことを起こしてしまう“洗脳”の恐ろしさという点では、こういうストーリーもありなのかも知れないが、その背景が家の呪縛、家族の血の絆というのが、いまいち説得力に欠ける気がした。
音道貴子シリーズのファンには受け入れられないだろう。
乃南アサ:暗鬼 (文春文庫)
乃南アサ暗鬼 についてのレビュー
No.48
(7pt)

正義はどこにある?

北海道東部、人口6000人ほどの農村の駐在所に移動してきた川久保巡査部長が出会う、5つの事件を描いた連作集。駐在所の警官にとって本当に果たすべき任務とは何か? 警察と閉鎖的な地域社会とのもたれ合いやあつれきの中で苦悩する制服警官の厳しさが丁寧に描かれていて、読み応えのある短編集だ。
浅学非才につき、本書を読むまで知らなかったのだが、駐在所の制服警官には捜査権は与えられていない。そのため、所轄署から出張ってきた捜査官が見当違いの捜査をしていると感じても、川久保巡査部長はそれをただすことが出来ない。そこで、悪く解釈すれば、一種、意趣返しとも言えるような屈折した方法で正義を貫こうとする(特に、第一話「逸脱」ではほとんど犯罪といえるような手段がとられる)。これは、駐在さんに対して、さまざまにプレッシャーを掛けてくる地域社会に対しても同様で、従来の警察小説とは異なる問題解決手法になっている(「制服捜査」という書名の由縁)。このあたりを、どう考えるかで、本作に対する評価が異なってくるだろうが、個人的には(小説としては)面白いと思った。
「笑う警官」や「警官の血」とは異なるが、佐々木譲の警察小説の傑作であることは間違いない。

佐々木譲:制服捜査 (新潮文庫)
佐々木譲制服捜査 についてのレビュー
No.47
(8pt)

50代、ストリート・ファイターですが、何か?

V.I.ウォーショースキー・シリーズの最新作は、期待にたがわぬ快作だ。
毎回、米国が抱える病巣を鋭く描いている本シリーズだが、今回はイラン戦争の帰還兵をテーマに兵士と銃後の社会、戦争産業の問題を取り上げている。「沈黙の時代に書くということ」というエッセイ集を出している筆者らしく、9.11以降のアメリカ社会の閉塞感に対する異議申立てが強く感じられた。
しかし、50代に突入したヒロイン・ヴィクの元気さには驚嘆するしかない。自分の体力に対する愚痴をこぼしながらも(事実、アクションシーンでは若い仲間の手を借りなければ、致命的な窮地に陥るところだった)、仕事も恋も現役バリバリ、前作からレギュラー入りした20代の従妹のペトラに負けていないのである。さらに、社会的不公平、マイノリティーへの差別に対する怒りはますます沸騰し、徹底的に突っ張り切っていくところが、格好いい! シカゴのダウンタウンで鍛えられたストリート・ファイターは衰え知らずなのである。
閉塞の時代に窒息気味の日本の中高年には、特にオススメかもしれない。
表紙も、前作「ミッドナイト・ララバイ」に比べれば(まあ、前作がひど過ぎるのだが)ぐっとリアリティがあり、数段出来が良い。
サラ・パレツキー:ウィンター・ビート (ハヤカワ・ミステリ文庫)))
サラ・パレツキーウィンター・ビート についてのレビュー
No.46
(7pt)

毒が薄められて・・・

桐野作品にしては軽めの仕上がりというか、読みやすいんだけど、その分だけ物足りないというか。もっと毒々しい展開を期待していました。
仕事には熱意が無く、ファッションと嫉妬に執着している開業医がレイプ犯で、その被害者達がネットを通じて集まり、協力して復讐するというお話。ストーリーも登場人物も、今の時代を反映していて、ちょっとご都合主義なところもあるが、まあ良くできていると思う。
犯人も被害者も、周囲の人々もみんな一癖も二癖もあるところは桐野夏生の得意分野で、まずまず面白いのだが、もう一段階深く追求していればなあという欲求不満が残った。
桐野夏生:緑の毒 (角川文庫)
桐野夏生緑の毒 についてのレビュー
No.45
(8pt)

