夏草のフーガ
評判
夏草のフーガの評価:
5.00/5点 レビュー 1件。 - ランク
Amazonレビュー一覧
Amazonサイトに投稿されている書評・レビュー一覧です
※以下のAmazon書評・レビューにはネタバレが含まれる場合があります。
未読の方はご注意ください
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夏草のフーガの評価:
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そんな荒唐無稽なファンタジック小説なのですが、読み始めると、
文章がわかりやすく明瞭完結で、するすると読めていきます。
いったいどんな人が書いているのかと思えば、すでに中堅作家で、
主人公が中学生であることを、違和感なく表現して見せている。
作者の、ほしおさなえさんの作品を読むのは、初めてなのですが、
最初から最後までストレスなく読み終えたのは、作者の技量でしょう。
荒唐無稽さを投げやりにせず、しっかり辻褄が合っているから、
読んでいる方は、ついつい物語の世界に嵌められてしまう。
こんなことが現実に起きるかどうかではなく、内容が前面に出て、
人間の何か、大切なものを考えさせる力量が確かにあるのです。
長い人生の中で、男ではなく女が感じ取る連帯感のようなもの。
女性の体内で女の子が宿り成長するときに、その胎内の女の子が、
すでに将来宿るべき女の子の卵子を用意している、なんて話は、
正直言って、信用していいのかどうかもよくわからないことですが。
それを一蹴するには、あまりにもこの小説の現実は重いのです。
この小説では、男の考えはどちらかと言えば外側にあって、
全体として、女にしかわからないものがあることを、物語っている。
それはちゃんと説明されているわけではないまま、だけど外郭はあり、
読んでいる内に、少なくとも女にしかわからない何かがあることを、
どうしても意識させられてしまうのが、作品のうまいところです。
お婆ちゃんから娘、そして孫にいたるまでの三代の実感においても、
絶えず繋がっている不思議な意識が、うまく伝わってくる。
いかに長い人生を生き終えるとも、その核となる部分は同じ、
中学一年生から三年生に至る、三年間に凝縮されているのも興味深く、
それが三代続く中で、代を重ねる毎に可能性が増えていく様子も見える。
男と女は別世界と思っていた僕に、単なる理解放棄ではなく、
理解可能な別世界として、さらけ出して見せてくれたものは大きくて、
周辺に出てくる男性の世界まで、しっかりと根が張っているのが嬉しい。
さらに言えば、僕はこの小説を愛さずにはいられないわけで、
どうしてかと言えば、人間に対する深い洞察と共感が満ちている。
男の理論ではなく、合理的でさえない女の感覚を正面から取り上げて、
だけど観念に陥らないために、お婆ちゃんの13歳への変身がある。
この本は、先月書き下ろしで発売されたばかりである以上に、
舞台設定が3.11以降の日本の東京であることや、主人公の設定、
あるいは現代人が抱えている不寛容について、考えさせてくれるのです。
家族とは何か? そして人生とは何か? そんな大きな課題を、
三代の女性に降りかかる難題と共に、描いてみせるのですが、
決して悲観的になることなく、興味本位に落ちることもなく興味深い。