不屈の男・レオ、本領発揮

ソビエト国家保安省捜査官・レオのシリーズ三部作完結編。
捜査官を辞め、今は工場長として平凡に(やや屈折し、覇気は失ってはいるが)、しかし、愛妻ライーサと二人の養女と一緒に幸せに暮らしていたレオに、思いがけない、身を引きちぎられるような不幸が襲いかかる。果たして、レオはこの不幸から立ち直れるのだろうか?
前半は、レオとライーサの出会いを中心にした恋物語からスタートし、思いがけない悲劇の勃発まで、冷戦時代の情報戦のお話が続き、比較的静かな展開で進む。それが後半になると、一気に“怒りのアフガン”ではないが、アフガニスタンでの冒険に変化し、不屈の男・レオの本領発揮となる。トム・ロブ・スミスという作家は、前二作と同様、本作でも徹頭徹尾レオを厳しい状況に追い込んでゆく。そんな苦境をいかにして脱出するのか・・・驚嘆すべきレオの知恵と体力と精神力が発揮される。
思想と人間性、国家と個人、夢と妥協など、さまざまに考えさせられる小説だが、アクション小説としても一級品なので、一気に読み通すことが出来る。
ラストシーンは、かなり悲しい。
トム・ロブ・スミス:エージェント6(シックス)〈上〉 (新潮文庫)
トム・ロブ・スミスエージェント6 についてのレビュー
No.44
(9pt)

二度美味しい!

太平洋戦争三部作の完結編。前二作が開戦前の物語なのに対し、本作は日本の終戦工作を巡る話である。三部作の完結編だけあって、作家の視点がさらに明確に伝わるし、筆の滑りもよく、前作からの登場人物のキャラクターが深みを増したこともあり、三本の中では一番面白かった。
前半は歴史インテリジェンス戦争話として、後半は敵中横断の冒険小説として、二冊分の楽しみを味わった。
日本の運命を決める重大な情報(米国の原爆の完成、ソ連の対日参戦)をつかんだスウェーデン駐在武官が、電文を打つだけでは途中で握り潰されることを恐れて、日本を救うため二人の密使を派遣するというのが、ストーリーの本線。当然のことながら、原爆投下、ソ連の参戦は史実として誰でも知っているのだが、それでも最後まで緊張感を持って読み通すことが出来た。これは、史実と虚構を巧みに絡ませたストーリー構成の上手さに負うところが大きく、作者の力量に感嘆するばかりである。
ストーリーの面白さ以上に心に残ったのは、文庫本巻末の解説者を始め多くの方が言及しているが、「祖国とは何か」、「国を愛するとはどういうことか」という、重い問い掛けだった。密使の二人が、国を捨てた日本人でボヘミアンのバクチ打ちと、祖国に裏切られた亡命ポーランド人情報将校という設定になっているところに、作者の視点の鋭さを感じた。
「絆」や「日本の美徳」、「頑張れ日本」が安易に絶叫されている現状を考えるとき、今こそ広く読まれるべき作品といえる。
佐々木譲:ストックホルムの密使〈上〉 (新潮文庫)
佐々木譲ストックホルムの密使 についてのレビュー
No.43
(6pt)

ちょっと残念

ガリレオ(湯川)シリーズの短編集。第1章から第5章までの構成になっているが、それぞれの作品は独立している。どの作品も、ガリレオが謎を解いて行くところがポイントだが、短編だから仕方がないのだろうが、謎解きに終始しているうちに物語が終わった感じで、いまいち物足りなかった。
5本の内では、最後の「撹乱す(みだす)」が一番読み応えがあった。
このシリーズは「容疑者X」から読み始めたので期待値が高すぎるのかも知れないが、どうも残念だな・・・という読後感になってしまった。
東野圭吾:ガリレオの苦悩 (文春文庫)
東野圭吾ガリレオの苦悩 についてのレビュー
No.42
(8pt)

スパイアクションであり、サスペンスでもあり

他の方の評価はあまり高くないようだが、個人的には面白く読めた。
東西冷戦時のベルリン、ハイテクメーカー横浜製作所のダミー会社の社員・神崎は、ココム違反の証拠隠滅を図る親会社によって命を狙われ、上司殺人犯の汚名を着せられたまま東ベルリンへの逃亡を余儀なくされた。それから五年、関係者の元へ神崎からの手紙が届き、神崎を追い続けている警視庁公安部員を含めた全員が小樽に集まって真相究明のときを迎えることになる・・・。
前半はベルリンでのスパイアクション、後半は小樽での真相究明サスペンスで、それぞれに楽しめる。ことに、警察が包囲網を敷く中で、神崎は果たして日本に帰ってこられるのか、どうやって小樽の地を踏むのかという部分は、非常にサスペンスがあった。謎解きの部分(絶対に先に結末やネタばれ感想を読まないことをおすすめする)では、きっと賛否両論があるだろうが、これはこれで、小説としては良くできていると思った。
神崎、神崎の母、殺された上司の娘などのいわば追われる側と、親会社社員、公安、フリーライターなどの追う側との人格の対比がかなり露骨で、作者の立ち位置がよく見えてきたのが面白かった。
佐々木譲:夜にその名を呼べば (ハヤカワ文庫JA)
佐々木譲夜にその名を呼べば についてのレビュー
No.41
(6pt)

サスペンスではないと思うけど

小学校6年生の夏休み、仲良し3人組の少女たちに、何があったのか?
11年ぶりに再開した3人は昔の付合いを再開させ、「何でも一緒ね、3人で分けようね」と誓い合っていた少女時代と同様に、一人の男を(それぞれが秘密にしたまま)共有するようになる。やがて、3人が秘密にしておこうと誓った、ある出来事が現在の彼女達に深刻な影響を与えるようになり・・・・。まあ、ありがちなお話で、サスペンスといっても2時間ドラマレベルで、半分読み終えた頃から「秘密の約束」と結末が見えてくるのだが、それでも最後まで読み通せたのは、3人のキャラクター設定、描写に負うところが大きい。
スケジュール帳が真っ黒になるほど予定を入れないと落ち着かない亜理子、手を洗わずにはいられない潔癖症で繊細な外見の下にしたたかさを隠した梨紗、がさつで虚言癖と見まがうばかりに見栄を張る恵美、この3人の絡み、言動が非常に生き生きと面白く、そこに本作品の価値があると思った。
乃南アサ:水の中のふたつの月 (文春文庫)
乃南アサ水の中のふたつの月 についてのレビュー
No.40
(9pt)

冒険小説の傑作!

日本が対米・英戦争を開始する前年に、名戦闘機・ゼロ戦が密かにドイツまで飛んでいた! という驚天動地のお話。個人的には、佐々木氏の代表作といわれる「エトロフ発緊急電」より、こちらの方が面白かった。
本作、「エトロフ」、「ストックホルムの密使」で第二次世界大戦三部作と言われている通り、「エトロフ」と登場人物が共通する(「ストックホルム」は未読)が、話の内容は全く別物。スパイアクションの「エトロフ」に対し、こちらは航空冒険小説というべきか。「エトロフ」が「針の眼」を連想させるのに対し、こちらは「もっとも危険なゲーム」など、ギャビン・ライアルを思い出させた。
主人公・安藤大尉は騎士道精神にあふれた戦士であり、当時の日本海軍主流の価値観との相違に悩みながらもストイックに自分の美学を追求する・・・ハードボイルドの本流が見事に展開され、読むものを魅了して行く。
史実として、ゼロ戦がドイツに届けられたのか否かは関係なく、当時の緊迫した世界の状況が丁寧に描かれていて、第二次世界大戦前史としても面白かった。
佐々木譲:ベルリン飛行指令 (新潮ミステリー倶楽部)
佐々木譲ベルリン飛行指令 についてのレビュー
No.39
(6pt)

時代には勝てないか・・・

大ヒットシリーズ「新宿鮫」の第1作。1990年の作品だけに、いま読むと古くささを感じざるを得なかった。時代の風俗とともにあるタイプのハードボイルドには避けがたい弱点といえようか。
それを除けば、この作品が傑作であることは間違いない。日本の警察小説では避けられない制約を上手くくぐり抜ける設定で(このあたりは、文庫本巻末の北上次郎氏の解説が秀逸)、派手なアクション映画的な盛り上がりを見せる。
劇画的なポリスアクション好きにはおすすめだ。
大沢在昌:新宿鮫 (光文社文庫)
大沢在昌新宿鮫 についてのレビュー
No.38
(8pt)

結末が分かっていても面白い!

真珠湾攻撃をめぐる米国スパイの活躍を描いたスパイアクション小説。当然のことながら読者はみんな、真珠湾攻撃の奇襲が成功したことを知っている訳だが、それでも読ませる傑作だ。
第二次世界大戦のスパイアクションといえば、先ず第一が「針の眼」だが、本作は和製「針の眼」といっても過言ではない。
佐々木譲:エトロフ発緊急電 (新潮文庫)
佐々木譲エトロフ発緊急電 についてのレビュー
No.37
(6pt)

ポリティカルではあるが

ストーリー紹介には「傑作ポリティカル・サスペンス」とあるが、ポリティカル小説としてはよくできているものの、サスペンスはちょっと物足りなかった。
父親の急死による弔い合戦の選挙に当選した社会党代議士が、政界の波に揉まれながら成長し(成長ではなく、変節かも知れないが・・・)、リクルート事件を契機とする政権交替で重要な役割を果たすようになる。いわゆる55年体制の崩壊過程をていねいに追いかけていて、現代政治史の一面を面白く知ることが出来る。その点では、非常に読み応えがある。
しかし、党本部から押し付けられた第一秘書との運命的な絡み合いという、サスペンスを高めるはずのサブストーリーが、いまひとつ盛り上がらない。代議士、秘書、代議士の妻、人気女性キャスターという主要人物の人間性がもう少し掘り下げられていたら・・と残念だ。
佐々木譲:愚か者の盟約 (ハヤカワ文庫JA)
佐々木譲愚か者の盟約 についてのレビュー
No.36
(9pt)

犯罪小説であり、青春小説でもあり

8歳のときに遭遇した凄惨な事件のトラウマでしゃべれなくなった(耳は聞こえる)少年・マイクル。しかし、彼には特異な才能があった。記憶を元に絵を描くことと錠を開けること。その才能に導かれるまま、彼の人生は通常の世界から逸れて行く・・・。
物語は、現在服役中のマイクルが、逮捕されるまでの解錠師としての日々と解錠師になるきっかけとなった高校生の日々を交互に回想して語られていく。ふたつの時間を行き来する構成だが、それぞれのストーリーは時間軸に沿って展開されるので混乱することはない。というか、非常に読みやすい構成といえる。
本作の成功の秘訣は、なんといっても主人公の設定のユニークさにある。最初から最後までひと言も発しないこと、解錠(金庫破り)のプロであること、しかも17、18歳であることが融合して、犯罪小説でありながら純粋な恋愛小説、青春小説としても成立している。一人語りの物語ながら、ストーリー展開がスピーディーで、しかも多彩なエピソードが取り入れられているため、最後まで物語がだれることがない。金庫破り小説のスリリングさ、マイノリティーの視点からの皮肉なユーモア、一目ぼれした恋人に捧げる純情のほろ苦さなど、さまざまな味わいを楽しむことが出来る。MWA最優秀長編賞、CWAスティールダガー賞を受賞したというのもうなずける快作だ。
余談だが、本作はヤングアダルト世代に読ませたい本として全米図書館協会が選ぶアレックス賞を受賞しているという。しゃべれないことによる疎外感、個性を伸ばすことで得られる達成感、恋人との純愛など、多くの若者に共感されるテーマを持っているという評価であろうが、こういう犯罪小説にも賞を与えるアメリカ社会の懐の深さを物語るエピソードだと感じた。
スティーブ・ハミルトンは今回、初めて出会った作家であるが、これまでに翻訳されている3作品もぜひ読んでみたい。

スティーヴ・ハミルトン:解錠師〔ハヤカワ・ミステリ1854〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
スティーヴ・ハミルトン解錠師 についてのレビュー
No.35
(6pt)

どんでん返しではあるけれど

誰が犯人かではなく、動機を追求する心理サスペンス。犯人と刑事の独白、記録が交互に示され、そのたびに真実が覆されていき、最後に驚愕の真実、本当の動機が明らかにされる。大どんでん返しが楽しめる作品といえる。
Amazonではかなり高い評価を受けているが、個人的にはいまいち、しっくりこなかった。嫉妬、虚栄心、いじめなど、人間性の奥底に隠されている「悪意」を追求しながら、犯人も、被害者も、刑事も、もうひとつキャラクターが魅力的ではない。仕掛けに懲り過ぎて、人物像の深堀りまで手が回らなかったのか?
刑事・加賀恭一郎シリーズの第4作ということ(前3作は未読)だが、「新参者」以降の加賀に比べると、主人公の魅力が乏しい。逆に言うと、「新参者」以降の加賀恭一郎シリーズが素晴らし過ぎるのかも知れない。
東野圭吾:悪意 (講談社文庫)
東野圭吾悪意 についてのレビュー
No.34
(7pt)

密売人は、何を売ったのか?

北海道警察、大通警察署のはみだし?警官、佐伯、新宮、小島、津久井など、いつもの面々が警察の正義のために奮闘する、おなじみのシリーズの最新作。本作でも、犯罪捜査の過程で警察内部が絡む疑惑が判明し・・・・。
発端は、釧路、函館、小樽での死体発見。何の関係もないように見えた3つの事件が、ある一家の失踪とともにリンクされて、警察のS(エス、スパイ)が鍵の連続殺人という疑惑が発生し、佐伯たちの捜査の中で、ある密売人の存在が浮き上がってくる。ストーリーとしては、かなり面白いものだと思うが、エピソードの積み重ね、悪役のキャラクター設定の深さなどの点で、やや物足りない。いつもの佐々木譲の“コク”がない、あっさりし過ぎという印象だった。
その点で、シリーズものとして読めば7点、単独作品として読めば6点、と評価した。
佐々木譲:密売人 (ハルキ文庫 さ 9-6)
佐々木譲密売人 についてのレビュー
No.33
(8pt)

ますます快調!

デンマークの警察小説「特捜部Q」シリーズの第二作。カール・マーク警部補とアシスタント・アサドのコンビに女性アシスタント・ローセが加わって、特捜部Qがさらにパワーアップした大活躍を繰り広げる。
このローセの、「警察学校を最優秀で修業しながら運転免許試験に落ちて警察官になれなかったため、秘書として警察に入った」という設定が笑える。そのキャラクターも、アサドに負けず劣らずユニークで、シリーズとしての面白さに一味も二味も新味が加わったといえる。
今回の主題は、二十年前の殺人事件、それも犯人が服役中の事件の再捜査である。犯人がひとりではなく、共犯者として同じ寄宿制学校の複数の同級生、しかも、いずれも社会的な成功をおさめている人物がいることを確信した特捜部のメンバーが、警察上層部をはじめとする様々な圧力を受けながらも真相にたどり着いて行く。事件の背景は、社会的エリートの秘められた暴力性という、まあ、ありがちな設定だが、メンバーのひとりが女性で、しかもわざと路上生活者として生きているというのがユニークで、ストーリーに変化をもたらしてくれる。
ところどころで、犯人達の精神構造を表現する重要な道具として「時計じかけのオレンジ」が使われているのが、あの映画をリアルタイムで観た世代として非常に興味深かった。
次回以降の作品への期待は高い。
ユッシ・エーズラ・オールスン:特捜部Q ―キジ殺し― 〔ハヤカワ・ミステリ文庫〕
No.32
(8pt)

追いかけて、追いかけて、2年間

結婚式の一ヵ月半前に突然、「ごめん。もう、会えない」と電話して姿を消した婚約者・刑事を捜して日本中を駆け巡るヒロインの純愛(?)物語。最後の最後に婚約者が失踪した理由が明かされるのだが、その真実がやや説得力が弱いため、ミステリーとしては満点を付けられなかった。しかし、読みごたえのある作品であることは間違いない。
山の手のお嬢様であるヒロインが、婚約者を捜してドヤ街や私娼窟を訪ね歩いたり、捜査関係者との触れ合いで徐々に人間性、社会性を深めて行くところは好感がもてた。また、娘を殺害された老刑事・韮山の怒り、苦悩、再生の物語は、これだけでも一作品になるのではないかと思うほど読みごたえがあった。「涙」ということでは、ヒロインが流す涙より、韮山が流す涙の方が共感する部分が多かった。
時代設定が、東京オリンピックに沸く1964年からの2年間で、しかも時代の出来事や風俗が重要な要素として頻繁に登場するので、もろに同時代を生きた者としては、そのときどきの自分を思い出すことが多く、懐かしさを感じる楽しいタイムトリップだった。
乃南アサ:涙 上巻 新潮文庫 の 9-15
乃南アサ についてのレビュー
No.31
(5pt)

構成は複雑、話は平明


▼以下、ネタバレ感想
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湊かなえ:花の鎖 (文春文庫)
湊かなえ花の鎖 についてのレビュー
No.30
(7pt)

組織人の再出発物語

事件捜査が主役ではない警察小説を確立した横山秀夫の連作短編集。今回は、県庁所在地から遠く離れ、警察署と官舎、寮が同じ敷地に建つという三ツ鐘署を舞台に、交通課、鑑識係、少年係、会計課などの7人の職員の物語が収録されている。
元来が徹底した階級社会、ムラ社会の警察組織、しかも職場と住居が一体化されているとあって、三ツ鐘署の職員の人間関係はきわめて微妙なバランスの上に成り立っており、いつ、どこで破たんするか知れない危険性をはらんで展開されることになる。そんな中で生きる職員たちの組織人としての建前と個人としての本音の葛藤が、これでもかというほど繰り返され、かなり息苦しいエピソードが続くことになり。
しかし、一度落ち込んだり壊れたりした人間性、人間関係を立て直そうという姿勢がうかがえるエンディングが多いこともあり、読後感は「真相」などに比べて明るいものが多い。
7作品の中では、警官と泥棒、それぞれの老いと技術の継承を通して人間の業を描いた「引き継ぎ」が一番面白く、印象に残った。
横山秀夫:深追い (新潮文庫)
横山秀夫深追い についてのレビュー